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公立学校教員が「複業先生」授業を導入して気付いた10のこと ~中から見た学校と、外から見た学校~(全2記事)

生徒の机の奥でクシャクシャになり、届かずじまいの学級新聞 現役教員の「悩み」に対し、元教員が仕掛ける“学校のDX”

株式会社LX DESIGNが運営する「複業先生」は、学校だけでは手が回りづらかった、キャリア教育、探究学習・総合的な学習、プログラミング・グローバル・IT等の分野を、これまでの仕事や経験を分かち合いたい人がスポットで「先生」として授業の依頼ができる、教育特化型学校外部人材活用プラットフォームです。本イベントでは、実際に「複業先生」による授業を学校で実施した、富山県南砺福野高校の土田俊輔氏をゲストに迎え、学校現場における外部人材活用のリアルや、学校の「中」と「外」から見た学校現場のこれまでとこれからに迫ります。本記事では、イベント参加者からの質問に答えながら、学校での外部人材活用の可能性を探りました。

元教員が仕掛ける「複業先生」の可能性

宮下彩夏氏(以下、宮下):ありがとうございます。続いて、随時質問に回答いただければと思います。まず1つ目ですね。「負担が減るということは理解しています。雑用がネックとよく聞きますが、その改善にアプローチするきっかけとなるコンテンツとなる可能性はありますか?」ということです。

これはどちらかと言うとLX DESIGN側への質問かもしれないですが、土田先生的にどう思いますか? 授業以外のところで「LX DESIGNでこういう改善もしてもらえるんじゃなかろうか」という期待感がもしあれば、教えていただければなと思います。

金谷智氏(以下、金谷):それ、聞きたいです。

土田俊輔氏(以下、土田):期待感ですか。もちろん、授業をしていて「こういう人でこういう授業ができたらいいな」と思うことがあるじゃないですか。

例えば「留学経験者に話してほしいな」という時に探すのって、日々の忙しい業務の中ではすごく大変だと思うんですよ。(LX DESIGNなら)すぐにそれが探せる。なので、かゆいところにすぐ手が届く感じもあります。

あと、先ほどの学級通信はすごく画期的だと思ってます。僕も学級通信をよく書くんですが、保護者に届いてない感がすごくあって。気づいたら引き出しの奥にクシャクシャになって入っていたとか、よくあるので。

宮下:悲しい……。

土田:このサービスだと保護者のスマホに直接届くので、ホームページ以上に確実に情報を届けられる。そういう精神的負担は、間違いなく減ると思いますね。

宮下:金谷さん的にはどうですか? 私たちは、改善のアプローチをするきっかけとなるコンテンツとして、どんなものになっていったらよいのでしょうか。

金谷:これはすごく重要な問いで、「『複業先生』は授業のために作ったんですか?」という質問がくると、見抜かれているなと思います。授業の中で複業人材に入っていただくというのは誰もがイメージできるからこそ、そこから入っていくんですよ。

学校の先生の「授業」の業務は一番大変なんだけど、それだけじゃないじゃないですか。むしろ、それ以外のことでいろいろと困ってるわけです。授業の中が上手になったらそれでいいか、というわけではないというのが僕なりの回答です。

なので、授業以外のところで、学校の先生がやるべきことだけに集中していけるといいなと思ってやっています。保護者とのコミュニケーション、学校の中の情報集約とか、そういうところに手が届くようになるといいなと思っています。

僕の場合はぺーぺーでしたけど、教員として感じていた「負」を1個ずつ潰していってるというのが、LX DESIGNの事業の展開の仕方ですね。

生徒の気が済むまで、腹を割って何度も面談

金谷:2つめの質問で、「『先生がやるべきこと』って何だと思いますか?」という、すごくいいタイミングでの質問があるので、そっちに行きますか。

宮下:そうですね。何だと思いますか?

