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大学のNew Norm(全1記事)

「研究が完全にストップしている分野もある」 東大・川原教授らが語る、withコロナでの「大学のこれから」

「withコロナ時代到来を契機に、見つめ直される働き方・暮らし方を新たな視点で研究、社会実装すること」を目的に発足した、New Norm Consortium。「新しい当たり前=New Norm」を想像していくという強い意思のもと、ITや広告、人材などさまざまな業種の賛同企業・団体が主体となり活動を実施します。その記念すべき1回目のオンラインイベント「New Norm Meeting Vol.1」では、5つのセッションでさまざまな意見が交わされました。最終セッションとなる「大学のNew Norm」では「大学の授業、試験、入試」などについて、登壇者が語ります。

東京大学の様子、オンラインへ授業への対応

池澤あやか氏(以下、池澤):New Norm コンソーシアム(Consortium)の最後のテーマは、セッション5「大学のNew Norm」です。大学はどんなNew Normになっていくのかというのを、ゲストとともにお話していきたいと思います。

最後のセッションのゲストは京都芸術大学教授・さくらインターネット株式会社フェローの小笠原治さんと、東京大学工学系研究科教授の川原圭博さんです。よろしくお願いします。

小笠原治氏(以下、小笠原):よろしくお願いします。

川原圭博氏(以下、川原):よろしくお願いします。

池澤:まず前提としてコロナウィルスの影響を受けて、4月7日に東京に緊急事態宣言が出て、4月10日には大学が東京都の休業要請の対象になったことを受けて、関東周辺にある大学はどこも4月15日前後にオンライン授業への切り替えを行っているようです。

というわけでお聞きしたいんですが、東京大学の今の様子とか、オンライン授業への対応という点について教えていただけますか?

川原:はい。実は東大は4月7日を待たずして、もっと前から準備を進めていました。3月の初旬くらいですね。初旬から中旬にかけてはもう「これはいかんぞ」と。現地で授業するのは諦めて、オンラインにしたほうがいいんじゃないかという準備が始まってました。情報基盤センターという情報ツールを扱うような部署と、あとは遠隔教育MOOCとかを扱ってきたような部署が立ち上がって、ポータルサイトを3月11日に作りました。

そこからいろんなITツールのアカウントとか整備して、もう3月の17日とか20日くらいにはひと通り授業ができるようなソフトの環境ができていましたね。

池澤:早い!

川原:そうなんです。めちゃくちゃ早くて。そのあと試行錯誤が続いて、4月の頭。第1週からは、授業はほぼオンライン化されたという状況ですね。

池澤:じゃあ、現在もオンライン授業をしている状況ですか。それともまだ準備中ですか?

川原:もう完全に始まって、3週目くらいですね。

池澤:ええー!

川原:僕も3回授業しました。完全オンラインですね、すべての授業が。

池澤:いかがですか? オンラインで授業していて、見えてきた良さとか。あとは問題点なんかあればシェアしていただきたいなと。

川原:けっこう関わる立場によっていろんな意見がありまして、始まる前に1番不安だったのは先生たちで、それこそ「Zoomって何?」みたいな人も多くいる状況でした。「なんかG Suiteってあるらしいけど、どうやって使い始めるの?」みたいな。

学生の方はむしろ「電車乗らなくていいんだったら最高じゃん」という反応です。1限が8時半からなんですけど、8時28分に起きて8時半から授業を受けるみたいな。

池澤:最高!

川原:学生は歓迎ムードですね。

池澤:たしかに1限は、どっちかというとオンラインに切り替えてほしいですよね。

川原:そうですね。

小笠原:(笑)。

池澤:学生の立場だと。

小笠原:まだ学生の立場やな、池澤さん。

池澤:教員としての立場もそうじゃないですか? 

