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藤原和博氏、トライセクター・リーダーを語る(全6記事)

「現代は、1つの人生だけじゃ生ききれない」 20代から知っておきたい『坂の上の坂』の思想

元リクルート社フェローで教育改革実践家の藤原和博氏をゲストに招いたトークイベント「藤原和博氏、トライセクター・リーダーを語る」が開催されました。1つの人生を生きている途中に死を迎えた1900年代の人々。平均寿命は40代でした。藤原氏は「80年から90年生きる現代は、1つの人生では生ききれないし、死にきれない」と語ります。現代人はどのような人生観を持って生きればよいのか。20代から50代にかけて知っておきたい『坂の上の坂』の思想について解説します。

1つの人生では生ききれないし、死にきれない

藤原和博氏:もう1つ別の話をしましょう。もう1つの話は、寿命が伸びて、人生80年から90年になりますよね。すると、もはや、1つの人生では生ききれない、もしくは死にきれないという話です。

これは『坂の上の坂』という本にかなり詳しく書いてありますので、復習したい人は本を参照していただければと思うんですが、僕が言いたいことはこういうことです。

生まれて死ぬまで、この横軸がライフスパンです。縦軸は何かというと、エネルギーレベルと書いてありますが、みなさんの知力・体力・精神力の総合力、もしくはモチベーションのレベルだと思ってください。

時間があればみなさんに書いてもらいたいんですが、小学校の時にすごい盛り上がったんだけど、中学校でいじめられてボーンと下がり、高校でまたバンドを組んでモテたから盛り上がったなあ……。

でも、大学入試で失敗してドカーンと下がるみたいな、人生のエネルギーカーブってありますよね。

それで自分の人生の前半を振り返って一度棚卸しをしてもらうと、すごく勉強になるんです。ですが、今日は時間がないのでいちいち人生のエネルギーカーブを描いてもらうワークショップは省きますが、『坂の上の坂』にはそのへんの細かいことが書いてあるんで。

(ふ1-1)坂の上の坂: 30代から始めておきたい55のこと (ポプラ文庫 日本文学)

『坂の上の雲』時代は正しかった「富士山型一山主義」

結論だけ示しますね。日本人の多くが、今日お集まりいただいたみなさんもそうかと思うんですが、大抵、こういう人生観を持っています。

「富士山型一山主義」というんですが、30代~40代~50代がピークで、あと60代になったら降りていく。あるいは落ちていく。五木寛之さんが、降りていく人生というような本(『下山の思想』)を書いてベストセラーになったりしてるじゃないですか。

僕がはっきり言えるのは、「こういう人生観をイメージしてる人にはこういう人生が来ますよ」ということ。この一山主義の人生観は、1900年代に生きた『坂の上の雲』時代の人には正しかったんです。

どういうことかというと、あの時代の人は、山の上に(雲のような)ビジョンとか夢がありまして、「ロシア打倒」とか「日本の独立」とか、そこに向かって登ったわけですよ。

一生懸命登ります。そうすると、40代の山を越え、仕事盛りを越えますと、あの時代、1900年代を生きた人は、このへんで人生が終わりました。平均寿命がだいたい40代だったんです。

『坂の上の雲』は4年前かな、NHKがドラマ化しましたよね。観た方はわかると思うんですが、モックンが演じてた秋山真之という連合艦隊の参謀は49歳で亡くなっていますし、夏目漱石も、教科書を見るとなんかおじいちゃんまで生きたように見えますけども、49歳で亡くなります。

あの物語でいちばんかっこいい、僕も非常に憧れた児玉源太郎という人も53歳。ごくまれに、乃木希典さんとか、秋山真之のお兄さんも長生きしましたけれど。基本的に平均寿命が40代で終わる人生だったら、この人生観は正しいですよね。

ところが今はどうなっているかといいますと、この40年が倍になりまして、80年から90年ですよね。今この場に40代の女性がいるとすると、あと50年あるわけです。50年って、どうですか? 「よっしゃ!」なのか、嫌がって「エーッ?」なのか。

