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パネルディスカッション「10年後の子どもの学びを見据える」(全4記事)

「子供にしてほしいことは、まず自分がやってみる」保育の現場で今、なにをすべきか

これからの保育士の在り方とは? どんな力を育てていけばいいのか? 保育業界の活性化及び業界貢献を目的にリクルートが主催するセミナー「こどもみらいラボ」。9月9日、日本の保育領域での最先端ムーブメントを紹介する「第1回 日本の保育イノベーター(子どものまなび編)」が開催されました。イベント後半では、「10年後の子どもの学びを見据える」をテーマに、社会福祉法人どろんこ会・理事長の安永愛香氏、合同会社こどもみらい探求社、asobi基地で代表を務める小笠原舞氏、“ハイブリッド保育”を推進するつるみね保育園の杉本正和氏によるパネルディスカッションが行われました。

iPadを使ったデジタル保育をうまく導入するためには

小泉裕子氏(以下、小泉):実践のなかから、いくつか先生に質問があればと思うんですけれど、私ばかりでなく会場の先生方どうぞ。はい、挙手ありました。

質問者1:ひとつ質問がございます。私は実家が福井県で幼稚園・保育園を経営しておりまして、杉本先生の実践がすばらしいと思いました。

とくに関東圏を中心に、比較的大規模な園も多いと思います。子供が300人以上の園も非常に多く見てきたんですが、先生のような実践を、それが大規模園でも実際に映像どおりに行動に移すにはどうすればいいかお教えください。お願いします。

杉本正和氏(以下、杉本):実は、うちの実践も、各園でいうと平均15人です。そうなると、あの部屋に半分ずつ連れて行くのが普通です。15分と言いましたが、15人を15分やるよりは、7人を15分やってあげたほうが、1人あたりの時間が長くなります。

先生たちが同じことを2回やればいいだけですので、外国と結ぶ、ああいう特別な時は、3歳児、4歳児、5歳児、40人、50人みんなでやってみようというふうにやっていますので、うまくほかのクラスと連携を取りながら少人数で。

たぶん大規模園は、iPadを10台くらい買えると思うんですよ(笑)。

(会場笑)

うちは予算上1台しか買えないので、そこを逆手に取って、1台でこれだけできるというのを見せたいというイノベーションの気持ちが湧いてきて、無理にでも1台でがんばってみたいと。

ただし、給食が早く終わった子はデジタル絵本を作ってみようねとか、そういうことは当然やってますので、うまく時間を使いながら1人で触れる時間も確保してあげてはいます。たぶん工夫次第でどうにでもなると思います。

どんな保育士を育てていけばいいのか

小泉:先生方の実践は、大規模な保育所や幼稚園には、なかなか取り組みとして難しいかなと、私も実際お聞きしていて、心配になったところです。

先生のところも同じですね。移動保育なんて非常に興味深いんですけれど、中規模以上だと大変ですよね。そんなふうにも思いました。人数の問題もあるんですけど、私から質問させていただければ。

保育内容の新しさは、非常に興味深いんですけれど、例えば、杉本先生のところでは「五領域」というキーワードが出ていましたよね。

でも、先生のところでは、ある意味、保育所、保育士、幼稚園教育要領といったところの保育内容の基準というものの意識はあまり感じられなかったんです。

むしろ子供に必要なものはなにかという、ものすごく質に向き合った発言で、それは非常に興味深いんですけれど。

一方で、やはり日本が大事にしてきた、全国大体が指針や教育要領のなかで目指す姿をイメージしながら、保育をやっているという。こういう日本らしさというんでしょうか。枠組みがきちっとあったなかでやっているときに、養成校ではそれを意識した保育士養成をやっているわけですよね。

でも今日の話を聞くと、「待てよ」と。「そういうことを発想できる保育士を育てていないぞ」と、実は思いました(笑)。

もちろん小さな保育士を育てているわけではないんですけど、意欲とか、子供の主体性や個性を理解するということは当たり前のように伝えてはいるんだけれど、やはり自らが生きる力を持った保育士というのは、大学の授業ではなかなか実現できないところなんですよ。

