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経済性からヒューマニティへ 山口周が語る教育と地域活性(全8記事)

実は給料が高い仕事ほど、AIに置き換えやすい 「正解を出す能力」で競い合うことの“落とし穴”

人々の主体性を引き出し、生きる力を育むキャリア教育に取り組む認定NPO法人『キーパーソン21』。誰の中にもある、わくわくして動き出さずにはいられない原動力を「わくわくエンジン」と名付け、全国各地のコミュニティと協力して、さまざまな取り組みを推進しています。今回はそんな『キーパーソン21』が主催する「わくわくエンジンEXPO」にて行われた、独立研究者/著作家/パブリックスピーカー・山口周氏による基調講演の模様をお届けします。本記事では、「給料が高い仕事ほどAIに奪われやすい」という現状と、その理由が明かされました。

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正解を追い求めるほどに、没個性になっていく

山口周氏(以下、山口):「優秀な人ってどういう人ですか?」というと、先ほど言ったような、日本の東京で言ったら開成とか麻布、筑駒(筑波大学附属駒場中・高等学校)へ行くような人。関西で言ったら、灘を出て京都大学へ行く人で、正解を出すのが得意な人ですね。

正解を出すのが得意な人が一生懸命やると、一生懸命に正解を出そうとするんですよ。その正解で戦うと、見分けのつかないようなものが出てくるわけですね。当たり前ですよね、だって正解って必ず一緒ですから。

「3足す3の正解は、Aさんは6ですけど、私的には4でいきたいと思うんです」ということがなく、みんな同じになるんです。“みんな同じ答え”というのが正解です。だから当時の携帯電話は、どのメーカーが作った本物かの見分けがつかないぐらいに似ていて。インターフェースも同じ、デザインも同じ、機能も同じ。最後は価格帯もだいたい同じになるわけですよね。

そこにAppleという会社が出てきたわけですが、日本の会社のものの作り方は、マーケティングの教科書に則って作るわけです。マーケティングや経営学の教科書が何を教えるかというと、「お客さんに話を聞きなさい」「市場調査をやりなさい」「出てきた結果は統計で分析して、お客さんが何を望んでいるかをちゃんと数字で把握しなさい」「それに基づいてものを作りなさい」と。

当たり前ですが、教科書の教えどおりに統計の分析を正確にやればやるほど、みんな同じ答えになるわけですよね。だって、同じような相手に聞いているわけですから。

“ビジネス界の世界チャンピオン”Appleの価値観

山口:じゃあその当時、Appleはどうやって出てきたかと言ったら、市場調査をやらずにお客の話をまったく聞かないわけですね。

どうやって「これがいい」と思って作ろうと思ったのかというと、「自分たちがこれがかっこいいと思ったから」です。「自分が一番わくわくするものはどういうものだろう」と考えたら、今の携帯電話とぜんぜん違うものになった。

「今の携帯電話ってめちゃくちゃイケていない、かっこ悪い」「自分たちが一番わくわくドキドキするものはどんなものかと考えたら、こういうものになりました。あなたも1つ欲しくありませんか?」と言われたら、みんな日本の携帯電話を投げ捨てて、「これかっこいい!」って行っちゃったわけですよ(笑)。客観と主観が戦って、客観が負けたんですね。

今、客観的って、「客観的な意見ですよね」「あの人客観的ですよね」と、いいことのように言われてますよね。でも、客観的にものを作ろうとした会社が、軒並み携帯電話産業をやめざるを得なくなりました。主観でものを言う、主観でものを考える。そういう会社が、市場を奪っていったわけです。

時価総額という考え方、みなさんわかりますかね。会社って、値段が付いているんですよ。会社は株を発行するってみなさん知っていると思いますが、発行している株をまとめた総額が会社の値段、時価総額なんです。今、時価総額が一番世界で大きい会社ってAppleなんです。

ということは、ビジネスをワールドカップで捉えてみると、Appleはビジネスの世界チャンピオンなんですよ。Appleが、どういうものの作り方をするのかと言ったら、主観で作っているんです。自分たちがわくわくドキドキできるものを作っている会社が、時価総額が世界最大で、ビジネスの世界チャンピオンになっている。

人間は「正解を出す能力」では人工知能に敵わない

山口:(日本の企業は)客観的にお客さんの声を聞いて、「自分がわくわくできるかどうか」なんてことを考えたことがない。とにかく、今度の市場調査をいつまでに済ませなくちゃいけない。出てきた結果がこれで、役員にプレゼンテーションをする。役員の人たちは「市場調査をやったのか」と聞くわけです。

