2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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早田吉伸氏(以下、早田):またいくつか質問をいただいているので、できるだけ答えていきたいと思っているんですけれども。さっき構想力という話が出たんですけれども、「構想力を付けるための学問がリベラルアーツという考え方でいいんですか?」というご質問をいただいています。
今回リベラルアーツというものがこの新しい大学の1つの大きな柱中の柱ではあるんですけれども、構想力とリベラルアーツの関係について、有信さんと山口さんそれぞれからいただきたいと思っているんですけど。有信さん、どうですか?
有信睦弘氏(以下、有信):いいですよ。「リベラルアーツが構想力を育てるか?」というと、「そんな保証はできません」という答えなんですね。
もともと「リベラルアーツとは何ぞや?」という議論も散々あるわけですけれども。私たちは、例えば社会であったり人間であったり、あるいは自然であったり、そういうものを見るときのものの見方、それの根本を身につけることがリベラルアーツだと思うんですね。
構想力というのはやっぱり想像力とも深く関わっていて、従来の偏差値教育のように知識をもとに一定の定められた正解にいち早くたどり着くというのは、構想力をまったく育てないやり方だと思ってるんですね(笑)。構想力もあってそういうことにも優れた人たちも一部にはいますけれども、そういう訓練ばかりをしていると、構想力を育てるという部分がどんどん抜け落ちてしまう。
構想力というのはやっぱり、自然を見て感動したり、あるいは社会を見ておかしいことがおかしいと感じられたり、そういう体験が原動力になって物事を組み立てていく力なので。これは教育の中のある種の訓練でしか育っていかない。
それまでもそういう育てられ方を初等、中等の段階では十分にして来なかったと思うんですけれども、大学に入ってからそういう方向で学生たちを訓練していくというのかな。訓練という言い方はなかなか難しいんですけど。
教員はみなインストラクターとして学生を導いていく、トレーニングしていくかたちで教育を進める中で、構想力が育っていくようにしたいと思っておりますけれども。
早田:ありがとうございます。リベラルアーツと構想力というのは、リベラルアーツがあれば構想力が育つというものじゃないよというお話だったと思うんですけれども。もちろんリベラルアーツの定義にもよるでしょうし、どう捉えるかということにもよるんでしょうけど。山口さんはどうですか?
山口周氏(以下、山口):リベラルアーツの定義にもよっちゃいますね。もともとリベラルアーツは「自由七科」と言って(「人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本」とされたもののことです)。よく勘違いされている人が「理系とリベラルアーツ」というようなことを言うんですけど、あれはとんでもなくて、リベラルアーツというのは完全な文理融合です。
理系は代数、幾何、天文学、あと音楽ですね。ピタゴラス学派では、音楽というのは要するに振動の研究ですからね。文系の学問が文法、修辞、論理学。だから文系の学問3つと理系の学問4つで、合わせて7つで「自由7科」で、リベラルアーツなので。まずは完全な文理融合ですよね。
教育的な意味でのリベラルアーツというのは、自由七科に絞られない、もう少しゆるい境界領域の学問として捉えられているわけですけれども。本当に有信先生がおっしゃられたような、自然や社会や人間の成り立ちの本性に対する洞察や理解を深めるという、総合的な学問なんだと思うんですね。
ですから、理解力や洞察力はこれでたぶん非常に高まると思うんですけれども、やっぱり構想というものは、ある種の非常にアーティスティックな行為でもあるわけですね。
キャンバスを前にして「こんな絵を描いてみたらいいんじゃないか」と考えるのと同じように、社会を見たときに例えば「100年後こんな社会になっているといいんじゃないか」ということを思い描くのが構想なんだとすると、リベラルアーツを学ぶと必ず構想力が上がるというふうにはなかなかいかないと思うんですけど。
山口:ただ1つ、本来こうあるべきじゃないかという疑問や着想を得るにあたっては、ある種の相対化の視点を持っていることは大事だと思うんですね。例えば日本、とくに東京、広島もそうですけれども、電信柱がニョキニョキ立っている街中で、みんなわりとそれが当たり前だと思っているわけです。
けれども、例えば外国のG7の先進7ヶ国の首都は日本を除いて、電線の地中化率というものは、今ほぼ90パーセント以上です。電線を見つけること自体がかなり難しいですね。パリ、ベルリン、ロンドンにいたっては、戦前に電線地中化率が100パーセントになっています。ですから、やっぱり知らないんですよね。世の中を見たときに「これ、おかしくないか?」と。
あるいは通勤というのも、私たちは毎日電車で会社に通っているわけです。とくに大阪・東京は非常に過酷な通勤をしているわけですけれども。私が知っている例で言うと、例えばオランダのアムステルダムは大企業の社長さんも自転車に乗って15分くらいで通ったりしているわけですよ。先進国で日本のように原始的なことをやっている国はないんですね。
パッと見て……オランダでしばらく暮らしていて、自転車で毎日会社に行っていたという人が東京に戻ってくると、とにかく40分蒸し風呂状態のすし詰めの電車に乗って通えという、非人間的なことをやらなくちゃいけないわけですね。
そうすると、みんなが当たり前だと思っていることでも、その人だけが相対化して「これはおかしいんじゃないか?」と思えるわけですね。そう思った瞬間に、それは構想のきっかけになりますから。
山口:現代であれば、どれくらいの空間軸を広げてスタンドポイントを持てるかということもありますし。あとは、例えば過去を振り返ったときに、現代を相対化する目線を持てると、目の前の当たり前が当たり前じゃなくなる。
