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コミュニケーションとしての英語 英語で日本人が当たり前にコミュニケーションすることを考える(全8記事)

「英語でプレゼンができない」のは語学力のせいではない 一流の通訳者が語る、日本の英語教育の盲点

日本人は必修科目として英語を勉強しているにも関わらず、英語への苦手意識を捨てられない方も少なくないのが現状です。本イベントでは、「異文化と協働-相手を納得させるコミュニケーションを考える」と題して、英語圏でビジネスをして、圧倒的な成果を上げているプロフェッショナルたちが一堂に介し、自身の英語学習の秘訣や日本の教育システムの課題について意見を交わしました。本パートでは、日本での英語教育の現場が抱える悩みにアドバイスを送りました。

高校の英語教育の現場の悩み

質問者2:どうも、こんには。今日は安河内先生とATSU先生がコラボということで、すごい時代になったと思いました(笑)。

安河内哲也氏(以下、安河内):30ぐらいも違うんですよ(笑)。

(会場笑)

質問者2:2つありまして、1点は質問と、もう1点は感想です。まず1点目の質問ですが、私は高等学校で英語科の教員をやっております。今日、実践的な英語力や、プラクティカルといったお話もあったんですが。では実践的なものやプラクティカルなというのは、一体何なんだろうといったときに。

実際に授業などをやっていて、まず1つが、英語にいく前の、例えば考え方といいますか、クイックレスポンスができないといったこと。お題があって「はいどうぞ、ではどう思いますか」と言ったときに「……」と止まってしまったり。内容も、簡単なトピックであっても論理的に考えられないなど。そういった英語以前の問題もかなりあると思います。

そこで、最後の田中先生のお話にもあったと思いますが、文化的な要素というものも、やっぱり今の英語教育には欠けているのではないだろうかと思っています。先生方、どなたでもいいのですが、そういった英語流の考え方など。

クイックレスポンスなどもそうですが、そうした英語流の考え方をどのようにして磨いていったのか。英語教育ではこのような点をやればいいのではないかということを、ひとつうかがいたいと思います。

そして、もう1点は最後に感想です。安河内先生の講演も何回か拝聴させてはいただいていますが、やはり「Fluency first, accuracy second.」ですよね。たしかにおっしゃることはよくわかります、そのとおりだと思います。けれども、やはり学校現場ではコミュニケーションと入試というものを、高い次元でバランスよくやっていかなければならないというのが、やはり今の現状です。

文法クイズに正解できるように、文法の授業であったり、入試や学校の小テスト。テストがなければfluencyをどんどん使ってやっていこう、「どんどんしゃべって」という、そこができるのではないかと思うんですが。現状のままだと「でもやっぱり文法もやらなきゃいけないよね」という先生が非常に多いのではないかと思っております。ありがとうございました。

知識だけでは戦えない時代に必要なのは「知性」

松田亜有子氏(以下、松田):ではでは、(田中先生)お先に……。

田中慶子氏(以下、田中):文化的な背景を含めた英語、ということですね。本当に、まさにおっしゃるとおりだと思います。日本人の受けている教育は、最近になって変わりつつはあるんですが。私が不登校になった理由の一つでもおそらくあると、自分で言い訳するようですが(笑)。

とにかく「知性」ではなく「知識」をつける。だからはじめから正解ありきで、その正解をいかにたくさん覚えるかという。たくさん覚えた人が優秀ということが、どうしても日本の教育としては強くあるように思うんですね。

私が今、通訳として世界の人といろいろな仕事をする中で、やっぱりそれでは戦えないと思うんです。まさに「VUCAな時代」など、いろいろと言われていますが、不確定なことがたくさんありすぎる。それから、昔のやり方でやればうまくいくわけではない、ということがあるし。

あとはそもそも、文化や習慣が違う人と一緒になったら、ベースになる常識がない。そこで知識だけで戦おうと思っても、やっぱりすごく難しいと感じるんですね。ですから先ほど、私が大学院で今、英語学習の研究をしているというお話をしましたが。

「英語学習、英語の勉強をしましょう」と言いながら、実は真の野望は、覚えるとか、知識で溜め込む英語ではなく、自分の知性や思考力を磨くような学習を自分でできる方法を考えたいと思っています。

英語でも日本語でも、何を伝えたいのかを考えることが重要

田中:実は先週、私はとある企業のグローバル会議がありまして、10日間ぐらいアメリカの砂漠で過ごしていました。一昨日帰ってきたんです。そのときに、そのグローバル企業の日本支社の支社長が、全員の前でプレゼンをしなければならないということになりました。

プレゼンで与えられた時間は10分間。でもそれは通訳を入れると、10分間だと正味4分ぐらいになってしまうんですよ。やっぱりそれはすごくつらいというか、「せっかく持ち時間が10分もあるのに」ということと、あとはもうひとつは「みんなの前でカッコつけたい」と。「ぶっちゃけ俺はいいカッコしたいんだよ」とおっしゃるわけです(笑)。

ですから、ではでは英語でスピーチをしましょうか、という話になったんですね。やっぱり英語で話すとなると……私、英語はスケープゴートで「冤罪を受けてる」とよく言うんです。

例えば「プレゼンをするときに英語だからできない」という相談をよく受けるんですが。たしかに支離滅裂で何を言っているのかがわからない。ではまず「日本語で言ってみて」というと、やっぱり支離滅裂で何を言っているのかわからないんですよね、大抵の場合は(笑)。

