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長野雅弘氏インタビュー(全1記事)

「心のローソク」に火をつけろ! 学校再建のプロがビジネスパーソンへアドバイス

聖徳大学付属取手聖徳女子中学校・高等学校の校長を務める長野雅弘先生は、女子教育のエキスパートであると同時に、低迷していた4つの学校を生まれ変わらせた「学校再建のプロ」として知られています。また、その辣腕ぶりを聞きつけた企業関係者から、「先生のノウハウは企業の再生にも活かせるに違いない!」とアドバイスを求められ、いくつもの会社の業績回復に貢献してきました。そんな長野先生が、ビジネスパーソンや企業経営者向けに「組織再生術」をテーマにした新著『校長先生、企業を救う』を上梓しましたので、その内容について語っていただきました(この記事は日本実業出版社のサイトから転載しました)。

「心のローソク」に火をつけろ!

──本の中で、企業で学校でも、組織運営ではそこに属する人の「心のロウソク」に火をつけることが大事だと強調されています。先生をはじめ、教育者の皆さんの「心のロウソク」も消えかかることがあるのでしょうか。

校長先生、企業を救う 4つの学校を再生し、3つの会社のV字回復に貢献した敏腕校長が教える組織再生術

ビジネスパーソンの皆さんからすれば少し傲慢に聞こえるかも知れませんが、実は教員の「心のロウソク」はなかなか消えないんです。子どもたちと時間を共有していくんだ、子どもたちの成長が自分の幸せなんだと、ほとんどの教員が本当にそう思っているからですね。むしろ管理職になって授業が減ってくると不満に思うくらい。

学校がつぶれそうだとか、生徒の暴力がひどいとか、極端な状況があれば話は別ですが、そんなことがあって「心のロウソク」が消えかかったときでも「なぜ、自分は先生になったんだろう」と思い返すと、またバッと火がつくんです。原点に返るとやる気が出てくる。

──組織では中間管理職が要だ、ともおっしゃっています。なかなか苦労が多いポジションですが……。

私のところには中間管理職の方も相談にいらっしゃいますが、くじけかけている人、ロウソクが消えそうな人は多いですね。皆さんまじめだから、組織の中で板挟みになっているんだろうな、と想像してしまいますが。

そんなときは、やはり原点に戻ってみることです。企業に勤めている人たちにも、何万とある仕事の中から「その仕事」を選んだ理由があるでしょう。そこがビジネスパーソンにとっての原点。一度立ち返ってみると「あ、まだ火は消えてなかったな」と気がつくのではないでしょうか。

──それでも、組織にいると理不尽に感じることも多いです。

私たちも、正当な評価を受けられなかったり、いわれのない批判を受けたりして、やめたくなることもあります。でもそれは、そういうことを言う人たちだけを見ているからそうなるのであって、ほかの子どもたちや親御さんの多くは「校長先生、一緒にやっていきましょう」と言ってくれる。このひと言を聞くと頑張ることができるんです。

例えば組織に10人いるとします。その中の1人のことが嫌で火が消えそうになったとしても、その人だけのことで思い悩むのはばかばかしい。残りの9人は仲間じゃないですか。誰か1人、何かひとつのことが原因で心が折れかかったとしても、また火をつけてくれる人や事柄はたくさんあります。

──視野を広く、ということですね。

ひとつのことだけこだわっていてはだめです。嫌いな人だとなったらその人が何を言ったって嫌だし、そのことばかり考えて嫌な気持ちになる。いい人や仲間はいっぱいいるんだから、狭い世界に自らを閉じ込めないことですね。

「絶対にくじけないぞ」では疲れてしまう

──「火が消えそうな」ご自分の部下の方や先生方にも、そのようなアドバイスを?

私は朝礼をとても大事にしているんですが、なぜかというと、教員たちがそんな状態になることを未然に防ぎたいからなんです。毎朝教員たちの様子をチェックして、ちょっと疲れているなとか具合が悪そうだなと感じたら、まわりの人を呼んでその人を元気づけてくれるようにお願いします。子どもたちに対してもそうですね。担任の先生は、教壇から見たときに生徒の状態がすぐわかりますから、同じように、まわりの子に頼みます。会社でいえば、上司は部下の状態をいつも気にかけることですね。

──それでも消えそうになったら?