土田:特に今はすごくいろんな悩みを抱えている生徒が多いので、一人ひとりの生徒との対話がやるべきことかなと思いますね。授業で知識を与えることも確かに大事なんですが、それ以上に今の子たちを見ると、まずは面談(が大切)です。5分とかでちょちょっとやるんじゃなくて、生徒の気が済むまで腹を割って何回も面談することです。

あともう1つは、生徒が学校で過ごす時間はすごく長いと思うんです。ほとんど(の時間を)学校で過ごすと思うんですが、その中で「複業先生」をはじめとする外部人材とか、いろんな人とつなぐパイプ役は、僕らがどんどんやっていくことが、今後はますます大事かなと思いますね。

確かに僕も20代の頃、「僕らが全部こいつらに教えてやるんだ」みたいな気合いも持ってましたけど、いい意味でどんどんプライドを捨てながら、「これはこの人に聞いたほうがいいから、この人とつながごうかな」「留学の悩みか。僕の話よりも○○さんのほうがおもしろいだろうな」というふうに、僕らがいろんな人をつなぐのは大事かなと思います。

金谷:なるほど。

宮下:金谷さんから見て、学校の先生がやるべきことって何だと思いますか? 元教員ですが、私たちは外部の民間企業という立場じゃないですか。あえて分けるとするならば、今は「外の人」ですけど、教員という立場じゃなく教育に携わっている私たちが思う、先生がやるべきことって何だと思いますか?

金谷:せっかくなのでもうちょっとだけ深い話をだけすると、「学校の先生にとって、仕事を奪われたような気持ちにならないんですか?」という質問がけっこうあるんですよ。これ、学校業界外の民間の会社とかと連携しようとする時に、すごく素朴に質問されることが多くて。

学校の先生たちからすると、例えば「ITを使ったうんちゃら」「キャリア教育のうんちゃら」とか、今だと「SDGsの教育」とか。僕らが教育学部にいた時にはない新しい話を「やってください」って言われるほうが、場合によってはしんどいことがあります。

教員の仕事は、子どもを「孤独と真逆の世界」へ導くこと

金谷:なので、「近年起こってきて、やらなきゃいけないんだけど、まだ自分(学校の先生)の専門性にはなっていなところだけを巻き取るつもりなんです」という話をよくしていて。

ここでいう「先生がやるべきこと」という定義は、その先生しかできないこと。さっき土田先生がおっしゃってたように、目の前の子どもたちに一番近い存在であり、その人たちが何をしてあげたら、その子たちの人生にポジティブなインパクトが出るか。

ポジティブなインパクトとは何かって言うと、ちゃんと社会とつながって、孤独と真逆の世界に行けることだと定義しているんです。あらゆることの中で、子どもに一番近いところ(でポジティブなインパクトを与えること)が、その役割じゃないかなというふうに言語化しています。

宮下:ありがとうございます。じゃあ、最後ですね。「今年だからやってみたいと思うことはありますか」。南砺福野高校さんとLX DESIGNのコラボでもいいのですが、お二人は何かありますか?

土田:去年ちょっとやってみて、もう1回やってみたいと思うことがあって。せっかく今、こうやってオンラインでつないでいただいていることもあるので、異業種交流もかねて「複業先生」の授業をしたいですね。例えば、今年は中高合同で1つの授業をやってみるとか。

もっと言えば、小中高で1つの授業をやってるみると、小学生からしたら「お姉さんってこんなかっこいいんだ」「キラキラしてるから早くなりたいな」とか。高校生からしたら、「小学生っておもしろいな。僕らももっとがんばろう」とか、そういういい効果があると思うので、異業種交流をやってみたいですね。

巻き込み力の弱い20代の教員は、保護者を“仲間”にする

宮下:なるほど。金谷さんは何かありますか?

金谷:僕の頭の中は、さっきのオンライン学級通信の話ではあるのですが、そこの活用をどうやっていくか。保護者の人たちが、「私も『複業先生』をやりたいんだけど」とコネクトしてきて、一緒に授業を作っていくとか。僕らが介在することで、学校の先生たちがいかに保護者を仲間にできるかとかは、すごく興味があって。

当時の僕も含めて、やっぱり20代の教員は巻き込む力が弱かったり、当然50代の先生方に比べて理解度もぜんぜん足りなかったりするので、保護者に仲間になってもらうことで、少しでも「元気に先生をやれたよ」というふうになっていくといいなぁと思います。

