2024.10.01
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乙武洋匡氏(以下、乙武):今回は給特法を改革していこうということで私たちは集まっているわけですけれども、内田先生と西村先生は、以前から「ブラック校則」についても改革していこうと声を上げてこられました。今回、ブラック校則の問題と教員の働き方改革の問題について、何か関連する点や共通点はあったりしますか。
内田良氏(以下、内田):大変重要なご指摘、ありがとうございます。実は小室さんのお話とすごくリンクすることがありまして。僕は校則問題について、2018年に『ブラック校則』という本を書いて以降、とりわけこの1~2年集中的に検討しているんです。
『ブラック校則 理不尽な苦しみの現実』(荻上チキ氏・内田良氏/東洋館出版)
それ以前の僕の考え方は、ブラック校則というのは「学校がなんかおかしなことしてる。学校は人権侵害をやっている。以上」という感覚だったんですね。
ただよくよく考えてみたところ、例えば今日は土曜日ですよね。土曜日に子どもたちが公園でも遊んでいる。あるいはどこかでトラブルを起こした。そうした時に、学校に電話がかかってくるんですよ。あるいはお店で子どもが万引きしちゃった時に、店長が「警察に突きつけるのはかわいそうだから」といって学校に電話をしてくるんですよ。
子どもが外を歩いている時に、ちょっと制服を着崩して歩いていると、学校に電話がかかってくるんですよ。そして先生たちが「これあかんわ」と言って、制服の指導を始め、そして土日もこんな行動を守りなさいとか、夏休みだったら何時までこうしなさいとかっていう細かいルールを作っていくんですね。
もともと何でかと言ったら、実は学校に地域住民が電話してたんですね。「おめーらがなんとかせいや」って。これを僕は「学校依存社会」と呼んでいます。実はいろんなことを「先生がやってくれるでしょう」と(思っているんです)。
例えば保護者や地域住民が会社から帰ってから、夜6時とか7時に何も違和感なく学校に電話する。「○○先生はもう帰っちゃったんですか?」と、むしろ怒っちゃう。こんなことがあったわけですよね。こんなに憎しみ合っていても、誰も得しないですよ。
僕も学校のことを調べれば調べるほど、全部つながってるんだなと理解して。人権侵害だと思っている根っこは、実は私たち自身も学校と一緒に作っていたんです。学校問題は結局、私たちもみんな学校を卒業しているわけだし、いろんなメンタリティーを共有しているんですよ。
そしてまた「先生だったら何でもやってくれる」とついついお願いしちゃったりして、私たちの当たり前の中で先生の長時間労働問題が起きていて、あるいは人権侵害もそこで起きているんだと。そう考えていかないといけない。
もちろん個別のケースで、ちょっとこの事案はまずいなという先生起因の問題は起きています。それはそれとして、人としてちゃんと対処しなきゃいけない。でも一方で、広い意味では、本当に先生が健全に仕事ができて、そしてちゃんと自分たちの本務を果たしているのか。警察の仕事まではやらずに、ちゃんと「本務」が限定されて、その中で仕事ができるようにすれば、実は子どもにとっての「変な校則」が増えなくなっていくんです。
そして僕の昨日の調査でもわかったことで、長時間労働ほど後回しになる業務が何かというと「授業準備」と「いじめ対応」なんですよ。これが何を意味してるかということなんです。
長時間労働は先生が倒れるだけじゃない。子どものための授業の準備が減っていくし、いじめ対応、個々の子どもの顔色をちゃんと見ていくことができなくなっていく。本当にこれは教員だけの問題じゃないと、広く、とにかく全部リンクさせながら考えていかなきゃいけないと思っています。
乙武:ありがとうございます。今の2人のお話、元現場にいた者としては、それぞれうなずくところがあります。
例えば、私が最初に担任していたのは小学校3年生だったんですよね。そこには、本来2年生で習得すべきだった九九がまだマスターできていない子もいれば、その隣には休み時間になると司馬遼太郎を読み始めるという知的レベルの高い子もいたりして、そんな子たちが机を並べて一斉授業をしなきゃいけない。はっきり言って無理ゲーなんですよね。
