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【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン(全6記事)

学校の働き方改革が「イノベーション人材」創出につながる理由 「多様な子どもたち」に対応できない先生たちの苦しみ

働き方改革コンサルティング事業を行う株式会社ワーク・ライフバランス主催で行われたイベント「【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン」の模様をお届けします。民間企業は労基法により「月の残業時間の上限は45時間」と定められていますが、学校の先生には適用されていません。長時間労働や教員不足の背景には、給与の4パーセントを払えば残業代全額払ったものとみなす「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という特殊な法律の存在があるといいます。本記事では元小学校教員の乙武洋匡氏、名古屋大学の内田良氏、ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏のパネルディスカッションの模様を公開します。

来年度からスタートする、部活動の地域移行

乙武洋匡氏(以下、乙武):ここから(現在の学校の問題に対して、)どうしていったらいいんだろうというお話を聞いていきたいと思います。

内田先生、特に中学・高校になると部活動が本格化してきます。部活の担当をする、もしくはさせられるという部分は、かなり勤務時間が長くなってしまっている大きな要因ではないかなと思いますが、このあたりはいかがでしょうか。

内田良氏(以下、内田):ご質問ありがとうございます。まさに学校教員の働き方って、部活動改革から始まったんです。もっと言うと、部活動に対する不満を、2016年頃から先生方がTwitterで呟き始めました。タブーが突き破られたような感じで、「実は私も」「私も」と。

ひどい場合には先生が「今日子どもが試合に負けてうれしい」って思わず呟いちゃうんです。これはその先生の性格が悪いのではなくて、もう末期症状ですよ。子どもたちが好きで教員になった先生たちが、子どもが負けたのを見て「やっと明日休める、うれしい」と思ってしまうぐらい、追い詰められてるんですよね。その呟きを見た時は本当にショックでした。それぐらいに追い詰められているところから始まったんです。

僕自身も最初からこの問題に関わっていましたが、当時はここまで世の中の議論あるいは改革が進むとは思いませんでした。来年度からは「土日の部活は学校ではやらない」という動きが本格的に国の施策としてスタートします。これを「地域移行」と呼んでいます(※「休日の部活動の段階的な地域移行」)。

まだまだ簡単じゃないんですけれども、ようやく動き始めた。やっぱり声を上げ続けていくことは非常に大事だなと思っています。(部活動の地域移行は、)簡単に言っちゃうと部活動はいわゆる授業ではない「教育課程外」なので、外に出す理由も非常にはっきりしています。さらに中学校教員の残業時間のうち部活動がかなりを占めていますので、その巨大な部活を外に出せば、ずいぶんと効果的だろうという見通しが立ちます。

「給特法の改正廃止」は国の課題

内田:一方で、昨日の会見でもかなり強調したんですけれども、問題は「部活以外の仕事」ですね。まさに乙武さんの給食時間の忙しさもそうなんですが、先生たちに本当に削減がしようがないぐらいに山ほど仕事が降りかかってきている。部活動のように「外に出しゃいいよね」という簡単な話で済まないものがまだまだ山ほどあるんです。

当然ながら時間管理は必須ですけれども、一方で人を増やすなり、なんらかの手立てをちゃんと行政や国が立てていかないといけないだろうなぁと思っています。

先ほど僕は「時間管理」という意味でかなり現場のお話をしましたけれども、当然この「給特法の改正廃止」は国の課題です。そういうかたちで、国・現場それぞれができることを1歩ずつ進めていかなければいけない。

トイレにさえ行けないこのノンストップ労働をどう解決していくのかというのは、本当に非常に難しい課題だけど、僕がいつも信じているのは「声を上げ続ける」ことです。今日だって、小室さんや乙武さんとこうやって議論ができることが僕は本当に信じられないですよ。

今までは教育界の、教育関係者だけで議論してきたわけだけど、こうやって議論が広がっていくことを、本当に幸せに思っています。そういった意味でも、今日のイベントが終わった後も、みなさんに議論を広げていってほしいなと思っているところです。

学校のホームページを更新するのに、1回2時間かかることも

乙武:ありがとうございます。私自身も元教員として、今の内田先生のお話は本当に共感するところが多かったです。また当時の愚痴みたいになっちゃいますけれども、あくまで現場で何が起こっているかという情報の共有として、みなさんにお話をさせていただきますね。

学校で先生が何をやっているのというと、「授業をして、子どもたちが帰ったら授業の準備をしてるんじゃないの?」と思われます。それはそうなんです。そこに加えて「校務分掌」という、学校を運営する上で必要な役割を各自が分担して担っているんですね。

