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国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる POSITIVE FEEDBACK(全4記事)

日本人の自信のなさは、学校教育での「褒められる」経験の不足 若手のやる気を生み出す、「褒める」フィードバックのやり方

ミラノ在住の国際エグゼクティブコーチ・ヴィランティ牧野祝子氏が、著書『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる POSITIVE FEEDBACK』の出版記念として、 MBAオンラインキャンパスのセミナーに登壇しました。ネガティブなことが中心の通常のフィードバックとは違い、相手の成長のための承認と思いやりのある良質のコミュニケーションである「ポジティブ フィードバック」。相手の強みを活かし、成長することにフォーカスしたフィードバックを行うポイントとは? 本記事では、ポジティブフィードバックを行う際にポイントとなる「4つの承認」を解説しています。

ポジティブフィードバックには5つの効果がある

ヴィランティ牧野氏:「誰だって認められたらうれしいよね」ということで、今度はポジティブフィードバックの5大効果をお話ししたいなと思います。誰だって、褒められたら、認められたら、見ていてくれたら、信じられたらうれしいということで、ポジティブフィードバックをするとどんな効果があるかをまとめてみました。

まず1つ目は、やる気がアップします。何かやっていても「うんともすんとも」言われないよりも、「そこいいね」「ここはもうちょっとこうやってね」とか、上司に気にかけてもらっているほうが、みなさんもやる気が出るんじゃないでしょうか。

これはもちろん上司・部下でもそうなんですけれども、夫婦関係でも子育てでもそうだと思うんです(笑)。やっぱり人間は認められたいので、フィードバックは特にポジティブなものをもらうとやる気が絶対に出ます。

それと同時に自信がアップします。例えば企画書を作っていて「この企画書、すごく丁寧にまとめてくれて本当にありがとう。あなたって丁寧にまとめるのが得意ね」とか。

あと、「この前のプレゼン、すっごくわかりやすく話してくれて良かったよ。君ってプレゼンするの上手だね」とか言われると、「私って企画書を丁寧にまとめることができるんだ」「私ってプレゼンするのが上手なんだ」とか、自分のいいところがわかるので、それが自信になるんです。

日本の教育は、みんなで「中の上」を目指す傾向がある

海外に住んでいて思うのは、特に日本の教育自体も、いいところを褒めるというよりも、できないところを補完して「みんなで中の上にしましょう」というような教育をやっています。仕事をしていても、あまり「ここはいいね」って言われないから、自信がない方も多いんですね。私のクライアントさんにもたくさんいらっしゃいました。

そういった方が、「これ、良かったね」とか「これはこうだね」ってポジティブフィードバックを受けていると、だんだん自信が高まってきて、やる気も自信もアップします。

そして、部下と上司の人間関係が良くなってきます。これは部下と上司でも同僚でも、誰でもそうなんですけれども、ポジティブフィードバックをしていると絶対に人間関係が良くなります。

人間、頻度高くコミュニケーションを取っているだけで、内容がどうであれ親密に思ったり、人間関係が良くなると言われているんです。

そこで自分の強みを認めてくれたり自分のいいところを言ってくれたら、その人には好感を持てると思いませんか? ポジティブフィードバックを頻繁にやっているチーム、部下、上司の方は、人間関係が必ず良くなります。

ポジティブフィードバックを受けると、仕事の理解度もアップ

4つ目の効果で、仕事への理解度アップがあるんですけれども。例えば先ほどの例に戻ると、「この企画書、すごく丁寧にまとめてくれてありがとね」と言うと、「この上司・この会社では、丁寧にまとめることが大切なんだな」ってわかると思うんです。

逆に「この企画書、すごくスピーディにやってくれてありがとね。朝頼んだのに今12時で、3時間でやってくれた」って言うと、「このぐらいの時間のタイミングでやると、この上司は喜んでくれるし、この会社のカルチャーに合うんだな」ってわかると思います。仕事のやり方や進め方とかが、「こういうふうにすればいいんだな」ってわかります。

