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第17回 北の教育文化フェスティバル20周年記念 ~未来の学校を、「今ここ」から考える~(全6記事)

今の子どもを苦しめているのは、昔の常識を教える大人 植松努氏が実感した、日本教育の世界とのズレ

全国の教員が集い学ぶ「北の教育文化フェスティバル」。20周年記念大会となる今年は、株式会社植松電機代表取締役 植松努氏と、横浜創英中学・高等学校校長・工藤勇一氏をゲストに迎え、北の教育文化フェスティバル代表 山田洋一氏と時事通信社 坂本建一郎氏とともに「これからの学校の在り方」について議論が交わされました。本記事では、植松氏が社員や子どもたちと関わり合う中で感じた、日本の教育の問題点を語りました。

学校は何をすべきなのか、どう組織を変えていくのか

坂本建一郎氏(以下、坂本):みなさま今日はよろしくお願いいたします。申し込みは200人以上、本日もすでに100人以上の方が参加していると聞いています。私は時事通信の出版部門で出版事業部長をしている坂本と申します。

これまで、何度か「北フェス(北の教育文化フェスティバル)」の先生方に呼んでいただきいろいろとお手伝いをした関係で、今日もファシリテーターとしてお声がけくださったのだと思います。聞いてくださっているみなさんと、植松社長・工藤校長とのつなぎ役になれるようにしたいと思っています。

まず最初に、北フェスの先生方への感謝から始めたいと思います。私もずっと準備段階から見ていたんですが、みなさん、手弁当で一生懸命準備されていました。今も支えてくださっている先生方のおかげで、こういった場が持てたことを本当に感謝しています。今日はよろしくお願いします。

それから本日の参加費は、実費を除いて公的機関への寄付が予定されていると聞いています。みなさんの貴重な時間とお金を使って行われる機会ですので、なるべくみなさんにとって満足度の高い時間になるよう、私も配慮したいと思っています。

さて、全体の時間構成を先に確認しておきたいんですが、対話を50分・50分で行います。まず最初の第1セッションのテーマは「学校は何ができるのか」。もうちょっと強く言うと「学校は何をすべきなのか」というところを、植松社長・工藤校長から現状分析とか、なぜそう考えるのかといったところも含めお話をいただくセッションです。

休憩のあとの第2セッションは、学校は何をしなければいけないのかがわかった上で、ではどうやって変えていくべきなのか、マネジメントとはどういうことなのか。これは社長である植松さん、それから工藤校長も戦略的なマネジメントを実際に行っていると私は思っているんですが、こういった「どう組織を変えていくのか」をお話しいただければと思っています。

理系の大学生を採らない植松電機

坂本:では、まず最初の第1セッションから始めたいと思います。まず植松社長から。みなさん植松社長のことはよくご存じだと思うんですが、自己紹介も兼ねて、「学校は今、何をすべきなのか」を、10分から15分程度でコンパクトにお話しいただければと思います。よろしくお願いします。

植松努氏(以下、植松):みなさん、こんにちは。今日はこんな集まりに呼んでいただけて、すごくうれしいです。僕もすごく教育に興味や関心があって、今いろいろなことをやっているんですけれども、実際の先生たちの意見を聞くチャンスはありますが、多いほうがいいと思っていますので、今日はとても楽しみです。

僕は植松努といいます。今は北海道の赤平という町で会社を経営しています。僕の会社は、僕が34歳の時に作った会社です。生まれて初めての会社経営は、本当に大変でした。どうやって会社を経営していいかもわからなかったし、お金のこともよくわかっていなかったし、わからないことだらけで、手探りでやってきました。

その中で一番苦労しているのは、「人」かと思っています。僕の会社では2つチームがありまして、1つは赤平の植松電機で、27人働いています。もう1個は、札幌に就労継続支援A型作業所がありまして、そこも経営しています。確か30人くらいいたんじゃないかと思います。

今日は植松電機の話に絞ったほうがいいかと思っているんですけれども、うちの会社にいろんな人が入社しています。最近多いのは、高校を卒業してすぐ来る子です。その原因としては、僕が理系の大学生を採らないからです。文系の子たちのほうが、はるかに伸びていくんです。

