2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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山口周氏(以下、山口):若い人たちは、「若いんだから黙っていたほうがいいかなぁ」とか、「専門家じゃないから黙っていたほうがいいかな」と思っちゃう。逆に上の人たちには「ケツが青いな」とか「素人は黙ってろ」という空気があるわけですね。
おもしろいことに、この空気を数値化した人がいるんですよ。オランダの心理学者で、ヘールト・ホフステードという人です。どれくらい、「若造は黙ってろ」「素人は黙ってろ」という空気が強いかを権力較差(指標)というかたちで示したんですけれども。
国別に見ると、日本は54で、台湾・韓国・香港はこういう数字です。
これはわかりやすく儒教の影響ですよね。儒教は長幼の序といって、幼いのは長に従えという価値観がありますから。どうしてもこういうふうになっちゃう。一方アメリカ・ドイツ・イギリスと、スイス・デンマークは、プロテスタントの国ですよね。フランスとイタリアが入っていない点が要注意です。
フランスは実は権力較差が70くらいありますから。ローマカトリックの国と、プロテスタントの国は権力較差がぜんぜん違います。そもそもプロテスタントって反抗せよということでしょ。プロテストせよですから。ローマ法王に反抗せよと言い出したのがルターで、それを国の宗教として選んでいるところは、やっぱり権力較差が低い。
権力較差が低いということは、若造だろうと素人だろうと平気で口を出すということです。この若造と素人がパラダイムシフトを起こすようなアイデアを思いつくんだとすると、こういう人たちが平気でものをいう社会や組織のほうが、イノベーションが起こりやすいのは当然ですよね。
これは20世紀的な良さと、昭和の良さと、令和の良さは違うという話でもあります。権力較差は、低ければいいというものでもないんですね。高いほうがいい状況ってみなさんわかりますかね。高いほうがいいのは、つまり上の人たちが何か言うと、下がははーっと言って従うという。そういう状況のほうがうまくいく状況というのもあるんですね。例えば、何をやったらうまくいくかがはっきりわかっている時。
わかりやすく言うと、戦後のアメリカを追いかけている時は、何をやったら国が発展するかがはっきりわかっているので、つべこべ言わずにメンバーの人たちが従っているという状況でよかったわけです。明治の開国の時もそうだったと思います。
ところが日本も一応先進国の仲間入りをしたわけで、単純に追いかけろという状況でうまくいくわけがない。むしろいろんな環境変化が起こったり、想定外のことが起こる時に、権力較差が高いとどういうことが起こるか? エベレストの登山と権力較差の関係を調べた、おもしろい人がいるんですね。
下に書いてありますけど、56ヶ国のヒマラヤ登山。3万人分を調べて、権力較差の大きさと遭難事故にどんな関係があるのかを調べたんですけど。
嫌な話ですけども、わかったのは発言が封じ込められがちな権力較差の大きい文化圏のチームは、死者の数が著しく多いということなんですね。
今、まさに世の中・社会全般がヒマラヤ登山的になっているわけですよ。環境が激変し、想定外のことが次々に起こる。この時に、リーダーが全部決めてメンバーは黙ってなきゃいけないという空気が支配する登山隊は、人が死にやすいということです。ぜひ若い人たちにはどんどん口出ししていただきたい。生意気上等ということですね。
かつ、だいたい僕が見ていると突き抜けてくる人って、みんな生意気なんです。かわいげがある生意気って、難しいんですけど(笑)。そういう方向観をぜひ目指していただければと思います。
あとは一生懸命がんばるっていう人は、必ず夢中になる人に負けるという話をしたいと思います。「ろうそく問題」と言われる問題があります。ろうそくに火をつけて、壁に灯がともっている状態を作ってくださいという問題ですけれども。
あれこれ考えて6〜7分経つと、「そうだ!」と思いつくんですね。トレイから画鋲を全部出して、そのトレイの上にろうそくを立てるということをすればいいということですね。こういう答えなんですけれども。
この画鋲をトレイから出しちゃうって思いつきが鍵で。思いつけば必ずここに行くんですけれども、なかなかそこに思い至らず、6〜7分かかっちゃうと。
