2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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常見陽平氏(以下、常見):まずそもそも、「日本の大学はお金ないよね」っていう、まさに大いなる教育劣位社会だというね。濱中先生の研究で、そういうことを感じるというのがあると。
だから一方で僕が思うのは、大学ってやっぱり社会から、みなさんから、厳しく叩かれてしかるべきところはある。例えば、今教えている教え子たちで言うと、家族のなかで初めての大卒がうちの大学に来た子だったりするわけですよ。それは悪く言ってるわけじゃなくて、それはそれでいいことだと思うんだけれども。
僕はとにかくなんだかんだ言って民間出身だから、期待と払ってくれたお金に応えようとは思っているんですね。だから今は僕は、一応、学校の就職支援を推進する立場なんだけれど、ちゃんと奨学金を返せて使いつぶされない会社に行かせるということを大事にしています。
山口裕之氏(以下、山口):もっともですね。
常見:「就職率」の競争はもう終わりました。これからは「就職質」です。もちろん質というのは、単に企業のラベルだけで決まらないんだけれども、やっぱり奨学金を返せて、かつ、使いつぶされないということが大事だと思うんですね。かつ、その人が気持ちよく働けることが大事だと思っていて、そこに応えないといけないな、と。
山口:そうですね。けっこう学生たちって社会を知らないので。結局、自分たちの身近にいて目につきやすい人って、教師と公務員なんですよね。だから、教師、公務員志望が多い。でも、非正規率って、実は公務員がめっちゃ高いんですね。
常見:そうそう。公務員の非正規って、めっちゃ増えてる。
山口:教員もそうなんですよ。1年契約の産休の代用教員を非正規でやって、いつ果てるとも知れぬ更新を繰り返して、ようやくポストが空いたら採用されるかどうか、という感じなんで。最近、夢を追いかけるっていうのをめちゃめちゃ強調するでしょ。夢追いかけるよりも、やっぱり奨学金を返せることのほうが大事ですよね。
常見:いや、でもそれ、「同情するなら金をくれ」って二十数年前に安達祐実が叫んだんですけれど、極めて秀逸だと思いますよ、本当に。あと、夢という言葉ですけれど、「昔は夢があったのかよ?」と。法政の児美川(孝一郎)先生が『夢があふれる社会に希望はあるか』というキャリア教育の教科書みたいな新書で、極めて秀逸な本を書いていましたね。
山口:なるほど。「夢持ってないとアカン」みたいな感じになっていて、「おまえの夢何や?」と言われて、就職活動をすると自分の夢をこしらえていって答えるんですね。それを、言っているうちにだんだん「あぁ、俺の夢これや」って信じてしまう。
常見:それね、自己分析の講座みたいな。香川めいさんっていう、当時東大の院生だった人が、「『自己分析』を分析する」という秀逸な論文を書いてるんだけれども。まあ、自己分析の目的化みたいなことが起こっています。
ちなみに僕は一応、キャリア教育の実質責任者なんですけれど、僕のキャリア教育は自己分析はあまりやらないんですね。
山口:なるほど。
常見:やっても意味がないから。むしろ、「社会のことを詳しく知ろう」と。社会のことを詳しく知って、社会のことにだまされないようになってからのほうが、本質がわかる。ということで、ひたすら、楽しい現実と厳しい現実を突きつけ続けるんですよ。
山口:なるほど。
常見:うん。そういうのが、すごく大事だと思います。
山口:あと、労働基準法をちゃんと教えるべきですね、キャリア教育で。
常見:ワークルールですね。土屋トカチさんという映像監督がつくった『ブラックバイトに負けない!』というDVD。それを必ず1年生に見せるんですね。それを見せたら見事に今のバイトを辞めてくれるんですよね。
山口:なるほど。
常見:「これはブラックだった」みたいな。余談ですけれど、一方で今、採用活動をする側のほうで流行っている手法があります。変な意味で今増えているのが、「学力は関係ない」と言いつつ、成績表を提出させる企業が増えているんですよ。
山口:はあ。……今まで提出させていなかったんですか?
常見:してなかった。成績表って別に卒業してなくても出るんですよね。一方で「じゃあ、学業重視か?」というと「そうじゃない」という。なかなか厳しくて、一応表向きは学業重視なんですけれど。あのね、どうやら今、「学生時代に力を入れたこと」という質問が減ってるんですね。
山口:あー、それ聞いたことあるな!
