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子育てのその先へ! ソーシャルインパクトを生み出す、「交差点人材」の育て方(全6記事)

山口周氏が語る、「ある種の冒険ができる子」の育て方 育児で大切にしたい、「親からしか与えられないもの」

「テクノロジー x デザイン x 起業家精神」を教育の土台としながら、社会を動かす人材「モノを作る力で、コトを起こす人」の 育成を目指し、徳島県神山町に2023年4月に開校予定の、 5年制の私立高等専門学校「神山まるごと高専」(仮称・認可申請中)。その神山まるごと高専によるイベント「未来の学校FES」に、「子育てのその先へ」をテーマに3児の父でもある山口周氏が登壇。本記事では、心底から「できる」と信じてあげることの大切さや、「これからの人材」を育てるための提案などが語られました。

漢字の書き順を問うのは、もはや「ハラスメント」

山口周氏(以下、山口):そろそろ残り時間が10分になりましたので、ここからは質疑応答にしたいと思います。何かご質問ある方がいらっしゃれば。

司会者:会場でご質問ある方はぜひおっしゃっていただければ、マイクをお渡しさせていただきます。

山口:ぜんぜん今日話したことと関係ないことでもいいですよ。私が子どもの時は超問題児で、母親にものすごい苦労をかけましたけどもね。どんなことでもぜんぜん。じゃあ、そちらの白いブラウスの方。

質問者1:ありがとうございます。本日は非常におもしろいお話をいただきありがとうございます。本を読ませていただいています。

山口:どうも、ご清聴ありがとうございます。

質問者1:私の子どものことで、非常にシンプルな質問ですけども。3人子どもがおりまして、真ん中の子どもが面倒くさがっていっさい字を書かないんですね。障害的にできないのか、ただのレイジーなのかが判別できなくて。パソコンだったら書くんですね。なので、そのままにしているんですけれども、どう思われますか(笑)。

山口:まぁ、ほっときゃいいと思いますよ。ちなみにおいくつなんですか。

質問者1:もう11歳で、今年から小学6年生になって。本人は中学になったら書かざるを得ないかもしれないと言っているんですね。

山口:なるほど。覚悟は決めているわけですね。

質問者1:そうなんです。ただタブレットを持っていけるのであればタブレットを持っていきたいと。

山口:まぁ、ベリーニュータイプということかもしれないので。池谷裕二先生という脳科学者で僕が大変尊敬している方にこの間僕がやっているカンファレンスに来てもらったんですけど、「漢字の書き順は完全にハラスメントだ」と言っていたんですね。

これだけ自分で字を書くことがなくなって、ほとんどパソコンでコミュニケーションしているのに、書き順のこれが1番目でこれが2番目で、それを間違えるとバツとかって、「完全にハラスメントだ」「いじめだ」と言っていました。だからぜんぜん心配する必要はないと思います。

質問者1:ありがとうございます。

心底から「できる」と信じてあげることの大切さ

山口:ピグマリオン効果というのがあります。今ではこういう残酷な研究は禁止されていますけれども、60年代の研究で、ごく普通の子どもたちのAとBと2つのクラスがあります。でも先生には、Aは「普通の子に見えるかもしれないけど、知能テストの結果で特別に選ばれた、極めて知性のポテンシャルの高い子たちをあなたに預けます」と言う。

Bは「あなたが扱っているクラスは、一見普通の子どもたちに見えるけれども、特殊な知能テストで極めて知的ポテンシャルが低かった子どもたちをお預けします」と言ってやらせるんです。

結果的に何が起こったかというと、Bは成績が下がっちゃうんです。Aはものすごく上がる。特にAの中でも上がった傾向の強い子は、ヒスパニックの子どもたちです。当時社会的に黒人やヒスパニックは能力が低いとみんなが思っていた。言葉で言わなくても思っているだけで、そういう自己規定をしちゃうんですよね。

その先生たちだって、「君たちはものすごくポテンシャルが高い」とか「お前らはクソあんぽんたんだろ」とか言うわけじゃないんですよ。言ってないんだけど、日々心の中に込めてる、この子たちは絶対にできる子だという確信が、子どもたちの自信につながって伸びていくんですね。ですから、初期段階でも人ができること、できないことってあんまり気にしないほうがいいんです。

もう1つ、僕は質問に対する答えが長いというので有名で(笑)。みなさん、日本のプロ野球の選手で、生まれ月が一番多いのって何月かご存知ですか。そう、4月。一番少ないのって何月かわかります? 3月なんですよ。