川原:そうですよね。

小笠原:そうですね。やはり朝早く起きるのはいいんですけど、朝の時間、自分のために使いたいですよね。

京都芸術大学でのツールの運用

池澤:(笑)。京都芸術大学ではどんな感じなんですか? 対応としては。

小笠原:京都芸術大学としては、実は去年くらいからそういうことをしたいなという話はしていました。僕のクロステックデザインコースというコースは、AO入試合格の高校生を0年生と呼んでいるんですけど、そこからSlackに入ってもらって、G Suite使ってもらってというのをやっていたので。今、うちのコース自体はたぶんそんなには困らない。

ただ、5月の18日開始で授業開始を延ばしていて、実際には期間が短くなっているので、誰も取りこぼせないという状態にはなっているんですよね。オンラインかどうかとは関係なく、そういう問題が出てきていますね。

実際の対応としては、全学生、全教職員にZoomのアカウントを払い出して、いつでもコミュケーションも取れるし、授業も受けることもできる。自宅から授業をやっていただくこともできるという状態。

あと、教職員にもG Suiteを入れて、Classroomとかで授業の管理をするというところまでは今決まって、導入が進んでいると。たぶん5月18日に向けて、ドキドキしている先生がいっぱいいて。

あと、やはり新入生の人たちは、入学式もないままきているんで、不安だろうなということで学生募集、アドミッション・オフィスというんですけど、そこの責任者の木原さんが新入生がZoomに慣れられるようにと考えて「お昼にみんな入っていいよ」みたいなことをやって、楽しませながらZoomの使い方覚えてもらうとか、わりと機会を増やしてやっていますね。

短期の課題、長期の課題

池澤:この現状、課題となりそうなところって、お二方の間では出てきていたりしますか?

川原:課題はいっぱいありますね。例えば、著作権の取扱いは実は大きな問題だったんですけど。実は今日から授業目的の公衆送信補償金制度が実施されて、著作権者の許可をもらうことなく補償金さえ一括で払っておけば、オンラインの授業でも使って良くなった。これはけっこう大きなことですね。

普通にやっていた授業をオンラインでPowerPointとか使いながらできるものが多いのですが、できてない授業もやはりあるにはあって。例えば、実験とか体育の実習とか。そういう実技を伴うようなものはぜんぜん実現の目処が立っていないのが、痛いところですね。これをどうするかというところが非常に大きな課題ですね。

それは短期の課題ですけど、長期の課題でいうと「これ、どこまで定着するのかな」みたいなのはあって。例えばMOOCってオンラインだけでやれるようなコースですね。あれの修了率はすごく低い。

10パーセントくらいしか卒業しないという話があったりして、そのモチベーション? 布団の中からも授業出られちゃうけど、そのあとまた寝ちゃうみたいなことは容易に起こるわけで。どうやってモチベーションを保つかみたいなところは、けっこう課題になると思いますね。

池澤:たしかに私も大学生の頃にMOOCの教材にチャレンジしたことがあるんですけど、途中で離脱しちゃいました。けっこう時期尚早に(笑)。

小笠原:しかもあなた、大学院のスクーリングでもなかなかしんどそうに来ていましたよね。

池澤:ちょっとリアルで行くというのがけっこうキツいなって、最近思っていて(笑)。

小笠原:(笑)。

池澤:それでいうと、また最近MOOCに私チャレンジしているんですけど、オープンソースソサエティユニバーシティという。

川原:はい、はい。OSSU。

池澤:はい。一般的なコンピューターサイエンスのカリキュラムに合わせて、さまざまなMOOCの教材をリスト化して、それで学部相当のコンピューターサイエンスの知識が身につくようになっているという、オープンソースの大学みたいなものなんですけど。

コンピューターサイエンスの前提知識がある程度あるからかもしれないんですけど、授業を受けているとすごいおもしろくて、お皿洗いながら見れたりするので、個人的にはオンラインならではの良さというのをすごく感じています。

小笠原:なに、その「ちゃんと家事やっている」感。

川原:(笑)。

池澤:お皿洗いの合間に見ているんですよ、CS50とか(笑)。

オンライン・オフラインでの「授業の価値」の違い

池澤:そうなってくるとやはり、オンラインでやっている授業の価値と、オフラインでやっている授業の価値というのが、今後分かれてくるのかって思っているんですが。お二方、そういう点についてどうお考えですか?

小笠原:そうですね。さっきの課題の裏返しでもあるんですけど、芸術大学なので、やはり「手を動かしてなんぼ」というところもあるんですよね。手を動かしてなんぼをやりたい放題やれるために本当は大学の場ってあるはずで。オンラインだとできない、オフラインだとできるということの価値をシンプルに上げていけるのかなと思っているということ。

普段、学生がいっぱいいる状態だとなかなか使えないというところが、逆に使えるようになるというのもあるので。オンラインにトレードした分、オフラインの価値は増えていって、より使いやすくしていくというのが、今からやって違いとして出していかないといけないところかなと思いますね。

池澤:けっこうオフラインの授業というのも変わってきそうなのかな。どうなっていくのかなと個人的に想像できないほど気になっているんですけど。川原さん、いかがですか?