これは美学の用語で、「異なる、化ける」ということで「異化」と言いますけれども。1回strangeなものにするわけです。strangerになることはすごく難しいわけです。なぜなら我々は生まれ育った社会に対してfamiliarで、だからこそ快適に暮らせるわけです。そこに居心地の悪さや、strangeなものを感じられるかどうかが構想の大きなきっかけになると思うので。
そういう意味で言うと、生活習慣も含めて、外国のことを広くいろいろ知っていること。あるいは過去の歴史において、どんなことがあったのかを知っていることまで含めてリベラルアーツなんだとすると、目の前の現実を相対化する視点を持つことは、構想力につながる1つのポジティブな要素かなという気はしますね。
有信:たしかにおっしゃるとおりなんだけど。構想力、想像力を育てるもう1つの要素は、やっぱりコミュニケーション能力だと一般的には言われていますけど。
つまり異文化だとか、異なったバックグラウンドを持った人たちをきちんと理解できる、共感できるような共感性を育てることが、私はコミュニケーション能力だと思っているんですね。
語学で英語はもちろん必須ですけども、流暢に言葉がしゃべれるだけでは意味がないので、自分が知らない異なった背景、異なったバックグラウンドをどれだけ深く理解できて共感性を持ってコミュニケーションができるか。そこがたぶん想像力を育成する上でも非常に有用になってくる気がしています。
そのこともあって、私たちは留学生を2割入れて、できるだけキャンパス内のダイバーシティを保つようにしつつ、お互いにうまくコミュニケーションができるようなことを実現していきたいと思っています。今のポイントの1つでちょっと思い出したので説明しました。
早田:ありがとうございます。こうやって会話が広がっていくのはすごくいいなと感じました。
早田:質問をけっこういただいているんですけれども、これを全部今のペースでいくとなかなか終わらなさそうなので(笑)。せっかくいただいたのに本当に申し訳ないんですけれども、質問は一旦ここで打ち切らせていただいて、クロージングに入っていこうかなと思います。
ここまで構想力の話、セルフ・ディシプリンの話から始まって、最後はリベラルアーツの話まで広がってきたんですけれども。全体を振り返って感じられたことや、最後に言っておきたいこと、共有していただけるようなことがあれば、ぜひ御一方ずつお願いしたいなと思います。山口さんからいいですか?
山口:私は叡啓大学さんの説明を受けたときからそう思ってるんですけれども、正直、今から大学に入る人がうらやましいという感じですね(笑)。
私の時代は、大学がある意味一番ダメだった時代なんですね。大学がレジャーランドと言われていたのはたぶん1979年頃で。『現代用語の基礎知識』のレジャーランドの項目に、学生が遊んで過ごす今日の大学という定義が入ったのは、たぶん1979年か80年なんです。
おそらく日本の大学がある意味で一番ダメだったのがあの時期で(笑)。あの時期に大学時代を過ごした人が、今の日本の社会でリーダーのポジションに少しずつ就いてきてるんですが。外国のリーダーと接触していて、私は率直に言って、今の日本は非常に大きなハンディを負っている感じがします。
いろいろな反省もあって、叡啓大学さんのような取り組みがここ10年くらいで、いろいろなところで少しずつ進んできている中で、これから大学に入る人たちについて言うと、まずは率直にうらやましいなという気持ちがしますね。
山口:あとはやっぱり、楽しんでほしいと思うんです。私が大学を卒業したのは90年代で、もうちょっと前の世代が一番ひどかったと思うんですけども、社会というのは非常に固定的で、とにかく大企業に入るのが一番いい人生でした。大企業に入ったらとにかくつつがなく過ごして、上司に言われることを実直にやっていると、そのうち持ち家くらいは買えるからと言われていたわけですけども(笑)。
これはある意味では非常に味気ない、つまらない時代ですよね。今はこういう時代になって、自分の構想を持って、本当に前向きに働きかけると社会がちゃんとそれを受け止めてくれる時代になって、年代的にもどんどんフラットな感受性が出てきている。
今日みたいな場で有信学長予定者と私がお話させていただくこと自体が、そういう変化の現れだと思うんですね。これはある意味では仕事を通じて、仕事をアート作品のようなかたちで自己実現していこうと考えている人にとってはとてもいい時代、窮屈でない世の中がやってきていると思うので。
そのための武器を……武器というとちょっと攻撃的ですけれども、基礎的な能力を身につける大学という場なんだと。そこから先、社会に出て行って、本当に自分がやりたい仕事をやっていくための基礎能力を作ると考えると、本当にいい時代が来ています。正直、僕はもう1回、20代から生き直したいたいなというくらいなので(笑)。そういうふうに今日改めて感じましたね。
早田:ありがとうございます。すごく強い応援メッセージをもらったんじゃないかなと思うんですけれども。全体を振り返ってみて、有信さんはいかがですか?
有信:山口さんの話を伺って、私たちが考えていたことの大きな方向性は、やっぱり山口さんが主張されていることともズレていないし。システムデザインという言葉の「デザイン」というのは、やはり構想力を育てることになるわけで。
アメリカのスタンフォード大学で実験的にやっている、d.schoolというものがありますけれども。そこにはアートの学生たちもたくさん集まって、理系文系を含めて共同作業をやるんですね。単位はくれないんだけど、そこの経験者は社会で極めて高く評価されていると言われています。
私たちはそういうものを横目で見ながら、学生に構想力を身につけてもらう訓練を教育の中でやっていければいいなと思いましたし、山口さんにも客員教授としてこれからご協力いただけるということなので、非常に心強く感じています。どうもありがとうございました。
早田:有信さんありがとうございます。
山口:こちらこそどうもありがとうございました。
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