2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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苫野一徳氏:さて、学校って本当にそういう場所になれているか、みんなが自由になれて、自由の相互承認の感度を育める場所になっているかというと、なかなかなれていない。そういう問題が今あるわけですね。
一つひとつ説明するのはやめておきますけれども、いろんな問題が今起こっています。学校が自由と自由の相互承認を、逆にズタボロにしてしまうことが起こってしまう。そんなことが大きく問題になっているわけですね。誰が悪いわけでもないんです。先生が悪いわけでも、子どもが悪いわけでも、親が悪いわけでもない。
これはそのような社会システムになってしまったことが悪いんです。この理由として私は、150年変わらない学校システムに大きな問題があるんだといつも言ってます。どういうシステムかというと、みんなで同じことを同じペースで同じようなやり方で、同質性の高い学年学級制の中で、出来合いの問いと答えを勉強する、ベルトコンベア型のシステム。これは150年前に発明されましたが、当時としてはまさに大きな発明だったんです。
学年学級制はみんな当たり前だと思ってますけど、これは150年前に初めてできたものなんですよ。そして同じ歳に生まれた人たちだけのコミュニティというのは、学校しかないんです。社会はいろんな人たちからなるコミュニティなのに、学校は閉鎖的で、同質性の高いコミュニティを人為的に作ったんですね。
このことで、とても大きな問題が起こっているんです。「落ちこぼれ」「吹きこぼれ」もそう。みんなで同じようにやっていったら、ついていけなくなる子が当然出てきますよね。それからいじめとか不登校とか、空気を読みあう人間関係。これも同質性の高いところにぎゅうぎゅう詰めにされたら、それはそうなりますよね。
あと、「遊びを奪われた子どもたち」というのも本当に大きな問題です。例えば幼稚園とか保育園って、遊びをすごく大事にしますよね。「遊び浸るから学び浸るへ」というのが幼児教育の基本中の基本だから、遊びをすごく大事にするんです。今は遊び方すら「こうやって遊びなさい」みたいに決める園も、ないことはないんですけれども。
でもやっぱり「自由な遊び」をすごく大事にするんです。人間にとって自由な遊びって、めちゃくちゃ大事なんですよね。その中で、粘り強く人との関係を築くとか、なにかに熱中する、没頭することを知るわけです。
でも小学校に入ると、こういう遊びがなかなかできなくなってしまうということがしばしば起こる。これは本当に大きな問題です。
「自分の人生は自分のものだと考えられなくなった子どもたちが激増している」という研究があります。子どもの時から常に「こうしなさい」「ああしなさい」って言われてきて、遊び方さえこうやって遊びなさい、クラス全員遊びをやりなさい、こんな遊びをやりなさいとずっと指示されていく中で、自分の人生って自分でつくるものだという感じがなくなっていってしまった。
それだけじゃなくて、仕事に意味を見いだせない大人が4人に1人いると言われているんですね。しかもそのうちのほとんどが、けっこういい仕事をしている人たちなんですよ。
昔は勉強していい大学に行って、いい会社に入れば幸せになれると信じてがんばったんだけど、そうやって言われたとおりにやっていったら、振り返った時に「あれ? これ、本当に自分がやりたかった仕事なんだろうか。なんか意味がない気がする」って気がついてしまった。
『ブルシット・ジョブ』という本もベストセラーになりましたけど、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)と呼ばれる仕事が随分増えました。富裕層なんだけど、人の役に立つような仕事じゃなくて、人から金を巻き上げるような仕事っていっぱいありますよね。
誰の役にも立っていない。でも、お金だけはいっぱい入る。そういう仕事がどんどん増えてきて、実はそういう仕事に就いている人たちも幸せじゃない。なんか自分の仕事って意味がない。そう思っている人がすごく多いことがわかってきたんですよね。
やはり何かおかしい。何か変えなきゃいけない。どうやったら学校を変えられるかというのは、私もいっぱいアイデアはあるんですけれど、今日はその話をすると時間がないので、ごくごく簡単に。
まずは「学びの構造転換」、さらには「公教育の構造転換」ということをいつも提言しています。学びの構造転換は、みんなで同じことを同じペースで同じようにやっていく、言われたことを言われたとおりに勉強するような学びじゃなくて、「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」へと転換していこうということです。
今日の本題からはずれるので詳細はお話ししませんけれども、子どもたちが本当に自分たちにとっての大事な問いに向かって、「プロジェクト」を中心に探究していくということ。自分のペースで、しかも人と協同しながら学んでいけるということ。そういった学びのシステムに大きく変えなきゃいけない。
今、そのためにいろんな人と協力してやっているところです。あと15年、20年かかるかもしれませんが、転換していけるはずだと信じています。