この一山型の人生観で生きたら「エーッ?」ですよ。

連山を形成するには「裾野」が必要

なので、どういう人生観が要求されるかというと、こういう感じです。

山並み連ねて、連山型ですね。富士山型一山主義じゃなくて、八ヶ岳のような連峰型で、最後、できたら登ってる最中にプッツンこと切れる。

これが全国のお年寄りが今憧れている「ピンピンコロリ」、ピンコロという死に方です。私もこれに憧れます。講演の終盤にバタッと倒れる。聴衆は驚くかもしれませんが、私の理想(笑)。

肝心なのはこういうこと。組織の山をほとんどのみなさんがいま登ってますよね。組織の山を登って、具合悪くなってきて下っていく時ね。

じゃあこの2番めの山がひとりでに現れるかといったら、そんなことは絶対ない。2つめの山がひとりでに現れることはない。これが大事なことなんです。

この2つめ以降の山を形成するためには、絶対に「裾野(すその)」が必要です。3番めの連山にも裾野が必要。裾野がない山はないわけです。突然ニョキッということはない。

例えば裏側に入る山は点線で書きます。これも点線で書きます。山並みが並んでるわけですよね、八ヶ岳みたいに。

これでもうわかると思うんですけど、要は25歳ぐらいから55歳ぐらいまでの間に、どんな準備をしたかということ。どんな裾野を作ってきたか。

具体的には、組織では働いている間に、一方で、どんなコミュニティに加わって、それを大きくしたり育てたり、あるいはどんなコミュニティを始めたかですよね。

つまり、例えば、自分はビジネスパーソンとしてある会社に勤めて戦っている。これは本業ですね。この本業・本線とは別に、左に2本・右に2本ぐらいの支線を出していいわけです。

それは例えばお子さんがいるんだったら地域社会のコミュニティもあるし、被災地支援のコミュニティもある。「自分はラオスをやるんだ」とか「石巻の復活をやるんだ」というのでもいい。

それから男の方で昔、鉄ちゃんオタクだった人は、もう1回鉄ちゃんオタクに復帰したっていい。90歳まで生きるんだったら最後は鉄ちゃんオタクを極めるぞみたいな人もいていいし、花が大好きで大学で研究してたんだけどサラリーウーマンになって辞めた、それをもう1回やってみるみたいなことをやってもいいわけです。

コミュニティを始めたり、加わったりして育てながら、次第に山並みを大きくしていく。この山の高さはコミュニケーションの量だし、山の質、緑の豊かさはコミュニケーションの質ですよね。

コミュニティの山々も、さっきと同じ原理なんですが、だいたい始めてから1万時間ぐらいすると自分の居場所がしっかりできて、しっかり山になるんです。要するに、裾野からの頂上までだいたい1万時間と考えていただいていいと思います。

「1万時間は長いな」と言うかもしれませんが、みなさんだってすべての方が、自分がものにしている仕事、あるいはマスターしている仕事をだいたい1万時間かけて覚えたはずなんです。

どんな仕事でも、経理でも、コールセンター業務でも、営業でも、税務でも、そんな簡単には覚えられなかったと思います。販売でも、情報宣伝でも、だいたい1万時間でマスターしてるはずです。

この1万時間の根拠は、世界のどこを見回しても、義務教育がほとんど1万時間かけているということ。日本の義務教育だけじゃなくて。だいたい世界中の政府が1万時間かけてその国の国民を作るわけです。人間の脳の構造がそういうことになっているからだと思います。1万時間の根拠はそこなんです。

とにかく今ビジネスパーソンとして仕事してらっしゃる方は、こういう裾野を左に2本・右に2本くらい作っていただいて、それが例えば行政・政治系のことでもいいし、ボランティア系のNPO・NGOに近いようなことでもいい。