飲みに連れて行きます(笑)。以前はそういうことを否定していましたが、いくら格好つけたって、結局私たちは浪花節の世界に生きてるんですね(笑)。みんな、聞いてあげるだけで安心しますから。相手の言うことにこちらが賛同しかねても、とにかく聞いてあげる。そのときは、自分に対する罵詈雑言が出てきても、仕方ないと我慢します。

それに、誰でもすぐくじけるんだから、あまり思い悩まずにくじければいいんです、無理しないで。絶対くじけないぞ、なんて頑張っていたら疲れてしまいますから。そのほうがすぐ立ち直れます。

──部下指導について、そのほかに気をつけるべきことはありますか?

できるだけほめることです。よく、ほめればほめるほど人のモチベーションは上がるといいますが、これは科学的根拠に基づいています。

前頭葉のある部分にある「スピンドルニューロン」というのは幸せを感じると伸びる神経細胞ですが、これが伸びていくと前向きになって、ストレスにも強くなる。管理職の方々は部下をどんどんほめてあげてください。管理職をほめる役割は社長ですね。ところが日本人の社長は照れ屋なのか、なかなか部下をほめない(笑)。

ただし、明らかに間違っていることはしっかり指摘して叱らなければダメです。なぜなら、人はいくつになっても変わることができるから。いい方向に持っていくように関与してみることです。

組織のベクトルを揃えるには

──本書に出てくる「理想の組織をつくる6つのポイント」の最初に「同じベクトルで仕事をする」ことをあげておられます。メンバーのベクトルを揃えるのに苦労したことはありますか?

以前いた高校では普通科と商業科が別校舎で、距離的にも少し離れていました。道1本あるだけで全然の別の雰囲気になるんですね。まったくコミュニケーションがありませんでした。わたしは普通科の責任者で、そこで再生のための改革をやりましたが、商業科からはなかなか理解を得られませんでした。企業でも部署間で壁があるでしょう?

──あります。通路1本違うだけで心理的な壁ができてしまったり。

別の学校では、高校と短大の間に細い川が流れていました。もちろん橋で行き来できるんですが、考え方がまるっきり違っちゃっていたんです。そこで、人の入れ替えを非常に短い期間でやりました。お互いの考え方をわからせるために。そうしたら、それぞれが「間違っていたかもしれない」と思いはじめ、ベクトルが揃ってきました。企業でも、人事交流にはそうした効果が期待できます。

──短い期間で異動して、仕事の継続性に問題はなかったんでしょうか。

それぞれがつくっていたテリトリーをとにかく壊したかったので、そこを優先しました。机にファイルを高く積んで、まわりとの交流を拒んでいた人もいましたがそれも禁止(笑)。孤立して働いても楽しくないですからね。風通しを良くしないと。

抱え込まずに仲間に頼ろう

──最後に、読者へのメッセージをお願いします。

先ほども言ったように、中間管理職の方がよく相談に来られます。くじけかけている人が本当に多いです。苦しいと思いますが、まずは、最初にお話しした「この仕事を選んだ理由」に立ち返ってみてほしいと思います。

それから、ひとりで抱え込まないこと。仲間がいますから。誰もが何もかも完璧にできるわけじゃない。仲間に頼ってください。私は部下も含めてみんなによく頼ります。頼られたほうもうれしいんです。

社長さんにも頼ってみてください。社長は孤独だから、信頼されて頼られたら喜びますよ。

──女子教育のエキスパートとして、働く女性に対してもひと言いただけますか?

女性が活躍できる世の中に、ということがさかんに言われていますが、実は女性の側が、家庭との両立が難しいことを理由にリーダーになることを躊躇している側面があります。しかし私は、それでは社会が行き詰まってしまうと思んです。

家庭のマネジメントも会社のマネジメントも、それぞれの心を通わせてベクトルを揃えて、一緒にやっていくという点では同じです。家庭を仕切っている女性たちに、マネジメントができないはずはありません。実際に上手に両立させている人も多くて、話を聞くと、家庭でも会社でも同じことをやっているとおっしゃいます。

どうか女性の皆さんも積極的に管理職になって、会社と、会社の男性たちを引っ張っていってほしいですね。

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