2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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苫野一徳氏:少しだけ、哲学者ってどういうふうに勉強するのかというお話もしたいなと思うんですけど。
私は、竹田青嗣は21世紀の最高の哲学者の1人だと思っているんですけど、まだ世界に出ていない。早く英語の翻訳書が出て、世界の哲学者たちに読まれたら、「あぁもうこの人は今、哲学の一番先頭を、他の哲学者たちを周回遅れにするぐらいで走ってる人だ」って、きっと理解されるんじゃないかなと思います。
あと30年くらいしたら、この人の真価が世間にも理解されるんじゃないかなと思っているんですけど、なかなか国内外では理解されていないように思っています。私は彼のもとで長い間修行をしました。
ある時、彼に会いに行ったんですよね。本当は、別に竹田の弟子になろうなんてこれっぽっちも思ってなくて、なんなら論駁してやるくらいの気持ちだったんです。でもリスペクトと愛に溢れていて、「この人としゃべりたい」って思いがあって会いに行ったんです。
当時私自身は哲学者になろうという気持ちなんてなくて、なにか教育を変えるための仕事とか、あとはこの新しい本にも書いたんですけど、お恥ずかしながら小説家を目指したりもしていたんです。哲学者になろうなんて考えてなかったんですけど、気づいたら勝手に弟子にされてですね、「お前は弟子だから修行しろ」とか言われたんです(笑)。
でも修行をやっていったらすごく楽しくなって。この後、特に若いみなさんにお伝えしたいなと思うんですけど、本当は勉強って楽しいに決まってるんですよ。もうめちゃくちゃ楽しいに決まってるんです。
だって知らなかったことを知ることができる。できなかったことができるようになる。自分がどんどん成長していくのを感じることができる。楽しくないはずがないんですよね。それを通して、新しい仲間もできる。見えなかった世界が見えるようになる。楽しいに決まってるんです。
それを楽しくなくしちゃっているのは、いったいなんなんだろう。それをやっぱり考えなきゃいけないですよね。私は哲学を読んでいく中で、「勉強ってむちゃくちゃ楽しいぞ」「しかも自分の問題を解けるぞ」ということに気づいていくんですね。
竹田の修行はめちゃくちゃ厳しくて、週に1~3冊、プラトンなどから現代まで、主要な哲学書を全部読むんです。哲学書ってけっこう難しいので、読むのにめちゃくちゃ時間かかるんですよ。それを隅から隅まで丁寧に読んで、1冊につき3万~5万字ぐらいのレジュメを書いて、それを持って竹田青嗣と議論をする。これをまず最初の2~3年やったんですよね。
そうすると、哲学の英知がどんどんわかるようになる。実は哲学は、思考のリレーなんですね。「どうすれば戦争をなくせるか」とか、「どうすれば幸せに生きられるか」とか、そういったその時代その時代の一番難しい問題を、その当時最高の知性たちが解き明かす。そしてその次の時代の哲学者が、それを基にして考えをもっと鍛え上げていくという、リレーなんですよ。
だから哲学をちゃんと2,500年前から読んでいくと、あぁ人類はこうやって問題を解いてきたんだなというのが、どんどんわかってくるわけです。
逆にいうと、この思想のリレーを知らずして現代の問題を解くことはできないんですね。このことがどんどんわかってくると、「そうか、自分が考えていた問題って実はもうここまで解かれていたんだ」とかもわかってくるわけです。その思想のリレーの先で、今の私たちはものを考えなきゃいけない。
時代によって新しい問題がたくさん出てくるわけですね。今だったら資本主義の限界の問題とか、格差の問題とか。こういう問題は過去にもあったけれども、それが最も先鋭化しているような時に、過去の考え方をちゃんとインストールした上で、どうやってこの問題を考えていくかを導き出すんです。
