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【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン(全6記事)

先生の半数が「部活の顧問を辞めたい」けど言い出せないワケ 「声をあげること」から始まる、子どものための学校改革

働き方改革コンサルティング事業を行う株式会社ワーク・ライフバランス主催で行われたイベント「【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン」の模様をお届けします。民間企業は労基法により「月の残業時間の上限は45時間」と定められていますが、学校の先生には適用されていません。教員の過労死や教員不足の背景には、給与の4パーセントを払えば残業代全額を払ったものとみなす「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という特殊な法律の存在があるといいます。本記事では、教師も「おかしい」と思いながらも、学校の中から声が上げづらい背景について、学校の外からできる教育問題の取り組み方について語られました。

学校に強く残る「軍隊的な文化」と苦しい思い

乙武洋匡氏(以下、乙武):もう1個ぐらいいけるかな。さっきは元教員の方の「何かできることはありますか?」というご質問でしたが、次はサトミさんからです。

「発達障害を持つ子どもの保護者です。『先生が怖い』と現在不登校ぎみになっております。小学校全体として怒鳴ってる先生を多く見かけます。いろいろと相談して配慮を求めたいのですが、忙しそうな先生方を見ると相談がしづらいです」。このあたりね、先ほどの小室さんのお話とまったく重なるのかなと思います。

「コロナ禍になって、教室の消毒まで先生がしているニュースを見て、プロに頼む予算をつければいいのに、と国に対して腹が立ちました。教員に予算をかけない国は未来がないと思います。保護者として何かお手伝いできることはありますか?」というご質問をいただいております。

まずは、内田先生どうでしょうか?

内田良氏(以下、内田):すみません、直接の回答になるかどうかわかんないんですけど。怒鳴る先生って本当にたくさんいます。明らかに人権侵害だっていうレベルの人も、実際います。

声が大きい、まさに軍隊的な文化はまだまだ学校では強くって。声の大きい人たちがだいたいそういうところに重なる。そして、多様性を持ちたい人たち、あるいはもっと自分の生き方が大事だと思う人たちが、結局苦しい思いをしていく現状がございます。

半分の先生は、部活動の顧問を辞めたい

内田:僕が5、6年この問題に関わってきて、今1つ確信を持って見えてきてることがあって。例えばね、かつて部活動の調査をやった時(のことですが)、部活動ってこの20年、30年で練習日数がすごく増えてるんですね。中学校の場合は、教員がほぼ全員顧問についてます。

それで、加熱がぐっと進んできました。よっぽど部活やりたいんだと思ってアンケートしたら、半分が「顧問を辞めたい」って答えてたんですよ。「辞めたい人が半分いるのにこんなに加熱する活動って何だ?」ってびっくりした。

つまり、それを支えてるのは集団の文化であり、組織の答えなんですよね。みんなで意見を合わせる時に「やりましょう!」ってなってるんですよ。半分の人たちは、本当は苦しいんです。校則の問題も、あるいは怒鳴ってる先生たちの声の問題も一緒。現場の中に、「あんなの絶対おかしい」と思ってる人がすでにいるんです。

いるんだけど、その人たちが声をあげると、学校の中で上司や同僚から怒鳴られたり押さえつけられたりするところが今の問題。「部活やりたくない」って言ったら、「お前なんのために教員になったんだ」って非難されるんです。

学校の中の「声なき声」が出せるようになってきた

内田:でも、今なんでこうやって変わってきたかっていったら、世論が変わったから、まさにその声なき声が出せるようになってきたんですね。外が変わっていって、「声を出して良いんだよね」というふうになってきた時、先生たちがTwitterだけじゃなくて、学校の中でも少しずつ声を出し始めたんです。

というふうに、Twitterの匿名空間でしかできなかったことが、今ようやく変わってきて、少しずつ学校の中で声が出せるようになってきた。そういうふうに、私たちが直接学校に関わらなくたって、Twitterの中でみんなで議論を盛り上げていけば、世論って変わっていく。あるいは、学校の誰かに直接言わなくても、ぜんぜん関係のない先生に一言何か伝えるだけとか。

とにかく、誰でもいい、Twitterの1クリックでもいいから、先生たちの声なき声を拾い上げる。学校の中の誰かに一言声かけるだけでもいい。そういうふうに、本当に小さいことをやっていくと、学校の中の声なき声を持ってる人たちがだんだん声をあげていって、もっともっと健全な学校になっていく。

その声なき声は、きっと子どもにも優しいし、大人にも優しいものだと僕は思ってます。そういうかたちでぜひ、みんなで世論を変えていっていただけるとありがたいなと思います。

乙武:はい、ありがとうございます。

保護者として何もできないのか?

