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先生も子どもたちも幸せになる、働き方のモデルチェンジ(全3記事)

学校の先生が、働き方“改革”アレルギーになってしまうワケ 専門家が語る、“現職の先生”が幸せになる「働き方」のアイデア

世界一忙しいと言われる、日本の教師。学校での働き方改革がなかなか進まない理由はどこにあるのでしょうか。本記事では、DMM [SHOWBOOTH]にて開催された「教育総合サミット2021Spring」より、「先生も子どもたちも幸せになる、働き方のモデルチェンジ」のセッションの模様をお届けします。学校の先生たちが「働き方改革アレルギー」になってしまっている理由とその解消法について、自治体や教育委員会など行政が取るべき支援のかたちなどが語られました。

学校の先生が、働き方“改革”アレルギーになってしまう理由

澤田真由美氏(以下、澤田):「働き方改革」という言葉だけが先行しちゃって、現場の先生方の中にはけっこうな割合で、働き方改革アレルギーの方がいらっしゃるなと。「その言葉聞きたくない」みたいな。「もっと好きなだけ働きたいのに」とか、「改革の目的もわかんないし」となっているのをよく見かけます。

でも、私からすると、働き方改革って学校づくりそのものなので、すごく楽しいし、時間をかけたらすごくリターンのあるものだと思うんです。もし私が現場にいる先生で、働き方改革を広げたいと思ったら、「働き方改革」という言葉を敢えて使わないかなとも思います。「どんな工夫をしていますか?」と聞くとか、「何かアイデアあったら教えてください」というふうに輪を広げていくだろうなと思います。

庄子寛之氏(以下、庄子):「改革」という言葉にアレルギーがあるんですよね。

妹尾昌俊氏(以下、妹尾):そうだろうね。

庄子:人間には「生きているからこのままでいい」という本能がどうしてもあると思うので、そんな中で、私もそうですけど、早く帰ってある程度うまくいっている人に、「いや、改革したほうがいいですよ」と言われても、ちょっとイラッとするところがあるなと思うので。

澤田:イラッとしますよね。

妹尾:学校の先生も教育行政の人たちも、がんばっている人たちなんです。がんばっている人たちだからこそ、「改革」とか「改善」と言われ過ぎると、自分のがんばりや努力が否定されたように感じるところがあるかもしれない。

僕なんかも十分できているかどうかはあれだけど、注意しないといけないかなと思っています。とはいえ、一方でちょっと厳しいことというか、現実にも目を向けないといけないので。

先生たちの「学び」がストップしている

妹尾:僕の『教師崩壊』という本にも書きましたけど、先生方に1ヶ月にどれぐらい本を読んでいますかねって聞くと、二極化しているんですよね。小説や漫画は除いているんですが、「すごく読んでいる」という人もいれば、「0冊です」という方も3割、4割いらっしゃいます。

教師崩壊 先生の数が足りない、質も危ない (PHP新書)

先生たちって子どもたちには「学び続けている力が大事だよね」「学びに向かう力が大事だよね」と言っていて、本人たちはできていないとか、正直学びをストップしちゃっているような方がいらっしゃるんじゃないかなと思っていて。

これは本の例ですけど、別に本だけじゃなくて、コロナ禍でオンラインのセミナーもすごく増えたけど、毎週のように参加している先生もいれば、1回もそんなの(参加したことがないし)Zoomとかもぜんぜん知りませんという先生も、中にはまだいらっしゃって。

もうちょっと先生方が楽しく、本だったり本以外のものだったり、趣味からでもいいんですけど。「やらされ感」じゃなくて、楽しく学び続けられるような時間を確保するためにも、今の業務のあり方とか働き方を、組織的に見直していこうと考えないといけないかなと思いますね。

「働き方改革」が、学校を生まれ変わらせる起爆剤になる

澤田:「学び続ける」で言うと、働き方改革の取り組みを通じて先生が成長するのをリアルの場でたくさん見るなと思っていて。先生の資質向上に、実は働き方改革が使えるんじゃないかなと感じるんですよね。