川原:そうなんですよね。とくに芸術だとそうだと思うんですけど、あいつがこんなの作ってて、「あれ、いいじゃん」と思ってそれにインスパイア受けて、さらに二次創作じゃないけど。

小笠原:そうなんですよ。

川原:そういう創発ができないのはすごく痛いですよね。

小笠原:やはり、創発の場というのにリアルな場が効いてくるというのは、さっきの働き方とかオフィスという話の中でも出てきたんですけど、とくに電通の方が「創発の場がほしい」と。オンラインだけでつくる創発は、まだ慣れていないというのも含めてまだまだ足りなくて、オンライン・オフラインを混ぜていく、そこが僕は価値として一番大きいのかなと思いますね。

あと、リアルにモノですね。巨大なイーゼルとかしんどいじゃないですか、自宅で。例えばうちの大学だと、いわゆる保育士さんになる人を育てたりもあるんで、ピアノとかそういう音楽、合唱とかというのも。

合唱だったらもしかしてnana musicとかね、ああいうのでみんなで合わせてもいいのかもしれないけど。やはり子どもに教えることを前提に教わらないといけないから、そういうところはしんどそうだったり、ダンスとかそういうところ。

この間、後輩に頼んでいたのは、骨格推定とかで50人が踊っていたときに、先生の踊りとものすごいずれているやつだけピックアップして表示できないかなとか。リアルとオンラインをなんとか融合させるということも、ちょっと考えようとしていますね。

川原:楽器の弾き方1つにしても、細かなニュアンスとかは絶対こういうZoomとかじゃ伝わらないですよね。

小笠原:まだ、伝わらないですね。

池澤:そうですよね。あと、やはりシェア工房みたいな、道具がないと成り立たないようなものってたくさんあると思うんですよ。とくに研究分野になってくると。基礎教養みたいなところは、もしかしたらオンラインで全部代替できるかもしれないんですけど、そういった研究活動という面ではすごく難しいのかなと感じるんですが。川原さん、いかがですか?

川原:そこが今一番、大学が「この1ヶ月どうしよう。これから先1ヶ月どうしていこう」って考えているところですね。研究は完全にストップしています。生物系では、その研究室秘伝のマウスみたいなのがあるんですよね。

特殊な遺伝子を持っていて。それを活かさないといけないし。ずっと世話しなきゃならなくて。そのコストもかかるし、研究しないと世界の競争で敗れちゃうというのもあるので。それを「いかに3密を防ぎながら、1人2人で実験して良くなるようにするにはどうしたらいいか」というのは、一所懸命に議論しているところですね。

小笠原:そうですよね。思想、思考以外の、何かフィジカルにやらなくちゃいけないことをどうするか。そこをテクノロジーでなんとかしたいんだけど、そこがまだ噛み合っていないですよね。

川原:たしかにな。

オンライン授業での双方向コミュニケーション

池澤:たしかにそうですよね。ここで、Twitter上で質問が来ています。「オンライン授業での双方向コミュニケーションってどうやってやるんですか?」。こちら、双方向的な授業ってどうやるの? みたいなことだと思うんですけど。実際これ、どうやって今、3週間の授業を乗り切ったかを聞いてみたいなと思います。

川原:東大の場合は、オフィシャルに全員がZoomのプロアカウントで500人まで収容できるものを契約しました。まさに今、やっているこの感じですね。スクリーンシェアしたりコメントしたり、あと質問・投票機能があるので、それで小テストみたいなのをやってみたりとか。

あとは、パソコンに小さなカメラを付けて、それでものづくりの授業とかで「ほら、裏がこうなっているから、これ、こうやって作ったんだよ」みたいなのを見せていて。逆に教室でやるよりもいい見せ方ができています。

さらにフィードバックとかも、投票までしないまでも手を挙げる機能とか。「はい」とか「いいえ」とかだけで答えられる機能があるので、むしろ100人以上が受けるような、みんな座ってて顔が遠くて見えない講義をやっているのと、エクスペリエンス的にはそんなに変わらないなという印象ですね。