常見:「学生時代に力を入れたこと」というと、アルバイトのことを劇的に話すんですよ。「笑顔で接客して、そしたら、笑顔で帰ってもらえました。この笑顔を活かして、営業でがんばります」みたいなバカなこと言うじゃないですか。
山口:笑顔で帰れ、って感じですね。
(会場笑)
常見:そんな劇的な居酒屋あるのかよ、みたいなね。この前、バイトの専門家に取材に行ったんですけれど、今のバイトって本当に科学になっていて。学生ががんばっているようで、実は全部演出されているというか、設計されているんですね。
山口:なるほど。
常見:この前聞いておもしろかったのは、離職率を低下させるための取組で、面接で15分の法則というのがあって。ちゃんと調べてみたんですけれど、面接時間が15分以下のバイトと15分以上のバイトで、離職率がぜんぜん違うんですって。
山口:ほう。どっちが高いんですか?
常見:15分以上やったほうが離職しないんですって。
山口:あー、なるほど。
常見:15分ぐらいだと、「適当にさばかれた」みたいに思われちゃうらしくて。というのと、ちゃんとやる気があったかのように、モチベーションもすごくコントロールされているんですよ。
それで、これまた皮肉なことで、学業のことを聞いたほうが、やらざるを得ないことに対する行動特性がわかる、ということがあったりする。そこがおもしろいなと思いました。
常見:さあ、そろそろ会場から質問タイムに。質問やご意見をぜひ、よろしければ。
質問者1:大学教員の負担って、教育をどんどん押し付けられることによって、今までに比べてすごく増えていると思うんです。学生が顧客みたいなかたちになってしまっていて。それはもう際限なく上がっていってしまうのでしょうか?
それとも、なにかスイッチしていかないといけないと思うのですが、そういう仕組みのようなものってこれからまたできてくるのでしょうか?
常見:そうか。要は、大学教員の負荷問題、とくに教育やアドミの負荷ということですね。(山口氏に)まずおうかがいしたいのは、2003年に就職されて、いわゆる専任教員としての大学教員歴は14、5年ぐらい?
山口:14、5年ですね。
常見:国立大学の教員でも、昔と今で、やっぱり忙しくなりましたか?
山口:人によりけりですね。だから、英語担当の人とかは増えてるんだけれど、哲学担当とかだと学生がどんどん減っていったりして(笑)、「もうおまえ用なしだ」みたいな。用なしとは言わんけれど、僕個人は、授業の数だけ見ればそんなには増えていない。一方ですごく増えている人もいます。数だけ見れば。
それで、学生の評価アンケートは必ずやりますよね。だから、学生が寝ているような授業をやっていると、まあ、心苦しい。
ただ、地方国立大学だと、学生の評価アンケートで「明らかにこの授業ひどい」と自由記述で書くやつもいるんだけれど、それで怒られるか? というと、そこまでは管理されてはいないので。授業の内容については、まあ、それぞれの先生方が自分ができる最大限の努力をしていますね。
常見:逆に、僕はそれが当たり前だと思っているなかで、民間企業に勤めていた時よりは楽なんです。ただ、私学で教員をしていると、オープンキャンパスが多い。
山口:あー。
常見:週末がそれで取られて、朝から晩までというふうになる。私学でもちょっと大きいところだったら、1シーズンに1回ぐらいなんだけれど、僕の大学ぐらいの規模だと3週間に1回ぐらいかな。4月からずっとある。
私学はAO入試、推薦入試にシフトしてるので、8月で大規模なオープンキャンパスが終わったと思いきや、9月からは入試で毎月1回か2回、週末も出勤する。入試の担当をしたら、当然その後の判定会議に出ないといけない。それは平日にやるんだけれども、そこでまた数時間使う。
いい意味で教員の意見を取り入れるということなんだけれど、やっぱり委員会がやたらと多いということだし、コマ数は僕も……、多い時は8コマとかですね。
山口:多いですね。
常見:多いですよね。
山口:私学だと、うちの妻は四国大学というところで働いているんですけれど、やっぱり月に1回ぐらいオープンキャンパスをやっていますね。それで、講師担当というのが、1年に1回は回ってくるんだけれど、そうじゃなくても、とりあえず行って学生のお世話をしないといけないというんで、休日出勤ですね。
常見:「やりくりしてがんばる、それを覚えるのが教員だ」と言われるんだけれど、あれですよ。やっぱり、「研究する時間がない」っていうね。
山口:そうですね。
常見:最高傑作が博士論文という先生がいっぱいいますからね。
山口:授業負担よりもむしろ書類書きの時間が増えた、ということもありますね。
常見:あ、そうそうそう。
山口:評価関係、予算の申請、概算要求みたいな書類はけっこう書く。
あと、大きなプロジェクト経費。さっきGPの話がありましたけれど、教育GPとか、いくつかのプロジェクトに「出せ」という圧力があります。それの書類は、けっこう大変です。事務方も大変。労働環境の悪化というか、仕事が増えたというのは、その部分がけっこう大きいかもしれないですね。
常見:それはありますね。僕は就職の委員をやってるから、これはまあ、自分で自分の首を絞めたんだけれど、僕が提案して学部生全員30分かけて面談しましたからね。50名を1ヶ月間で30分ずつ面接するって、けっこう大変だと思いません?