働き方改革ではよく「手挙げ式」と言うんですけど。例えば、ICTをもっと活用できるようにしたいというプロジェクトがあって、手を挙げた中の若手の先生が講師になって、校内でICT研修をしたら、それをきっかけにその先生たちがすごく自信をつけたんです。

自分が勉強したことで得意になったこともあるし、周りのベテランの先生からすごく感謝されたり褒められたり。働き方改革とかICTだけじゃなくて、教師としての自信がついたとおっしゃっている方もいました。

そしたらその方は、学級経営も教科指導も保護者対応も、全部において自信が生まれてきて、イキイキとするようになり、トラブルも減って、またゆとりが生まれて……という循環ができたということもあります。

実は働き方改革って、学校を生まれ変わらせるすごい起爆剤なんじゃないかなと思っています。

妹尾:確かに。そういう意味ではこのごろ、公立学校、特に小学校の教員採用試験の倍率が下がって、教師の質がどうなんだといろいろ言われています。ブラックだと思われている職場を改善しないといけないという議論も、僕も含めてしています。

どちらかというと、ネガティブなものをどうするかだけじゃなくて、先生方がイキイキと楽しく授業もやっていて、学び続けている、あるいは成長をしている姿が広まっていけば、それが最大の広報にもなるわけだし、教員採用試験だってたぶん変わってくるだろうと思っていて。

採用試験の受験会場を増やしましたとか、実技を免除しましたとか、小手先に走るんじゃなくて、現職の先生に、幸せにイキイキとやっていただくのが大事かなと思うんですよね。

お金を払ってでもやりたい、教師という仕事の楽しさ

澤田:庄子さんは、今までのところでいかがですか?

庄子:とにかく「ブラック」という言葉が強すぎますよね。教師ってすごく楽しい仕事。もちろん大変なところは改善しなきゃいけないし、国とか組織で変わらなきゃいけない、働き方改革的なところはもちろんあるんですけど。

私は本当に教師という仕事をライフワークとしていて、例えお金がもらえなくても、払ってでもやりたい仕事だなと思うわけですよ。

子どもたちしかいない環境の中で、休み時間とか遊んでても、おいしい給食を食べながらでも、給料が発生して。お金を貰ってやっているのに親から感謝されて、かつ、こうやっていろんな方とも話せて、本も書けて、ラクロスもやって、海外にも出て、けっこう好きなことをやらせていただいていて。本当にありがたい仕事だなと思っています。

これもプラスのサイクルに回すか、マイナスのサイクルに回すかだけの違いで、今マイナスのサイクルに回っている人も、プラスに変えられると思うんですよね。それが働き方改革の1つなのかなと思うので。

先ほど澤田さんがおっしゃっていた「ボートを漕いでいるんじゃなくて1回止まってみる」が印象的なんですけど。妹尾さんがおっしゃったような、「何のため?」をもう一度みんなで話し合うような職場や学校現場ができたらいいんじゃないかなと思っています。

働き方改革ができるかは、学校の中の人たち次第

妹尾:今回ご視聴いただいている方がどんな方かわかんないですけど、お一人であまり悩まずに。「自分は要領が悪くて仕事が遅いんでごめんなさい」とおっしゃる先生方が、けっこういらっしゃるんですよ。

もちろんご本人で振り返ったり、時間の使い方を工夫したりすることは必要なんですけど、個人ばかりのせいにしても楽しくない。そういう悩みがあるんだったら、まさに校内研修とかで、先生方のちょっとした工夫だとか、プリント作りばかりに一生懸命になっていいんだろうかとか、学び方・教え方の部分なんかも含めて、悩みをどんどん相談しましょうとか、そういうのがあってもいい。