学びだけじゃない。公教育の在り方自体を転換していかなきゃいけない。それもいくつもアイデアありますが、メインのアイデアを2つだけ言うと、まず「自分たちの学校は自分たちで作れる」。そんな学校にしていかなきゃいけない。これも本当は当たり前の話ですね。
だって民主主義社会、市民社会の土台が学校なんだから。市民社会ってどんな社会かといったら、誰か権力者が作るような社会じゃないんですよね。誰か為政者が自分のほしいままに社会を作るんじゃなくて、自分たちの社会は自分たちが作る。これが市民社会の本質ですよね。
だったら、その市民社会の市民になる子どもたちが、自分たちの学校を自分たちで作るという経験ができなくてどうするんだということです。子どもたちが、そして大人も、先生も、保護者もみんなで学校を作っていく。
私たちはこの社会にしても学校にしても、上からあてがわれるものみたいに思っちゃっているところがないだろうか。そうじゃないんですよね。市民社会は自分たちで作る。学校は自分たちで作る。
それから、多様性がごちゃまぜのラーニングセンターというのも、いつも言っていることです。学校はやはり同質性が高すぎる。同じ年生まれの子どもたちだけからなっていたり、障害のある・なしで分けたり、年齢や世代で分けたりし過ぎているんですよね。
それでは豊かな市民社会の土台にはなり得ない。もっともっと、幼稚園児からお年寄りまでごちゃまぜになって学び合える学校にしていかなきゃいけない。今、そういったプロジェクトも少しずつ進んでいて、いろんな人たちが混じり合えるような学校の構想も、少しずつ起こっているところです。
この話をしていると時間がなくなってしまうので、ひとまず「なんで勉強をするの?」という問いの答えに関して。さっきも言ったように、それは「自由」になるためです。じゃあ自分を「自由」にしてくれる勉強っていったいどんなものなのかということを、私たちは考えたいですよね。
自分を自由にしてくれる「学校」って、どんなものなんだろう? 若いみなさんは、自分を自由にしてくれる「勉強」って、どんなものなんだろう? と考えていただきたいなと思います。
やはり人生のコントローラーを他人に操らせちゃいけないと思うんですよね。私のお気に入りのジャン=ジャック・ルソーの言葉でこんな言葉があるんですよね。「『あれしなさい。これしなさい』『あれするな。これするな』とばかり言われて育てられた子どもは、そのうち『息しなさい』と言わないと呼吸もしなくなるぞ」って。
本当にそう思いますよね。やはり自分の人生のコントローラーは自分で握ろうよ。そのために必要なことが読書なんですね(笑)。ということで、ここからはこの『未来のきみを変える読書術』の内容についてお話しします。できるだけ簡潔にお話ししたいと思います。
勉強するのは「自由」になるため。「自由」になるためには、やはり自分で勉強できるようにならなきゃいけない。そのためには自分の読書術を持っている必要がある。どうやってそんな読書術を自分のものにしていこうか、という話です。
その前に、一応この本は中高生向けなんですけど、大人の方にも読んでもらいたいなと思っていて。というのは、社会人の1日の平均勉強時間ってみなさんご存知ですか? どれくらいだと思いますか? 総務省の調査によると、なんと6分だそうですよ(笑)。
これも、何時間か勉強している人がごくごく数パーセントいて、その人たちのおかげで平均が伸びているのであって、大多数の社会人は1日0分なんですって。
もっとも、何をもって「勉強」と考えているかは人それぞれなので、この数字だけで一概に言えることでもないとは思いますが。でも何にしても、一番の理由は忙し過ぎるんだと思いますよ。日本人は仕事が忙しすぎる。やはり週休3日制とかにしていかなきゃいけないなと思います。
あと、もしかしたら学校の勉強とか受験勉強とかをやらされ過ぎて、勉強が嫌になっちゃったのもあるかもしれませんね。社会人になって、「よし、もうこれで勉強しなくていいんだ」みたいになっちゃっていたとしたら、まずいですよね。
さっきも言ったように、勉強ってめちゃくちゃ楽しいものなんだから、その楽しさを私たちはもっと味わえるような教育にしていかなきゃいけないなと思います。
この本の内容を少しだけお話ししていきたいと思います。いつも言っていること何ですが、「読書は私たちをGoogleマップにする」んです。特に若い時は、私たちって摩天楼群の中で道に迷っているんです。どこにどうやって行けば目指しているものを手に入れらるのか、なりたい自分になれるのかって、わからないものですよね。
もう道に迷っているんですよね。そんな時に騙されたと思って、たくさんの本を読んでみてほしいとよく言っています。特に大学生にはいつも言っています。そうすると、ある時に突然見える景色が変わってくるんです。
自分がGoogleマップになって、摩天楼群を上から見下ろして、どこにどんな建物があって、どんな道があって、どこをどう通っていけばたどり着けるかが全部見えてくる。そういう経験をする時がやってくるんですね。
じゃあどうやったらGoogleマップになれるのかについて、このあとお話ししたいんですけれども。大学生の中で毎年何人か、「先生、僕、最近ちょっとGoogleマップみたいになってきました」と言ってくれる学生がいます。本当にうれしいなと思うんです。大学ってそのためにあるよなと思うんですよね。
私たちが自分の中にGoogleマップを持つこと、それが教養を積むということなんですよね。教養って日本語でいうと、「別に役に立たないけど、知っていると格好いい知識」みたいなイメージがあるかもしれないんですけど(笑)、まるで違います。