山口:大変ですね。
常見:でも、やってよかった。僕もよくないのかもしんないけれど、思ったより、すごくインプットがあったかな。
山口:こういう人が大学を支えている、ということですね。
常見:まあまあまあ。はい、他どうでしょう? ぜひ。
(会場挙手)
質問者2:本にも書かれていたと思うんですけれど、「できない子はできないままでよい」問題というのがあるんですけれど、それに関してはどのように思われているのかを教えていただきたいです。
山口:できない者は……、許しがたい暴言じゃないですかね。
質問者2:(笑)。あれ、本当に残ってるんですか? 記事。
山口:斎藤貴男さんという方の『機会不平等』という本のなかで書かれていて。
常見:あ、『機会不平等』、はいはい。
山口:教育関係者のなかで有名なんです。(『機会不平等』を)お読みでない方に言っておきますと、教育課程審議会で、ゆとり教育というものを日本で広げた時の会長だった三浦朱門という作家がいましたけれども。
彼がインタビューに答えて言うには、「平均的な学力が低下するというのは当然考えて、ゆとり教育を推進した」と。それで、「できん者はできんままでけっこう。一部の者を伸ばすという教育をこれからするんだ」。そして、「委員はみんな同じ考え方だった」って言ったということがあるんです。それ、本に書いてあるんだけれど、(彼は)別に本に抗議してないから、たぶんほんまに言ったんでしょうね(笑)。
それ、教育者は絶対に言わない。僕らでも、目の前に学生がいて、「先生」って言ってきたら、絶対に見捨てられないですよ、それは。
それで、そんな人間が教育政策をって、もう……、本を見てわなわな震えました。
もちろん、できん者ができないままで終わってしまうっていうことはある。4年間の大学教育で、もう誠心誠意やるけれど、哲学だったりすると結局わかりきらんままに、ということはある。だけれど、「できんままでけっこう」なんていうのは、はじめから教えることを放棄しているじゃないですか。
こっちだって卒論を見るとなったら、もう必死で、徹夜で見て、直して、指導を何時間もして。そのうえでできなかったら「あ、俺は負けた」じゃないけれど、やっぱり後悔は残りますよ。「できんままでけっこう」というやつが教育のトップにいるなんて、許しがたいですよね。
常見:やっぱり許しがたいですよね。もっと……、いや、今回、先生の本で取り上げられてるけれど、もう1回、何度でも怒ったほうがいいと、僕は思います。
でも一方で思うのは、じゃあ、すべての大学教員がそれをやっているかというと、決して思わないんですね。「うちの大学はどうせレベルが低いから」みたいな感じで、低レベルの再生産になってるみたいなことがあったりする。
一方で、学生の側も期待していないという連鎖が一部あるわけですよ。となったら、そこで「考えろ」「成長しろ」と言うことは、彼ら彼女たちにとって暴力になっているという問題があるかもしれない。だけれど、僕は個人的には、民間企業出身ということもあって、かつ、いわゆる博士号を持っていない大学教員という立場からすると、介在して伸ばしてなんぼだと思っています。
山口:そうですね。しかも、だって、授業料高いでしょ。
常見:高い。
山口:国立でも年間、入学金入れたら初年度80万円以上、2年目から50万円以上。
常見:そうそうそう。
山口:私大なんかだと、150万円とか300万円という世界でしょ。その金払わしといて、それだけのものを自分は与えられてるのかって、僕、常に問い返しながら授業してる。だって、100万円あったら軽自動車買えますやん。300万円あったら、ちっこい……クラウンは買えへんか。
常見:いや、でもね、中古だったらベンツ2台買えますよ。
山口:ですよね。それだけのものを俺は与えてるのかって、常に問い返しながらやらないと、金取って教える資格ないですよね。
常見:ただし、ちょっと気を付けないといけないのが、これまたね、「お得大学」みたいな特集とか本がある。それって要は偏差値のわりにいいとこ、……まあ、「いいとこ」という言い方をあえてしますが。そういう「いいとこ」に就職できたのか、年収が高いのか、すごいことを学べるのかって。だけれど僕は、教育のリターンを4年間のそのすぐ後に、しかも、最初のトランジションに転嫁するのはおかしいと思っているんですね。
やっぱり本当は、人生で割るべきじゃないか、と思う。もっと言うと、個人で割るのもおかしい、と思う。社会に対してどれだけ残ったのかを、本当は測定するべきだと思う。その子が大学出たことによって、社会が1ミリでも変わったのか、という。
山口:というわけで、あと5分ほどですね。
常見:はい、ぜひぜひ他に質問は。
(会場挙手)
常見:はい、どうぞ。
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