それから時代の最難問を解くためには、哲学だけ読んでてもだめなんですよね。いろんな学問をできるだけ読んで、その上で哲学者であるならば「こう考えれば、この問題は解けますよ」という、ちゃんとした理論を作らなきゃいけない。
そして哲学というのは、象牙の塔に閉じこもってただお勉強をして、「こんなことがわかったぞ」みたいに悦に入っているだけではだめなんですね。それがちゃんと使えるのか。本当に人々や社会にとって役に立つのかを、丸裸になって投げかけなきゃいけない。もう丸裸になって、いくらでも叩いてくださいと(笑)。
いくらでも吟味してください。間違っていたらもういっぺんやり直しますと投げかけることが必要です。やっぱり人や社会の役に立つような理論を作らないと、哲学者としてはだめなんじゃないかなと思っています。
さて、本題に入っていきたいと思います。まず『勉強するのは何のため?』の本にも書いたんですけれど、勉強するのはなんのためと考える前に、「2つの思考のワナ」というものに気をつけましょうという話をしたいと思います。
よくご存知の方もいらっしゃると思うんですけれど、1つめが「一般化のワナ」に気をつけよう。2つめが「問いかけのマジック」に引っかからないようにしようということです。
まず「一般化のワナ」というのは、自分の経験を、他の人みんなにも当てはまることであるかのように、過度に一般化してしまうこと。これは本当にありがちです。
学校なんて結局○○だとか、男ってこうだ、女ってこうだとか、日本人はこうだとか。自分が今まで出会ってきた、見聞きした、いろんなことを、まるですべてに当てはまることであるかのように思い込んじゃうんですね。
例えば先生も、ベテランになればなるほど一般化のワナに陥りやすいこともありますね。子どもってこんなもんだとか、授業ってこうあるもんだとか、学校ってこんなもんだとか思い込んじゃう。
よくないのが、それを若手に押し付けちゃうこととかですね。よくありますよね。企業の社長さんとかも、そういうことがあるかもしれません。社員ってこうあるべきだとか、会社はこうあるべきだとか。そうやってどんどん思考が凝り固まっちゃうんですね。
私たちは経験からものを考えるので、そのこと自体は別に問題ないんです。ただ問題は、過度の一般化に陥ってないかということを、ちゃんと吟味しながら考えなきゃいけないという点です。「本当にそうかな?」「これってもしかしたら一般化のワナに陥ってないかな?」と、いつも自分を振り返ることを考えておくのが大事です。
だから「勉強するのはなんのため?」という問いに対峙しても、人それぞれいろんな考え方があるんですけど、例えば「別に学校の勉強なんか役に立たなかったよ。自分は自分の力で社会的に成功したんだ」みたいな人は、ついついそれを一般化しちゃうわけですね。
学校の勉強なんか意味がない、役に立たないと一般化してしまうことがある。そこで「本当にそうなのかな」と吟味することがとても大事ですね。
もう1つ気をつけなきゃいけないのは「問い方のマジック」に引っかからないこと。教育に関しては、たくさんの「問い方のマジック」がありますけど、行き着く先は必ず「教育は社会のためのものか、子どものためのものか」。だいたい最後はここに行き着きますね。
子どもはできるだけ自由闊達に育てるのがよいか、いやいや、まずは躾をするのがよいかみたいな、こういう問い方のマジック。これも行き着く先は、「社会に順応できる子どもを育てる必要があるのか、子どものために教育があるのか」というところに行き着くんです。だいたいなんでもここに行き着きます。
子どもの興味・関心を活かした学びをやるべきなのか。いやいや、この社会には興味関心に関係なく勉強させなきゃいけないものがあるから、まずはそこが大事なのか。こういったものも、問い方のマジックですね。
あるいは性善説・性悪説もそうです。人間はもともと善なのか、もともと悪なのか。どっちが正しいのか。人はこうやって「どっちが正しいか」って聞かれると、「どっちかが正しいんじゃないかな」って思い込んでしまう、思考のマジックに引っかかるんですね。
