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ICT教育が地域にもたらすインパクト(全4記事)

海外に「プログラミング教育」という言葉はない EdTechの先駆者が説く、IT人材の育成法

2019年2月3日、一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合・スタートアップ都市推進協議会が主催する「地方創生ベンチャーサミット2019 ローカルテック(地域×テクノロジー)の可能性」が開催されました。「ローカルテック(地域×テクノロジー)の可能性」を全体のテーマとし、地域におけるテクノロジー活用がもたらす効果や課題について、中央省庁・自治体・民間事業者の垣根を越えて、地方創生のキーパーソン・有識者たちが議論を交わします。本パートでは、「ICT教育が地域にもたらすインパクト」のセッションをお送りします。今回は、2020年から必修化される日本のプログラミング教育の今後について語りました。

英米では「プログラミング教育」という言葉がない理由

猪熊真理子氏(以下、猪熊):プログラミング教育と聞くと、どうしてもプログラミング言語を覚えていくようなことを想像するんですけど、そういうものだけではないんですよね? 実際にプログラミング教育というものに含まれるのは、どういったことなんでしょう。

水野雄介氏(以下、水野):結局、プログラミングを学ぶのはツールでしかない。なんのためにやっているかというと、社会を変えるために学んでいるから、社会を変えるために、例えば産業を興したり、なにかのプロモーションをしたりと。そのためにプログラミングを学んで、アプリを作ったりするわけですよね。

だから、プログラミングのスキルが横軸で上がっていくとするなら、縦軸では僕らはアンビシャスと呼んでいるんですけど、つまり志やビジョンといったもので、課題を立てる力、課題を見つける力、仲間を巻き込む力もすごく重要になってくるんですね。

その両方がないと、プログラミング教育をしても、「プログラミング的思考ができるようになりました」となるだけで、なにも変わらないわけです。目的は、社会を変えられる人材を作るというところから、プログラミング教育を考えるべきなんじゃないかなと思っています。

佐藤昌宏氏(以下、佐藤):プログラミング教育が2020年から必修化されるんですけど、海外にプログラミング教育という言葉があるかというと、ないんですよ。

例えばアメリカだったらコンピューターサイエンス。「プログラミング・フォー・オール」という言葉は使っていなくて、「コンピューターサイエンス・フォー・オール」と言っているんですよ。イギリスに関しても、コンピューティングと言っていますが、いわゆるコンピューターサイエンスみたいな科目、教科が先にあるんですよ。

そのコンピューティングの中に、デジタルテクノロジー、ITリテラシー、コンピューターサイエンスが入っていて、コンピューターサイエンスのプラクティカル枠にプログラミングが必修化されている。つまり、プログラミングは最上位じゃないんですね。

日本だけ、プログラミングが最上位になってきちゃったんです。高度IT人材を育成しましょうという流れから、どうもプログラミングという言葉が先行して、コンピューターサイエンスよりプログラミングが上位にきてしまった。それが、学校現場を混乱させている原因の1つで、ミスリードの原因の1つだと思います。

プログラミングができるだけでは高度IT人材とは呼べない

佐藤:つまり、IPアドレスもわからずに現場で学んでいる子がたくさんいる。だから掲示板とかLINEで、言葉は悪いですけれども、匿名だったら殺人予告とかできる、みたいな子がまだまだ出てきちゃうんです。

GoogleやFacebookのアカウントは13歳から取れますし、LINEはもっと早くから取れますから、そのために備えることの方を必修化するべきではないかなと思います。

それから先は、プログラミングでも映像編集でもCGでも、高度IT人材の道はたくさんあるんです。最終的には、プログラミングは確かに共通するんです。ただ、もうちょっと下の土台の部分を必修化すべきじゃないかなと思いますね。

猪熊:実際、かなり基礎的なリテラシーも絶対に必要で、かつスキルがあったり、水野さんがお話しされたように、かなりアントレプレナーシップに近い素養があって、社会に対して活動していける部分があるんだなと思います。

山口さん、実際に地域の中で地方自治体とも取り組みをされているとお聞きしましたが、実現していく中での課題についてはいかがですか。

山口文洋氏(以下、山口):地方創生だけの話に限らないと思っているんですけど、1990年代後半からインターネット社会になってきて、新しい文化やエクスペリエンスは、国や自治体から広がっていくわけじゃない気がしているんですよ。

(テクノロジーは)民間から勝手に使われて、それでみんなが「便利だ」とか「世の中を良くしている」と思ったら、広がっていく。良かれと思ってEdTechの普及をやっているんですけど、自治体管轄の義務教育よりも、ある意味、権限が移譲された中等教育の方が速く広がっているんですね。

国全体のリテラシーが上がらなければEdTechが広まらない

山口:さらに言うと、いわゆる民間で、一人ひとりの子どもが「これ(EdTech)を使いたい」とか、親が「使った方がいいかも」と思ったら、もっとすごい勢いで広がっていると思ってるんですよ。だから、国全体がこういうものを使っていくべきだと言ってみたり、自治体の方も同様です。

本当に全体のリテラシーを上げてからそれが実現するというところで、いろいろなステークホルダーの方々やいろいろなレイヤーの方々が出てきて、最初に誰かが音頭を取って話をしても、話がストップしちゃっているんですよ。最後に、具現化していきましょうというのは10分の1ぐらいの確率なんですよね。

そういう意味では、このEdTechを広げて、教育現場をよりよいものにアップデートしていくには、もしかしたら中等教育、とくに高校は、公立であれ権限がかなり移譲されているので、そこで自由な教材、インフラが選ばれていくと思います。義務教育のところも、もしかしたら自治体が音頭を取っていくかもしれません。ただ、それは理想というか、つくづく難しさを感じています。

猪熊:かなりの可能性があると思うんですけど、現実化していくときにかなりの難しさ、葛藤がおありになるんだなと思いました。

ここから先は、未来というか展望の話をしていきたいなと思います。教育とテクノロジーが出会うことによって、例えば地域にいらっしゃる人材、もしくは働き方や暮らし方がどのように変わっていくと思いますか? もしくは、その地域全体のエコシステムがどういうふうに変わる可能性があると思いますか? 水野さんからいいですか?