そうなると、先生方がおっしゃる保育者像というのは、今の私たちの養成カリキュラムでは難しいなと正直思いました(笑)。もちろんそれではいけないので、もっともっと私たちの養成カリキュラムも変えていかなくちゃいけないのではないかという気持ちでお聞きしていたんですが。

未来の保育士をお互い考えた時に、どんな保育士を育てていったらいいんだろう、と思いますので、なにか養成校への希望も含めて、若い保育者をどんなふうに育てたらいいのか。どう育ってほしいのか。どんな資質を持っていてほしいのか。そのあたりをご教示いただきたいなと思います。

ありがちなパターンに陥らない年間指導計画の立て方

安永愛香氏(以下、安永):うちの場合は、一番最初に子供に付けるべき力というのを、各保育士が考えて、その力を獲得するために必要な経験はなにかというのを考えてエントリーするんですが、そのあとのプロセスは、そこが保育過程の根幹ができあがるエントリーになっていくので、プロポーザルで、そのなかで自分の園で実際にどれを拾うかということを決めるんですね。

そのあと、年間指導計画とか、月間指導計画というものに全部落とし込んでいきます。

どちらかと言うと、発想的に、とくに日本の場合って伝統行事が多いから、2月だから豆まきとか、7月だから七夕みたいに、連想ゲーム的な計画の立て方に陥りがちで、それで年間スケジュールが埋まっちゃうと満足して終わっちゃったりするのが、よくありがちなパターンだったりします。

そのありがちなパターンで終わらないようにするための工夫として、まず先にそれを出してもらう、出してから計画にはめ込んで、今度は落とし込みをしていくという。

じゃあ、それは何月ごろにすれば、よりよいのかとか、対象年齢は何歳がよりよいのかとか、そういうふうにして落とし込んでいく保育計画の立案の仕方をしています。

そこも、なかなかスキルだったり経験によって、いい計画が立てられる・立てられないとか、赤入れができる施設長とあまり赤入れができない施設長とか、やはり差が出ちゃうのもあります。

今、毎月1回、保育の質を上げる勉強会みたいなもので、実際に、本当にいいことを、ただパワープレイでやるんじゃなくて、ちゃんと計画的に理論立ててやっていくということも、実際に保育計画を立てる勉強会だったり、立てたものを実践して検証したり、そういった場を、若い保育士に対して、やっていくようにしています。

私は、とにかく保育士の国家資格を取った人の保育業界への就職率を上げたいというすごく強い思いがあって、今、厚生労働省が出している日本の全国平均は51パーセントなんですけれど、これを80パーセントにしたい。そうしていくにはどうしたらいいかなんて話を、先ほど始まる前に先生と雑談でしていました。

保育現場を飛び出して学べることがたくさんある

保育士の国家資格を取る過程は、児童福祉とか社会福祉とか、体のことだったりを、わりと座学で学んで、筆記で知識があるかということだったり、あとは実習、この2つに大別されることが多いんですけれど。

保育士に、なるべくいろんな視野を持って、子供に付けたい力を、いろんな世界を見て拾い出していくということをしてほしいなということを、願えば願うほど……。

例えば、先ほど会場のなかでお話をした方にも、人材育成のお仕事をされていて、若い社員の方が「その仕事は教わってないからできません」「やってません」という人がいるなんて話をされていたんですけれど、結局、子供も大人も同じ人間で、すごくつながっていて、そういう力をもし獲得していくのであれば、例えば、保育士の国家資格を取るのに1ヶ月間キャンプ生活をして(笑)、保育士なりに子供に付けてあげたい力ってどんなことなのかなとか、先ほどの杉本先生のお話じゃないですけれど、1ヶ月間白衣を着て実験をし続けてとか(笑)。

ひとつでも多くの世界を見て、座学の勉強で学ぶことプラス、外に出て行って、保育園のなかでは、変な話、うちの園ではたぶん、その保育園のなかで展開していることしか、見せてあげられないので。

先ほど言っていたように、もっと、うちよりもいろんな社会に資源があるわけだから、もうちょっと外で保育士自身が体験とか体得するなかから見出していけるような、学びがあったらいいなぁと思っています。

