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若宮 正子氏 トークテーマ「既成概念にとらわれずに、クリエイティブに考える」(全2記事)

86歳の現役プログラマー・若宮正子氏が説く 我が子に教えるべき、人生100年時代を生き抜く「学び」の力

“日本のGEEK”にスポットライトを当てる大型イベント「TOKYO GEEK DAY」が開催。初開催となる今回のテーマは「Mission Finds True Buddy —自分らしい生き方を見つけよう」と題して、世界最高齢プログラマーの若宮正子氏が登壇。「既成概念にとらわれずに、クリエイティブに考える」をテーマに講演を行いました。本記事では、若宮氏がゲームアプリ開発に至った経緯を説明し、人生100年時代で学び続けることの大切さを語りました。

アプリ開発のきっかけとなった、お年寄りからの一言

若宮正子氏:それから、私がにわかに有名人になっちゃったそもそもの理由は、「hinadan」というアプリを作ったことなんですね。

なんでこんなものを作ったかというと、2016年ぐらいの時かしら。ぼつぼつお年寄りもガラケーからスマートフォンに乗り換える人が出てきたわけです。まあ、お店の人にうまく誘導されてやった方もいるんですけど(笑)。

そんな時に、年寄りから(スマホの)評判が悪い。スマートフォンっていうのはツルツルしてて、年寄りには扱いにくいということ。それからもう1つは、「年寄りが喜びそうなアプリなんかちっともない」って言われたんですね。

箱物をどうかするっていうのは私に言われても困りますが、「アプリなら、なければ作ってもらえばいいんだ」と思って。周りの若い開発者の方に、「ねえ。誰かさ、年寄りが喜びそうなアプリ作ってよ」と言ったら、「僕らは年寄りがどんなものが好きかなんかわかりませんよ。若宮さんは自分が年寄りなんだから、自分が作ればいいじゃないですか」って言うのです。

そう言われたって簡単にできるもんじゃありませんが、でも、言われた以上はということで。ただ、「僕らが教えますよ」とおっしゃってくださったんですが、教えてくださった方も宮城県の方で、遠隔授業で教えていただいて。というか、もっと言うと聞いて聞いて聞きまくって。

日本の新聞で取り上げられたことを機に、海外でも評判を呼んだ

プログラミングだけじゃないんですね。まず、Apple社に登録の手続きをしたり、あれもけっこうややこしかったり。それから審査を出す時にアップする時の手順とか、いろいろなこと。その先生はご自分がiPhoneアプリを作ってアップしてらっしゃる方なので、そのへんのコツも教えていただいて。

「できたらあんまり考えずに、とにかく1回審査に出しなさい。そうすると、もちろん却下されるけど、その時に『ここがいけない』『あそこがいけない』って言われるから、それを見て直すほうが時間の節約ですよ」とか、そんなところまで教えていただいたんですけども。

これがたまたま、その先生のお友だちがおっしゃってくださって日本の新聞に出たんです。そしたらCNNから取材があって、それが英語でメールがきたのね。英語なんかできないけど、もともとこういう図々しい性格ですから、バーッとコピーしてGoogle翻訳にベタッと貼り付けて。日本語で返事を書いて、また(Google翻訳に)ベタッと貼り付けて。

あと、追加の質問が3つぐらいきて。「これを20分以内に送ってくれれば今日リリースする」ってCNNがおっしゃってくださって。それでCNNを見たら、ものすごい色つきのページで出ていてびっくりしちゃって。それを見た外国の通信社がまたどんどん拡散してくださって、すっかり海外で評判になっちゃったんですね。

AppleのCEO・ティム・クック氏からの熱烈なオファー

そしたら、日本でも少し有名になっちゃったんです。ある時、ひと月ぐらい経ってから、Apple社から日本語でメールがきたんですよ。「ご一緒にアメリカに行きましょう」「なんで私がアメリカ行かなきゃいけないのよ」みたいな。

最初は断っちゃったんですが、「どうしてもご一緒に行きましょう。あなたに会ってお話しをしたいという人がいるんです」「私、Appleに親戚も友だちもいないわぁ」なんて思って。誰が会いたいのかって言ったら、「CEO(ティム・クック氏)でございます」と。「あなた、CEOって会社で一番偉い人ですか?」「左様でございます」って。