「市場調査の結果、これが一番受けが良かったです」「だったらこれを作ろう」と、自分のわくわくドキドキとはぜんぜん外れたところでものを作っている会社が軒並み利益を出せなくなって、市場から「撤退しろ」と言われる状態になっているわけです。今、追い討ちをかける技術が出てきていて、これは動画を見ていただこうと思います。

今見ていただいたのは、『Jeopardy!』というアメリカのクイズ番組です。このクイズ番組に人間のお二人が出ていましたが、アメリカのクイズ王のケンさんとブラッドさんですね。このクイズ王にIBMの人工知能のワトソンが挑戦して、どうなるか。

ここに数字が出ていますけども、結果的にワトソンが3代目のチャンピオンになったんですね(笑)。人間が敵わなかったということです。クイズで求められるのって、まさに正解を出す能力なんです。正解を出す能力に関して言うと、人間より人工知能のほうが優れている。そういう時代がやってきちゃったということです。

みなさんもご存知のとおり、チェスや将棋はもう、人工知能が世界チャンピオンになっちゃいました。これはある種のパズルなんですが、パズルとクイズは人工知能が世界チャンピオンにまでなっちゃったんですよ。

みなさんはこれから受験とかを一生懸命やって、受験勉強で高いスコアを取るのが優秀だと思っていると思うんですが。受験の中身ってクイズとパズルで、これはもう人工知能に人間は敵わないんです。

ハナから人工知能にも敵わないことで人間の能力を測って、その結果に基づいて、優秀とか優秀じゃないとか言っているのって「これから先どうなの?」という話なんですよね。

1億円もした人工知能が、20年後には30万円に

山口:みなさんは、人工知能ってまだそれほど世の中に出てきていないと思っていると思うんですが、けっこう値段が高いんですね。ただ今、恐ろしい勢いで(値段が)下がっています。1997年にチェスの世界チャンピオンが初めてIBMの人工知能になって、この時の人工知能は実際販売されたんですが、販売価格はだいたい1億円。100万ドルだったんですね。

この、1998年に販売されたIBMの「ディープ・ブルー」という人工知能を今見ると、量販店で売られている30万円ぐらいのパソコンとだいたい同じぐらいの性能です。1998年の時点で1億円だった人工知能が、20年経つと量販店で30万円ぐらいで売られるようになるわけです。

先ほどみなさんに見ていただいた、クイズの質問に答えまくるワトソンが10年前の映像ですから、あと10年もすると確実に「年末大売出しワトソン大特価」って売られるようになるんですよ(笑)。

(会場笑)

山口:そうすると、企業の採用担当者はいい大学を回って「うちの会社に来てください」とか言うわけですが、そういう優秀な大学を回るのは、まさに「正解を出す能力の高い人」が欲しいということなんです。

人間って(給料が)400万円ぐらいかかるので、どんなに安く済ませようと思っても、人間を雇うとすごく高いの。でも、人工知能が量販店で売られて30万円ぐらいで買えるとなったら、人間は400万円で雇って、すぐ調子が悪くなるのね。

(会場笑)

山口:「ちょっと飲み過ぎちゃった」「土日休ませてくれないか」「もうやめようかな」「上司と相性が悪くて」とか、人工知能はなにも言わないからね。コンセントを入れといて、「24時間働け」と言ったら、さっきのクイズ番組みたいに「ナルコレプシー」とか24時間ボンボン答えるわけです。「休みたい」とか言わないし。

片や30万円、片や400万円。(人間は)しょっちゅう調子が悪くなったり、対話していないと「転職しようと思うんですけど」とか言い出すわけですよね。普通に理屈のある答えだと、もう経営者はどんどん人工知能にしちゃうと思います。

大手弁護士事務所が、AIを導入した理由

長島・大野・常松(法律事務所)は、日本で一番大きな弁護士事務所です。一昨年その弁護士事務所が、人工知能を仕事に導入することを発表しました。なぜ弁護士の業界にはもう(人工知能が)入ってきているかと言ったら、単純です。

弁護士って、給料がすごく高いんですよ。たぶん、長島・大野・常松の役員だと、数億円もらっていると思うんですね。それだったらもう、人工知能を入れたほうがいい。「従来は弁護士が2週間かけて処理した仕事を、(人工知能なら)1時間以内で処理できる」と書いてありますよね。

こういった理屈で、頭のいい人は学校の成績が良くて、正解を出す能力の高い人ほどこういう仕事に就くわけです。そういう人ほど給料が高いので、実は給料が高い仕事って、一番人工知能に食われやすいんですよ(笑)。

人に残された仕事、みなさんが大人になって30〜40代で仕事をする頃には、人工知能は恐ろしいことになっているはずですからね。必ず(その頃には人工知能の時代が)来ています。

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