2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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司会者:質問をいただきました。「上司で、部下を2時間も3時間も個室で叱る人がいて、明らかに病的というかストレスの捌け口に見えます。しかし私は同じような失敗をしても、そうされたことはなく不思議に思っていました。叱る依存を向けやすい相手、向けにくい相手というのはあるんでしょうか?」。
村中直人氏(以下、村中):あるんだと思います。「叱る」を、「相手にネガティブな感情を与えることで思いどおりにコントロールすること」と定義する時、(相手の反応としては)「Fight or Flight」となります。「『戦う』か『逃げる』か」という生物的な反応を引き起こすわけなんですね。
そこですごく従順に逃げる方。「Flight」する方。それは、叱った側の「こいつは俺の言うことで学びよった」「気づきよった」「(俺が)諭させてあげているんだ」というわかりやすい成功体験を感じさせてくれる。だから、そういう相手を求めてしまうという構図は、容易に想像できる気がします。
一方で「Fight or Flight」の「Fight」のほう。権力構造がありながら、戦い続けようとする人が相手だと、叱る側はたぶんあまり気持ち良くなれない。ただ正直、こういう人はすごくレアです。権力構造が明確な中で、戦い続けることができる部下、若手、お子さんというのは、すごくレアな才能だと思います。だから結局、表面上すごく従順な反応をする子ほど、叱られやすくなる部分はありますね。
村中:あと、今ちょっと思ったのが、常に従順な人だけでなく、叱る側を「間欠強化してしまう人」もいると思うんですね。つまり、ふだんはそんなにスッと言うことを聞かないのに、たまにすごくしおらしく言うことを聞いたり、学んだりする人。間欠強化はすごくアディクト(中毒性)を促進するので、このあたりは相性の問題がかなりある気がします。
松本:叱られる時に、従順だと逆に良くないんですかね? 反抗的な目をしたほうがいいんですかね? 相手の加害行為を引き出しちゃう気もしますが。どうするのがいいんだろう。
村中:「叱るモードになる状態」を作っている時点で、組織というか、その空間の失敗だと思うんですよ。だから、「叱る依存」みたいな言葉が、社会的にある意味流行るみたいなことがすごく大事で。そもそもその状況を作らないということのほうが、生産的な気がしますね。
松本:でも確かに人によって、やられる人とやられない人、短く終わる人と長くなっちゃう人がいるのは事実ですね。
司会者:「その環境を作らないことが重要」というお話がありましたが、企業向けにパワハラ防止研修を専門としている方からのご質問です。
司会者:「パワハラ行為者は、残念ながら結果的に自分の行為をパワハラ認定されたり、懲戒されたりするまで、自分の行為の正義を曲げないことが多く、企業の人事部門とともに苦慮しています。
管理者などパワーを持つものの行為が多いので、村中先生が『ヒエラルキーの維持』と指摘された点に、大いに関係すると思います。叱るが依存であることを前提に、そのような行為を未然に防止するための有効打はないでしょうか?」というご質問です。
あともう1つ。「叱るという行為は、アディクションとして捉える。学校の先生に読んでいただきたい本ですね。でも読んでいただきたい人は読まない。そういう人にどうやって届けたらいいのでしょうか?」というご質問がきています。とても難しいと思いますが。
村中:先に2つ目のご質問ですが、どうやったら届けられるんでしょうね。逆に教えてほしいですよね(笑)。
1つ目のご質問に関しては、ちょっとそのヒントになるかどうかわからないんですけど。先ほども少し話に出ましたが、これまで正義側の人の「正義の鉄槌」を、それが例えば違法行為やセクシャルな行為でない限り、抑止するという概念があまりなかったと思うんです。
SNSの炎上にしても、パワハラの構造にしても、非常に線引きが難しいですよね。頭のいい方って、明確にアウトな行為はしないで、微妙なラインを攻める気がします。
だから、社会通念として広がるべきなのは「そこに叱る側の『快感』が入っている」ということです。例えば、パワハラ防止で「あんたの正義は正義じゃない」と言うとたぶん反発する。
だから、ちょっと角度を変えて「正義は正義かもしれないけど、正義を使って他者をコントロールする欲求に、快楽としておぼれてしまっていないか?」という問いかけをしてみる。つまり「叱る依存状態に、あなたはなっていませんか?」という問いかけなので、ちょっと角度が違うと思うんですよね。