池澤:うん、うん、うん。

小笠原:たしかに。うちのコースだと、今の1年生のAO組と、2年生、3年生はSlackでのコミュニケーションが基本なので、たぶんですけど講義はZoomなどで画面で見て耳で聴いて。その合間のコミュニケーションというのは、Slackでテキストベース。

今までも、例えば「このテーマについて、何かブレストぎみにアイデア出して」というときにグループワークしてもらって、その中のアイデアを「このSlackの、このスレッドに入れていって」みたいな感じで残すようにしてて。「いいと思うのにリアクション付けて」みたいなかたちで可視化はしていたんですよね。

やり方は変わらないので、他の先生方にもできればそういう使い方をしてもらえればいいなというのを広げようとしていますね。

池澤:やっぱり遠隔だと一番損なわれやすいのは、雑談じゃないかなと思っていて。雑談的なコミュニケーション。けっこうITに慣れている人だと、Slack上で無駄話とかできたりすると思うんですけど。慣れてない人だと、そこに切り替えるのがちょっと難しいんじゃないかなって個人的には感じているんですが。みなさんそういう不慣れな生徒さんとか不慣れな教員さんとかと、コミュニケーションを取ったりしてますか?

川原:私が教えてるのは工学部なので、基本シャイな学生が多いんですけど。なんかTwitter上ではやたら饒舌な奴が多いわけです(笑)。そうするとリアルな授業でも勝手にハッシュタグができてて。

「質問ありますか?」って言ってもリアルな教室では1個も出ないのに、Twitter見てるといろいろ上がってるみたいなのが。それがシームレスにインテグレートされたのが今の授業の感じです。手上げてまで質問するのは恥ずかしいけど、チャットならコソッと聞けるみたいな感じ。むしろ質問が増えている感じがしますね。

池澤:あ~たしかにそれはあるかもしれないですね。だって手上げたら、授業だったら100人が注目しちゃいますもんね。それはちょっと恥ずかしいから、Twitter見てる人だけ反応してほしいみたいな。

小笠原:そうですね。10人から15人くらいだとたぶん上げやすくて、それより増えていくと上がりにくくて。逆に4、5人とかだと自分だけが言ってるみたいになってまた言いにくくなってみたいな。人数はいい加減に言ってますが、リアルなりの制約ってあったはずなんですよね。

まずはオンラインでその制約を外すやり方を、どう進めていくか。テキストのコミュニケーションもあれば、いわゆる音のコミュニケーションもあり、画像・画質に関してはある程度今はあきらめてやっていったほうがいいのかなぁとは思いますけどね。

川原:画像・画質も実は評判良くてですね。前は一番前に座らないと見えなかった(黒板の)文字が、どこに座っても見えるっていうので。あと板書取らなくていいっていう。

小笠原:あ~! すみません、僕まったく板書しないので(笑)。

川原:録画しとけば見返せるしっていう、いいことづくめだと。

コロナ後の就活への不安

池澤:たしかに録画残るのはいいなぁ。また質問が来てます。Twitterからです。「修士1年ですがコロナで学校に行けず自宅で研究活動をしていますが、この2年間で修了できるのか。就活できるのか不安です。お2人のご意見を聞きたいです」とのことです。

小笠原:まあでも東大とうちだと取り組みがぜんぜん違うしな(笑)。

川原:研究室にもよりますよね。やっぱり、ものづくりとか装置を使わなきゃいけないところはどうするんだろうっていうのはありますけど。ソフトの研究はむしろ生産性が高くなってるんじゃないかなと思います。

うちの研究室は半々くらいで、ハードとソフトがあるんですけど。「今の状況ではソフトのほうがいいかもね」みたいな言い方はして、なるべく幸せに卒業できるようにはがんばってますけど(笑)。

池澤:うわぁ~。でもハードの研究もすごく大事だと思うので、そこが滞ってしまうのはすごく悲しいですね。

川原:3Dプリンターめっちゃ買ってますね。学生見てると(笑)。

小笠原:でしょうね。

池澤:安くなってますもんね、だいぶ。今の時代。小笠原さんはいかがですか?

