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うまくいくバトンタッチ(全3記事)

「自分にできないことを突きつけられた」ジャパネットたかた創業者が退任を決意したきっかけとは

TV通販番組でおなじみ「ジャパネットたかた」創業者の髙田明氏が2015年6月3日、ProFuture主催 経営プロサミット2015で「うまくいくバトンタッチ」をテーマに講演会を行いました。「若い人は自分では思いつかないことを提案してくれる力がある」と語る髙田氏。1日だけで20億円の売り上げを出す「チャレンジデー」の企画を提案したのも若い世代の幹部でした。また、部下への叱り方や仕事に向かう姿勢など、自身の経験を振り返りながら語りました。

過去は振り向かず、今を生きる

ちょっとこのあたりが長い話になりましたけども、私はどうやって社員とそういう思いを共有をしたかというのをちょっとお話しさせていただきます。

私は会社を作る経営判断の中で、結構トップダウンで来たタイプなんですよ。私のやり方は「今を生きる」という。過去はあまり振り向かないです。未来もあんまり見ないです。

生き方はどうでしょう、皆さん。ほとんどの人間は過去にとらわれていて、未来にとらわれていて、生きていませんか。私は今を生きるというのがすごく好きで、実際に昨日も「ジャパネットチャレンジデー」というのを……。

すいません、見てる方はいらっしゃいませんか? 1人くらい。1人くらいいらっしゃるでしょう?

(反応なし)

えー。帰ろう。

(会場笑)

本当に知らないんですか? これを知らないということはまだ可能性がいっぱいあるんですね。私は今を生きるんで、昨日はスタジオに7時間ぶっ続けで生放送に出てましてね。

9時までスタジオに詰め込みで。30年来そればっかりやってるんですよ。でもまったく自分の中にはブレがなくて、(カメラの前に)立ってる瞬間には「この商品を伝えたい!」「この商品が皆さんの人生を変えますよ!」という思いだけで伝えてきた人生なんですよ。

今を生きる。2年前、あの林先生の「今でしょ」。これは俺のためにあると思ったんですよ。「今でしょ」というあの流行り言葉が流行語大賞に選ばれましたでしょ。

「今を生きる」僕はそれを(胸に)どんどんまっしぐらに走り続けて、今の人生なんです。社長を退任しても同じなんですよ。今を生きてるという。

何を言いたいかといいましたら、部下を作っていく上の人というのは、自分の体を張って背中を見せていくということ。親の背中を見て子どもが育つということがありますよね。そういう「意識」じゃないですけども、そういう中で優秀な社員と価値を共有する社員がたくさん増えてきた。

そういう仲間が集まってきたことによって、今のジャパネットはこういう会社にさせていただいたんじゃないかと、社内的には思ってるんです。

それは社内だけじゃなくて、一生懸命やってる姿というのは、やっぱり消費者の皆さんにも支持していただけるようにならなきゃいけないと思ってやってきました。こう言いましたが「私がすべてできてるんです」という話ではございませんよ。

我が社の話は「すべてできてます」ということではございませんから、誤解のないように。まだまだ未熟ですけども、社員全員がそういう気持ちで前を向き、今を一生懸命生きているということだと解釈していただければと思います。

仕事がきついと思ったことは1回もない

私が乗り越えてきた部分では、不可能だということでも「絶対不可能だ」とは思わなかったんですね。「きついか」というと、すべての仕事できついと思ったことは1回もないです。

66歳になって、私は悩んで寝れなかったということが1回もないんです。皆さん一日くらいあります? これは本当にオーバーじゃなくて。

なぜかというと、私は自分がやり続けていることの中に価値を見出してますから、すべてのことを受け入れて自分が動くことによって、きついことが習慣化してしまったんですね。だから朝から晩まで、最長では50時間生放送をやったんですけど、それも全然きついとは思わない。

実は今日と明日が東京で、明後日からは北海道に3泊で行ってきます。釧路に行って富良野に行って、それからいろんな……内緒の話ですけどウニを見に行きます。食べるウニですよ。

富良野ではメロンを見に行ったり、とうもろこし畑を見に行ったり。7日まで東京にいまして、それから戻ってきて今度は10日からポーランド、デンマークへ現場を見に行くんですよ。

そんなことをこの歳でやってるんですけど、今も一生懸命やり続けてる自分がいるんですよね。本当に一生懸命やってる中で背中を見てくれる社員がいて、価値を共有していくという。自分の姿を見せていかないと誰もついてきてくれないんじゃないかという思いでやってきた、30年の社長の生活だったんです。

