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パネルディスカッション「10年後の子どもの学びを見据える」(全4記事)

親の都合で「受けられる保育」が変わることは正しいのか--業界の革新者と考える“子供の学び”

保育業界の活性化及び業界貢献を目的にリクルートが主催するセミナー「こどもみらいラボ」。9月9日、日本の保育領域での最先端ムーブメントを紹介する「第1回 日本の保育イノベーター(子どものまなび編)」が開催されました。登壇したのは、社会福祉法人どろんこ会・理事長の安永愛香氏、合同会社こどもみらい探求社、asobi基地で代表を務める小笠原舞氏、“ハイブリッド保育”を推進するつるみね保育園の杉本正和氏。それぞれの取り組みについて講演が行われたのち、「10年後の子どもの学びを見据える」をテーマにパネルディスカッションが行われました。

10年後の「子供の学び」を見据える

小泉裕子氏(以下、小泉):では、これから約1時間程度、3人の先生方を交えて、パネルディスカッションしていきたいと思います。

実は、今日はじめて顔合わせさせていただいて、これから1時間どんな話をしようかという話を詰めていたんですが、結局、みなさんそれぞれの立場で、実践も経験もさまざまなアプローチでやっていらっしゃるので、なにか1つのテーマで、というのは非常に難しいと思いました。

それぞれ自分が言いたいこと、例えば、保育の世界にどんなことを言いたいのか、話題を投げかけてみようという話になりましたので、先生お1人ずつ順番に、保育業界になにを問うか、そういったあたりの話をしていきたいと思います。

実は、テーマとしては「子供の学び」がテーマだったんですけれど、それぞれ、あまりにも立ち位置が違うということで、先生方の実践の信念みたいなものがはっきりとわかってくるわけです。

そこからの学びを捉えるということも、十分話が弾んだところでございますので、保育業界になにかありましたら、大胆に言っていただければと思います。

また、先生方の発言から、フロアにいらっしゃる園長先生方から、いろんなご意見をいただければ、ありがたいと思います。

今日の3人の先生方、とくに、先のお二人の先生方は、ある意味、既存の保育制度のなかから育ったというよりは、この新しい時代にチャレンジしているという取り組みでもあります。

また、つるみね保育園の園長先生のところは、「過疎」という、そういった言葉を使ってよろしいのでしょうか。先生のお話でありました、過疎という地域性を活かした保育のあり方、そういう提案でもありました。

今日いらっしゃっているそれぞれの先生の環境は、もしかすると、かなり違うのかなというところも想像はしているんですけれど、どうぞ順番に投げかけていただくなかで、フロアも盛り上げていただければと思います。

それでは、安永先生からなにかございますか。安永先生の時も、かなり質問が出ましたね。引き続きでもかまわないんですけれど、付け加えて、ひと言なにかありますか?

保育園という場所の在り方

安永愛香氏(以下、安永):今、現場をやっていて、いろいろ思うこと、感じることはたくさんあるんですけれど、今、話題の保育園建設反対とか、「ヤギ飼うな」とか、いろんなご意見があったりして、思うところは多々あります。今、頭にフッと浮かんだ2つの話をしようかなと思っています。

昨年から、「子ども・子育て支援新制度」というものが始まりました。それで保育業界がガラッと変わった感はあまりないんですが、できる前から、ずっとずっと私のなかで悶々としているのが、短時間認定や標準時間認定ってあるじゃないですか。

今、保育園に預けるのに、昭和の時代のように稼ぎに出ないと我が家の生活が成り立たないからと、措置の場として預けているような人は、実際いないんですね。

保育園だろうが、幼稚園だろうが、子供園だろうが、預ける理由は、預けているというよりは、どちらかというと子供に経験をさせたいとか、日中は保育園で育ってほしい、友達のなかで、集団生活のなかで育ってほしいとか、喧嘩もいっぱいしてほしいとか、そういうことで保育園に通ってきている子がほとんどなわけです。