そこまで言われちゃ行かないわけにはいかないし、向こうは向こうで私が80いくつっていう年寄りだから、1人でアメリカに行くので心細くて渋ってるんだと思ったらしいんですね。ビジネスクラスの切符をもらったり、いろんなことがあったりして、私もお邪魔して。

WWDCという、(Appleの)世界開発者会議がある前の日だったんですが、CEOにいろいろお話を聞いていただいて。CEOは「年寄りのためのアプリっていうのはどういうところに気を使ったんですか?」「年寄りは指はあれ(上手く動かない)なので、スライドは苦手なんです。だから、全部タップしか使ってません」とか。

それから私は耳が遠いんですが、年寄りは耳が遠いか目が悪いかのどっちか、両方っていう人もいますけど。なので、「必ず『ポン』っていう効果音を出すと同時に、『正解です』『間違いです』とテキストで表示させるようにしてます」って申し上げたら、「このテキスト表示が小さすぎますね。これじゃ目の悪い人は読めないから、もっと大きくしたらどうですか?」と。

プログラム教室の先生みたいなお話のやりとりがあったというわけです。最後にハグしてくださって、「あなたは私をスティミュレートしてくれた」と言ってくださいました。

日本古来の文化を活かしたゲームを開発

去年、「nanakusa」というゲームアプリを作ったんですが、これは若い人たちに七草粥に入れる七草を知っていただこう、ということで作りました。これはどっちかというと、BGMから先に作ったんですね。譜面起こしをして、日本の古来のわらべうたみたいなのを編曲して使ったりしてやってます。

だけどみなさん、電車の中で(ゲームを)やるからミュートなので、せっかく作った音を聞いてくれた人がほとんどいないというのは、想定してなかったです。

これもある意味で、「従来のゲームアプリの固定観念を破ったんだ」と、みなさんおっしゃるんですね。まず動きはそんなにないし、時計も入れてませんし、スピード感はない。年寄りは急かされるのが嫌いですから、マイペースでゆっくりやってもらったらよいと思って。

そして、ひな壇という日本的なテーマを選んで、画像や効果音に和楽器を使ったりして。ナレーションも日本語だけじゃなくて、英語バージョンにも気を使って。最初、アメリカ人のネイティブな人にやってもらったら「ウェルカム!」とかって、ぜんぜんおひなさまっぽくないので。

英語版を作った時、服部真湖さんという女優さんはご主人がアメリカの方で、アメリカにお住まいになっていたんですね。そういう方に「うぇるかむ」と上品に言っていただて、おひなさまっぽいとか。そういうことも使って、優雅に作りました。そんなことでシリコンバレーに呼ばれたと、そういうことになっちゃったんですね。

AIと共存するこれからの時代、人間にとって大事なこととは?

これは、私にしてみたらとんでもないことです。老人が草野球に行って、よったよったとバッターボックスに(立って)ね。で、バットを出したら球が間違ってバットに当たっちゃったんですよ。そしたら、ものすごい追い風が吹いてヒットになって、「あれ?」って思ったらホームランになって。場外に行ったと思ったら、アメリカまで飛んでいっちゃったという、本人が想像もつかないような。

これ(スライドの写真)、WWDCの時にも、最年少の10歳のオーストラリアの坊やと私を紹介してくださったときの写真です。

それからもう1つ、「創造的に生きましょう」ということです。やっぱり、これからはどんどん毎日の業務をロボットさんがやってくれるようになっちゃって。人間が「Wordができます」「Excelができます」だとかは、あまり関係なくなっちゃって。

ロボットさんはそんなのぜんぶできて、一気通貫で、メールが来るとぜんぶそれを処理して、調べてExcelに貼り付けて、ネットで調べて会社の情報なども貼ったりとか、ぜんぶ1人でやってくれる人ですから。それも人間の20倍のスピードでやってくれる。

そういう人(AI)がいたら、私たち人間はより知的集約度の高い仕事をやらないと、もうこれからは生きていけないと思うんですね。だから、生涯勉強してなければいけない。これからは常に新しい時代に向けて勉強していかなければいけないんじゃないかと思うのね。