逆に、これがポジティブフィードバックじゃなくてネガティブフィードバックで言われた場合、「君、いつも遅いんだよ」って言われると、「じゃあどのくらいのスピードでやればいいの? 3時間でやればいいのか、10分でやればいいのか、3日間でやればいいのか」ってわからないと思います。

そういうコミュニケーションの時って、わざわざ聞かなかったりするんですよね。上司も「いつまでにやって」と言わなかったり、部下も「いつまでにやればいいんですか?」って聞けなかったりすると思います。ポジティブに「こうやるといいんだよ」と言うと、仕事の仕方の理解度がアップするんじゃないかなと思います。

自信がつき、人間関係も良くなると「主体性」は自然に上がる

5つ目の効果ですね。これが一番大切なんですけれども、やる気があって、自信があって、人間関係が良くなって、仕事の仕方がわかると、自然に主体性がアップします。

モチベーションが高く、自分の得意なところもわかっている。そこを任せてもらっていて、信頼できる上司との間で仕事をどうすればいいかもわかっている。そうすると勝手に「やっておきました」ということが起きるんです。

私のチームも実際にそうなりまして、ある時はあまりにもチームがうまくやってくれたから、「私は必要ないから役立たずだな」と思ったことがあったんですけれども(笑)、そのぐらい主体性を持ってやってくれました。

上司から悪いところばっかり言われて、自分がどうしたらいいのかわからない時には、自分から進んでやってみようって思わないと思うんです。ポジティブフィードバックを受けて「君はここが得意だね」「これ、いい感じだね」とか、そういうことを1日、毎日のように言われると変わってくると思います。

人間関係も、別に仲良くなくてもいいんですよ。プロフェッショナルな関係で「信頼を置ける仲間だな」って思える関係だったら、自然と主体性がアップして、仕事を自分からやっていくような関係になっていくんじゃないかなと思います。

このように、ポジティブフィードバックは素晴らしい効果がありますので、ぜひやってみてください。

なぜ、今の時代こそ「ポジティブフィードバック」が大切なのか

あと、ポジティブフィードバックは「言う側」にも効果があります。自分がポジティブフィードバックとして人のいいところを認めて言うのは、言う側も絶対にうれしいと思うんですよ。

悪いところを言うのは、自分も気持ち悪いじゃないですか。いいところを言う時は「なんて言おうかな」って考えている時から気持ちが良くて、実際に言ってみると向こうがうれしそうな顔をしてくれるから、「あ、うれしい顔をしてくれたな」となるんです。

電車の中でおばあさんに席を譲ってその人がすごく喜んでくれたら、10倍も100倍もうれしいと思います。そんな感覚がポジティブフィードバックをしていると味わえます。

では、どうして今の時代でポジティブフィードバックが大切かということについてお話しします。私の本の編集者さんも、「数年前だったらこの本は必要なかったよね」とおっしゃっていました。でも彼女は、今の時代だからこの本を書きたいと思って、私のことをお手伝いしてくれました。

なぜ今の時代なのかと言うと、今の若い方々が、働き方や上司との人間関係について、今までと違ったものを好んでいるということです。今のミレニアル世代の方々は、(SNSを通して)常に瞬時のフィードバックがある。

何をやっても「いいね」、何か言えばいいことにも悪いことにもコメントがある。そんな中で育ってきたので、「どうして仕事ではフィードバックをもらえないの?」って思っていると思うんですね。

いろんなところでつぶやいたりして、すべて瞬時にフィードバックが来るのに、「じゃあ上司からはなんで来ないの?」って思っています。これはリサーチの結果として、日本でもアメリカでも出ています。

上司と部下の関係性も、昭和時代のように上司から言われて「はい、わかりました」っていうような関係性を今の若い方は認めていません。コーチのような、双方の会話でお互いに成長していくような、お互いに話せるような、そういった関係性を望んでいる。これはギャラップ社のデータでも出ております。まず、若い方のマインドセットが違うということですね。