私はパワハラ研修をしたことはないんですが、「叱る依存という概念を持ち込む」ことで、ある種今までとは違う角度からアクセスできる気がします。
松本:あと、『〈叱る依存〉がとまらない』を一番読ませたい人が読んでくれない問題というのがありますね。
村中:そうですね。
松本:周りの人たちがたくさん読めばいいんじゃないかな。そうすれば「あの人叱る依存だよね」となってきて、その人から怒られている人も「また叱る依存やられちゃったよね」というムードになってくる。
叱られる時に屈辱的なのは、「お前だけだぞ」とか「誰それと比べてみろ」と比較されて、だんだん同僚たちから分断されていくこと。これがけっこう効くし、それでしょげていると、たぶん叱る側の快感にもなってしまう気がするんですよ。
だから、周りの人たちが(この本を)読むことによって、叱られる対象になっている人が孤立しなくなる。叱る側にとっても、あまり快感にならない。僕、うっすらとですが、これがいい対策になるんじゃないかと思うんですよね。
村中:なるほど。読んでほしいけど読んでくれない人を後回しにしてでも、読んでくれる人にとにかく読んでもらう。
松本:みんなに読んでもらって。無理にでも怒らせるために、叱る人の机の上にこの本をポンと何気なく置いておくとか。そういうことをして、自分の身を危険に晒す必要はないんじゃないかと(笑)。
村中:なるほど(笑)。
司会者:次に「教育現場にも、ソフトにもハードにも『叱る』『脅す』を基調にしている方がいらっしゃいます。子どもたちの中でも特に敏感な子に身体反応が出て、不登校の子が増えています。生徒が先生を選べない以上、どのように身を守ったらいいのでしょうか」というご質問です。
村中:難しいところなんですよね。私はもともと、ニューロマイノリティな子どもたちを中心とする学習支援の現場出身の人間なので、今おっしゃっていただいたことは、すごく肌身で痛切に感じるところです。
やはり親御さん側の認識のアップデートはすごく大事だなと思っています。ついこの間も、『そだちの科学』という雑誌の連載で、ホームスクーリング(学校に通学せず、家庭に拠点を置いて学習を行うこと)の話を書かせていただきました。
きっと多様な選択肢が不利に働く時代にはならないと思うんですよね。多様な選択肢を排除せずに、将来の心配をあまりせずに、今、この瞬間のそのお子さんにとっての最善を選択していただければいいなと思っています。
本の中でも書いた「学習性無力感」にものすごい強度で陥ったあとに、そこからその子の「冒険者モード」を取り戻すのは、ものすごく大変です。私の立場だとそっちを心配してしまうので、危険があれば身を隠す、別の方法を考えるということを、ためらわずに選択してほしいなと思います。
村中:一方で、私もよく言うんですけど、どこで学んでもいいから、子どもたちから学ぶことを取り上げちゃいけないし、学び続けることを、支援し続けなくちゃいけないと思うんですね。最近「学習権の保障」という言葉も聞きます。しかも「やらされ感」でなくて、「自分で学ぶ」ことを続けていくことが必要です。
変化の激しい時代を生きていくためには、学び続けることはどうしても必要なので、その保証をした中で、ただ多様な選択肢を探していくこと(が必要です)。すいません、原則論でしかお答えできないんですけど、そんなことを考えています。
松本:どうしても教育の現場で、叱られ続けて勉強が嫌いになっちゃう子はけっこういますよね。
村中:います。
松本:それから行動修正をするために、「怒り」だけならいいんだけども、屈辱感というか、「辱め」を味わわせるような言葉をセットで言ってしまう人がいる。精神科医からすると、それで自己評価がズタボロになっている子たちがいるので、教育の現場で「行動修正」に「辱め」はいらないと注意していく必要がある。そういう意味でも、先生のこの本を文部科学省に推奨してもらって……。
村中:ありがとうございます(笑)。
松本:学校現場の必読書になればと思います。これは本当に日本の教育をよくするために必要だと思いますね。
村中:そうですね。これ以上言うと、言い過ぎる予感がするので、この話はこれくらいにしておきます(笑)。
司会者:ありがとうございます。1つ前の質問に対して、大手証券会社勤務の方から「パワハラ研修に村中先生を推しておきます」というコメントをいただきました。
村中:ありがとうございます。
松本:いいね。