(会場笑)

ですから先ほど、岡田(兵吾)さんの話に「3C」という話がありましたが、まずは何を自分が言いたいのかを、日本語で頭にまとめるという能力が大事だと思うんです。

安河内:うん、そうだね。

田中:先ほどのグローバル会議で10分間スピーチをした日本支社の社長は、「やりたい」と本人が言い出したので、「やりたいんですね」というところからコーチングをしました。「まずは何が言いたいのか日本語で言ってください。そしてそれをとにかく削って、削って、シンプルな言葉でポイントだけ自分で言ってください。そのポイントを英語に直してください」ということをやってもらったら、なんとこれがすばらしいスピーチになりまして(笑)。

使っている単語はものすごくシンプルで、本当に中学・高校生レベルの単語だと思います。だけどシンプルで、何を伝えたいかが練り込んであるから、聞いてるほうも「すごくわかりやすかった」と大絶賛されていました。私もすこしびっくりしたんですが(笑)。

ですから、やっぱり本当におっしゃるように、まずは何を伝えたいのか。そして正解を覚えるのではなく、私はどう考えるか、感じるかということを、自分でまず知ることですね。本当に日本の教育制度の中では難しいかもしれませんが、ぜひ生徒さんには伝えていただきたいと思います。

質問者2:ありがとうございます。

正しい文法よりも、自分の気持ちや考えを伝えることが大切

岡田兵吾氏(以下、岡田):すいません、1点私も補足をしてもよろしいですか?

松田:はい、お願いします。岡田さん。

岡田:ありがとうございます。今、田中さんがおっしゃった「私はこう思う」というところが、とくに大切だと思うんですよ。いろいろな非ネイティブでいろいろな発音だ……。

(通信途絶)

(会場笑)

安河内:いや、いいところで(笑)。

田中:ね、すごく聞きたい……(笑)。

岡田:すいません。えーっとね、一番今言いたかったのは、聞こえます?

松田:はい、大丈夫です。

岡田:田中さんもおっしゃった、「まず私はこう思う」ということ。なぜならば、とくに英語で私自身も気を付けてきたことですが、結局becauseで「私はこう思うんだ」と。「自分の考えはこうですよ」、「私はこういう指針を持ってやっている」ということを、非ネイティブというか、日本人として英語を話す中で練習していくことが大切だと思います。

練習方法としては、先ほどATSUさんがおっしゃったようなかたちで、私もよく鏡の前などでひとりごとを言っているんですよ。ジェスチャーも交えて練習しています。

でも、いろいろなときに、やっぱり「私はこういう理由でこういう決断をした」、例えば「今の香港問題に興味があるんだ、私はこう考えている」、「私はこういう世の中、民主・自由を勝ち取る世の中に変えたい」でもいいんですよね。なにか自分の気持ちを言っていく。

そう言いますのは、よく日本人は英語が間違っている・間違っていないと不安に思うんですが、英語が正しいか間違ってか判断を決めるのは我々ではありませんし、聞いてる相手がわかるかどうかなんです。そして聞いている相手は、別に文法のきれいな英語を聞こうとは思っていないと思います。浪花節な、その人となりがわかる英語を聞きたいと思っているはずです。

英語でも自分のキャラを出してコミュニケーションをすべき

岡田:結局、我々は日本人同士でもそうだと思うんですね。関西弁だろうが標準語だろうがズーズー弁だろうが、話をしているこの人に魂があって、どういう想いから言っているのか。それがわかってはじめて「この人だから付き合いたい」という気持ちになっていくと思いますから。臆さないで、とにかく「Yes/No」だけで終わるのではなく「because」、なぜなら私はこう思うんです、というような感じですね。

自分のキャラを出してコミュニケーションをしていけば、自然に英語が話せる外国人も増えていくような気がします。それで通じなかったら、そのときにはATSUさんがおっしゃったように練習して、correctして、わかんなかったら安河内先生や、みんなに表現を聞いて、またそれをSkype英会話などで使っていけばいいと思います。

松田:ありがとうございました。やっぱり本当に「何を伝えたいか」というもの、まずそれがないと、そもそも英語を使うというこもありませんものね。イメージトレーニングも含めて。音楽家の指揮者もいつも家の鏡の前で練習をして、そして80人のオーケストラの前でリハーサルを組む。音楽ができあがっていないと、オーケストラの80人を引っ張ることはできませんから。やっぱりいかに伝えるか、そして自分がいかにイメージを、言葉を持っているかですよね。

昔、巨人の長嶋選手……という方のことはわかりますか? みなさま、お若いからわからないかもしれない(笑)。長嶋監督のいつもそばにいた方が、非常にクラシック音楽がお好きで、コンサートにいらしたときにこうおっしゃったんですよ。「長嶋監督は『今日、俺は3ランホームランを打って、そのあとにあの居酒屋に行って、あの魚を食べる』と、その魚の匂いまでイメージしている」と言っていました(笑)、そこまで完璧に。

だからやっぱりイメージトレーニングを含めて「何を」という、そこがなければいけません。私はみなさまの話を聞いていて、英語だけではなく、なにもかもいろいろなことがイメトレなしではできないんだと思いました。

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