プロ野球選手の1軍登録選手の月ごとのグラフで見ると、4月から3月でがーっと下がります。JリーグのJ1に登録している選手の生まれ月をグラフに取ると、ばーって下がります。世の中の人口で見てみると、生まれ月って全部同じですからね。

ってことは、4月生まれは野球の才能があるってことなんだって。運動神経がいいんだって。サッカーの才能もある。そう思うでしょう。ところが今度アメリカを見てみると、アメリカはメジャーリーグの選手は、9月が一番多いんです。9月前を横軸にしてばーっと8月まで下がる。

これは何を言っているかと言うと、要するに年度の初めに生まれる子どもはちょっと体が大きかったり、ちょっと人より上手にできたりとかしますよね。その影響が一生続いちゃうんですよ。だから、本当に微妙なコミュニケーションの蓄積なんです。できるって心底信じてあげるのがやっぱり親の大事な責任じゃないかと思います。

質問者1:ありがとうございます。

「ある種の冒険ができる子」と「できない子」の違い

司会者:次の質問があれば。

山口:じゃあ、そちら。

質問者2:今日はありがとうございます。親がアムンセンみたいになってほしいと思っても、そういうふうになれる子ってものすごく一握りだと思うんです。適応的に生きる世の中で突き抜けるのって、ちょっと空気が読めないというか。そういう突き抜け方を子どもに強いるのは、また違う話で。

山口:そうですね。

質問者2:世の中に一番多いのは、突き抜ける人じゃなくて、それを支える人だと思うんですけれども。その支える人として一番必要な能力とか伸ばすべき能力って何だと思われますか。

山口:支え方もいろいろありますから、一番必要な能力という考え方はあまりしないほうがいいと思いますけれどね。子どもは植物と同じ。植物に「こういうかたちになってほしいな」と言ってもならないでしょう。だから、そういうものだと思いますけれどもね。

支える人と突き抜ける人の二分法というのも非常に危険というか、階層社会になっちゃいますよね。支える人と言うと、例えばどういう人のイメージですかね。

質問者2:ゼロイチをできる人というのは世の中そんなにいないと思っていて。1を10にできる能力のほうが大切というか。その能力って、例えばIT系の能力だったり、人と人をつなぐ能力だったりという種類があると思っているんです。なので、そのほうが個性や本人の興味が向きやすいかなと。

山口:能力面に関して言うと、こういう能力が必要だという予測はすべて外れるので、あまり信用しないほうがいいと思います。一番重要なのは自信ですね。何があっても、自分はやっていけると。

あと、これはジョン・ボウルビィってイギリスの心理学者が言っていることですが、非常に難しい状況になった時、リスクを取って違う職業に行ったり、ある種の冒険ができる子と、なかなかそれができない子は何が違うのかというと「愛着」が非常に重要だと言っていて。

単純に言うと、親から愛されていると思って育つ子には「帰れる港がある」感覚があるんですね。最後のところで自分を信じている。だからいろんなリスクを取って勉強もできるし、学び直しもできるということなんです。

今おっしゃられているのは、コンピューターで言うとアプリの話をされていると思うんですね。どういうアプリを入れると、活躍するコンピューターになるのかということですけども、アプリは世の中が変わるとどんどんいらなくなっちゃうわけですね。

例えば統計の知識は一時期最強の学問だと言われたわけですけど、今はコンピューターが全部やってますから。統計を使えるのはもうスキルとしてぜんぜん役に立たないんです。一文の価値もありません。

親からしか、子どもに与えられないもの

山口:人を育てる時に、アプリの発想とOSの発想というのがあるんですけども。どのアプリがいいのかという発想の仕方はやめたほうがいいと思います。大事なのは学び直しができるとか、自信があるとか、OSのところです。最後のところでは、存在を肯定されているという感覚が非常に重要です。何があっても自分の存在は必ず肯定されるという感覚は、親からしか与えられないものなので。

それを与えてあげた上で、その上の基本OSというのは、素直であるとかずるいことをしないとかいくつかありますけど。この下の部分がちゃんとあれば、その上のアプリは必要に応じてその子が勝手に学んでいきますし、アプリを入れるのは逆に学校の仕事なので。そこはたぶん世の中に合わせて、どんどん学校側がプログラムを変えてくれると思います。親がやることは、どちらかと言うとOSの部分かなと思います。

突き抜ける人材になるかもしれないですよ。ちなみにアムンセンは、極地探検家になることを目指していたので、ノルウェーって冬マイナス10度ぐらいになるんですけれども、冬の寒さに耐えられるようにと、真冬に家の窓を開け放って毛布1枚で寝てて、お母さんがむちゃくちゃ心配してたらしいんですけれども。それはそれで嫌ですよね。