親の仕事の勤務時間が長い短いということで、保育園に入れる時間が変わったり、受ける保育のクオリティが変わったりということは、今の現実のなかで言うと、そこで区別をしていくこと自体が、私たちも難しいなと思います。

親の仕事の時間が長くても短くても、極論、仕事をしていても、していなくても、子供を育てていける場に、保育園がなっていきたいとすごく思っているので、入園の時に、就労証明書とかを出したりすることが本当に必要なのかなということは、いつも思っていることの1つだったりします。

「人間育て」の場所として

あとは、先ほど申し上げたように、今、私たちは保育園のなかで、発達支援を同じ屋根の下に併設してやっているので、ひと言でいえば、インクルーシブで、自閉症の子も、発達障害の子も、そうじゃない子も、みんなごちゃ混ぜで、なるべく暮らしていくことを意図的にしていこうと思っています。

例えば、もし自閉症を持っていたお子さんがいた時に、彼らはすごく得意なこともあったりします。コミュニケーションは不得手なんだけれど、実はものすごく記憶力がいいとか、車に興味があるとか、すごく秀でているスキルがあったりするので、混ぜていくなかで、そういうところをどんどん引き出してあげて。

先ほどのでんじろう先生じゃないんですけど、彼らが好奇心を持つところにヒットしたら、すごく跳ねるチャンスがあるんじゃないかなということで、今、私たちも混ぜていくようにしています。

日本人の気質のいい部分、悪い部分を冷静に見てみたときに、いい部分でもあるんだけど、デメリットになっちゃうのかなと思うのが、日本人って農耕民族で、けっこう真面目な人種で、白黒はっきりつけたがったり。

そういう日本人の気質みたいなところをたどっていくと、この子は障害があるからとか、要支援だからって分けて発達支援センターに入れたり、分けて療育センター行かせたり、どうしても、分けて、分けてってやってきちゃった今までの日本があります。

そこを、分けないで、でも、分けないことで、彼らは喧嘩になっちゃったり、怒られちゃったり、うまくいかなかったり、癇癪を起こしちゃったり、トラブルに絶対ぶち当たるんですけれど。

私は、友達に意地悪をされて嫌な思いをしたり、仲間はずれにされて嫌な気持ちになったりということも含めて経験し、越えていくことを排除して社会に出しちゃうよりは、それをちゃんと経験で教えて、社会に出してあげるということが必要なのかなと考えています。

こうやってインクルージョンしながら、臨床発達心理士も、健常児も障害児も両方見ていけるし、保育士も、両方とも同じ大人として子供に、この子はこういう子で、この子はこういう子でと、なにか色が付いていたり、テープが貼ってあるわけではないので、同じ子供として育てていけるような。

極論を言ってしまえば、日本から療育という言葉を取り去って、「人間育て」みたいな(笑)。そういうふうにしていけたらすごくいいなということを、頭の中ですごく考えています。

必要な保育を選ぶ時代に

小泉:2つ出てきましたけれど、最初の先生からのご指摘のところ、まさに先生はすべての子供になにを経験させたいかということを考えて保育を立ち上げられたので、それは徹底されていますよね。

短時間であろうが、ふつうの保育時間であろうが、すべての子供に必要な経験を考えていらっしゃる。ただ、保護者の視点で考えた時に、利用時間等、今はいろんなニーズがあるという。こういう制度もありますね。

どうでしょうか。このあたりで先生方のなかで、今の安永先生のご指摘で、なにかいいご意見はございますでしょうか?

保護者のニーズというのは、非常に堅いものもありますからね。結論から言うと、先生はいろんなタイプの保育時間には否定的だということですか?

安永:どちらかと言うと、就労証明書という紙で、いろんなものが区別されたり、振り分けられたりするのはどうかなと。

私のなかではクエスチョンで、これから多様な仕事の仕方、テレワークで在宅で仕事をしていたり、自営だったり、それこそ、ここにいらっしゃる方はほとんど保育園の経営者だとしたら、みなさん自営だったりするので。

仕事のスタイルや働き方がこれだけ多様化していて、それこそICTがどんどん普及されていっているので、勤務証明書の労働時間ではなくて、子供を育てていけるように変わっていかないといけないのかなと、私は今、感じています。

小泉:そうすると、例えば、保護者のなかには「8時間保育はいらないんだ」「私は4時間保育で残りの4時間は自宅で保育をする」という考え方もありということですか?