小室淑恵氏(以下、小室):私からもいいですか?

乙武:はい、どうぞ。

小室:将来おそらく起業するんじゃないかという、発達障害を含めた可能性のかたまりのような子たちほど、今の教育だったらものすごく苦しくなると思うんですよね。そういう子ほど、たぶん今の学校には合わないんじゃないかな。

でも、小学校の6年間で親が何か行動を起こしても、ただ単に先生から嫌われて、自分の子がさらに不遇になるんじゃないかと思うと、「じゃあ何ができるんだろう?」「今の学校は変わらないから」「それ以上もう何もできない」みたいになるところが、私もすごく苦しかったです。

新しい担任の先生に、自分の子どもの特徴を一生懸命、地道に説明するぐらいしか、当時はできなかった。

今は先生たちの脳が、常に睡眠不足の危機にさらされていて、ずっと腹が立っているようなメンタルの状態なんですよね。脳の構造は、寝始めて6時間目以降にストレスが解消するようになってるんです。(睡眠の)前半は肉体の疲れ、後半は精神の疲れを取る役割になっていて。

「睡眠の後半」というのは、なんと寝始めてから6時間目以降なので、6時間未満しか寝ていないと、月曜から金曜までにストレスがコップいっぱいまで溜まっていき、ほんのちょっとした一言で「いなくなりたい」「死にたい」状態になってしまう。もしくは、突然誰かに当たってしまう。

先生の健康のための「6時間目以降」の睡眠意識

小室:学校ではすごくちゃんとやってるかもしれないけど、家族に強く当たっているかもしれないって考えると、睡眠の後半の6時間目以降をどうやって意識していくかが大事で。

今はアプリで睡眠(のデータ)が毎日取れるんですよね。特別なアプリを入れてなくても、iPhoneだったら毎日、自分の睡眠が何時間かを勝手に記録してくれています。

例えば、保護者たちは、学校の先生が良い状態で教育をしているか、精神的なゆとりを持って子どもたちに接してるかどうかが大変気になるので。「学校として、先生の睡眠時間をきちんと把握してください」ということを言ってみるといいと思います。

「把握なんかできないよ」って言われるかもしれないですけど、みなさんスマホを持ってますので、何かしらの把握手段で、無料で睡眠時間を記録することができる。「それを定期的に、少なくとも管理職はチェックしてください」「できれば保護者とも共有してください」とか。

そういうことが、結果として先生の健康を慮ってあげられる、子どもにしっかりと対応できる状態を作ることじゃないかなと私は思います。

「組織に言えない」ハードルを越える、オンラインの仕組み

小室:あとは、一部の人たちは本当は部活の顧問を辞めたいけれど、それが組織には言えない。こういう問題は、民間企業をコンサルする時にも常にあるんですけれど。

どうやってそのハードルを越えてるかっていうと、オンラインで同時に無記名で書き込むかたちで、全員で意見出しをするんです。かつては付箋で書いてたんですけど、筆跡でけっこうバレるんですね(笑)。

例えば鹿島建設は、すべての会議を「カエル会議オンライン」という、オンライン上で意見を書き出すツールを使って意見出しを今やっています。そうすると、若手がすごい勢いで書き込むんです。上の人たちは書くのも遅いから、なかなか書けないうちに、若手が100個ぐらいブワーッて意見を出して。

しかも、自分が共感した人に「いいね」を付ける機能があるんですね。今までだったら、誰かが「会議が長いです」と言うと、「俺の話が長いっていうのか?」なんてベテランに一言ピシャッて言われて終わりだったのが、誰かが「会議が長い」って書いたら、瞬く間に「いいね」が付くんですね。

意見を無記名で見える化する「カエル会議」の効果

小室:10人ぐらいの「いいね」が付いちゃうと、「これは総意なんだ」「俺ずっとそう思われてたんだ」みたいになる。ベテランも、今までだったら何も考えずに「俺が正しい」と思ってたのが、「俺が間違ってんの?」ってすぐに気づく。

そうすると、ベテランの方々も「ごめんね。わかってなくて」みたいな感じで、実は意識ってけっこう変えられるんですね。

そういうさまざまな意見を無記名で見える化するオンラインのツールを使ったり、ギリギリ付箋出しでもいいです。学校でやる時はITツールがだいたい使えないので、付箋でやってるんですけれど。