例えば私なんかは学校のホームページを更新する担当だったんですよ。でも当時は、自治体によっても事情が違うでしょうけれども、学校現場にはイントラネットという内部でしかつながっていないシステムのパソコンが支給されていました。外部のインターネットにつながっているのは、2階にあるパソコン室のパソコンだけだったんです。

なので学校のホームページを更新しようと思うと、まず僕は各学年の先生に、「今日はどんなネタがありますか」と取材に行ってインタビューして数行の文章にまとめて、子どもたちの顔が写ってないようなお写真を提供していただいて。

それを基に2階のパソコン室に行って、PC公式サイト更新ソフトを使って更新して、それをいったんプリントアウトしてもう1回職員室に戻って、「副校長先生、これでいかがでしょうか」と見てもらい、「この文言はもうちょっとこういうふうに直してほしいな」「はい、わかりました」と。それでまた2階に行って、そのパソコンをもう1回立ち上げて直して、もう1回プリントアウトして職員室へ戻る。「先生、これで……」、とやっていると、2時間かかるんですよね。

「教員じゃなくてもできる仕事」は切り分けられるのではないか

乙武:あと(校務分掌でやっていたの)は、運動会とか学習発表会とかのイベントの運営ですね。本来子どもたちに授業をする教育者であるはずの先生方が、なぜかイベント屋さんをやらされているという現状があるんです。ホームページの更新、イベントの運営。「これ、教師じゃなきゃあかん?」という、そんな疑問を3年間ずっと抱いていました。

だから僕としては、教員を増やそうというのももちろん大事な観点だし、増えたらいいなとは思うんですが、財務省がなかなか「うん」と言わないこともあって。

どれだけ現実的かといった時に、僕は教員を増やせるにこしたことはないけど、せめて教員がやるべき仕事と、教員じゃなくてもできる仕事をもう少し切り分けて、それを地域のボランティアに委ねるとか、事務方として教員資格がない人を学校現場に入れるとか、そういうことをもう少しやっていったほうがいいんじゃないのかなと思うんです。

......すみません。モデレーターながら当時の思いをぶちまけさせていただきました。

保護者から見た、学校との関係性

乙武:小室さんの場合は、働き方改革のプロフェッショナルという側面に加えて、今2人のお子さんがいらっしゃる保護者でもいらっしゃるので、学校との関わりもあると思うんですけれども。どうなんでしょう。

本来であれば保護者のみなさんが、何か気になっていることやお子さんの変化について、気軽に学校や先生方に相談ができるような関係性でいられることがベストだと思うんですけれども。この忙しさも含めて、今の先生方は保護者から見て話しやすい関係性が築けているのか、ちょっと気を遣ってしまう部分があるのか。いかがですか。

小室淑恵氏(以下、小室):そうですね。それは「なぜ私が学校の働き方改革を、会社の利益を突っ込んででもやり始めたのか」というところと直結するんですけれども。この話をすると感極まっちゃうんですよね……。

昔、2014年ごろですかね、乙武さんに私の長男に会っていただきましたね。長男がすごく体調が悪くなっちゃって……学校の先生との関係性で、すごく難しい状態になってしまったんです。その時に、最初はすごく憤ったんですよね。「どうしてうちの子は、こんなに抑圧的な対応をされなきゃいけないのだろう」と。

私の子ですから個性的ですし、そんなに扱いやすくはないと思います。でもどうしてなんだろうと思った時に、最初は(学校を)すごく恨めしく思いました。

なかなか学校に行けない状態になって、私が毎日毎日、一緒に行きました。毎日教室に一緒にいました。なのでその頃は仕事は一日2時間ぐらいしかできませんでした。子どもが「帰りたい」って言ったらすぐ帰って、というのを毎日毎日繰り返していました。

今の状態で、先生たちが「画一じゃない授業」をするのは難しい

小室:その時に、私がいる教室は、先生は私がいるってわかっているから、一生懸命普通の大人のトーンで話して仕事してるんです。でも、前後の教室から聞こえてくる声は怒号なんですよね。全員の声が枯れきっちゃっている。なんなら、廊下に出歩いてしまう子どもを追いかけにいって捕まえて戻すというのを何度もやっているような状態のクラスもあって。

この状態を見た時に、先生たちが「画一じゃない授業」をするのはもう難しいんだって思ったんですね。親は「個性的で多様な、一人ひとりの子どもに対応してくれよ」って思いますけれども、そんなことができる状態に先生がいないんだと、その時に思ったんです。