むしろ保護者が、「『複業先生』の授業を受けたい」と言ってくれるとか、保護者を巻き込んだコネクトができていくと、本当にパワフルなコミュニティになって、それこそ孤独の解消に帰結していくなと思ったりしています。

宮下:ありがとうございます。せっかく挙手をいただいてるので、ご質問どうぞ。

質問者1:ありがとうございます。土田先生にご質問なんですが、僕は今、大学4年生で今月末に教育実習です。個人的に、教育実習で「複業先生」を活用したいと考えている最中なんですが、教育実習で「複業先生」を導入するにはどうすればいいか。また、どういう点に気をつければいいかをご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

土田:すごくいいチャレンジだと思います。ちなみに教科は何ですか?

質問者1:僕も英語です。

土田:英語ですか。

金谷:土田先生に弟子入りするしかないじゃないですか。弟子入りしましょう。

宮下:(笑)。

土田:弟子が入るほど僕に技量があるかわからないのですが、本当に使ってみたらおもしろいと思います。ただ、現場にはいろんな先生がいるので、「教育実習生のくせに」という声は多少聞こえると思うんですが、それはぜんぜん無視していいと思ってます。

宮下:(笑)。

土田:それを聞き流すぐらいの度量があっていいと思います。むしろ、それぐらいパンチ力がある先生のほうが僕は好きなので。ただ、「複業先生」オールというよりも、展開も組んでおいたほうがいいかもしれないですね。

今後の課題は、“学校のDX”をどう進めていくか

土田:英語教育の話みたいになってちょっと申し訳ないんですが、2時間構成にして、「2時間目でこういう授業をするから、1時間目はこういう展開に持っていきます。次回は今日学んだことを参考に、複業先生のこんな人を呼んでやってみましょう」という感じにすると、おもしろいと思います。

「複業先生」に完全任せというよりも、ハイブリッド型というか、自分ができないことを「複業先生」に任せて2時間で完結にすると、「すごい教育実習生が来たなぁ」という感じになるんじゃないかなと思いますね。ぜひ、うちの学校に来てほしいなと思ってます。

宮下:ありがとうございます。質問がバンバン来ていて、あと残りちょっとでドキドキしている司会進行なんですが、もしよろしければちょっと延長戦までいっても大丈夫ですか?

土田:順番に回答していきたいと思います。

金谷:土田先生、「教員の業務負荷軽減の観点でアウトソーシングしていけると思いますか?」というお問い合わせをいただいてます。

土田:たぶん、もう技術的にはできる段階には来てると思うんですよ。問題は、それを学校全体でやる時が一番のハードルかなと思っています。僕自身、学校でいい意味で自由度があって、すごくいろんなことをやらせていただいているんですが、これを学年(全体)でやろうってなった時がうまくいかないんですよね。合意形成を図るのがけっこう大変で。

「もっと学校で広めよう」となったら、これもすごく労力がいります。技術的にはできるので、学校全体でやる時にどうしたらいいのかなとは思いますね。技術的にはアウトソーシングは可能なんですが、組織的にはまだまだ課題が残るかな。僕自身、課題にぶち当たってます。

金谷:なるほど。文化啓蒙を一緒にやりながら、学校自体の運営をアップデートしていく、“学校のDX”が必要ですね。

土田:結局、何をやるにしてもそれが一番大事なポイントになってくるんですよ。

金谷:いやぁ。この話、もっとしたいなぁ。

組織改革は、若い世代から少しずつ進んでいく

宮下:土田先生と金谷さん的に、学校全体の組織改革の部分も進んでいくと思いますか?

金谷:僕の答えは明確なので、先に土田先生お願いします。

土田:何をすればこれが進んでいくか、ということですよね。やっぱり、教員同士のコミュニケーションじゃないですかね。人間は感情で動く部分があるので、いくら「これがいい」って言っても、伝え方もありますから。教員や、パワーを持っている人とどんどん話す。パッと思いついたことを言ったんですが、金谷さんはどうですか?