小泉:それは、保育現場以外ということですね。

安永:そういうことです! 保育現場ではなくてということですね。

「保育士たちも完璧ではないから」

小笠原舞氏(以下、小笠原):私は、その保育現場ではない集まりを、とくにasobi基地ではやっているんですけれど、毎月だいたい研修をしていて、そのときに意識していることが、もしかしたらヒントになるかなと思っています。

このあいだの研修では、ゲストに迫田(圭子)さんをお呼びして、初めて保育業界の話をしたんですが、それまではもう少し社会学的なことだったり、今の社会で起きている現状がこうで、あなたはどれに興味がありますかということだったり。

保育士ということを一旦置いてもらって、もちろん会社員の子たちもいるんですけれど、そもそも、人としてなんの問題やどんなことに興味があるのか、私はむしろそっちが気になっていて。

保育士だからとか、国家資格を持っているからという前提じゃなくて、その人のそのなかから湧き出る思いがあって保育に出てきたり、それこそ、保育って生き方だなぁと思っているので。

どういう言葉遣いをするかとか、もちろん職業として意識的にやらなきゃいけないものもあるとは思うんですけれど、本質として、その人がなにをしたくて子供の前に立ってるのかというところを、もう一度考えさせてあげることがすごく必要だなぁと思っています。

ですので、外から社会学的なことをしゃべれるゲストを呼んできたり、お父さんたちに話を聞いたり、お母さんたちに話を聞いたり、そういう社会課題を見せて、まず「どれに興味があるの?」と。

例えば、虐待をなくしたいから、実は現場にいたんだというのを思い出したり。じゃあ、日々の保育のなかでもっとお母さんたちにしゃべることをしなきゃいけなかったなとか。

それって子供たちと一緒で、大人たち、保育士たちが自分で気付くということがすごく大事なんです。

教えてもらってもできなかったり、先ほどの私のプレゼンでも言ったんですけれど、大人だからできることもあれば、できないこともあるし、子供だからできることも、できないこともあるなかで、保育士たちも完璧ではないから。

本人たちがなぜそれをしたいのか。どんな思いがあるのかということを、どれも否定せず、まず聞くというのをすごくしています。

それを交換してもらって、「あなたはそういう思いで保育をしてるのね」「私はこういう思いで保育をしてるの」というのが違って当たり前だし、そういう交流する場というのを持っています。

子供にしてほしいことはまず自分がやってみる

あと、やはり私たちが企画して保護者さんを呼んでお金をいただいてイベントをしていたりするので、自分自身を見つめ直してもらう機会を研修で入れていて、人の前に立つ者としてどうあるべきかとか。

もしかすると、一般企業では普通に研修であるものが、実は保育業界にはあまりなかったりするということを私はすごく感じているので、そういった自分自身を磨くようなものだったり、自分自身の原点に気付くような深掘りをしていくことを、意図的に会話に入れたり。

研修だったり、イベント後にご飯を食べに行って「なにをしたいの?」「最近悩んでないの?」とか、そんなことから引き出していくようなことをして、その子の自発的な「やりたい」というものが、子供たちに私たちがこういう力を持ってほしいと思う時に、教え込むというよりは引き出していくことがすごく大事だなと思っています。

そのきっかけを同じように保育士さんたちにも付けていく場として、私はなにができるだろうということで、いろんな企業の人を呼んで、話を聞いてみたり、一緒に美術館行こうとか言ってみたり。そんなふうにして、一人ひとりの「やりたい」に向き合うことを丁寧にやろうかなということは、すごく意識的にしています。

大学で、まだ現場がない子たちが、なかなかイメージするのって難しかったりするので、そのなかで本当に自分の好奇心とか、興味があることに自信を持って探求していれば、ほかのことを知ったときに、これもおもしろいということがあると思うので。

子供にそうしてほしいと思うことは、まず自分がやってみるというところに気付いてもらわないと、どうしても指示出しみたいになってしまうので。

そこは、失敗してもいいし、悩んでもいいから、助けるからまず自分でやってみたらというのを、うちはボランティアでやっているので、そういうのができるから、うまく使ってもらいたいなと思っています。

小泉:保育の歴史も、140、150年あるんですけども、初めての保育者という豊田芙雄という先生がいらっしゃるんですけど、そのころから、保育者の生き方というのが、この100年以上、ある意味、日本の歴史のなかで育ってきていると思うんですね。

今、お二人の先生の話を聞いて、そういった意味では、まさに保育者というひとつの専門性を持ったモデルというよりは、まず人であれというところに言及されているんだなと思います。すごく大事なことだと思います。

業界が変わるまでは長期戦

それでは、杉本先生はいかがでしょうか?

