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他者とのコミュニケーションを考えるVol.4 オンラインコミュニティは孤独を癒すのか?(全4記事)

苦しみを抱える人は誰もが「物語の主人公」になりうる ヒット漫画に共通する、社会への普遍的な問い

コロナ禍でオフラインで他者と触れ合う機会が減った中、「オンラインコミュニティ」の可能性を探る対談イベントが開催されました。「オンラインコミュニティは孤独を癒すのか?」をテーマに、株式会社コルク 代表取締役の佐渡島庸平氏と、株式会社Ridilover 代表取締役/一般社団法人リディラバ 代表理事 安部敏樹氏が対談。本記事では、社会問題を通して見えてきた未来の可能性について語られました。(画像提供:株式会社Ridilover)

“苦しむ人々が救われる物語”が社会を変える

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):なるほど。それは本当すごいことだよね。たぶんリディラバが抱えている問題というか、会っている人たちの問題ってすごく社会の鏡で、これから起きるであろう問題を先に体現している人たちの集まりだと思ってるの。

安部敏樹氏(以下、安部):うん、なるほど。

佐渡島:ちょっと言い方悪いんだけど、昔からよくあるタイプの問題、さっきの「タバコを押し付けられて」とか。そういうものって、物語にした時には個別のリアリティが立ち上がる話になるんだけれども。

例えば、最近僕が編集した作品だと、乙武(洋匡)さんの『ヒゲとナプキン』というトランスジェンダーの主人公の話がある。物語としてはすごくいい物語で、自分の中でも自信のある作品で。

ヒゲとナプキン (コルク)

佐渡島:エッジの人が救われる方法を、まず物語の中で提示する。それが社会全体のそういう人たちを救う物語になり、社会を変えていくことになるだろうなと思って。リディラバの中のおもしろい事例……おもしろいっていう言い方でいいのかな?

安部:いや、おもしろいと思いますよ。

佐渡島:事例を教えてもらうと、そこから僕の中で次の物語のテーマが見つけられるだろうなと思って。あんまり深刻な話にしたいっていうわけじゃないんだけど。

安部:僕もそうしないでほしい。あんまり。

佐渡島:問題を抱えているんだけれども、ユーモアがある主人公みたいな感じで。そこにもう1個社会性があって、読みやすいテーマを掛け合わせたりすると、いけるかもって思って。

結局、物語が長期的にヒットするためには、学校ものの漫画はあるけれど、「教育が何なのか」を本気で考えた漫画はないなって思って、『ドラゴン桜』を(出して)。僕、『ドラゴン桜』でホリエモンと仲良くなる機会をもらった。

ドラゴン桜(1) (モーニングコミックス)

佐渡島:世間は「宇宙がもう終わりだ」って言って、人類が宇宙へ行く必要はなくて衛星や機械だけが行って調査をすればよくて、そんなふうにお金が使われることはないって言ってたけど、ホリエモンが「絶対にインターネットの次は宇宙だ」って言って。だったら、最終的に宇宙の日常的な漫画が来るなと思って(企画したのが)『宇宙兄弟』なんだよね。

安部:へ~! そういう見つけ方なんですね。

宇宙兄弟(1) (モーニング KC)

「社会問題の現場には未来がある」

佐渡島:そう。孤独をはじめとしたWell-beingの物語で、僕は今医療ものもやろうと思っているんです。医療もので、今までは悪い病気を見つけて治すのが医者の仕事だったんだけど、やっぱりこれからの医者は、健康な人をもっと健康にする職業に変わっていくはずで。

安部:予防医学ですよね。

佐渡島:そう。予防医学的な、そういう医療漫画もあり得るなと思っているんだけど。心の不安や不満とか、心の問題をどういうふうに解決していくのかっていう時に、リディラバの中にあるさまざまな事例には、かなり物語のヒントがいっぱいあるだろうなと思っていて。

安部:それいいですね。社会問題って、当事者にとってはまず他者からの関心を持ってもらうことで解決に近づいていくんですけど、当事者からすると、物語にする前に解決してほしい、とにかく困った話なんですよね。

でも、僕は物語から当事者への関心が生まれるんじゃないかと思っていて。自分が他者として当事者に関わる際、いかにその人の物語を自分ごとにできるか。物語の主役は当事者なんだけど、その物語に自分が関わっていると感じることで、無関心が関心に変わっていくと思うんですよね。

さっき佐渡島さんが言っていた、「社会問題の現場には未来がある」というのは、僕も本当にそう思っています。

障害者が能を舞い、絵を描き、農作業をする施設

安倍:たとえば障害者雇用の話をすると、今は「従業員を45.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならない」という法的雇用義務があるんですが、僕がとある障害者就労支援施設にいったとき、そこの所長さんに「そもそも社会が求めている生産性を追ったところで、障害者は健常者に勝てない。だからこそ『障害者』なんじゃないの? 定義から見てもそれは無理があるよね」と言われて。

「むしろ、働くって何なんだろうね? だって障害者っていう概念って、ざっくり言えば『働けないから障害者』なんだよね。だけど別に、健常者もだんだん働けなくなるし、これからの時代、優秀な人以外は働くバリューなくなっていかない?」って。その施設では、能を舞ったり、絵を描いたり、農作業をしたりしているんですよ。

佐渡島:おもしろい。

安部:僕らも行ったら、知的障害を抱えるお兄ちゃんとかと一緒に能を舞うわけですよ。僕はそのとき、そのお兄ちゃんと「あ、なんか心が通じてるかも」という感じがしたんですよね。

人が働かなくてよくなった時代における先進事例って、むしろ健常者の中にはないのかなと思って。今の言葉で「障害者」と言われる人たちの中にこそ、もしかしたら人類の未来ってあるのかもなって感じたんですよね。