学校って1人だけじゃなくて、せっかくチームでいるんですから、しかも幸いにもおもしろい人たちがいるわけですよね。そこは大事です。

僕とか澤田さんみたいな(学校の)外からの目線を持っている人間は、中の人間の方々ばかりでは囚われすぎているところも、「もうちょっと気楽に考えていいよ」とか、「こういうことも見直せるんだよ」とか、そういう支援はできると思うんです。

「ロバを水汲み場まで連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」ということわざがあるらしいんですけど、外部者はそういう支援をしたり、「おいしそうな水汲み場がありまっせ」とは言えるんだけど、それをどうしていくかは、やはり学校の中の人たち次第というところがあるから。外部の人間の支援と内発的な改善の両方がうまく回っていくといいかなと思っていますね。

澤田:ロバに水を飲ませることはできないって、子どもの学びもそうだと思って。いくら周りで与えようとしても、本当に学ぶかどうかは、最終的に子どもが決めることだからということが、実は働き方改革も同じだなと思っていて。

教育委員会や国がいくら「がんばれ」と言っても、本当に「じゃあ帰ろう」とするか、話し合おうとするかは、結局現場の先生たちだなと思うと、教育委員会がするべき支援って、もちろん制度を整えるとか予算を付けたりすることと、もう1つ。先生が子どもに寄り添って伴走するのと同じように、教育委員会が学校や先生に伴走するという在り方が、これからもっと増えていくといいなって。

そういうふうに支援していくと、学校が「これを変えていきたい」と言って、一緒にがんばれるようになってきている自治体が出てきているので。教育委員会と学校の関係性が、そういう伴走型になっていくといいなと。もし教育委員会の方で見ている方がいたら、そういうことを目指して欲しいなと思います。

働き方改革は、先生たちの探究学習

最後に、教育関係者の方々が見ていらっしゃるので、メッセージをお願いしたいなと思います。庄子さん、お願いいたします。

庄子:本日はありがとうございました。時代が変わっているからこそ、今までの教育が悪いとかではなくて、変わらなきゃいけないんだろうなと思っています。今日、お二人のお話を聞いて、何のためにその働きをしているのか、その学習をしているのか、改めて見直す必要があるなと感じました。

みなさまと一緒に、改めていろんな“当たり前”を疑ってみて、よりよい教育、よりよい教師の働き方を一緒に考えていけたらなと思っております。ご視聴ありがとうございます。

澤田:(次に)妹尾さん。

妹尾:みなさん、今日はありがとうございました。今日は「何のための働き方改革なのか」、改革と呼んでも呼ばなくてもいいんだけど、それをすごく深められた時間だったかなと思いますね。

やはり庄子さんの生き方もすごく参考になりました。学校内外の学びが学校の授業にもすごく活きることが大事で、これから1人1台パソコン端末(を持つこと)ができて、子どもたちは探求的な学びとか、好きな学びをどんどん高めていける時代になってきていますよね。

そうした時に、先生方が好きなことを我慢し過ぎていたりとか、先生方が探求的な学びができていなくて、どうして子どもたちがイキイキと学ぶかなというところは問われていると思います。先生方の楽しい時間をもっと増やすためにも、どんどん一歩踏み出していただきたいなと思っております。今日はありがとうございます。

澤田:私からも最後にひと言。今日はありがとうございました。本当に学校を支援していて、働き方改革ってまさに先生たちの「探求学習」だなって思います。

一番身近な社会である職員室を、自分たちの手で変えられた体験をした先生たちって、「社会って変えられるんだな」って(思ってくれる)。子どもたちにそれを今後伝えていくべき先生たちが、そういう体験をできるのが「働き方改革」だと思うので、ぜひ楽しくクリエイティブに飛び込んでもらいたいなと思います。今日はありがとうございました。

では、「先生も子どもたちも幸せになる、働き方のモデルチェンジ」、以上で終わりたいと思います。本日はご視聴ありがとうございました。

庄子・妹尾:ありがとうございました。

(会場拍手)

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