小笠原:僕は正直、うちのクロステックデザインコースはぶっちゃけ起業してほしいっていう気持ちもあり。スタートアップへの就職っていうのも、芸大からも考えてほしいっていう思いもあり。っていうのが一番優先度としてはあります。その次にまた違う道っていうのを見つけて、というのをもともと思っていた部分があって。

優先度1位がスタートアップへの就職、もしくは起業っていうことで言うと、オンラインってそんなにハンデにならない。ただ全学で見るとやっぱり絵を描きたい人もモノを作りたい人もいて。工学部の話と一緒で。またアート系って、モノがでかいんですよね(笑)。超巨大なものを作ったりする人もいるから。あんなの家でできるわけないので。

できればサテライトの工房とか……ずっと非常事態宣言なわけはないので、オンライン前提なんだけどわりと近くでモノが作れる環境ができたり。逆に大きいものを作るときは大学に来やすくしたりとか。という方法を考えていかないといけないんだろうなと思ってますね。それによってやっと就職というか希望進路につながるのかな。

コロナ収束後、オンライン授業は終わってしまう?

池澤:ちなみにというか、私の個人的な興味からの質問なんですけど。コロナが収束したらこうしたオンライン授業の流れっていうのはそのまま終わってしまって、また大学に戻っていくのか? それとも融合した授業が始まるのか? それともまた違うかたちなのか? っていう、お2人の予想をお聞きしたいなと思います。

川原:私はそのまま、授業のコンテンツを使っていきたいなと思いますね。教室で配信するのかどうかはよくわからないですけど。

小笠原:僕はこれ、めちゃくちゃ可能性が広がると思っていて。例えば、授業で1コマ作って日本に居ることにこだわらず、京都芸術大学で教えてほしいと。そこで例えばRCAの先生にお願いします、と。なんとかお互いの時間を合わせて、時差はあるものの。現地から教えてもらうということが可能にもなるし。

今、文科省が学部で60単位、大学院で全単位オンラインオーケーにはしてるじゃないですか? この間、学則変更もしてもらって海外で受けることもできるようにしたので、留学生にとっても例えば、半年は日本にいればいいとかっていう状況ができたりすると、もっと学生が混ざる気がしていて。

そこの多様性に対して、適応していくようなコンテンツに昇華していきたいというか。すごく情緒的かもしれないし、ちょっとビジネス的な話もあるかもしれないけど、やっぱりオンライン教育が大学に参加する人たちが増えるきっかけになるんだろうなっていうのを、期待してやっている感じですね。

学生のPC環境と試験について

池澤:ありがとうございます。ここでプレスの方からの質問を募集したいと思います。質問がある方はZOOMの挙手ボタンを押していただけると嬉しいです。

小笠原:あ、村上さんだ。

質問者1:聞こえますか? 村上タクタです。

小笠原:ごぶさたでーす。

質問者1:ご無沙汰してます。いくつか質問があるんですけれども。3つ。1つは学生さんたちのデバイスと回線の様子はどうなっているのか? 例えば今だと、自宅にもう回線を引いてないというような子たちもいると思うんですけど。そういう人はどうしているのかと。さすがに大学生だとパソコンとかは持っているのかなと思うんですけど、そのへんの様子はどうなのかと。

あと試験。進級試験が必要になってくると思うんですけど、それは今後どうなるのか? 実はうちの娘がオーストラリアの学校に行ってるので、すでにオーストラリアなりの答えを僕は聞いたんですけれども。

もう1つ、小中高が「5月になったら始まるんじゃねぇか感」でやってますけど。いや、これ始まらなかったらどうすんの? っていう感じが僕は非常にするし。すぐに全員オンラインで授業受けられるようにしてよ、みんなスマホ持ってるんだからって思ってるんですけど。そこの3点伺いたいです。

池澤:ありがとうございます。

小笠原:どっちからいきましょうか?

