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ダイヤモンド社書籍オンライン 経沢香保子×岸見一郎対談(全2記事)

「叱っても褒めてもいけない」アドラー心理学が導き出す教育の極意

新著『すべての女は、自由である。』を出版した経沢香保子氏と、ミリオンセラー『嫌われる勇気』の続編『幸せになる勇気』を出版した岸見一郎氏が対談を行いました。承認欲求はどこから生まれるのか、他人の評価を気にしてしまうリスクとはなにか、アドラー心理学をベースに2人が語り合いました(この記事は「ダイヤモンド社書籍オンライン」のサイトから転載しました)。構成:宮崎智之氏、写真:石郷友仁氏。

人生の困難にぶつかった時、取るべき態度

経沢香保子氏(以下、経沢):『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』ともに拝読させていただき、とても感銘を受けました。私の中では勝手に「赤本」「青本」と呼ばせてもらっています。

幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

岸見一郎氏(以下、岸見):たしかに、装丁が青と赤ですからね(笑)。

経沢:岸見先生に伺いたかったんです。私の著書『すべての女は、自由である。』は、「自由」をテーマに書いたのですが、ちょっとアドラーっぽくないですか?(笑)

岸見:そうですね。私も、まず「自由」という言葉が気になりました。でも、裏を返せば自由という言葉が出てくる時点で、本当の自由ではないんですよね。

経沢:え、でもなるほどですね!

すべての女は、自由である。

岸見:本当に自由な人は、「自由である」という発想はしないので、どういうことなのかなと思いながら読み進めました。驚いたのは、経沢さんは、非常に大きな人生の難局を、何度もくぐりぬけてきていらっしゃる。

経沢:ある意味、サバイバーなんです。3000万円の詐欺にあったり、自分で作った会社を苦渋の選択で辞めたり、離婚を2度したり。子どもを難病で亡くしたことも正直に書かせていただきました。

岸見:経沢さんの人生に向き合う態度や意思決定が、アドラー心理学の考え方に似通っていると思いました。人生の困難にぶつかった時に取り得る態度は、3つしかありません。1つは、楽天主義。つまり、「なんとかなるさ」です。大変な問題にぶつかっているのに「なんとかなるさ」と考え、結局なにもしない。

でも、経沢さんは、そういう人ではないですよね。なぜなら経沢さんが直面した困難は、そのままではなんともならないですから。「なんとかなるさ」と言っている場合ではないような、数々の困難を経験されてきている。

もう1つは、真逆の「悲観主義」です。このタイプも悲観するだけで、なにも前に進めようとしない。本当に取るべき態度は、「楽天主義」でも「悲観主義」でもなく、「楽観主義」です。

経沢:なるほど、「楽観主義」ですね。

岸見:「楽観主義」は、「なんとかする」という考え方です。そういう力強さを、経沢さんのご著書から感じました。私が直面した困難の比ではない経験をされている。とても勇気をもらいました。

経沢:先生からそんなふうに言っていただけるなんて。うれしいです。

支配と承認欲求をめぐる問題

経沢:私は現在、ベビーシッターを世の中に普及する仕事をしています。私が『幸せになる勇気』を読んで考え方の参考になったのが、教育は自立を目指すという箇所と、子どもを子ども扱いしないという箇所です。子どもを尊敬して向き合うためには、叱ることも、ほめることもしてはいけない、と。

会社のマネジメントをしていても、信賞必罰の兼ね合いにすごく悩むんです。世の中には、「ほめて伸ばすトレンド」のようなものがあるじゃないですか。

岸見:ありますね。

経沢:私は、子どもに対して、「子ども」として接していません。そうしようと思った理由は直感的なものですが、娘は私を応援してくれて、好きなだけ仕事をさせてくれます。娘にも自分で人生を選択していってほしい。だから、いつも一緒にいて、「ママの言うことをきいていればいい」とか「ママがいないとだめ」と思われないようにしています。