私はちなみにリクルートで大きな山(本業の山、主峰)を登りながら、長男の小学校のお父さんボランティアから地域コミュニティに入りました。先生たちがコンピューターを使えないというんで、使えるお父さんを集めてコンピュータルームのサポートをするというところからです。

それがどんどん高じて、民間校長まで行っちゃったわけです。これは1つの山を形作る典型例ですよね。

学校に行けない子供のためのファンドを立ち上げた

今私は60歳になりまして何を始めているかというと、WANG(Wisdom of Asia for Next Generation)というファンドを作りました。ラオスとネパールに特化しようと思うんですが、義務教育を受けられない子のためのファンドです。

ラオスやネパールでは、都市部は国の金で学校を作るんですが、山間部にいろんな少数民族がいまして、共通語を話せないような少数民族がいっぱいいるんです。何百種族といる。そういう人たちは学校に行けなかったりします。

それを日本人のお金で校舎を作り、学校のファウンダーになる。250万円から500万円ぐらいで1校作れるわけです。日本だったら学校作ると言ったら20億円~30億円かかる。それが250万円~500万円ぐらいで、3教室プラス半分職員室で、平屋の校舎が建てられるんです。

日本人の人にファウンダーになってもらい、例えば金野さんだったら「コンノスクール」みたいに名前もつけていいわけですよ。どうせ現地の人は読めませんから。

(会場笑)

それで現地の教育委員会と一緒にやりますと、私立ではなく、公立の小学校・中学校・高校になるんです。そこに現地の教育委員会が先生を送り込んできまして、実際に現地のカリキュラムが動くことになるから。

そこから優秀な子が現れて、師範学校へ行き、だいたい3年ぐらいの課程なんですけど、先生として戻ってくるのが大事。方言を話せる先生がたくさん生まれないと、とてもその地区を高められないからです。

そうやって先生が帰ってくる循環が起こると、乳児死亡率が下がったり、ラオスでもネパールでも女性が12歳とか13歳で早くに結婚する風習が残っているのですが、それを教育によって遅らせたり。

やっぱり教育から立ち上がってくると、手工業や農業生産性が上がるという現象が観察されます。日本であれば明治維新の頃、160年ぐらい前に起こったことを、今ラオスとネパールでやるということなんです。

これは完全にノンプロフィットで、僕自分のお金も、友人たちのお金も入れて、大前研一さんだとかいろんな人にも手伝ってもらいながら、そういう学校のファウンダー集めをやっています。それが僕の60歳からの山で、90歳ぐらいまでの30年ぐらいをかけて毎年1校ぐらいは建ててやろうと計画しています。

公的な校長という人生もまだ続きます。この春からまた高校の校長をやりますし、中学・高校とやったら、次は小学校か幼稚園か大学をやりたいと思うかもしれませんね。

今まで義務教育改革をずっとやってきたわけですけど、高校での改革もやり、アジアの義務教育改革もやるという、ここで描いた三角形に少し高さが出て、60歳からはより人生の三角形を立体化していく感じです。三角錐のようにね。

高さをもっともっと高めていくと、おそらく僕の志とか精神性みたいなものがぐっと上がっていくんじゃないかな、と。そういう人生を目指しています。

まだチャレンジの最中なので、みなさんにもどこかでご協力していただけるのであればしていただきたいと思いますし、今日はじゅうぶんに質問の時間は取れないと思うので、「よのなかnet」という僕のホームページに、僕が何をやっているのかというのと、アジア希望の学校基金「WANG」のことも全部載ってますので、ぜひホームページを見てください。

その中に「よのなかフォーラム」という掲示板があります。すごい古いタイプの、ツリー状に書かれる掲示板なんですが、ID・パスワードなしで入れるので、質問があればそこにハンドルネームでも本名でも書いていただければと思います。

メールアドレスを明かしたくない人は明かさなくても書き入れられるようになっています。ぜひここに書き込んでいただければ、私が「カズ」というハンドルネームで返します。以上です。ありがとうございました!

(会場拍手)

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