金谷:僕も同じといえば同じですが、時間の問題だと思っています。いきなり来年、全員がこれを理解するということはありえないです。だけど、例えばLINEというサービスがだんだん普及してインフラになったように、スマホがだんだん普及したように、使ってない人のほうがレアになっていく。しかも、若いほうから順番に世代交代していく。

うちのゼミ生や大学生の子たちが、「これから先生になりたい」と毎年集ってくれているんですが、その子たちや社内の人たちに、よく天動説と地動説の話を言ってるんです。やばい、これ長くなるかな(笑)。

昔、天動説を主張してた一派がいて、「地動説なんてありえない」と言われてた人たちがいて、だんだん時代が変わったわけです。「やっぱり天動説が間違ってたので、今日から私たち地動説にします」という話し合いがいきなり行われたわけではなく、天動説を信じている人たちは死ぬまで言っていて、その人たちが消えたからだんだん地動説になっただけの話です。

「学校の中が業務効率化されるなんて」と思ってる人たちもいるし、「外部に手伝ってもらわなくたって大丈夫です」という人たちがいっぱいいる中で、だんだん世代交代していくと、なにかが変わっていくんじゃないか。

それは年齢の話じゃなくて、宗派や思想がだんだん広がっていくように(外部人材の活用が広がっていく)。広がらない可能性もあるので、そうなったら困るなという感じなんですが、個人的にはそう捉えています。

良くも悪くも、学校は「前年踏襲主義」

宮下:(次の質問者さん)大変お待たせいたしました。

質問者2:(所感になってしまうんですが)私は今、退職して非常勤講師をしてるんですが、前に総合学科高校の総合学科推進部というところで、講師を呼んだり企画をする側に回っていました。

その中心になって自分が呼びたい講師を呼び、仕組みを作りでかなり反発も受けましたし、めちゃくちゃ嫌な思いもしましたが、ある程度仕組みにしてしまうとそれで回っていきます。

良くも悪くも学校は「前年踏襲主義」なので、一度ぶっこんでみて「これ、よかったですよね。じゃあ来年もやりましょうね」ということにすると、だいぶ回っていきます。興味関心を持ってくれない人は持ってくれないですが、たまには理解してくれる人がいますので、そういう人と組んでちょっとずつ(進めていくと良いと思います)。

あと、管理職がどういう姿勢かというのも、ある程度はありますね。泥をかぶれば、1つの学校の中でいつも回っていく仕組みはジリジリとは作れると思います。まぁそこが嫌になって、最終的には今は退職して悠々と……。ようやく、生徒の話がゆっくり聞けるようになりましたけどね。

土田:先輩のお話、ありがとうございます。

質問者2:権力闘争、がんばってください。

土田:ありがとうございます。

質問者2:世の中って面倒くさいじゃないですか。誰かが「やるよ」と言ってパターン化してくれたら、「えー」とは言いつつ乗っかる部分も出てくると思うので、そこまでがんばれば勝てると思います。

複業先生を通してつながっていく「縁」

宮下:ありがとうございます。じゃあクロージングに入る前に、土田先生と金谷から一言ずつ、締めのお言葉をまずいただければと思います。お願いします。

土田:みなさん、今日は遅い時間に本当にありがとうございました。僕がこのサービスに関わらせていただいて感じてることを、今日この場でシェアできて、自分自身が一番頭の中が整理できて楽しかったです。すごくいい時間を過ごすことができて、ありがとうございました。

また、質問もしていただき本当にありがとうございました。僕もまだ勉強中ですので、これを機会にみなさんとつながっていけたらなと思います。もし他に質問があったら、ぜんぜん僕にメールとかしてもらってもいいので。いつでも質問ください。僕も考える機会になりますので、ぜひお願いします。ありがとうございました。

宮下:ありがとうございました。それでは、金谷さんお願いします。

金谷:LX DESIGNのイベントに遊びに来てくれて、そこから「複業先生」を使ってくれる先生たちが本当にたくさんいらっしゃって、今日のこの場からご一緒できる方たちが少しでも増えることを楽しみにしています。

まだないご縁が、1年後や半年後には形になっていって、「大学時代にたまたま講演聞いてました」という人が先生になって使ってくれたり、そういうご縁の分かち合い方や紡ぎ方をみなさんとできたらうれしいなと思ってます。今日は本当に貴重な時間をありがとうございました。

宮下:ありがとうございました。

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