2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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山口周氏(以下、山口):よろしくお願いします。僕はふだん、大人向けに話すことが多くて。今日は比較的年齢が低い人が多いということなんですが、なにか別のものを用意しているわけじゃなくて、ふだんやっている話もそのままします。言葉遣いは多少柔らかいものにしようと思いますが。
「これからどういう人が活躍するの? 求められるの?」というのがタイトルです。これを考えるにあたって、世の中でどんなことが起こっているのかをいくつかお話しておきたいんですね。
1つ目は、いきなり英語です。みなさん、英語を「嫌だな」と思って勉強していると思いますが、僕は日本の新聞やニュースをほとんど読まなくて、専ら海外の新聞なんです。なぜかというと、日本の報道機関って大事なニュースをぜんぜん報道していないんです。
これは『Financial Times』というイギリスの新聞です。今から5年前、2016年のニュースの記事ですが、何が書かれているかというと、Royal College of Artというロンドンにある美術系の大学院に、企業の偉い人がみんな通い始めているということなんですね。
企業の偉い人が美術系の大学院に通うって、みなさん「え⁉」と思うと思うんですが、この記事の最後には、すごく人気になっていて17ヶ国から申し込みが殺到している、というニュースが書かれていました。
時代が変化していることを示す、非常に大きな意味を持った報道だと思うんですが、日本の新聞ってあまりこういうものを報道してくれないんですよ(笑)。今日明日の足元の、森(喜朗)さんがどういう発言をしたとか、失脚したとか……(笑)。それはそれで大事なのかもわからないですけど、大きな流れがわかるようなニュースは報道してくれていません。
だから、いきなり説教くさい話になりますけど、みなさんちゃんと英語を勉強してくださいね(笑)。日本語しかできないとなると、ものすごく(狭い)カプセルの中で生きることになっちゃうので、絶対にできたほうがいいです。
山口:あともう1つ、『The Wall Street Journal』というアメリカの新聞ですね。(スライドは)日本語訳にしていますけれども、一昨年の2019年に、ビジネススクールへの志願者数がどんどん減っていることを報道しているんですね。一番下に書いてありますが、志願者数が5年連続減少と。みなさん、MBA(経営学修士)って聞いたことありますか?
これは大学院の学位で、ビジネスの経営学の修士号のことなんですが、日本ではまだすごく人気があるんじゃないかな。「出世するためには、ビジネススクールの経営学の修士号があったほうがいい」と、20年前ぐらいからブームになって。10年前ぐらいまでは一世を風靡したんですが、実はアメリカでは明らかに申し込みの数が減ってきている。
コロナの影響でみんな暇になっちゃったので、今年はまた申し込みが増えましたけどね(笑)。クビになった人たちが「とりあえず仕事をやっていない状態だったら、大学でも行くか」ということでビジネススクールがまた伸びたんですが、ここ10年ぐらいで見てみると、だんだん減ってきている状態なんですね。
企業の偉い人が美術の勉強をする。ビジネススクールでビジネスを教えて、今までだったらこの修士号をもらったら引く手数多になっていたのが、すごく落ち目になってきている。
僕がいたコンサルティング業界にも、大きな変化が起こっています。今、みんなデザイン会社を買っているんですよ。コンサルティング会社は、わかりやすく言うと企業のお医者さんなんですね。
人を調べるのと同じように、企業もレントゲンを撮ったりと、いろいろな調べ方があるんです。「こういうところが悪いから、これを直しましょう」と提案して、お金をいただく仕事をやっている会社なんですが、そういう会社がデザインの会社を買っている。
ですから、今までのように調べて「ここが悪いから、こういうふうに直しましょう」だけだと、「いや、お宅の言っていることはもうわかっているから」と言われるようになってきちゃっています(笑)。お金を払ってくれなくなってきているわけです。