「わざわざ言うこと」が必要なワケ

働き方を見ても、昭和時代、私の兄や父の時代は「同じような方」が集まっていました。同じような方というのは、例えば大げさに言うと、同じ大学の同じゼミの方ばっかり入っている会社です。そういった方々が終身雇用で入社して、新卒の時から毎日のように飲みに行くんですね。

そうすると、もともと同じような方々が毎日のように飲みに行って、「あうんの呼吸」で何も言わなくてもコミュニケーションが取れるような状況です。そこから今は女性も入ってきたし、外国の方もいれば、障がいの方もいるかもしれない。そして転職がすごく増えていますので、ぜんぜん違うバックグラウンドの人も出てきていると。

今までは、終身雇用で同じような大学の同じようなゼミの人が仕事をしていた。そして、わざわざコミュニケーションを言わなくてもわかっていた。この時代と今はぜんぜん違うんです。プラス、リモートになってきている。今は戻ってきつつあるかもしれないんですけれども、以前よりも「顔が見えない」こともあると思います。

そうするとやっぱり、わざわざ言わないとお互いにコミュニケーションが通じないと思います。だからこそポジティブフィードバックをしていただきたい。こんな状況の中だからこそ、わざわざ言うことが必要なんですね。

上司の仕事の9割は「ポジティブフィードバック」

私のいた会社、例えばイギリスのお酒の会社には20年前に入ったんですけれども、当時からリモートをやっていました。その会社はロンドンに本社があって、中心街のすごくいいところにあったんですけど、社員がみんな来ると狭いので場所がなくなってしまうんです(笑)。場所を増やすとお金がかかるから、「じゃあリモートにしよう」っていってリモートにして。

あと、日本の会社は今ダイバーシティ&インクルージョンっておっしゃっていますけれども、その会社は当時、20年前にダイバーシティ&インクルージョンで騒いでいました。当時「ダイバーシティを増やせ」ということで、それもあって私が女性でアジア人だからちょうどいいということで雇ってくれたと思うんです。

以前からそんな感じで仕事をしていた私にとっては、もうちょっとコミュニケーションのやり方とかポジティブフィードバックとかがあったほうが、今の日本にはいいんじゃないかなと思って、この本を書かせていただきました。

そういった流動的な社会では、やはり上司の在り方がすごく大切だと思います。これはアメリカで……英語でよく「Employees don't quit their jobs, They QUIT their BOSS」と言います。離職する人は「私、会社を辞めます」と言うんですけど、実は会社を辞めたのではなく、その上司を辞めているということです。

会社自体を辞めたい方もいらっしゃると思いますけれども、そこで上司が替わったら「やっぱ会社にいようかな」って思うケースが、私のクライアントさんでもたくさんいらっしゃいます。それくらい、上司の在り方がすごく大きく影響します。

ですので、上司の在り方の一部としてポジティブフィードバックをぜひ実践していただきたいなと思います。上司の仕事の9割はポジティブフィードバックじゃないかなと考えております。

結果が出ていなくても「承認」することで、部下の自信が増す

では、最後に「ポジティブフィードバックのやり方は具体的に何なの?」ということについてお話しをしたいなと思います。先ほど「承認」について申し上げました。「見ているよ」「認めているよ」という承認については、4つの承認をしていただきたいんです。これは単にほめることじゃなくて「4つの承認をする」という意味なんですけれども、1つずつ見ていきますね。

まず1つ目が「結果承認」。これは、みなさんも今までの話を聞いて「そうだな」と思っていただけると思うんですけれども、営業の成績が上がったり、新規のクライアントさんと成約できたり、去年に比べて12パーセントの売上が伸びたり。そういった結果に対して承認することが求められます。