司会者:ありがとうございます。次に村中先生へ質問です。「親子、家族、職場、社会の視点でとてもわかりやすかったですが、もともと(村中先生が)一番伝えたかった方は誰かいらっしゃいますか?」というご質問です。
村中:特定のこの人に伝えたいということはなかったんですね。敢えて言うなら、あとがきにも書きましたけど、この本を書く時には「自分自身の思考の整理」という目的が大きかった気がします。
先ほどちょっと偉そうに「私は気付いてしまった」という言い方をしましたけど、アイデアとしてはありました。「何か人間の行動原理として、すごく大事なことな気がする」と思っていたんですが、それを自分の中に落とし込むためにも、きちんと整理する必要があって。
実はこの1冊の本を書くという過程が、私の中で、自分自身に対して落とし込む時間でもありました。それこそ私も一応経営者でも親でもあるので、叱る依存的な行動をしてしまう時に、自分を律する拠り所になる本を作りたいなという思いがありました。今のご質問で言うと、もしかしたら一番伝えたかったのは自分自身というのが、一番大きいのかもしれません。
司会者:ありがとうございます。次のご質問は、「成長をしたいという思いと、他人と協力したいという思い。良い行動を取りたいけれど、行動を制限して苦しんでいる人を作りたくない。相反する2つの思いを潰し合わずに、成長と共生を両立させるために何ができるでしょうか」という、ちょっと難しい質問です。
松本:抽象的な感じですね。
司会者:抽象的なんですが、その他に来ているご質問で、「基準があるからこそ、正義の暴力が生まれてしまう。けれど基準があるからこそ、自分という存在を安定して出せるのかもしれない。自分の固有の性格を保ちつつ、他人と良い関係を築くのは、少数派の個性の持ち主ほど難易度が高くなる。少数派に支援が必要なのは、協力するための難易度が多数派よりも高いからでしょうか」という。
本書の中で、冒険モードと防御モードという話があるんですが、自分が冒険モードになることが、他人の何か妨げになるというところで、うまくいかないと感じている方が複数いらっしゃるんだと思うんです。
村中:本の中にも書いたんですが、冒険者モードで「振る舞う」って、ものすごくたくさんの練習がいると思うんですよ。
要は(冒険者モードは)自分の欲求をエンジンにするわけですが、でも、自分のやりたいことを実現していくモードになる時に、絶対誰もが失敗するわけなんですよね。だいたいうまくいかないです。今の話でいうと、(自分のやりたいことをやろうとして)誰かの権利を誤って侵害してしまって、「ああ、しまった」ということは、本当によく起こることなんです。
でも私が言いたいのは、それをどれだけ発達段階の早いタイミングで「経験させてあげられるか」。これがすごく大事なんですね。
失敗が失敗として許容される空間をしっかりと作って、転びながら失敗しながら、でも冒険者モードでいられるテクニック・スキルを育むことが大事な気がしています。ディフェンスモードというか、危機対応モードの状態をどれだけ積み重ねても、冒険モードの練習にはならないです。
村中:冒険者モードとつながるかわからないですけど、「マイノリティのほうが『自分』というアイデンティティの基準を持ちにくい」というご指摘は、本当にそのとおりです。私が自閉スペクトラムの仲間たちと語らう会の名前を「自閉文化を語る会」と名付けたのは、それに対する強い思いがあります。
「多数派に近づけ」「多数派のように振るまえ」「多数派の価値観を習得しろ」というメッセージがまだまだ強すぎるんです。そういうのを最近は専門用語で「マスキング」とか「カモフラージュ」という表現をするんですが、それを幼い時からずっとやり続けると、もともとの自分ってなんだったっけ? とわからなくなると、よく言われるんですよね。
だからこそ素の自分というか、ふだんの気を遣わない発言を笑い合えるとか、「俺らこんなんだよね」と話せるとか。「脳や神経由来の文化」という表現が一番好きなんですけども、「俺らってこういう文化の人間やから、確かに多数派の文化とはちょっと違うし、いろいろ軋轢も生まれるよね」という、自分のアイデンティティを育むような場がすごく大事だなと思っています。
松本:依存症の人たちが自助グループの中で持っている文化、つまり自分たちの文化ですよね。一般の社会とは違う価値観を確認し合いながら、時々そこに行って癒やされるという。よく似ているところがあるかもしれませんね。
村中:すごく似ていると思います。
司会者:ありがとうございます。タイトルについての質問が来ています。「『止まらない』としたのはなぜでしょうか」。