学歴が上がるほど、判断力が低下している実態

植松:僕の会社には、子どもたちが年間1万人くらい修学旅行で来るんですけれども、子ども一人ひとりに小さいロケットを作ってもらっているんです。

これは小さいけれども、実際に宇宙でも使うことができる本物の実験装置で、本物の火薬を使って飛ばします。子どもたちがスイッチを押すと電気信号が流れて、0.3秒で時速200キロメートルを突破するんです。だいたい45分くらいで作れるように設計してあります。

一番早く作るのは、小学生なんです。小学生は猛烈な勢いで作っていきます。学歴が上がっていくほど遅くなっていきます。大学生とかはわりと作る途中で止まってしまいます。すごく不思議な現象です。学歴を積んできて、勉強してきて能力が高くなった人ほど、判断力が低下しているということです。

これはすごくまずい気がしていて、実際にそういうことがあるんです。うちに「働きたい」と来てくれる大学生のほとんどが、ものすごく素直で真面目なんだけれども、「自分で考えて動いていいよ」と言ったら、その途端に機能停止するんです。すごく高性能なパソコンみたいにCPU速度はものすごく速いんだけど、誰かが入力しない限り動かないという感じです。

そういった子たちがすごく増えていて、困っているのは僕だけかと思ったらそうではなく、うちの会社はいろんな企業が見学に来るんです。某愛知県のでっかい会社も、毎年来ます。「なんで来るの?」と聞いたら、「植松電機では、どうやって人材育成をしているんですか?」と聞きに来るんです。

企業は子どもの最後の受け皿になる「最終教育機関」

植松:確かにうちは、高卒で入った文系の女の子が、3年くらいしたらJAXAの実験をやっているんです。放ったらかしておいて、どんどんできるんです。「なぜそうなるの?」と聞いてきたので、答えは「放置かな」と思っているんですけれども。わりと自由にやってもらっているんですが、でも日本のさまざまな企業は、今「使える人がいない」と言って、ものすごい苦しんでいるんです。なんとなく、まずい気がしています。

僕は、企業はおそらく最終教育機関ではないかと思っています。人に一生添い遂げる存在みたいなものです。うちの会社も言ってみれば、若くして入った子たちがその後結婚をして、子どもを産んで、その後もずっと付き合っているんです。その間、彼らが成長していく姿を僕はずっと見てきているんです。

それでちょっと変わったデータがいっぱい蓄積されているんだろうと、僕自身は思っています。それを活かして、今はいくつかの学校でスーパーサイエンスハイスクールの運営指導も手伝わせていただいています。

僕を運営指導委員に呼んでくれている学校は、わりとおもしろい学校が多くて、理由としては「教育を受けた子どもたちの最終受け皿は企業なんだから、企業の人の意見も聞かなきゃいかん」と言って入れてくれているんです。

だから、よくスーパーサイエンスの運営指導者って大学の先生がなっていることが多いんですけれども、僕はちょっと違った視点で、いろんな要望を伝えているところです。

人が成長するための「制御された失敗」

植松:僕の会社は、本業はリサイクル用のマグネットを作る仕事をしています。今、おそらく日本でのシェアはトップです。競合相手がほとんどいない状態で、日本中の会社が僕の会社の製品を採用してくれています。それがお金を生み出してくれているものですから、僕らは時間を生み出すことができて、今は宇宙の仕事もしています。

宇宙開発をするようになったのは、大学のお手伝いからスタートしているんですけれども、僕らが関わるまでの大学の宇宙開発を見ていると、だいたいこんな感じです。人が卒業するたびに、ゼロに戻るんです。もう1回スタートから始まるんです。

僕らが関わってから、失敗の記録を残し始めたんです。それまでは大学生たちは、実験をやって失敗したら、まずビデオを消すんです。データも消すんです。「どうせ論文に書かないからいいんだ」と言うんです。

僕は「失敗の記録こそ大事だよ」と言って残していったんですが、その結果何が起きたかと言うと、伸びていっちゃうんです。伸びていっちゃったけど、大問題発生です。1年目に入ってくる学生の覚えなきゃいけないもののボリュームが、どんどん増えてくるんです。