本来の教養というのは、自分が自由になるための力であり、この社会をより自由にするための力なんですね。教養を蓄えるのはすごく大事なことです。
レントゲン写真の例もよく話すんですけど、私たちが見るレントゲン写真と、お医者さんが見るレントゲン写真ってぜんぜん違いますよね。それと同じで、本を読んで教養がたくさんたまってくると、世界の見え方がまるで変わります。見えるものが変わってくるんですね。それが読書をすることの大きな意義なんですよね。
あと「クモの巣電流流しができるようになる」と言っているんですけど、読書をしていくと、教養のネットワークがどんどん編まれていくんですね。そうすると、クモの巣状のネットワークができて、ある時になにか問題を解きたいなと思った時に、ピッと電流ボタンを押すと、ピピピピっとそのネットワークに電流が走って、答えまで導いていってくれるんです。そういうことが起こるんですね。
たくさん本を読んでいる人は、たぶん多かれ少なかれこういう経験をしたことがあると思います。こういった熟達者研究は、認知科学や学習科学の分野でもたくさん研究がありますけど、よく知られているのが「知識のチャンク化」という現象です。知識がチャンク化、かたまりになるんです。
熟達者って、知識がかたまりになって頭の中にあるので、必要に応じてすぐアクセスできるという現象が起こるんですね。天才的な将棋の棋士は瞬時に指すべき手が見えると言いますよね。あれも、それまでの膨大な学習経験がチャンク化していて、自分でいい手がスッと閃くんです。読書もまったく同じような効果があるんですよね。
あとは構造的な思考が身につくという効果も大事ですね。構造的な読み方は単なる形式論理じゃないんです。論理的思考とよく言いますけど、A=BでB=CならA=Cであるみたいな、そんな形式的な理屈の話じゃなくて。何をどのような順番で、どう考えていけばこの問題が解けるかなとか、これをどう伝えれば人に伝わるかなとか、そういう構造的な考え方なんですね。
この構造的な思考がなぜ読書で身につくかというと、本はある程度の長さを持っているからです。これがネットの記事との違いです。断片的な知識を瞬時に獲得したい場合は、ネット記事は便利で、それはそれでいいんですけど、それではなかなか構造的な思考とか教養のネットワークは身につかないんですね。
なぜかというと、断片的な知識はただ断片的にインストールしているだけだから。本は必ず構造を持っていて、その構造全体を捉えないとだめなんですね。構造を捉える訓練をしていくと、物事を構造的に考えたり、構造的に伝えたりすることができるようになるわけです。
哲学書を例にすると、私はいつもこう言っています。哲学書は常に3つを意識しながら読む必要がある、と。「この本の問いは何か?」「この問いをどのような方法で答えようとしているのか」そして「それによって導き出された答えは何か」。この3つを決して手放さないことが大事です。
問いと方法と答え。哲学書には必ずこの3つがあるんですけど、この3つをいつでも意識しておかないと、簡単に迷子になります。特に哲学のように難しい本というのは簡単に迷子になって、トンチンカンな読み方をしちゃいますね。
そして自分勝手な読み方をすぐにしちゃいます。どこかある一部分だけ切り取って、「ここ、いいこと言っているからここをメモっておこう」みたいにメモったんだけど、実はまるでトンチンカンな理解をしていることがしょっちゅう起こります。
哲学書って、自分の好き勝手に読めちゃうところがあるので要注意なんですけど、この3つをちゃんと押さえていれば読めるようになるというか、誤読しなくなります。本を読むと、構造的に読めるようになる訓練ができるんです。それって私たちの知性を鍛える意味ですごく大事ですね。そういう意味で、ネット記事にはない本のすごみというか、良さがあるなと思います。
あと「言葉をためる」のがすごく大事です。言葉をためることで、多様で異質な人たちの間に共通了解を見出し合うことができるようになると言っています。
子どもたちって、よく口の前に手が出ることがありますでしょ。手が出るのは、言いたいことがうまく言えない時にムシャクシャして、手が出ちゃうことがあるわけです。ちゃんと言いたいことが的確な言葉で言えるようになると、手はなかなか出なくなっていきます。
つまり、自分の中に「こういう時にこういう言葉を使えばいいんだ」という言葉がたまっていくと、いろんな人たちとの間に了解関係を作れるようになるんですよね。
私はよく大学1年生に、「高校時代までは『ヤバい』とか『エモい』とか言っておけば会話は通じるかもしれないけど、大学以降はもう通用しないよ」と言っています。なにがどうヤバいのか、なにがどうエモいのかを、しっかりと言葉で言えるようになることが大事なんです。
なぜならば、私たちはこれから多様な文化背景や世代の人たちとコミュニケーションしていかなきゃいけない。その中で、身内だけでしか通じない言葉遣いをしていたら、やはりちゃんとした相互理解ってできないんですよね。その意味で言葉を磨くことがすごく大事です。もちろん、そういったことが読書の中でできるようになりますよね。
読書がいいのは、やはり文脈の中で言葉を見つけ出せることですね。こういう文脈でこういう言葉を使うと、こんな効果があるんだということを、自ずと学んでいけるんですね。そういう意味で読書の意味があると思います。
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