川原:私のケースで話しましょうか。東大の場合は、工学部の電気電子工学科・電子情報工学科は、ない人には配るということをやってます。けっこうスペックの高いパソコンを使うような実験があるので、配るというのはもともとやっていたということで、それで対応しています。

回線に関しては、アンケートを取るとだいたい10パーセントくらいが通信制限がある回線を使っていました。それをどうするかっていうので、実験的に「モバイルルーターを貸し出すよ」って声をかけたのですが実際に申し込んだのは、それをはるかに下回る、数パーセント台でした。

結局その10パーセントの人も、自助努力でなんとかした。あるいはキャリアの通信回線の容量アップが無料でできるっていうものを利用したのだと思います。ただそれは東京の23区とかの周りに住んでいる学生が多いっていうのが、全国のほかの大学とはちょっと違う感じかもしれないですね。

試験に関しては、僕はプログラミングの授業をやってたんですけど。それは時間内にプログラムを何問解くみたいな感じで。何を見てもいいっていうのをもともとやっていて。それもオンラインのLMS上でやっていたので。私の授業に関しては問題ないんですけど。それ以外の手で計算するような数学の問題とかはどうするんだ、みたいなのはちょっとわからないですね。担当の先生がお考えだと思います。

小中高に関しては、たしか昨日今日くらいで千葉、埼玉、東京あたりはやっぱり5月もやらないってい決めたんじゃないのかなと思いますので。本当どうするんだろうなぁって感じですね。

うちも小学生の子どもがいるんですけど、毎日メールで報告してその日の日記を出して。あとプリントがPDFで送られてきて、それを印刷して提出みたいな。そういうことをやってますけど。どうするんだろうなっていう感じですね。

質問者1:ありがとうございます。

小笠原:うちでいうとデバイスに関しては、基本AdobeのCreative Cloudが使える程度のPCを入学時にみんな買うので。まずPCで困ることはないです。スマホもほぼほぼ90数パーセント後半くらい持っているので。ZOOMでやるときにPCとスマホで2画面でとかもできるくらいで、そこはそんなに問題ないと思います。

数字的には僕のコースでしか取ってないんですけど、僕のコースの学生はいわゆるインターネットが部屋に来ているっていうのが80パーセント後半だったので、そこでのとりこぼしがある人についてはどうするかを今考えているところですけど。基本的には通信に問題はなさそうだなぁと思っています。

試験に関して言うと、ぶっちゃけ芸大なのでいわゆる筆記試験と言われるものは比較的少ない。どっちかというと制作物とか課題。その制作物を家で作れるものに限定するってなると、なかなか大変そうだなと思っています。

ちょっとした機器がないと無理とか。例えば僕のコースとか全学の工房みたいなところって、DMM.makeとほぼ同じ機材が入っているので。あれが使えるという前提で作れるものと、そうじゃない状態というのは違うので。もしかしたらいろんな企業さんにお願いして、オンデマンドでの出力とか。大学でも教職員が対応しながら出力をして、データの制作に関して評価するとかっていうことも出てくるかもしれないですね。

小中高でいうと、僕も中学生・高校生の子どもがいるので。あと今年から自転車のビルダーになるために専門学校にいく子もいるのであれなんですけど。高校生の次男はN高なのでまったく平穏ですね。

質問者1:あ~。完璧ですね。

小笠原:完璧ですね(笑)。逆に今、大学にN高生が入ってきてるので、N高の先生より教え方が下手な先生が突つかれるんじゃないかと思って、ちょっとビクビクしてるくらいの(笑)。

質問者1:N高の先生は慣れてらっしゃいますもんね。

小笠原:そうですね。小中で言うとLINEさんとかもやられてますけど、オンラインの授業をけっこう配信されているので。ああいうのを積極的に家庭でいかに進められるかっていうのは、この数ヶ月の間はすごく大事なんだろうなと思っていて。いわゆる親の情報収集能力と、それをいかにやりたくなるよう伝えるかっていう力のほうが。けっこう子どもが云々というよりは家庭の問題として捉えてますね。そこは。

質問者1:そこはまた教育格差が出るところですよね。残念ながら。

小笠原:出ますね。ただそこについても人生の中でいうと、取り返せる程度の差しかつかない気がするので。若いときにやらなきゃみたいな話は……最近、孫泰蔵さんと能力の話によくなって。「3歳までになにかさせなきゃ」とか、ああいうのってほぼ迷信だよね、みたいな。本当はエビデンスがあるかもしれないですけど。そこにあんまり固執しないほうがいいね、っていう話をよくしていて。

10代での数ヶ月の学習って、大事だけど全てではない。それでいうと僕、高卒なんですよね。大学教育なんて受けてないけど、大人になってからきっかけもらってやりだして楽しくなっちゃったタイプなので。親御さんの気持ちもわからなくないですが、少し長い目で見てあげてほしいなというのは正直思います。

質問者1:そんなんいつでも取り戻せるやんということですね。

小笠原:という気がしています。

質問者1:わかりました。ありがとうございます!