もうちょっとクラスの人数を減らしてもらえたら、そういう子たちに一人ひとり合わせた指導ができるのに、1人で何十人見なきゃいけないとなると、やはり一斉授業をせざるをえない。でもこっちの子に合わせたらこっちの子はわかんないだろうし、こっちの子に合わせたらこっちの子はつまんないだろうし。
平均に合わせるって言ったら、たまたま平均値にいた子だけに合う授業で、できる子もできない子も両方合わない授業になるだろう。そんなジレンマを抱えながら日々授業をしていました。
小室さんの話のとおり、「子どもたち一人ひとりの個性を大事にする」って頭でわかっていても、先生に余裕がないとできないよねというのは、本当にそのとおりだなぁと思うんですよね。
乙武:一方、内田先生のお話もすごくうなずけるのは、先ほど私が愚痴りに愚痴ったホームページ更新の話とかイベント運営の話だけでなく、子どもたちが帰った後、何が忙しいかというとひたすら書類を書いてるんですよ。何のための書類かと言うと、ほとんどが「アリバイ作り」のための書類なんですね。
「アリバイ作り」とは何かというと、学校側が何かやろうとしたことに対して、万が一アクシデントが起こり、子どもが怪我をしてしまったとか何かトラブルが起こったという時に、「我々はこういう教育目的を掲げて、この目的を達成するためにこういう手順を踏んでこのイベント、この行事を用意してきました。なので、本来起こるはずがなかったミスなんですがたまたまこういう過失が起こったので、お子さんがこういう怪我をしてしまいました」という内容の書類です。
ある意味裁判でも起こされた時とか、ちょっと強めのクレームを入れられた時に、その書類を提出して、「いや私たちに落ち度はなかったはずです」って言うための、ほぼ90パーセント以上使われることのない書類をずっと書き留めてるんですよ。
正直、モチベーションは下がります。教員と保護者との関係性がもっとうまくいっていたら、こんな書類を作らなくても、怪我しちゃった時にも「先生にもそういうことありますよね。先生たちが一生懸命やってくれた上で、そりゃ子どもたちのことですから、こういうこと起こりますよ」って思いあえるんです。そんな関係性が築けていれば、こんな書類作らなくて済むようになるんだろうなーとか思いながらやってたんですよね。
「クレーム社会」の弊害が、まさに教員を苦しめてしまってるなと私も実感していたので、このブラック校則は実は先生たちの働き方改革と直結しているんだというお話は、まさになるほどなと、私自身も考えさせられました。
乙武:さぁ、ここまでお二人にいろんなお話をおうかがいしてきましたが、西村先生と室橋さんに、この議論を受けてそれぞれどんなことを感じたのかお聞きしていきたいと思います。まずは西村さん、ここまでのお話はいかがでしょうか。
西村祐二氏(以下、西村):小室さんのお子さんの話を聞いて、本当に胸が痛いというか......。また乙武さんのお話も、本当にそうなんですよね。これは近年になって多様な子たちが出てきた、生まれてきたんじゃないんです。昔から世の中多様だったにもかかわらず、学校の側は「全員一律で制服を着なさい。なんで第一ボタンを開けてるんだ」という、横並びを求めすぎてきたんです。(最近になって)あらためて、もともと本当は多様だったんだというのがわかるようになってきた。
僕も自分が教えてきた子の中で、例えば「ジェンダーの問題から制服がどうしても着れないんです」というような子がいたりしたんですよね。そういったことを起点に僕は校則の問題を訴えたりしてきました。
制服だけじゃなくていいじゃないですか? 制服を着たい子は制服を着る、私服を着たい子は私服を着るというような学校生活でもいいんじゃないですか? という署名を行ったりしたんですが、やはりすべて1つにつながっているんですよね。
今学校の中で起きていることの1つは、多忙から先生方がどんどんドロップアウトしていることです。また一方で、生徒の方も「生徒らしく」とか、何か1つのものを求められてドロップアウトしている。だからもっと一人ひとりに向き合った学校、一人ひとりが自分らしくいられる学校を作っていきたいなという思いでやってきたんですよね。