杉本:実際、大学で授業をしていますので、その観点から言います。

これは、私が小学校教員を17年やっていましたので、とくに感じているんですが、飛行機が初めて飛んで110年になるようです。その間に大型飛行機とかロケットやミサイルなどが開発されましたが、教育の世界だけは「黒板とチョークあれば、俺の授業は」という方がけっこういらっしゃいます。

私は今、大学の授業もほぼ全部スライドを活用しています。大学生に対して、書く時間は少しもったいないかなということを自分で感じていて、すべて、今日みたいにムービーとかスライドを活用して授業をしていますが、そのなかで、科学遊びとか、ギターやアコーディオンを園庭に持ち出しての音楽遊び、それから、デジタル保育とかを学生に伝えます。

ほとんどの子たちが、紙芝居のやり方とか、絵本の読み聞かせとか、そういうことを保育内容のなかで学んでいますので、「知らなかった」「なぜ実習前に伝えてくれなかったんだ」ということを……。

私は4年生を担当しているので、4年の後期なのでもう全部終わっていて、それは仕方のないことなのですが「なぜ教えてくれなかったんだ」とよく言われます。

それで、よく言うんです。「君たちは4月からどこかの園に就職しますよね。園長先生にiPadを買ってくださいと言えますか?」と。みんな、誰も「うん」とは言いませんね。

それで、言うんです。「私が園長でも『いやいや、君にはもっとやることがあるだろう。まずは外に出て、鬼ごっこでもしなさい。iPadを買うのは、10年、20年早い』と、私でも言うんじゃないかな」と。

その若い年代の人たちが、20年後、30年後、発言権を持つ保育士になるまで、私は、今の状況は変わらないんじゃないかなと思っています。

とくに、鹿児島の場合はもっと遅れていますので、50年かかるんじゃないかなと、私は勝手に、本当に思っています。そういうことでイノベーションが起きればと思います。

古い文化から学ぶことも多い

ただし、古い文化を大事にしようということも大事です。西郷隆盛のことを言われたんですが、あれは、郷中(ごじゅう)教育と言います。土の郷に中という字を書いて、郷中(ごじゅう)と読むんですが、郷中教育のなかに、「負けるな。嘘を言うな。弱い者をいじめるな」という3つの教えがあるんです。鹿児島はそういうことを大事にしようと。

それから、「泣こかい飛ぼかい泣こよかひっ飛べ」といって、泣くよりはがんばって飛んじゃおうというくらいの思い切ったことをやれというようなことを、4つ、郷中教育で教えていますが、実は私はそれを保育園に貼ってあります。

だから、明治維新を起こしたその頃の文も大事だし、新しいイノベーションを考えることも大事。そのバランスだと。あとは、トップの方の判断。実際に実践する職員の考えかなと思っております。

小泉:最初に打ち合わせしたときに、3人の先生方から新しい保育のご提案というような取り組みの発表かなと思っていたんですけれど、3人共が、今の保育、いわゆる保育文化の大切さというものも十分にわかっていらっしゃって。

そのなかで、どんなふうに保育の質を上げたり、保育者を育てていくか、そういった視点をすごく持っていらっしゃるので、私も非常に興味を持ちました。

養成校などで、従来の保育の歴史も踏まえながら、これからの保育を考えていく保育者を育てているんですけれど、こういった新しい取り組みとはいえ、一番大切なものはなにかというのをすごく考えてらっしゃるし、今までの伝統文化を思いっ切りひっくり返すものではないと。

今、先生は「バランスを」とおっしゃって、すごくいいご指摘だなと思いました。

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