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【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン(全6記事)

小・中学校の教員の半数が「休憩時間0分」 働き方改革から取り残された、学校現場の「しんどさ」

働き方改革コンサルティング事業を行う株式会社ワーク・ライフバランス主催で行われたイベント「【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン」の模様をお届けします。民間企業は労基法により「月の残業時間の上限は45時間」と定められていますが、学校の先生には適用されていません。長時間労働や教員不足の背景には、給与の4パーセントを払えば残業代全額払ったものとみなす「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という特殊な法律の存在があるといいます。本記事では元小学校教員の乙武洋匡氏、名古屋大学の内田良氏、ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏が、それぞれの観点から見た教師の働き方の問題点を語りました。

「学校現場のしんどさ」を考える

乙武洋匡氏(以下、乙武):ここでもうお二人、パネリストをご紹介させてください。名古屋大学の教授である内田良さん、そして株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役小室淑恵さんです。では内田さん、小室さんの順番で、まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。

内田良氏(以下、内田):みなさんこんにちは。名古屋大学の内田良と申します。本日はよろしくお願いいたします。今日は学校の教員、あるいは教育界だけではなくて広く民間の企業の方も含めて、すごく関心の広い会だと思っております。ぜひ学校現場のしんどさを知っていただけるとありがたいなと思っております。

乙武:よろしくお願いします。続いて小室さんお願いいたします。

小室淑恵氏(以下、小室):ワーク・ライフバランスの小室です。よろしくお願いいたします。私たちは働き方改革の会社なので、2000社の企業の働き方改革をしてきたことはご存じいただいているかと思うんですけれども、実は学校も200校、働き方改革のお手伝いをしてきました。

私たちは民間企業のコンサルティング事業で得た利益を実は学校のコンサル費用に投じました。もうコンサルの費用はいただかなくてもいいから、私たちが学校の働き方を変えたいんだから、という思いで、ここ10年ぐらいは社員とも合意して、そこ(学校の働き方改革)に私たちの人的なリソースも、お金も投資しています。それこそが日本社会全体をよくすることにつながるからです。

のちほどお話ししますが、やはり「学校」というところが変わらない限り、日本社会全部の好循環が生まれないんだと強く感じています。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

学校内の文化が変わる「魔の3時半」

乙武:よろしくお願いいたします。ではこのお二人も交えながら、この給特法についてみなさんと考えていきたいと思います。まずは内田さん。昨日西村さんと会見もされて、さまざまな教員の働き方に対する現状を、データを基にお話をされていました。この場でも少しかいつまんだものをご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

内田:実は昨日文科省で、先ほどの西村祐二さんと記者会見をしてきました。そのデータも含めながら、学校がどういう現状に置かれているかというのを広くみなさんに知っていただきたいと思いまして、お話をしたいと思います。

これは今日の朝見つけたツイートなんですけどね。「私の妻は教員で、土曜日ですが、平日に終わらない仕事のために今も働いている」と。「幼い子どもを夫に預けてずっと働いていて、家に帰っても働いている。朝早く出勤して帰ってくるのも非常識なレベルで遅い。家族の生活が成り立ちません」という、これが今日の悲鳴なんですよね。このように、先生たちの仕事が異常なレベルなんだということがまず大前提なんですね。

じゃあ現場はどうなっているのか。最近僕は強く思うことがあって「魔の3時半」と呼んでいるんですけれども。どういうことかと言うと、もともとは部活の研究をしている時に気づいたことで、午後3時半までは「廊下を走るな」と言われてたのに3時半を過ぎると「廊下を走れ」というトレーニングの場になるという。3時半までのガッチガチのところから、3時半以降いきなり緩くなるというか、危険になるんですね。

それは実は教員の働き方も一緒で。3時半まで50分の授業、10分の休み時間という、民間の企業がびっくりするぐらいに細かい時間管理があって。先生たちは50分の中で最大のパフォーマンスを授業で発揮するということをやっているんですね。