例えば3分間は無言で、他の人が書いてる時間にしゃべらず、自分が思っている課題を着々と書き出して、「いっせーのせ」で貼るようにすると、パワーの強い人に左右されずにみんなの意見を集めることができるので。ぜひやってみてください。

乙武:ありがとうございます。

外で「学ぶ時間」がない先生たち

乙武:あっという間に90分が経ってしまいました。内田さん、小室さんには今お話しいただいたので、最後、西村さんと室橋さんからもお一言ずついただいて、終了としたいと思います。西村先生お願いします。

西村祐二氏(以下、西村):はい。さっきからチャットで、「この署名いつまでやってるんですか?」「外部の私に何ができるんでしょうか?」っていう質問がありましたけど。

まず、今回の署名は、特に賛同人を見ていただければ(わかるとおり)、かなり意識的に学校外の方々に声をかけて、「学校の外から今の学校を見てもらいたい」という思いでやってます。

今学校に勤めている先生だけだと本当に変わらないので、ぜひ外からこの署名の支援をどんどんしていただきたいです。署名自体は(期限がいつまでかは)わかりませんけど、この問題が解決するまでですから、1年、2年、3年ぐらいのつもりで、これから挑んでいこうと思っています。

冒頭で、乙武さんから「先生方が100時間、120時間学校の中にいると、ほとんど私生活がない」っていうお話がありましたけど。今日、いろんなご意見で出てきた「先生方に多様な配慮を求めたい」「今の時代に合わせたら」といったところで、先生方は本当に学ぶ時間がないんですよね。

本を読めないし、こういった場に来られない。僕自身は、今日ここに参加して、外の方の意見でパッと見解が広がったような気がしてます。

社会全体で考えたい「給特法」の問題

西村:この給特法は、51年前にできて抜本的な改正なく今までやってきた(法律なので)、「これおかしいよね」っていうところから、ぜひ社会全体で考えていきたいです。

これまでも校則改革、部活改革は、社会の側が議論して、学校がようやく腰を上げてきたというところがありますので。これから給特法の問題もみなさんと一緒に、ぜひ力を合わせて議論していきたいと思っています。ありがとうございました。

乙武:ありがとうございます。最後に、室橋さんよろしくお願いします。

室橋祐貴氏(以下、室橋):せっかくなので、乙武さんにも最後にコメントをいただきたいので、時間の関係上、私のほうはちょっと省かせていただいて。

5月28日に教員志望の学生と、(キャリアが)1年くらいの若手教員を呼んで、以前と同じような時間帯にイベントをやるので、ぜひそちらも見ていただいて、若手が今まさにどう考えてるのかを知っていただければなと思います。本日はありがとうございました。

乙武:ありがとうございます。ぜひみなさんもご参加いただければと思います。ありがとうございました。せっかく室橋さんに時間を取っていただいて、「乙武からも一言」と言っていただいたので。

教育問題のネックになるのは「予算」

乙武:今回の「定額働かせ放題を考えよう」「教師と子どもを守ろう」っていうタイトルに、もしかしたら、当初違和感を感じた方もいらっしゃったかもしれない。というのは、「なんで先生の働き方が子どもを守るの?」「子どもを盾に、自分たちの待遇改善を求めてるんじゃないの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれない(からです)。

でも、今日90分聞いていただいて、意味がわかったと思うんですよ。小室さんの涙しながらのお話にすべてが詰まっていたと思います。僕もずーっとこの何十年、多様性をテーマに活動してきて。

それにはやっぱり教育が大事だと思って、30歳になる時に教員免許を取って、教員やって、教育委員もやって。「何がネックなの?」と考えた時に、「予算だな」というところに行き着いたんですよね。

(教員)1人が40人担当させられて、「個性を大事に」「多様性」って無理ですよ。だから、1人が見る人数を絞るしかないし、それには予算が必要だよね。予算があれば先生一人ひとりがクリエイティブな働き方もできるし、人間らしい生活も送れる。そうしたら、目の前にいる子どもたち一人ひとりの個性を大事にできる。やっぱりそこだなっていうのが、僕のこの十数年の結論なんですよね。

そのために、僕らが何ができるのか。ここにいる5人だけじゃなく、今日見てくださってる254名の方は何ができるのか。内田先生が言ってくださったとおりで、声をあげることです。子どもたちののびのびとした学びに、育ちにつなげるために「予算をつけてくれ」「先生の働き方を改善してくれ」という声をあげることが、僕らにできることだと思っています。

そんなことが確認できた90分になったらすごくうれしいなと思っております。みなさん、今日は本当にご参加ありがとうございました。

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