しかもこれで「手を挙げてください」というような多数決みたいなことをやると、マジックは完成するんですよ。「性善説が正しいと思う人」「性悪説が正しいと思う人」のようにやると、「あれ、どっちかに手を挙げなきゃいけないなら、どっちかが正しいんじゃないか」って私たちは思っちゃうんですけど、これはマジックなんですね。
どっちかが絶対に正しいなんてことは、この世においてほとんどありません。私たちにとって大事なのは、どっちの考えも納得するもっといい考えを考えることなんですね。教育は社会のためのものか、子どものためのものかではなくて、どっちのためでもあるに決まっているんですよ。
だったら、教育はどういう意味で社会のためのものであり、どういう意味で子どものためのものであるかと問うのが、よりよい考え方ですね。性善説か性悪説かも一緒です。人間はそもそも善なのか悪なのかなんて考えたって仕方ないんです。
もっといい考え方は、どのような条件を整えれば、人は善になり、どのような条件が整うと悪になってしまうのかと考えること。あっちかこっちかじゃなくて、「あっちもこっちも納得するもっといい考え方ってどうやったら考えることができるかな」。これがなにを考えるにも大事な、哲学的な思考の初歩の初歩なんですね。
なので、勉強するのはなんのためというのを考える時も、「学校の勉強に意味はあるのかないのか」みたいな対立構造の問いを立てるんじゃなくて、「どういう学校の勉強をしていけば本当に意味のある勉強になるのか」というように問わないといけないですね。
本当はここから何ステップか話をしたいんですけど、ちょっと時間の都合もあるので、一気に結論をお話ししたいと思います。
この本を読んでくださってる方はもうご存知だと思うんですが、なんで勉強するのという問いの答えは、私はこれが最も原理的だろうと思っています。「自由になる」ということです。自由は、わがまま放題という意味じゃありません。「生きたいように生きられる」ということです。
生きたいように生きる時に、わがまま放題だったら、他の人から「そんなお前のわがまま放題は認めない」と言われて、私たちの自由を逆に奪われるかもしれませんよね。だから私たちが生きたいように生きる、つまり自由に生きるためには、相手の自由もまた認めなければいけない。
この後にお話ししますけれども、自由はわがまま放題のことじゃなくて、「他者の自由も認めながら生きたいように生きられること」。これが自由です。生きたいように生きたいって、誰もが思ってますよね。自由に生きたいってみんなが思っている。思っていない人はおそらくいないはずなんですよ。これは一般化のワナに陥っていないと思います。相当検証して、確かにそうだって言えると思うんです。
みなさんも自分に確かめてみてください。本当に自分は自由に生きたいと思っているのかな。つまり生きたいように生きたいと思っているのかな。生きたいように生きたくない人ってたぶんいないんですよね。じゃあやっぱりみんな生きたいように生きたいんですよ。
ところが、生きたいように生きるというのはそう簡単なことじゃありません。生きたいように生きるためには、なにがしかの力がいるんですね。読み書き算の力がなかったら、もしかしたら誰かの奴隷にされてしまうかもしれない。あるいは人のことを思いやるとか、人のことを尊重するという、これを力と呼んでいいかわかりませんが、そういった感受性、価値観がないと、自分の自由も奪われてしまうかもしれませんよね。
私たちは、自由になるために学ぶのです。本当にそうかなぁと、みなさんにぜひ確かめてもらいたいと思います。哲学は誰か偉い人の考え方をありがたくお教えいただくものではなくて、哲学者やいろんな人がテーブルの上に置いた考え方が、本当にそうかなってみんなが確かめ合って、もっといい考え方があるんじゃないかと、考え方をもっともっと鍛えていく。これが哲学の営みなんですね。
なので、私もとりあえずここに答えを置きましたけど、本当にそうかなとみんなで考えていくことはとても大事なので、みなさんにも吟味していただきたいと思います。
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