ところが3時半を過ぎた途端に「お金や時間に関係なく働くのが教員だ」という変な文化が急に出てくるという。だから「教員はまったく時間管理をやっていない」というわけではないんですね。

やりがいはあるが子どもには勧められない、教職の仕事

内田:3時半まではかなりガチでやっている。それ(時間管理)をいかにもうちょっと延ばしていくのかというのは、もちろん学校だけの話ではなく、教育・行政を含めて、みんなで考えていかなきゃいけない課題です。

それで簡単に、昨年(2021年)11月に実施した調査結果をお話ししながら現場の実態を知っていただきたいと思っております。まずは、魅力は十分だということ。これはさっき室橋さんもおっしゃっていたけれども、教職は魅力がないわけじゃないんですね。今志願者が減っていたりするんだけど、大前提として、魅力もやりがいもたっぷりあるんです。

じゃあ何が問題か。こういった数字によく出ています。「やりがいがある」は85パーセントがYesと答えてるけど、じゃあその仕事を子どもに勧められますかと言ったら「いいえ」と答えている。

やりがいはあるけどストレスがある。やりがいがあるけど、しんどい。なので、あとはやりがいや魅力だけを残すためにもマイナスの部分を削っていくことが必要なんだろうと。魅力はもういいから、いかにこのマイナス部分をみんなで見て、そして削っていくのかということが必要だと思います。

休憩時間0分の「ノンストップ労働」

内田:教員は11時間以上学校にいながら、休憩時間は0分という人が小学校・中学校は半分いると。もうノンストップ労働です。とりわけ女性の先生はすごく大変だという話も聞きます。特にトイレに行けないとかね。そういったことも昨日たくさんツイートで見ました。

そして例えばすごく象徴的なのは、休憩時間が民間企業でもみなさんあると思いますけれども、「休憩がいつか、わからない」という人たちが3割います。だから時間もわからずに休憩がとれるわけもないという状況。

そして「勤務時間を正確に申告していますか」という質問を設けたんですけれども、とりわけ目立つのが土日の43パーセントというところですね。この43パーセントは、申告していない。土日に学校に行った時に申告していないという。でも学校に行って遊んでいるんじゃないんですよ。学校の業務をやっているけど、申告していない。これはもう長らく学校の文化だったということなんです。

つい数年前まで、学校にはタイムカードがありませんでした。何をやっていたかというと印鑑1つです。これはただの生存確認ですよ。今日私は生きていますという、ただそれだけで11~12時間働き続けていたわけですね。

そうじゃなくて、やっぱり人として働いたらちゃんと働いたという認識をしなきゃいけない。もちろんそこで対価を支払わなきゃいけない。そういうふうにまずは、実態をちゃんと数値で見える化しながら、この問題を考えていくことが必要かなと思っています。以上です。ありがとうございました。

休み時間や給食の時間も、教員にはやることはたくさんある

乙武:内田先生ありがとうございます。今日お聞きいただいているみなさん、もしかしたら教員の方もいらっしゃるかもしれませんが、今日はそれ以外の方も多いということで、「休憩時間0分」というイメージがあまり湧いていない方もいらっしゃると思うんですよね。

私は小学校の教員だったので、ひとまず小学校の現場の話をすると、例えば民間企業に勤めている場合、朝出社をして、2~3時間働いたらランチ休憩があると思うんですよね。そこでお昼ご飯を食べたり、喫煙者だったらタバコを吸いに行ったり、缶コーヒーを1本飲んだり。そういう時間が少なくとも1時間ぐらいは与えられると思うんです。

「学校だって給食があるでしょう」(と言われるんですが)、小学生の給食の時間なんて、なんなら授業中より気を張るんですよ。だいたい誰かこぼしたりするし、喧嘩は起こるし、ひどいですよ。だからランチタイムなんて一番忙しいですよね。