たしかに、大人から見て子どもには幼い部分があります。でも、「それはまだ言語が少ないから表現できないだけ」という仮説を立てて、本当はどう思っているのかを引き出すことを心掛けなければいけない。まさに、『幸せになる勇気』にはそういうことが書かれていて、そうそう!って膝を打ちました(笑)。でも、世の中には子どもや部下を支配したい欲求を持っている人もいるように感じます。

岸見:支配したいと思っている人は、親であれ上司であれ経営者であれ、「恐れ」を持っています。親子関係に限っていうと、子どもが自立することが怖い。自分を必要としなくなるのではないかと思ってしまう。だから自立させないために叱ったりほめたりしてしまうのです。

なぜ、ほめてはいけないかというと、ほめられて育つと、自分の価値を自分では見出せなくなるからです。ほめられることを渇望し、承認されたい、認められたいと思うようになってしまう。仮に、支配欲を持った親に育てられたとします。でも、それは親が自分でなんとかすべき問題で、子どもはそれに線引きをしないと自分の人生を生きていけなくなる。お互い人間として認めあうことがなによりも大切なのです。

経沢:私は起業していますので、ルールも目標も一緒に働く仲間も自分で決めなければいけません。そして、その結果に対して、自分で責任を取らなければいけない。私も昔は承認欲求があったように思いますが、起業して「評価はいつでも自分軸なんだ」と思ってからは、少しは解脱しました。他人の評価に振り回されると、リスクを被るということに気づいたんです。一方、会社を上場させたいと、強く願っていたこともありました。

岸見:功名心や野心ですよね。

経沢:たとえば今回の会社でいえば、「上場するほどになれば、ベビーシッターの文化も世の中に認められるようになる」というロジックがあるんですが、やっぱり「経営者として立派だと思われたい」という気持ちもどこかにあるのでしょうか?それは、別にいいんですか?

岸見:よくないと思います。

経沢:あはは(笑)。やっぱり駄目なんですね。

本筋の目的を見失わないようにする

岸見:自分のやっていることに価値があると思うために、他者からの評価を求めてはいけません。ベビーシッターの事業をしているならば、「自分のやっていることが、お母さんや子どもたちの役に立つ」という軸で考えられるようにならないと、やがて評価のほうに目を奪われ、本末転倒になってしまいます。

経沢:そうなんです。そこは見失いたくないです。

岸見:経沢さんは、他人に承認されるためにベビーシッターの事業を始めたわけではないですよね。お母さんが子どもを預けて生き生きと働けるようになれば、本人も子どもも社会も幸せになると、自分の経験から感じたからだと『すべての女は、自由である。』でもお書きです。その原点を忘れてはいけない。だから、上場するとか、経営者として立派だと思われたいというのは、本筋ではないはずです。

経沢:でも、でもですね……。と言うと、なんか、やりとりが哲人と青年みたいになってきました(笑)。

岸見:どうぞ、どうぞ。疑問点があれば、率直におっしゃってください。

経沢:私は、他人の評価軸も活用するべきではないかと。たとえば、ベビーシッターは日本では文化的になかなか受け入れらない現状があります。でも、たとえば上場してパブリックな会社になれば、「安全なんだ」「ここまで普及しているんだ」と安心してもらえます。他人の評価軸が、ユーザーを増やすことにつながると思うんです。

また、会社が成長していけば、社員の経済面も満たされ、よりよいサービスを提供できるようになります。他人の評価軸を活用することで、経営がうまくいくという側面もあるんです。

岸見:そうですね。でも、それは付加価値であって、本筋ではないですよね。

経沢:そのことは、しっかりと心に刻んでおきたいと思います。

岸見:ところで、たしかにベビーシッターが受け入れられない文化が日本にはありますが、1日中、親と子どもが顔を付き合わせていることは、必ずしも望ましいことではありません。仕事をしているから預けるということではなく、専業主婦の人でも時には子どもを預けて自由に過ごせる時間があって絶対にいいと思います。

親とずっと一緒でなければ子どもが育たないわけではありませんし、むしろ預けることで親と子どもの関係が良くなることもある。でも、日本では、「親だけが育てなければいけない」という神話が根強くありますね。

経沢:それも評価が「他人軸」な部分があるからだと思います。人から、どう見られるかが気になってしまうのかもしれませんね。

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