マーケティングの方だったら、新商品をローンチして売れたとか、テレビコマーシャルやデジタルマーケティングでキャンペーンを打って、その成績がよかったとか。そういった成果や結果に対して、「よくやってくれたね」とか「ここは良かったね」とポジティブな言葉をかけることが「結果承認」になります。

ただ、きっと毎日はできないと思うんですよ。出してくれたらいいんですけれども、そんな毎日は結果が出ないかもしれないので。そこで大切なのが「行為承認」ですね。

結果は出ていないけれども、例えば「この前の新規のクライアントさんは成約につながらなかったけれども、今回の企画書はすごく考えて書いてくれたよね」「企画書はもうちょっと細かくやったほうがいいけど、プレゼンの時はすごくわかりやすかったよ」「結果は出てないけどもこういうところが良かったよ」とか。

行動を認める言葉を言ってあげることで、やる気も自信も増しますし、自分の強みもわかります。上司としても、その後はその人が強みを発揮してくれるようになりますので、結果が出ていなくてもぜひ「行為承認」をしていただきたいと思います。

「仕事をする人」以前に、一人の人間としてお互いを認める

それ以前に、「存在承認」があります。先ほどもありましたけども、朝来て「おはようございます」とか。1on1をするんだったらちゃんと顔を出すとか、仕事をしている時に隣から話しかけられたらパソコンではなくその人の顔を見るとか、本当にその人の存在をありがたいと思っているよということです。

「週末はどうしたの?」「最近残業が多いけど大丈夫?」「ちゃんとご飯食べてる?」「ちゃんと寝れてる?」とかですね。あんまり聞くとハラスメントになってしまうので、やりにくいところもあると思うんですけれども、海外の方はすごく大切にしてくれました。

私の大好きだったリーダーの方々は、お互いの存在をよく知っているので、彼らがどんな家族構成で趣味が何で好きな食べ物が何でとか、けっこう知ってたんですね。彼らも私のことを知ってくれました。

なので、1人の人間対1人の人間としてお互いの存在を承認し合って、仕事をする人っていう以前に人間同士のつながりっていうのがすごくあったかなと思います。これも私は存在承認と考えております。

ネガティブフィードバックは、相手への「期待」の表れ

最後に、これが一番難しいかなと思うんですけれども、「可能性承認」という言葉を付けました。いわゆるネガティブフィードバックです。「もうちょっとこれをやってよ」「企画書、昨日までにやってって言ったのにまだやってくれなかったの?」「プレゼンの資料を作ってと言ったのに、ちょっとこれじゃクオリティが悪すぎるよ」とか、そういうやつですね。

「どうしてなんとかしてくれなかったの?」「これをもっとやってよ」「だからお前はダメなんだ」とか、たまに人間性を否定するようなことになることもあるんですけれども、それは一番お勧めしないパターンです。

お勧めのパターンは、逆に「君はできると信じているよ。昨日までにできるはずだったけど、何か問題があったの?」「前回はプレゼンをすごくわかりやすく作ってくれて、今回はちょっとそれができてないんだけど、何かあったの?」「もうちょっとやり直してくれる?」とかですね。「あなたはできると思うよ」「あなたはできると信じているよ」「あなたには可能性があるよ」を承認して伝えるといいんじゃないかなと思います。

ネガティブフィードバックをする時って、必ず可能性があるから言っているんだと思うんですよ。じゃなかったらわざわざ言わないし、一番良くないのは「この部下はダメだから自分の仕事をしちゃおう」という場合です。この場合、ネガティブフィードバックはしないと思います。

ネガティブフィードバックで何かを言う時は、その人のことを信じていて、その人ができると信じている。やってくれると思っているし、期待しているんです。それを伝えた上で「もうちょっとこうやってやってよ」ってお話しするといいんじゃないかなと思います。

この4つの承認ですね。「結果承認」「行為承認」「存在承認」「可能性承認」。単にほめることではなく、こういった意味で承認していただけたらと思います。

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