じゃあトイレに行けるかと言うと、だいたい小学校は1時間目と2時間目の間、3時間目と4時間目の間は5分休憩なんですよ。5分で何ができますか? トイレに行けますか? と言ったら、黒板を消したりしなきゃいけないし、例えば次の時間が理科だったら、実験器具の準備とかしなきゃいけないし。そんなのたった5分でやれと言うのも無理な話なんですよ。

「じゃあ20分休みがあるよね」と言われたら、そこで何をしているかというと、宿題を出した分の丸つけをしなきゃいけないんですよ。ドリルや提出してもらったノートの丸つけをずっとしているんです。どこに休憩時間がありますか? という話で。

かつ、もしだれかがお休みしたら連絡帳が来るんですよね。こんなのもデジタルでパパッと返信できたらいいんですけど、アナログなんですよ。だからご丁寧に数行の手書きをいちいち返さなきゃいけない。これを子どもたちが帰るまでにやらなきゃいけないので、休憩時間はないです。

モデレーターなのに愚痴のようになってしまいましたが、現状をお伝えできたらと思ってお話しさせていただきました。

学校の管理職には「時間管理」をしなければいけない理由がない

乙武:小室さん、ワーク・ライフバランス社として、さまざまな民間企業の働き方改革を手がけてこられたと思いますが、冒頭西村先生からもお話があったように、民間は進んでいるのに学校現場・教員の働き方改革がなかなか進んでいないというお話もありました。この特殊性はどんなところにあるんでしょう。

小室:まずその教員の特殊性と、それからなぜ教員が長時間労働だと問題なのだろうという2点をあらためてお話ししたいなと思います。

学校の大きな特殊性は、管理職が「時間の管理をすることは自分の仕事だと思っていない」というところです。まず把握をしていないんです。私たちがコンサルに入った時に、「まず現状の労働時間を見せてください」と言った時に、「ないです」と言い張られました。

何ヶ月も問答して、最後は出てくるんですよ。「これは僕がプライベートで取っていた記録ですが」とか言って、最終的にExcelは出てくるんですけれども。実際はあっても出さないというかたちで、把握すらしていない。

だけどそれは悪意があってということではなくて、その組織として時間の管理をしなきゃいけない理由、つまり正確に支払いをするだとか、そういうことは何一つないので、それが業務の中に入っていないんですね。

他の資源は非常に限られている中、教員の労働時間という資源だけは青天井になっている。特に学校はもうすごくいろんな予算がなくて、いろんなものが買えないんですね。

そうすると効率化するものを買えないから、朝までがんばってくれる優秀な教員の人海戦術に全部乗せていっちゃおうというように、教員の優秀さにどんどん甘えていってしまう。他の資源が限られていて1個だけ限られていない資源があればそこにどんどん集中しちゃうのは当然であり、これが教員の非常に特殊な状態なのかなと思います。

集中力は、朝起きてから13時間しか持たない

小室:私自身がみなさんにぜひ見ていただきたいなと思うのは、大切な教員という仕事が長時間労働だとなぜまずいか。まず、ちょっと画面共有させていただきます。まず現実として授業時間が長いのではなく、それ以外の時間がこれだけ長い状態になっていますよね。

これは要するに、「教員」という資格がなくてもできるいろんな仕事を教員に乗せてしまっている。それが他国に比べて非常に多いということがわかるわけなんです。

人間の脳ってどういう機能でしょうか。これは企業をコンサルする時にもまずここからみなさんで共有していくんですけれども、「朝起きて13時間しか集中力は持たない」ということが、睡眠の科学データとして解明されています。

例えば朝5時に起きたとすると......。いや教員の方は5時よりもっと早いかもしれません。そうしたらもう午後5時から6時ぐらいには、脳の集中は終了なんですね。そこから先は、なんと酒気帯び運転と同じ集中力しかない。