そういうふうに、社会問題の現場にいくと、その場所が社会全体の未来を先取りしているって思うことがたくさんあるんですよ。

佐渡島:いや、すごいね。その所長さんがまたすばらしいね。

安部:めちゃくちゃすごいんですよね。現場に行くと、けっこうそういうおもしろい人がいっぱいいるんですよ。佐渡島さんに物語にしてほしいな。

人気漫画から生まれた「スラムダンク奨学金」や「せりか基金」

佐渡島:長期的に考えていく中ではそういうのがあり得るなって思うから、定期的に情報交換をさせてもらうと、数年経つとけっこう僕の中で企画が湧いてくると思う。企画はあるなと思っているんだけど、まだそこにどんな主人公を入れて、どんな設定だといいかまではイメージが湧いてないから。

安部:そしたらまたリディ部の勉強会に呼びますよ。佐渡島さんと僕というのもいいけど、今度はそこに社会問題の当事者や現場の人たちを入れて、むしろ佐渡島さんがいろいろインタビューしていくのがいいかもしれないですね。それを僕がちょっと解説しながら、社会問題全般への理解も深まるようにするとか。

佐渡島:そうだよね。僕、医学書院の『ケアをひらく』をいろいろ読んでるから。

安部:すごい。けっこう専門的ですね。でもあのへんはすごく汎用性が高いですよね。

佐渡島:『宇宙兄弟』にALS(筋萎縮性側索硬化症)が出てくるじゃない? あれは、医学書院の川口さんの本を読んで参考にした。それで、ALSのためになりたいと思って、根本的に研究をする人を増やしたほうがいいから、“せりか基金”というのを作って、基礎研究をする人たちに寄付をする仕組みを作った。

安部:あれ、いい仕組みですよね。漫画家の人たちが新しいコンテンツから啓発して基金を集めるのって、『ちはやふる』の末次(由紀)さんとかもやってますもんね。

佐渡島:そうそう。井上(雄彦)さんの“スラムダンク奨学金”の影響を僕はもらって。

安部:やってた!

佐渡島:あれは今もまだ継続していて、高校生がアメリカ留学するのを支援するというものなんだよね。

「あいつどうなったっけ?」と確認し合うことの大切さ

安部:ちなみに今日の『オンラインコミュニティは孤独を癒すのか?』というテーマにはあんまり触れられなかったんですけど、どうですかね?

佐渡島:今のほとんどのオンラインコミュニティで、そんなにコミュニケーションが設計されていないと思うんだよね。結局さっきの地域や学校とか、「登下校の途中は学校の責任なのか」みたいな感じで。

孤独な人や体調が悪い人に気づいたり声がけをするような仕組みが、すごく時間をかけてできていて。お葬式とかもそうなんだけど、あれって誰かが亡くなったことで、“体調が悪くなった人に気づいて助け合うための仕組み”としてすごくワークしてるんだよね。

安部:確かにそうですね。つい最近、僕が監督してるソフトボールチームの前の前の監督が亡くなられたんですよ。その時にみんな集まってきて、「ほかの監督とコーチは今生きてるっけ?」とか、「あいつどうなったっけ?」とか確認し合って。みんなで連絡をとって、その場で「大丈夫?」って言い合って。

その中で、「あいつ今、調子が悪かったらしい」とわかって、そこにみんなで遊びに行くようになっていて。そういう意味では、地域のコミュニティって他者に関心を持たせるように上手に設計されていますよね。

佐渡島:そこって、設計されて動いているつもりはないんですよ。

安部:なるほどね。自然発生的にできているものだと。

佐渡島:動いている人たちはそういうふうに感じる。

安部:そっか。

オンラインコミュニティは孤独を癒やすのか?

佐渡島:地縁コミュニティが崩壊することの意味は、その地域を大切にしないっていうことじゃなくて。ちっちゃい行事がなくなってきて、実は意識的にも思い出されていないようなコミュニケーションなどがなくなって、変わっちゃっている。

そういうコミュニケーションが、例えばClubhouseによって担保されるのか、ZOOMによって担保されるのか、オンラインの掲示板やSlackで担保されるのかと言うと、そんなものではぜんぜん担保されてなくて。

だからコミュニティが崩壊していってる中では、なにもないよりは、オンラインコミュニティがあったほうがまだマシだったりする。コミュニティって“いる場所”なんだけど、人ってお金を払おうとする場所だと思うし、してもらう場所だと思っちゃうわけ。

安部:確かにねぇ。

佐渡島:だから、体調が悪くなった人からコミュニティを抜けちゃうの。

安部:本当にそうですよね。地域のコミュニティでうまいなぁと思うのは、年会費なんですよ。実際問題、地域だってお金を取るじゃないですか。だけど、「年会費にする」っていうのがすごくうまいと思っていて。

お金を意識するのが年1回だけっていう。地域コミュニティを維持する上で実質的にお金が必要なところはそれで担保しているんだけど、払う側はお金を出している実感はほとんどなくて、むしろ自分が地域を良くしている気持ちになっているわけじゃないですか。そういう設計もありますよね。

あ、もうそろそろ時間過ぎてるので、1回司会者に戻します。我々はここで黙っておきましょうか。

佐渡島:はい。

司会者:いったんここで区切らせていただきたいと思っております。今回は「オンラインコミュニティは孤独を癒すのか?」というテーマでしたけれども、孤独の定義や教育のお話など、広い視点から孤独を考えていく会になりました。

最後に佐渡島さんと安部さんがお話ししていたように、またお二人が話す機会を作っていきたいと思っております。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。

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