日本の起業率5~6パーセントを3倍に上げる

水野:結局、シリコンバレーにもスタンフォード大学があって、そこに育成するためのVCなどのエコシステムがあって、どんどんイノベーションを起こす企業が生まれてくるわけですよね。

それは人に依存するので、地方で東京などにも負けないような人材が生まれてくる可能性は……どこでも同じ学びが受けられて、学びたい人がどこでも教育を受けられるようになってくるので、最初のゴール設定とやり方を指導できる人がいれば、そういう人材が生まれてくる可能性もあるなと思っています。

でもそれは、日本全体でやっていかなければいけないんですよね。そもそも、グローバルにチャレンジする今、2019年の市況がどうなるかわからないですけど、VCではけっこうお金が余っていると言われていて、cvg(キャンパスベンチャーグランプリ)などができている。でもやっぱり、起業家が少ないんですよね。

プレイヤーの数が少なく、起業率が5~6パーセントなんですけど、15パーセントくらいに上げないといけません。有名な話でみなさんご存知だと思うんですけど、アメリカでは、一番なりたいのが起業家、次がベンチャーに入りたい、次が大企業で働きたいという考え方で、日本と真逆です。

そういったマインドをチェンジする仕組みを考えることを推進するほど、そこで生まれてくる人材がイノベーションを起こす確率は高いと思っています。

猪熊:どうですか、みなさん。

「地方人としてのアイデンティティ」を確立するには?

山口:とくにテクノロジーを活かしていける時代になったからこそ、考えるべくは、リアルの学校の場をどういうふうに使っていけばいいのかに尽きると思うんですよ。

リアルで、いろいろなダイバーシティな人間が集まって、同じ空気の中でなにかをするということが大切で、そこに徹底的に時間が使われるようなカリキュラムになるべきです。個人でできること、バーチャルでもできることについては、どんどんICT化して、学校の中でも極限まで時間を短縮化すべきです。もしかしたら、そこが家庭学習の方に変化していってもいいのかなと思います。

また、SkypeやGoogleハングアウトを通じたバーチャル技術の進化でいうと、どのエリアにいながらも、その違ったエリアの人と常に通じる、相対できるんですよね。だから僕は、このダイバーシティ化する世の中において、住んでいる各地方で、地方人としてのアイデンティティを子どもたちが確立していくことが大事だと思います。でも、それを確立するには、日本の中での他の地域の人との違いを感じてこそですよね。

今は、自分の住んでいる地域は他と違うんだなと簡単に感じたりもできるし、気軽に海外ともつながれるんですよね。だから僕らも、実は同じタイムゾーンの東南アジアで、同じようなスタディサプリ的なサービスを提供している学校の授業の中で、今日はフィリピンの方につないで話してみようとか、今日はインドネシアの子たちとディベートしてみようとか。そういうことが当たり前にできるようなことを目指して、同時並行的に国内外でやっていったりするかもしれません。

そうなればミネルヴァ大学(※注:キャンパスを持たずに、4年間で7都市を移動しながらオンラインで学ぶ全寮制の大学で、世界最難関の大学と呼ばれる)のように、学校が小学校からシンプルにできてきて、「ああ、世の中は、アジアは、こうなってるんだ。日本はこうなってるんだ。自分の住んでいる地方、地域はこうなってるんだ」となっていけば、社会で共生する人材の育成ができるのかなと。そのために、テクノロジーを活かしていければなと思っています。

猪熊:ありがとうございます。佐藤さん、いかがでしょうか。

日本の地方で「リープフロッグ現象」を起こす

佐藤:テクノロジーベースでイノベーションを考えると、僕は地方の方が優位な時代が来るんじゃないかなと思っています。例えば海外の負担を考える場合、今回のセッションで出てるんだと思いますけど、「Think Globalでやったろうか」だと思うんです。

テクノロジーは、距離や時間といった条件を超えますから。新興国では今、「リープフロッグ現象」と言いまして……蛙跳びですね。ぴょーんと蛙が跳ねるように、例えば日本は固定電話が普及していますけど、普及していない国もある。でも、スマホとかの無線インフラが整えば、日本よりも通信の環境は整ってきます。

中国の金融もそうなんですね。スマホを手にしたら、これまで制度としてすごく時間がかかっていて、完成された仕組みを、いきなり蛙跳び現象として抜いていってしまった。そういうことを考えると、例えばこの間、ネパールで学校を作るというライくんとトークセッションに出たんですけど、そのときに彼はすでにリアルな学校を3つも作っていまして、今度オンラインの学校を作ると言ったんです。

そのオンラインの学校を作るときも、日本の学校を踏襲しながら作ると言っていたんだけど、それは「やめろ」と言ったんです。なぜなら、新しいゲームチェンジが始まるから、その中から日本のいいところは当然盗みながらも、新しい仕組みとして考えて、リープフロッグをやりなさいという話をしたんです。

この現象は、まさに地域の方がやりやすいと思っています。完成された仕組みを持たずに、しがらみに捉われずに進められるという意味では、地域の方がその現象を起こせるんじゃないかなと思っています。ちょっと楽観的だと思いますけれども、僕はそういった意味で、テクノロジーを使ったイノベーションを信じてやまないです。

猪熊:ありがとうございます。

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