そういう中で大きな課題があって、私が今年辞めたというのは実は、2013年に戻りますと「覚悟の年」というのを決めたんですけど、もしかしたらこの中でご存知の方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

あっ、7名くらいいらっしゃいましたね。ジャパネットは2011年に過去最高の売り上げを達成したんですね。1759億円という。これが2011年でございました。

当時は地デジ化とエコポイントの影響でテレビが売れたんですよね。もう、持ってくれば全部売れちゃうくらい売れて、その後はテレビがまったく売れなくなりましたよね。

今日のお客さんの中にもメーカー系の方がいらっしゃるかもしれませんけど。そのときは「テレビが売れなくなる」と予測してたんですけど、まさかここまでというくらいに。

メーカーさんも全部撤退ですよね。中国とか韓国に追い上げられてて、ほとんどやめてしまうくらいの状況で。ジャパネットもそうだったんですよ。

2011年に1759億円にいったんですけども、2年後には1170億円、600億円売り上げが下がりましてね。それで利益も半減しまして「どうしたらいいんだろう」とみんな焦ったことがあったんです。

私の中ではそれほど心配はなかったんですけど、何とかしなきゃいけないなというので、2年前の2013年に「最高の利益を出そうか」とみんなに発破(はっぱ)をかけました。

言ったのはいいんですけど、言うだけではなかなかみんなが一緒になって動くことはできないから「じゃあ、いかなかったら社長を辞めるよ」と言って会社に戻ったら、みんなびっくりしちゃったんですけど。

私は思い付いたらポンポン言ってしまうタイプでございまして、それから1年間はもう大変な戦いをみんなでやっていたわけなんですよ。

そして2013年の最後には最高益に達することができたんです。そのときの利益が、2011年は136億円くらいだったんですけども、2013年には150億円を超えて過去最高になりました。

自分にできないことを認める勇気が必要

そうする中で「これは息子に譲ったほうがいい」と思うことがあったんですね。私は29年間社長をやっていて、トップダウンですから自分の中では100%の自信があるんですよ。でも、それがはたしていいかどうかという疑問にぶつかったんですね。

「昨日チャレンジデー見ましたか?」と皆さんに申し上げました。これは、1日に1商品だけを売るという企画なんですよ。昨日は日立のエアコンでした。1日に1商品ですよ。これは相当な経費を使うんです。

これも、私の頭の中ではそういう企画は浮かばなかったんですよ。トップダウンだからすべてのことを決めてきて全部を見てきたんですけど、だんだん歳を重ねて29年やってる中で、自分に慢心じゃないですけど慣れが出てきた。

できると思ってたことが、私じゃなくて若い人がどんどん発案することがあるんだなと思い出したんですね。ここ5~6年で(変化が)進んだことを感じながら、若手の社員とも話をしていたんですけども。チャレンジデーを発案したのは、実は今の新社長以下幹部だったんですよ。

私は「絶対ダメだ」と反対しました。「こんな経費を何億もかけたものは私の常識ではダメだ」と言って議論したら「どうしてもやらせてくれ」と言う。

「やってみたいんだ」と言うので、そこは折れました。失敗すると思って「やってみい」とやらせてみたら、大成功ですよ。それで「そうか、若い人って自分で考えつかないことを提案してくる力があるんだ」と。

私が60歳から70歳、75歳と続けることよりも、そこは切り替えたほうがいい。自分の頭の中にひとつ「事業継承」が出てきたんです。人間って、自分が歳を重ねたらだんだん楽になりますでしょ。

「自分の言うことは絶対正しい」となって、人の言うことをあんまり聞きたくないというような。歳を重ねたら、やっぱりみんなそういうふうになってくる傾向がありますよね。

ところが、自分を信じていくというのは何歳になってもやらなきゃいけないと思うんですけども、自分にできないことを認める勇気が絶対いると僕は思ってるんですね。僕は結構あるほうなんですけども、それをバシッと突きつけられたのがそのチャレンジデーだったんですよ。