なので別のことを提案しないといけないので、デザイン会社を買うようになってきています。これは、とても大きな変化を示していると思うんですよね。
山口:ちょっと難しい話をしますが、「真善美」という言葉があります。本質的にいいことってどういうことかと言ったら、真善美とは嘘がないということですよね。
真偽で真であること。善悪で善であること。美醜で美であること。これを踏み外していなければそうそうおかしなことにはならないという、ある種のものさしです。じゃあこれはどうやったら判断できるのかというと、一つは「理屈」というものがあります。理性ですね。
これは、データと事実に基づいて論理的に考えていれば、真偽は判断できるという一つの考え方。業界のルールや法律に照らせば、善悪は判断できる。人の心を捉えるような美しいものは、いろんな調査をすればわかるという考え方です。これはもう、全部理屈ですよね。文字になっているもの、数字になっているもの、データになっているものに頼る考え方です。
一方で、感性・直観というのもあるわけですね。真偽というのは、直感や五感で判断するんだと。あるいは善悪というのは、法律が「いいよ」と言っていたら全部許していいのかというと、そうじゃない。やっぱり個人個人が持っている道徳や倫理とか、ある種の時代感覚みたいなのものも大事だという考え方があります。
美醜は調査してわかるのかというと、なかなか難しいですよね。世の中の人がみんなセンスが悪くて、その人に調査してものを作ったら、センスの悪いものを作っちゃうわけですよね。ですから、本当に世の中が驚くようなものを作ろうと思ったら、調査なんかに頼っていたら作れないんじゃないかという考え方もあります。
こうやって並べると、「両方とも考え方としてわかる」と、みなさんも聞いていて思うと思うんですが。圧倒的に世の中では、(スライドの)左側の理屈・理性を持っている人のほうが「価値がある」と思われているし、学校の仕組みも、とにかく理屈・理性をすごく重視するわけです。
山口:なんでそう言えるかというと、「優秀さの定義ってみなさんどう思いますか?」という話なんです。「あいつ優秀だよな」とか、これを聞いてらっしゃる親御さんたちでも、どういう人に対して『優秀』というイメージを持ちますか?
日本で言うと、これはもう圧倒的に偏差値なんですよ。東京だったら「お子さんどちらにいらっしゃるんですか」と聞いて、「麻布です」「開成高校です」と言うと、普通に社交辞令として「優秀ですね」と言うわけですね。例えば関西だったら「灘です」と言うと「お子さん優秀ですね」と言うわけですが、「優秀って何だ?」という話ですよね(笑)。
データや事実に基づいて、与えられた問題に対して早く・正確に正解を出せる。そういう能力の高い人が、やっぱり優秀だと言うわけです。その能力が何かと言ったら、これは圧倒的に、テキストやデータといった(スライドの)左側の能力ですよね。そういったものを上手に情報処理できること。
すごく共感力に優れていて、誰かが間違ったことをやっている時に「そういうのはおかしいんじゃないか」「こういうこともちょっとおかしいんじゃないか」ということを感じ取る力とか。「今、みんな盛り上がってないな」「こっちの方向ではないんじゃないかな」と、直感的に“つかむ力”がある子がみなさんの周りにもいると思うんですが。「あいつ優秀だよな」とはやっぱり言わないわけです(笑)。
「すげぇいい奴だよな」「あいつ、場を盛り上げるのすげぇうまいよな」「あいつが描くイラストとかすげぇいいよな」とか。「優秀」とは言わないんですよね。
だから今は、左側が「優秀さ」の定義になっています。みなさんもなんとなく、左側のようなことができないと「いい学校に行けないし、お父さんやお母さんから怒られる」と思っていると思うんです。気を付けないといけないのは、それがちゃんと世の中の価値になるかと言ったら、どうもそうじゃない時代が来ちゃっているんですね。
「いい奴だ」と言われる人と「優秀だ」と評価される人の違い 山口周氏が語る“優秀さの定義”の変化
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