ということは、科学にしても社会にしてもそうですけれども、年数が経つと、なんだか発展していくわけです。でも、縄文時代に生まれた子どもも、江戸時代に生まれた子どもも、明治の子どもも、平成の子も令和の子も、全部「オギャー」という瞬間は同じです。でも、社会が必要とする情報量は桁違いに増えているんです。

だったら教育の密度を変えていくしかないんだろうと、僕はすごく思っているんです。今、僕たちが大学生にやってもらっているのは、「制御された失敗」です。かなり自由裁量でやってもらって、僕たちはそれを見守ります。「これをやったらこうなるんだよね」と、僕らはわかるんです。その時に怪我などする人が出ないように、それとなく配慮をします。

ドカンといったら「いったね」という感じですけれども、「じゃあどうしようか」「どうすればいいだろうか」と考えてもらうようにしています。そうしたら、失敗を乗り越えた子たちは、猛烈な勢いで成長していくんです。その方法を使って、僕たちは大学生の子たちとか、いろんな子たちと関わるようにしています。もちろん、うちの会社の人も成長しています。

日本のグローバル教育と、グローバルの実態の格差

植松:でも、最近感じるんです。実験に来る大学生に、外国人がかなり増えてきたんです。それも英語が母国語じゃない人がすごく多いんです。デンマークとかインドとか、いろんな国から来ます。その子たちは、大学卒業後に雇われる気持ちがないんです。大学にいる間から、特許を取って、会社を興しちゃうんです。そこの経営者になっちゃうんです。そこで日本人の大学生が、バイトで使われている状態です。

グローバルってなんなのかと。日本人がやってきたグローバル教育と外国人がやっているグローバルはずいぶん違う感じがすると、僕は感じています。

僕が思うに、今は世の中がすごい変わっていて、明治維新の後からドンと増えた人口が、平成のあたりからボンと下がってきているんです。人が増えている頃の常識と人が減る時代の常識は、まるで違います。だって金利ゼロとか昔はあり得ないでしょう? 人が増えていることを前提にしたものは今じゃ全部不成立ですから。いろんなものが変わるんです。

今の時代を知っている子どもに、昔の常識と世渡り術を教える大人

植松:子どもたちがいっぱい僕に感想文とかをくれるんですけど、読んでいてすごく感じるのは、今の子たちは、学校の先生方も一生懸命教えているおかげか、今の時代のことをよくわかっているんです。すごくいろいろ勉強しています。ネットとかでもずいぶん調べています。

ところが、今の時代のことを知っている子たちに対して、昔の常識と世渡り術を教えている人があまりにも多すぎるということなんです。僕たち大人は、うっかりしておくと、昔の教育しか受けていないんです。

情報収集をちゃんとしていないとだめで、この先の世界なんか見たこともないという人がいっぱいいるんです。この人たちが子どもたちに昔のやり方を教えちゃうせいで、今、子どもたちがすごい苦しんでいる感じをすごく私は受けています。そのせいで大学進学するよりは植松電気で研究開発したいと、最近高校を卒業してすぐうちに来る人が増えているんじゃないかという気もしています。

私の子どものPTAとかもずいぶんやりましたし、うちには年間100校以上の学校が見学に来ますので、いろんなことを見ていて思うんですけれども、僕の目から見ていて少なからずの先生は、未だに昔の教育をやっています。もう気づいて、今の時代の教育をやっている先生もいます。

今の時代のことを知っている先生、子どもたちが社会に出ていく10年後の未来を見通している先生たちがもっと増えてくれないと、子どもたちは苦しくなるばかりだろうという気がしています。

今日はたくさんの子どもたちの教育に関わる先生が集まってくださっていると思いますけれども、子どもたちは10年後の未来を生きますので、ぜひ、その未来に適した「こういう能力を持っていると生き残れるんだよ」ということをしっかり考えて伝えていってほしいと、心から思っています。こんな感じでいいのかな?

坂本:誠にありがとうございました。大変心に響くというか、自分自身のことを考えても、「昭和の教育だよな、自分は」と、振り返りながらお話を伺っていました。チャット欄でも、「今日は、植松社長が学校教育中心に話してくれることを楽しみにしていました」と書いてくださっている方もいますので、また引き続きよろしくお願いします。

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