子どもにとって大切なのは「成績が良いかどうか」ではない

そのためにはやっぱり、生涯学習が大事なんですね。だからこれからは、もうすぐお父さんやお母さんになる方にぜひお願いしたいのは、「勉強っておもしろいんだ」「勉強ってすばらしいことだ」ということを、子どもに教えていただくことが一番大事です。

「志望校に入れるか」「今の成績は」とか、そんなの関係ないんです。どうせ死ぬまで、人生100年間勉強しなきゃいけないんですから。

「勉強って嫌い」なんて言ってね、フォアグラにされるガチョウが無理やりエサを詰め込まれたみたいな、ああいうことをしたら一生不幸になります。今の成績はどうでもいいから、「勉強が好き」っていう子どもさんにしてあげていただきたいと思います。

それからもう1つ。最後なんですが、アメリカの(バラク・)オバマさんはプログラミングが好きで一生懸命やっておられた方ですが、あの方が大統領だった時に、「プログラミングだけやってもダメだ」とおっしゃってね。

「やっぱりコンピューターサイエンスをやらなければいけない」ということで、アメリカではコンピューターサイエンス教育というのが普及してます。

全体を俯瞰し、プログラムの働きを知ること

早く言えば、コンピューターってプログラミングが大事だけれども、プログラミングだけではない。例えば、ママと一緒にATM行ったことがあるでしょ? ATMって、カードを持っていくとお札が出てくるけど、どうしてカードをいれるとお札が出てくるのか?

まず、カードや暗証番号とか、いくらお金を下ろしてほしいとか、情報を送るでしょ。そこでプログラムするわけね。その次に出番があるのが、ネットワークですよね。ATMはそういうことを判断する部署を持っていない。

ATMはお金を出したり引っ込めたりするだけで、私の口座がどうなってるかとか、そういうのを知ってるのは銀行の本部だから、ネットで送るでしょ。そこもプログラミングがやるんです。だけど、その結果またネットで返して、今度はATMがそれを処理するというよ、そんなものなのよということ。

だから全体の流れの中で、今、自分が作ってるプログラムがどこでどういう働きをするかを知らなければいけない。

自分で得た知識が、大切な人を守ることにもつながる

おじいちゃんおばあちゃんがエアコンを買うんだったら、「エアコン点けて」って言うとつけてくれる、音声応答付きのにしなさい。だけど、そうすると頭の良い息子が出てきて、「ばあちゃん。そんなことしなくたってスマートホームシステムでぜんぶやれば、電気もつけられるし、ちょっと待ちなさい」と。

そんなお金も暇もないし、おばあちゃんに理解してもらうのは大変なので、まずはそれだけやりなさい。どうしてだっていうと、テレビが音声オートで点かなくても、熱中症で死んだり凍死したりすることはない。だから(エアコンは)音声で点けられることが大事なのよ、と。

テレビの場合はリモコン見つからなかったら指で押せばいいけど、エアコンにもしもボタンがあったとしても、おばあちゃんが脚立持ってきて、両手であれをいじくるっていうのは危険でしょ。要するに、何のためにどういう設計をするかということもやんなきゃだめよ、ということです。

「フォルダー型人間」ではなく「ハッシュタグ型人間」を目指す

最後に、いろいろな人の輪を広げていくこと。みんなお友だちになって、おじいちゃんおばあちゃんの情報や海外の情報も、いろんな情報を入手するため。

みなさん、プログラミングを勉強している人の中には、いわゆる「フォルダー型人間」っていうんですが。大きな会社なんかに勤めてると、大企業っていうフォルダーの中の、横浜支店っていうサブフォルダー、さらにその中の開発二課っていうフォルダーの中とか。

そうじゃなくて、これからそういうことを広く学んで体得していくためには、「ハッシュタグ型人間」になってちょうだい。ハッシュタグ型人間は、「アラビア語の看板ぐらいわかるんだ」とか、「ピザ作りは得意だ」とか、自分のできることをどんどん発信していく。そんな人になりなさいよ。

そして、たくさんの人にものを教わって勉強してね。そして「もう時代に追いついていけない」、そんなことを言わないで、時代を先取りしちゃいましょうよ。未来を先取りする人間になりましょうという、そんなお話をしてます。いろいろお聞きいただいて、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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