これに、報酬がどれくらい効くかを調べた人がいるんですね。報酬を与えたグループと、報酬を与えないグループで、時間がどれくらい早くなるかを調べたんです。AとBの2つのグループを作って、Aのグループにはこの問題をそのまま解いてもらう。Bのグループは、Aのグループの平均時間より早かった方には、5ドル差し上げますと。一番早かった方は20ドル差し上げますという。
5~6分で20ドルってことは時給だと200ドルですから、まぁ悪くないですよね。結果、何が起きたかというと、報酬を約束しないグループは当たり前ですけど結果は変わりません。だいたい5〜6分くらいかかる。報酬を約束したグループは何が起きたか。これは何度やっても結果は同じなんですが、3〜4分遅くなることがわかっているんです。
経営の非常に難しいところですが、こういうアイデアや発想の転換が必要な種類の仕事は、報酬を与えたり競争させるとパフォーマンスが落ちることがわかっています。じゃあ給料がなるべく低い会社に行ったらいいかというと、そういう単純な話でもなくて。
一番最初に与える状況を、さっきはこれ(トレイに画鋲が入った状態)でしたよね。
でもこっち(トレイの外に画鋲がある状態)にして、同じようにAとBで無報酬と報酬を約束したグループでタイムを競わせると、今度は報酬を約束したグループのほうがパフォーマンスが高くなることがわかっています。
微妙な違いなんですけど、こっち(トレイに画鋲が入った状態)よりはやっぱりこっち(トレイの外に画鋲がある状態)のほうがちょっと簡単なんですよね。画鋲をトレイから出すという発想の転換、思いつきが必要ないので。順列・組み合わせで、この道具をどうやって使えるかを全部考えておけば必ずさっきの答えに行き当たります。
なので、報酬というのは非常に気をつけなくちゃいけなくて。やっていることそのものに夢中になっている人が一番パフォーマンスが上がるんですね。報酬目当てだとか人に勝って評価してもらうということをやっていると、難しくなる。
これはそれぞれの領域における勝者と敗者を並べたものですけども。検索エンジンの勝者は、グローバルにはGoogleになるんですが、日本だとヤフーさんで。敗者はどこかというと、NTTさんですね。NTTさんのほうが実は早く始めているんですよ。電子商店街は言わずと知れたAmazon、あるいは日本だと楽天ですね。敗者はIBM。
これはもう忘れちゃってる人がほとんどですが、実はIBMもワールドアベニューというAmazonみたいなことをやっていたんですね。今「IBM World Avenue」で検索すると、インターネット上の遺跡みたいなものが出てきてけっこうおもしろいです。1997年のニュースで、「IBMワールドアベニュー閉鎖」みたいなニュースが出てきて、なかなかこれは切ないニュースだなぁとか。
動力飛行はライト兄弟がもちろん勝ったわけですけれども、ライバルだったのはアメリカ陸軍ですね。ライト兄弟って、自転車屋ですからね。自転車屋が、アメリカ陸軍と戦って、アメリカ陸軍が負けたっていう。昔『ランボー3/怒りのアフガン』という映画があってですね。僕が学生時代に、シルベスター・スタローンが筋肉ムキムキにこのバルカン砲の銃弾をたすきにしてバズーカを持ってるポスターだったんですけども。
未だにコピーが忘れられなくて。「1人対15万人」というコピーなんですね。「これさすがに無理あるだろ『ランボー3』……」と思いながら。でもライト兄弟とアメリカ陸軍っていうと、ちょっと『怒りのアフガン』ほどじゃないですけど、2人対20万人ぐらいですから。でもアメリカ陸軍が負けたということで。
最後はロアール・アムンセンとロバート・スコット。アムンセンはノルウェーのアマチュアの探検家ですね。スコットはイギリス海軍の軍人で、南極点到達をイギリス海軍とアマチュアの探検家が争って、アマチュアが勝っちゃったという話ですね。
極論すると、左側は全部アマチュアです。かつお金がない、ブランドがない、技術がない。一方で右側は専門家で、お金ある、技術ある、ブランドある、人脈ある。そして結果的に右側が負けたと。なんでそんなことが起こるのか? いろんな理由が左右していますが、1つ指摘しないといけないのは、左側の人たちは夢中になってる人たちですね。もう自分でやりたくてやってる人。誰からもやれって言われてないのにやってる人たちです。
右側の人たちは、全部誰かから「やれ」と言われた人たちです。それなりに、一生懸命がんばったんです。こういった大きなプロジェクトに抜擢されているぐらいですから、たぶん実績もあって優秀な人だという評価を受けていたと思うんですけども、まぁ負けちゃった。