にもかかわらず、やっぱり多忙だから校則の議論も学校内でできないし、また忙しくなればなるほど、「先生、ちょっと今日の放課後に悩み相談にのってほしいんです」と言われた時に、会議が入っていたら「ごめんね、ちょっと今日会議だから明日でいいかな」と。そう言われた生徒にとって、その日に何か起きるかもしれないって考えたら、やっぱり常々、先生には(時間的な)余裕があり、いついかなる時も生徒の側に立てる心の余裕がないといけないんじゃないかなと思うんですよね。
そういうところから、僕は実名顔出しで活動をやっているわけです。なぜかと言ったら、例えば「僕の残業を減らしてほしい」とか「僕の残業代が欲しい」という主張ではまったくなくて、今の学校現場のままだと生徒も苦しいし、先生も苦しいんです。
ともすれば生きる・死ぬにもつながるぐらいの苦しさをみんな抱えている中で、もう一度、50年前そうだったような「ゆとりある教育現場」にして、ここから新しい時代の教育を考えていきたいという思いでやっています。
西村:ちょっと長くなっちゃって申し訳ないんですけれども、もう1つお伝えしたいのが、そうやって顔を出して実名でやっている中で、ある時生徒のほうから「先生が主張していることは間違ってないと思う」と言われたことがあるんですね。それがやけに神妙な顔だったので「どうしたんだい」と聞いたんです。
「実は中学校の時の担任の先生が、4月は生き生きと生徒の話を聞いてくれたり、授業もすごい楽しい授業をしてくれた人で。でも1年経つごとに、イライラしてきて生徒との対応もろくにしてくれなくなって、授業もつまんなくなっていった。僕はその先生が大好きだったからこそ、先生がそんなふうに変わっていってしまう、この今の教育現場はなんとかしないといけないと思っていたんです」と言ってくれたんですよね。
だから先ほど小室さんが言ったように、睡眠不足であればあるほど部下に侮辱的な言葉を使うという、まさにそんなことがいろんな場所で起きている。これはあらためて先生のためにも、何よりも生徒のためにも、これからの新しい時代の日本社会を作るためにこそ、今の教育現場じゃだめなんだと。だから僕は顔を出して、今堂々と訴えているというところです。ありがとうございます。
乙武:ありがとうございます。今、西村先生のお話を聞いていて思い出したんですが、私が教員になってすぐ、50代のベテラン先生に言われた一言が今でも忘れられないんです。「いやぁ、君たちみたいな若い先生はかわいそうだよね」って。
「何がかわいそうなんですか?」と聞いたら、「俺らの時代はかろうじて子どもと向き合うのが仕事だったけど、今の教員は書類と向き合うのが仕事だもんね」って言われて。「そうか、そういう職業になってしまってるんだなぁ」と、悔しさと共に痛感しました。
本当に今の西村先生のお話で、本当に変えていかなきゃって思いましたね。ありがとうございます。室橋さん、ここまでお聞きしていていかがでしょうか?
室橋祐貴氏(以下、室橋):そうですね。まさに共感する点ばかりでした。あえて加えるとすると、今まさに「部活動の地域移行」が議論されているわけですけど、逆に言うとこれまでの部活動って、先生のタダ働きに非常に依存してきた。
なので社会側の認識もどんどん変えていく必要があって、地域で子どもたちの活動を支えることだったり、保護者がもっと関わることだったりとか、そういったところの認識を変えていくというのが非常に重要だと思います。
室橋:1から全部税金でカバーするのは、なかなか現実的ではないですよね。税金も結局、国民がカバーすることなので。そういう意味では国民の理解をどう広げていくのかというのが一番重要で、今回メディア関係者の方に参加いただいているんですけど、これは教育関係者や保護者以外の人たちを含めて広く伝えていくというのが、あらためて重要なんだろうなぁというのをあらためて感じました。
乙武:ありがとうございます。本来教員というのはすばらしい魅力的な仕事であるはずなんです。それが例えば「予算が足りていない」とか、そういうことが原因で地獄のような勤務体系になってしまっている。本質的ではない部分で本来の魅力が覆い隠されてしまって、これだけすばらしい仕事が敬遠されてしまうという状況は、うーん......やっぱりなんとかしたいですよね。
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