村中:最後にその質問を持ってきますか? 長くなりますよ(笑)。実はタイトルを決めるまでにものすごく紆余曲折がございまして。まずそもそも「叱る依存」という言葉をそのまま使うのかというところも、すごく悩んだんですよね。それこそ依存症の専門家の方に叱られてしまったらどうしようという恐怖感がありました。
でもそこは腹をくくって、「叱る依存」という言葉を使おうとなった時に、最初の仮タイトルは、実はそのまま『叱る依存』だったんです。そのままのシンプルなタイトルだったんですけど、さすがにそれだとちょっと寂しいというか、メッセージ性に欠けると。
なので、もう一言何か付け加えようとなって、その時にいろんな案が出たんですけど、この「とまらない」という言葉が一番誰のことも責めない言葉だったんです。
松本:ああ、なるほど。
村中:それ以外の言葉は、どうしても叱る依存状態の人を責めるニュアンスを帯びた言葉になってしまう。ニュートラルに事実を述べるというニュアンスの言葉としては、「止まらない」が最も良かったという話です。
松本:「叱る依存」だけだったら、ただ問題を提起しただけになってしまうし、「叱る依存、ダメ。ゼッタイ」というと、「お前が叱る依存じゃないか」という(笑)。
村中:そうそう(笑)。「叱る依存をもうやめよう」みたいな話になると、ちょっと違うメッセージになるわけです。「止まらない」は、例えば自分が叱る依存状態になってしまっている時に言われても、「そうなの。私の叱る依存が止まらないの」と思いやすい。
松本:免責されて「一緒に解決していこうね」となるんですね。
村中:そうですね。
司会者:まだまだたくさんご質問をいただいているんですが、そろそろお時間になりましたので、2つだけ読み上げるだけにさせていただいて、残りのご質問は、先生方にのちほどお渡しして共有させていただきます。
「叱る依存の対処法として、トラウマインフォームドケアが有効なような気がしました。相手の傷付き体験を理解するところから、叱る依存に効くのでしょうか」。
それから「村中先生と松本先生監修によるDV加害者プログラムがあればと思います。どのようなアプローチが可能でしょうか」といただいております。
それでは時間になりましたので、本日のご感想をお二方からいただいて、お開きにしたいと思います。まずは松本先生からお願いいたします。
松本:僕は村中先生に「帯コピーを書いてほしい」と言われた時に、最初は「オッ?」と思ったんだけど、本を読んだあとに、自分に声をかけてもらったことをとてもうれしく光栄に思いました。
今回も一緒にトークセッションができて、自分が専門にやっている「依存症」が、こんな広がりが持てるんだということで、自分自身がやってきたことにも「まだまだ将来性あるかも」って思えました。本当に今日は貴重な機会をいただいてありがとうございます。
村中:ありがとうございました。
司会者:村中先生、お願いいたします。
村中:ありがとうございます。なんて贅沢な時間だったかと、私は思っております。松本先生とこんなに「叱る依存」についていろんな角度から、しかも生産的、前向きなお話をさせていただいたことを、心から感謝しております。ありがとうございます。
村中:先ほどいただいた質問に答えたくなるんですが、「トラウマインフォームドケア」という発想が私も大好きです。私はこれからの時代の「誰もが生きやすい社会」を考える3大テーマを、トラウマ、アディクション(依存)、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)だと思っています。
そういう意味で考えた時に、アディクションのインフォームドケア。つまりハマるということがどういうメカニズムで、どういう問題が起こり得るのか。薬物依存だけじゃなくて、アディクション全体としてインフォームドケアしていく取り組みが、今後起こっていってもいいんじゃないかと強く思っています。
今日はたくさんの方に聞いていただきまして、ありがとうございました。松本先生、ありがとうございました。
松本:どうもありがとうございます。
司会者:ありがとうございました。『〈叱る依存〉がとまらない』刊行記念イベント、まだまだお話は尽きないんですけれども、これにて終了させていただきます。村中さん、松本さん、今日は本当にありがとうございました。
松本:どうもありがとうございます。
村中:ありがとうございました。
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