北極に行くと言っていたのに、「おたくのお子さんが南極に進路を転進しました」って聞いたら、アムンセンのお母さんも「いやぁ世間さまに申し訳が立たないです」みたいに、大変だったと思いますけどね。

質問者2:ありがとうございます。

「これからの人材」を育てるための提案

司会者:そろそろお時間となりますが、他にご質問がございますでしょうか。では、最後に1問。

質問者3:ありがとうございます。子どもたちと4年間海外に留学して、やっぱり日本人なので、日本の学校、日本の学びを体験させたいと思って帰ってきて、今学校選びをしています。

例えば先ほどこの神山の学校の説明会を聞いてきたんですけれども。こういうイノベーティブな学校であっても、入学の試験の時に推薦入試ですとか、内申書ですとか、そういう日本の従来型のスタイル……まず1次試験があって、次にワークショップがあるというようなスタイルは変わっていくのかどうか。

どうしても子どもたちの目が海外にいってしまっているんですね。でも日本人なので、日本に学びの場があるのであれば、大事なティーンエイジャーの間は日本で学ばせたいなと思っているところがあるので。これから日本がどういうふうに変わっていくのかとか、日本ならではの学びを教えていただければと思います。

山口:僕もいわゆる試験の成績で、足切りするようなのはナンセンスだと思います。ただ、いわゆる詰め込み型教育とか、出された問題に正解を出すだけというのでは「これからの人材が育たない」という今言われている議論って、1980年代の中曽根内閣の時の第1次臨教審から言われているんですね。もう40年間言われ続けて変わらないんですよ。

ということは、何かまったく別のことをやらないと変わらないので、それが何かを僕も考えているんですけど。もしかしたら、企業の新卒一括採用の仕組みが1つの原因なんじゃないかと思っているんですね。

新卒一括採用ってものすごく乱暴なシステムです。まともな人材をちゃんと選んでいるかといったら選んでないんですよ。ちゃんと評価できないので、何で評価を代替しているかといったら大学のランキングなんですね。いい大学に行くといい会社に入れていい人生が送れるというモデルになっているので、それが下に降りてきて、試験で足切りするというかたちになっているんです。

ですから、企業が大学の偏差値とかじゃなくて、その人間が持つリーダーシップとか、自信とか、OSの部分をちゃんと見るように変わると、試験のあり方も変わってくると思うんですけれども。その新卒一括採用の部分が改まらないと、そこは難しいのかなということが1つ。

世界の大学ランキングは「非常にナンセンス」

山口:あと世界の大学ランキングを見ると、アメリカの学校が軒並み上位にあるんですけれども、あれは実は非常にナンセンスなランキングです。わかりやすく言うとメルセデス・ベンツとヤリスを比べてメルセデス・ベンツのほうが性能がいいと言っているようなものなんですね。学費が1,000万円くらいかかりますから。

東大で今どれぐらいかな。50~60万円ぐらいですかね。ですから桁が2桁違うんですね。日本の人たちは、桁が2桁違うものを比較して「なんか若干負けてる」と言っているので、愚の骨頂の議論ですよね。

日本の学校がなぜペーパーで足切りしないといけないかって、もっとアメリカみたいにリーダーシップとか面談とかインタビューをやるべきだという人がいますが、そのためのコストをどうするかという問題があるんです。アメリカの大学は、学部生で学費1,000万円を取って、ビジネススクールに行くと2,000万円ぐらいかかりますからね。

その学費ローンを背負って破産しているわけですよ。学費ローンを背負ってるせいで、好きな職業にも就けずに、せっかくいい大学に行っていろんな仕事に就けるのに、「学費ローンを返さないといけないから金融機関で働いています」みたいになって、職業選択の自由を奪う構造になっている。あの大学ランキングというのは、国力を維持するために非常に政治的に作られていますからね。

そういった問題があります。つまり、インタビューをやったり論文をちゃんと読んで一人ひとり見ていくのは、非常にコストの高いやり方になるんです。これを授業料で回収しようとすると、授業料の高額化を招いて、教育格差の問題を招いちゃう。いろいろと絡んでいて難しい問題です。

ですから、僕は新卒一括採用の問題と、国がそこに対してある程度お金を入れて、試験の成績がいい人だけにいい教育機会が与えられるというのではない仕組みに変えていくべきだと思っています。まったく問題意識は同じです。ただなかなか変えていくのは、学校だけでできる問題じゃないのかなと思っています。

司会者:ありがとうございます。それではお時間となりましたので山口周さんのご登壇は以上となります。本日はどうもありがとうございました。

山口:どうもありがとうございました。

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