安永:そうですね。親が全部選べばいいのかなって。極論を言ってしまうと、もし、仕事はしてないけど、水曜日だけは来ないけど、月火木金土は来るとか。そういうことで、親が選択して、子供を預けるというよりは、必要な経験を選んでチョイスしていくように、だんだんなっていくのかなとか。

小泉:保育園も保護者も、自ら自分の子供のために必要な経験を判断するということに賛成ということですね。

では、2点目いきますね。2点目は、インクルージョンの話だったんですけれど、今、療育の問題と絡んで、むしろ障害を抱えているお子さんには、ある程度の療育をサポートしながら現場と寄り添いながらやっていくという方向性もかなり選択されているかと思います。

言ってみれば、それを否定するのではなくて、むしろ園全体で療育とコラボレーションしながら、保育園で育てていくという、そういう考え方ですかね?

安永:そうですね。わりと、今、障害児を各園で受け入れしていく体制というのは、全国的に整ってきてはいるものの、自治体によっては、まだまだ、受け入れしてもいい園とダメな園とか、何人まではOKとか、公立保育園は1園2人までだけど、民間は5人とか。

いろいろな経営者だったり、保育園側の意思をかなり重んじることによって、「うちは受け入れてもいいですよ」というところに、バッと10人流れてきて、「うちは厳しいです」というところには1人だけ行ってとか。

税金が投入されているわりには、なかなか、みんながすごくポジティブにそれをやっていく状況には……、確かに保育士さんが疲れちゃっているとか、いろいろ世の中的な問題も全部絡んでくる気はするんですけれど、まだ、そういった現場の課題は大きいかなと、やっていて感じます。

統合教育の可能性

小泉:川崎の幼稚園協会は、20年、30年前から統合教育をやっているじゃないですか。どうでしょう? 今の先生のご意見で。おそらく保育園の状況と、幼稚園の状況って少し違いますね。

幼稚園は加配という考え方はあまりしませんので、統合教育という考え方をしているかなと思うんですけれど、小川先生、なにかひと言ありますか?

小川哲也氏(以下、小川):なんで振るんでしょうか(笑)。すみません、場違いで。幼稚園をやっている法人が7月から保育園を始めたという学園です。いろいろと難しい問題がありますけれど、インクルーシブに関して言えば、確かに川崎の団体は、ずっと前からインクルーシブをやっています。

そして、やりやすいと思っています。小学校になると、教科教育で学ぶ水準というのが出てきて、それに難しさが出てくるけれど、幼稚園とか保育園というのは、遊びを中心として、いろんな子がいて、それが社会だと思えるし、それによってどちらも育つという点はすごくいいと思っております。

そのくらいでよろしいでしょうか。振らないでください(笑)。

(会場笑)

安永:どちらも育っていくことによって、変な話、人生がそこで切り分けられないので、彼らが将来、もしかしたら経営者になるかもしれないし、もしかしたら先生になるかもしれないし、そういう可能性をもっともっと広げてあげるのが、私たち大人の役目なので。

そういうインフラを、今までの日本のやってきたことが間違いだとはまったく思っていないんだけど、さらに進化させていったり、時代に合わせていったり、そういうことをやっていくのが現場だなと、今、思っています。

私もイノベーションという大げさな言葉ではないかもしれないですけど、今、自分が、やってみなければわからない。先ほどの杉本先生のお話じゃないけど、まずDOしてみて、失敗したらそのとき考えればいいやと思って。

今はまず、自分が直感で「これはやっぱり子供たちに必要だ」と思うことは、なるべくやってみて、やってみる前に、いいか悪いかをずっと机上で議論しても、世の中は変わらないかなと思うので(笑)。まずやってみようかなと思っています。

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