内発的動機がなく、かつ報酬が予告されているんですね。うまくいったら昇進するよ、うまくいったら評価が上がるよって。同期で一番乗りで役員になるかもしれないよと言われているわけです。それが、いかに人のパフォーマンスを下げるかがとてもよくわかるのが、この対比だと思います。
アムンセンは子どもの時から探検家になりたくて探検家になった人ですね。片方のスコットは、提督になるのが夢で、海軍大臣から南極に一番乗りをしてくれないかと。君だったら今までありとあらゆるプロジェクトを成功させてきたし、やってくれるかって。おまかせくださいという感じですよね。
何が起こったかと言うと、みなさんご存知のとおり、スコット隊はスコットも含めて全滅しちゃうんですね。アムンセン隊は何が起こったかと言うと、探検隊メンバーが「あんなに楽しかった探検はなかった」と言うぐらい楽しかったそうです。非常にスムーズに何のトラブルもなく帰ってきた。
本多勝一さんという方が書かれた『アムンセンとスコット』というドキュメントの本があります。リーダーシップを学ぶのに最適なケースなんですけども。これを読むと、スコットって本当についてないなという感じがするんです。メンバーがありとあらゆるミスを犯していくんですね。不幸も重なるんですけれども。
アムンセンは、何のトラブルもなく、ルポとしてはつまんないんですよ。なんか犬ぞりで出発しました、あっという間に着きました。わー。あっという間に帰ってきました。終わりなんですね。
片やスコットのほうはドラマで、ありとあらゆるトラブルに襲われるんですけども。何かと言ったら、アムンセンって子どもの時から極地探検家になるのが夢なので、頭の中でありとあらゆるシミュレーションをやっているんですよ。それで、ぜんぶ予防線を張っているんです。だから何の問題も起こらないんですけれども。
スコットは極地探検なんてぜんぜん興味ない人ですからね。ただ、ものすごく仕事ができる人だったんで、上司から頼まれて、よせばいいのに引き受けて行った。で、結果ありとあらゆるトラブルを起こして結果的には全滅。ご本人も亡くなるんですね。非常に切ないんです。絶筆の手紙があるんですけれども。
奥さん、子どもが生まれたばっかりで家族をよろしく頼むと。残念ながらこれ以上書けないというところで終わっているんですよね。でもみなさん、どちらを選ぶかと言ったら、お子さんはやっぱり左側のほうがいいでしょう?
ただ、アムンセンという人もむちゃくちゃな人なんです。今でこそ南極探検の到達レースで勝った国際的な英雄になっていますけど、この人もともと北極に行くと言って出てるんですね。北極点一番乗りを目指してがんばってたんです。ノルウェーは北極が近いですから、当然北極は重要ですよね。
なので、北極点一番乗りをするぞと言ってがんばっていた。お金を集めて、船を用意して、乗組員を用意して。いよいよ北極点に行くぞーとやっていた時に、アメリカのロバート・ピアリーという探検家が、彼が出発する1週間前に北極点一番乗りをやっちゃったんですよ。
当然周りの人たちは「もうピアリーに一番乗りされちゃったから、このプロジェクトは解散ですよね」と言う。それに対してアムンセンは「いやいやでも一番乗りされたけどまだまだ調べることもあるし、むにゃむにゃ……」みたいなことを言って、とりあえず船を出すんですね。
船を出して、陸からもう追っ手が追いつかないとなった時に、「目的地を南極点到達に変えます」と連絡するんですよ。たぶんそれで南極点到達できずに帰って来ていたら、ただのペテン師で終わってるんですけれども。だってノルウェーから北極って1週間ぐらいで行けますけど、南極行くのって3ヶ月ぐらいかかりますからね。
でもこれもまたおもしろい話ですけれども、船の中には乗組員がいるわけですよね。それで、みんな北極点に行くと思っているんですけれども、アムンセンが船の中で放送するんですよ。これから重大発表をすると。「本船は北極点を目指さない」と。「南極点到達の一番乗りを目指すべく南極に進路を変更する」とアナウンスをした時に、船が揺れるような雄叫びが船の中から上がったそうなんですね。
こういう内発的動機で動いてる集団に対し、スコットは自分が使えそうだというやつを一人ひとり選んだ。やっぱり夢中になっている集団が一番強いということですね。
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