来年の入試はどうなるか

池澤:ありがとうございます。続いてなんですが、日本経済新聞社のウエダさんより質問をお願いします。

質問者2:聞こえますか? さっきから楽しく拝聴させていただいておりました。2つあって。今回のオンラインの授業というのがすごく浸透して、それが定着する的な前提なんですけど。1つは来年の入試ってどう変わるのか? あるいはそもそも、とくに教養とかだとたくさんの学生が参加できるのであれば入試なくなっちゃうというか。ということがあったりするのでしょうか?

2つ目は入試の若い人たちだけじゃなくて、大学の授業がオンラインで参加できるようになったら学び直し的なこともあって、さらに高等教育の無償化とかもあるので、例えば東大なり京都芸術大学の講義が広く一般の人も参加できるような状況になったりするのでしょうか? そうなったらいいと思われますか? ちょっとそれはあまりよくないでしょうか? 以上2つでございます。

小笠原:じゃあ僕からいきますね。まず芸術大学で考えると、リベラルアーツも含めてなんですけど。学び直しであったり生涯学習とかそういったところは、どんどん積極的にしていただきたいと思ってますし。

京都芸術大学って実は通学が3000人強、通信が8000人弱いますので。そもそも、そこで学び直しをしていただいているというのもあったりします。その部分が今までの通信とは違って、いわゆるオンラインといわれる状況が入ってくるので、もっとやっていただけるんだろうなと思っていたり。

ただ課題感としては、通信のほうで90何歳のおばあちゃんが学生だったりするんですね。そういう方々に「オンラインをやりたい、やりたくない」によって、押し付けたりすることにならないようにしたいなぁとか。そういうのは一教員としてはすごく思ってたりします。

今年の入試に関しては、うちの大学はAO入試を重視しているので。本来、来ていただいてそこで接してみて、取り組み方を見たりしながらいろいろ考えさせていただいているんですけど。ぶっちゃけそれがしにくくなる。

とくに僕のところだとチームやグループワークとか、わりとそういうのを重視したりすることもあるので。そういうのをオンライン上でどうやっていこうかなっていうのは、まだちょっと悩んでいるところだったりはしますね。

質問者2:ありがとうございました。

川原:東大は入試はいろいろな検討がされている段階です。大学院入試は夏ごろありますので。それまでになにかの結論を出さないといけないのだろうなと思っています。

定員を課して取る枠と、またプラスアルファの学び直しとか高等教育の無償化に関係するような枠や教育プログラムは、別のものだろうなと私は個人的には思ってます。後者のほうはいくらでも、Moocのようなものでもいいし、全員に門戸を開いてでいいと思うんですけど。

しかし、大学教育にはやっぱりどうしても、コストをかけて物理的に集まって伝授しなきゃいけないものっていうのはあります。そこにキャパシティがどうしてもかかってしまうので、一定の定員の枠のあるコースというのはどうしても必要なんだろうなと思います。

例えば医学部とかで、本当にオンラインのコースだけで医者になれるのかっていうと、それは誰もがノーって言うと思うんですね。それはほかのところも一緒で。工学部も、電子回路を教えるのに回路シミュレーターってあるんですけど、やっぱり、1回間違った回路を作ってショートさせてボンって爆発させて覚えるようなこともありますし。それにはやっぱり物理的な教室で、物理的なリソースを与えて、1人ひとり付いておしえるのが必要ものもあると思います。

あと学生間のインタラクションですね。今、実験ができないのでプログラミングをオンラインでチームを組ませてやらせてるんですけど。やっぱりシャイな学生は「ここわかんないから教えて」って聞けないんですね。

8割方の学生は、教材をちゃんと整えてあげると自分たちで解き進められるんですけど、2割くらいは誰にも聞けない。TAが用意してZOOMでいつでもつないでいいよって言っても、それでも聞けないっていうのがいるので。

でもとなりに座ってると「あ、こうやるんだ」ってパッと聞けるっていう。それができてないのはまだ痛くてですね。やっぱりフィジカルなところは必要になってくるんだろうなとは思いますね。

質問者2:ありがとうございました。

池澤:というわけで時間もいい感じになってきたので、ここで最後のセッション5を終了したいと思います。みなさんどうもありがとうございました!

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