もう本当は立派にお酒を飲みに行ったほうがいい時間帯なんですけれども、そんな時間帯に仕事をすると......グラフの緑の線のところが酒気帯び運転の集中力ラインなのですが、集中力はこの勢いで下がっていくんですね。こういう時間帯に無理して仕事をすると、ミスとか事故とかそういうことが起きてくる。

教師の睡眠不足によるイライラが、子どもに向けられる実態

小室:さらに私が一番恐ろしいなと思うのは、睡眠不足の脳は「怒り」の発生源である扁桃体という、この赤い部分を活性化させてしまうんです。つまり睡眠不足な方ほど怒りやすくなるということです。さらに睡眠不足はその扁桃体の機能を抑える前頭前野というところの働きが落ちてしまうので、怒りが抑えられないから、要するに「キレる」という状態になってしまうわけなんです。

これはすでに出ている論文なんですけれども、睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を使うというのがしっかりデータとして出ている。子どもたちにしてみると上司ではないですが、先生が睡眠不足ということは、もともと教師になった時にはものすごく人柄がすばらしい方だったとしても人が変わってしまって、侮辱的な言葉を子どもに使ってしまう。

一般の調査においては、それは部下のワークエンゲージメントを下げて離職率が上がっていくということがわかっているんですけれども、子どもは離職はできません。そこから逃げることはできないので、睡眠不足によるイライラ・自己消耗、つまり自分をコントロールできなくなった状態というのが、全部子どものところに集中的にたまっていってしまうということが、今現在も起きているということなんですよね。

そのことを例えばEUであれば「インターバル規制」という、勤務と勤務の間には11時間空けるという法律で、睡眠確保策を義務化しています。インターバルを入れるというのがEUすべての国で批准されています。これは日本ではまだ民間の企業にも導入されていなくて、私はこれをとにかく日本でも義務化されるために政策提言していこうと思っています。

給特法の廃止によって始まる「本気の働き方改革」

小室:ところが! このままだと、もし勤務間インターバル制度が日本に導入されたとしても、民間企業は対象だけど、今までも教員は給特法で別の法律下にいたから、「やっぱり教員だけは別ね」となってしまいます。今回もし給特法が廃止されて、民間企業も教員も一緒ということがちゃんと確認できれば、インターバルが入る時には一緒に入るはずなんですね。

なので、もうこれ以上「民間企業と教員は別の道」ということはやめて、この時点で一緒にしていかないといけないと思っています。

次に、満足度と離職率とを施策と共に見て、分析をしたデータなんですけれども。どういう施策が従業員満足度を上げるか。一見給与アップが一番効きそうなんですけれども、インターバル制度、勤務と勤務の間にちゃんと11時間空けられるというのが、これだけ満足度が高くて、一番離職率を下げていました。

じゃあ今回給与アップしなくていい、給特法は廃止しなくていいということではなくて。給特法を廃止するというのはどういうことかというと、初めて管理職が「本気で勤務の管理をしないと自分の評価がまずい」という状態になるんですね。

国としてみると、現在の実際の残業実態に合わせて残業代を払ったら9,000億円ですから、どうするんだということになる。9,000億円は給特法を廃止したらもちろん必要な費用で、それは絶対ちゃんと払わなきゃいけないと思います。

だけれども、このままじゃまずいから管理職は本気であなたたちが仕事を見直しなさい。それがあなたの仕事なんだということが、やっと国からのミッションとして、そして教育委員会等もみんなそのミッションに向かって走ることになります。お金の問題ではなく、給特法の廃止にとことんこだわることによって、本気の働き方改革が始まるのです。

そうすると勤務と勤務の間に、きちんと7時間寝られるようになって、みなさんの満足度が上がり、離職率が下がってくることにつながっていきます。今回、取り組みの順序として、まずは給特法廃止からターゲティングしていくというところが、私は非常に正しいと思っています。以上です。

乙武:ありがとうございます。今の内田先生、小室さんからお話をおうかがいしたように、かなり深刻な現状であるということが伝わってきたと思います。

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