「あぁ、私たちのかわいい子どもたちが健全に育つ学校を作るためには、先生たちを先に健全な環境で働ける状態にしなきゃ、できないんだよね」と思って。

その時に、そこに私のノウハウを使えばいいんじゃないかと思ったんです。民間の働き方改革支援を2,000社やってきたんだから、そのノウハウを学校の先生たちに提供をしていけば、未来の子どもたちをたくさん救うことができるじゃないと思って。それが2014年ぐらいだったと思います。そのあたりから本気でやり始めました。

給特法の改正の最大のポイント

小室:全部つながっているんですよね。親にとってみたら、自分の子どもがどういうふうな扱いを受けるのかということと、(教師の働き方は)すべてがつながっているんだけれど、ついつい「子どもがどういう扱いを受けたか」ということに対して、学校に文句を言いに行ってしまうんです。すごくもったいないですよね。みんな辛いのに、みんなで責めあうという状況になっちゃっている。ここがスタート時点でした。

親にしてみると、先生はそんな雑多な仕事をしなくていいから、一人ひとりの多様性に対応できるだけの心を持って、子どもを見ることに一番時間を使ってほしいと思っているんですが、今はぜんぜんできてないと思う。それで一番苦しいのは、先生なんじゃないかと思ったところがスタートでした。

私は今までいろんな法改正を仕掛けてきたんですが、今回の給特法の改正の最大のポイントだと思うのが、「与党と野党が戦ってるような話題じゃない」というところです。

通常はたいてい与野党の戦いがあって、だから攻防戦で一ミリも動かないという議論になるんですけれど、今回の改正は別に誰も反対はしてないんです。ただ、予算がない。税金で集めたお金の中から9,000億円という予算を誰が獲得するのかという(点で止まっているんです)。これは今までの政権を見ていると、そういう挑戦は、風が吹いてないとできないことなんですね。

世論や民意の「風」を吹かせることが、国を動かすきっかけに

小室:例えばコロナでひどいことになってるとなったら、急に全国民に10万円ずつ配れるんですね。この国は財政的には危機があるんだけれども、でも世論の風が吹いている時には、政治家は「お金を配れば」政権支持率向上につながる、と思うので、急にどこからかお金を獲得できるんです。

そう考えると今回大事な視点として、「この9,000億円というお金をむしろ今払ったほうが、自分たちの評価は上がるな」と、政治家が理解することなんですよね。それには、世論や民意が一時期にぶわっと高まるということが大事なんです。

私たちが労働時間の上限規制という法改正をしたのが2018年ですけれども、それは明らかに高橋まつりさんのことがあって、そのことをしっかりと扱ってくれたメディアがあって、そして大きく「民意」というかたちで発揮されたことが、政治家を動かしたんです。

今回は署名に3万5,000人という、瞬間風速的にかなり強くなっています。ここはすごく大事です。じわじわくるものというのは、なかなか政治家の方が認識できない。いかに高い山を作って認識してもらうかというところが大事なんです。

学校の問題は、将来の経済界の問題でもある

小室:今までは教員と保護者だけがこの問題の当事者のようになってますけれども、多様な子どもが生み出されなかったら、企業はイノベーションを起こして勝てるのか? だから今の日本企業は世界で勝てなくなってるんじゃない? と考えると、経済界の人たちも、みんな「これは自分たちの問題なんだ」と思って声を上げていけるはずです。

学校という狭い世界の、教員だけの話じゃなくて、「日本の国を支えるイノベーティブな人材をどう生み出すか」という議論をしているんだというレベルに上げてかなきゃいけないと思っています。

乙武:そういう文脈から、今回の署名にメルカリの小泉文明社長のような経済界の方が出てきているんですね。

小室:その視点がちゃんとつながる経営者はすばらしいなと思いますよね。「なんで今時の若者はこうなんだ、あぁなんだ」ではなくて、それはこの国の教育と連動していているんだと。

教育についても、例えばよく言われるのがもっとアクティブラーニング、英語、ITを追加していかないと、ですよね。でもこれは教員にとってみると、「こんなにいっぱいやってるのにさらに何か追加するの?」という、「もうこれ以上何も足さないで」っていう気持ちでしか受け止められないような状態になるんです。

経営者だったら、何か新規事業をやる時には「リソース配分」を徹底的にやりますよね。それがこの国全体の戦略としてなってないということと、イノベーティブな人材が輩出されないということがちゃんとつながっている経営者が、今回賛同していただいている方なんじゃないかなと思います。

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