どれくらい売れるかという話をちょっとします。皆さんには大手さんもたくさんいらっしゃいますから、1億2億の話をしても驚かないと思いますけども。

ジャパネットの「チャレンジデー」は1日で20億円売れる

実は、チャレンジデーというのは1日で20億円売れるんですよ。1日だけで。昨日はだいたい17億円くらい売れてるんです。エアコン関係だけで。

僕にとってみたらやっぱり大きいことですよね。私の経験の中でやらなかったことを、若い人の発想でどんどんやっていく。「これなんだ」と。事業をつないでいくというのは。

世阿弥がよく言う「秘すれば花」ということで、企業というのは次から次に新しい発想を出し続けていかないと、今の本当に成熟した世の中、スピードのあるグローバル時代の中ではお客様は感動してくれないんです。自分では出しているつもりでも、なかなかやっていなかったということに気づきまして。

3年くらい前から、このチャレンジデーの牽引力ってすごいですよ。私は今の新社長以下、若手の力を信じたということも理由のひとつとしてあるんです。もうひとついきますと、チャレンジデーというのは媒体を確保しないと商品が売れない。土曜日って媒体が少ないんですよ。テレビ放送の枠が。

「これでは売れないぞ」って言って、これもまた今年の3年目にして反対、大反対。私は社長を退いてますけど相談を受けますから「これは絶対失敗するよ。3回くらいのテレビ放送ではできないよ」と言ったところ、若い人が「いや、やらせてください」。

「何をするの」「インターネットの媒体を確保していて、どこからでも入れる」と。バナーを貼ってみたりもして。

そしたら、枠がなくても枠がたくさんあるときと変わらない売り上げを、若手が全部勝ち取った。これはまたやられたっていう感じですね。

ですから、若い人がそういう能力を持っているということを信じてあげる、そして任せていくということが、歳を重ねて経験してきた人の課題でもあるのかなと。それが、こういう仕事の中で私が感じてきたことです。

そのような中で、私は事業継承をしていく判断をしましたし、任せるんだったら100%任せて二重の命令がいかないようにしたいと。

だから、今はスカッとしてましてね。そう言いながらも、(会場に)社員が10人くらいいますから言いますと「1年はアドバイスする」と言ってますから。

彼(社員)にガンガン言うほうなんですよ。昨日なんかも1人か2人泣いてましたけど。優しい顔して、仕事では僕のトップダウンがいつも出るもんだから「来年いなくなったらのびのび自由にやれるかな」と思っている社員も半分くらいいるのかなと思います。

部下には9叱って1しかほめない

皆さんどうですか、部下を叱るほうですか? ほめるほうですか? 「ほめて育てるのが一番いい」と思われる方、手を挙げていただけませんか? 

(会場挙手)

……「叱って育てるのがいい」という方、手を挙げてくれませんか? 

(会場挙手)

……そうですね、質問の仕方が悪いですもんね。

(叱る・ほめるが)半々であるとか、9:1であるとか8:2であるとかいう育て方もあるかもしれませんけども、私はどっちだと思います?

(最初に聞けば)たぶん皆さんは「10ほめる」と思うんでしょう。でも話の流れだとそう思いませんよね(笑)。実は、僕はほめることはないですよ。9叱って1しかほめない。今、世の中は変わりました。

僕らが団塊の世代のときには残業が100時間200時間あっても一生懸命働き続けて、国の法律(労働基準法)に何にも言われなくて働いてきましたけど、今は7連勤がダメだとか休みはこれだけ取らせなさいとか、国を挙げてワークライフバランスを取らせようというところがありますよね。

だから、昔みたいにいかないんですよ。この部分も私たちの世代と今の世代の経営の仕方、指導の仕方が違うということを、世の中の流れで感じることがあります。私は今も一日中スタジオで立ち続けてもいいんですけど、やっぱり社員達はそうはいきません。

新しい世代の考えを持った人が、今の法律とか今の時代に合わせて人を使っていくというのが必要なんじゃないかと思います。新社長は、私よりそこらへんの仕組み作りが非常に上手なんですよ。

私はそこが非常に下手なもんですから、これもひとつの能力として認めて事業継承したということなんです。

どうですか皆さん。私と同じ年代はいらっしゃらないと思いますけど、50代60代の皆さんは、自身が20代の頃に働いた労働環境とは全然違うと思いませんか? 全然違いますよね。

だから私たちとしたら難しいですけども、そういう環境の中で若い人の力を引き出す経営がこれからは要るんだろうと思いますね。

企業の経営もそうなんですけども、成長期と安定期のやり方はまったく違いますよね。会社の経営の仕方も、時代の流れとか、その企業がどういう位置づけにあるかということでやり方を変えていかないと、やっぱり継続する企業としては残せないんじゃないかと思うところがあるんです。

そういう部分で私は社長を辞めました、ということになってくるんですけどね。

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