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障がい×起業・雇用──「寝たきり社長」佐藤仙務氏と「働く」を考える(全3記事)

「働かずに死んでいくほうが怖かった」 難病の寝たきり社長が失敗を恐れる人へ贈った言葉とは

「寝たきり社長」として知られる仙拓社長の佐藤仙務氏とサイボウズ社長の青野慶久氏が、障がい×起業・雇用をテーマに対談。質疑応答のパートでは障がい者の給料に関する質問に対して「障がい者であることを理由に給料を高く設定したりはしない」と、佐藤氏が回答します。仕事と障がいのバランスをとりながら働くことの難しさについて考えていきます。(障がい×起業・雇用──「寝たきり社長」佐藤仙務氏と「働く」を考える より)

「障がい者」を理由に給料を高くすることはしない

司会:それではこれより質疑応答の時間に入らせていただきます。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。

質問者:私、今はNPOを担当しているんですけど、以前もともと実はWeb制作の会社を経営していました。

まだインターネットの仕事を始めたときから、インターネットが将来、何ができるかと考えたときに、家から出られない障がい者の人とか、母子家庭のお母さんとかが、家で仕事ができるようになるんじゃないかなという思いがあったんです。実はもうしょっぱなから、最初の社員2人が障がい者でした。

とりあえず在宅なんですけど、時間は本当に他の人と同じ8時間勤務で、もちろん残業があってという形だったんですけど。

今、だいたい皆さん、4名の方がいらっしゃるということなんですけど、1日何時間ぐらい働いていて、週お休みが何日で、あとは何か具体的に聞いちゃっていいのかどうかわかんないですけど、お給料とか、あとは今の年商とか、その他のところをお伺いしちゃってよろしいでしょうか?

佐藤仙務氏(以下、佐藤):ありがとうございます。そうですね。まず働いている時間は、僕と松元は役員なので、時間関係なく、本当に夜中まで無差別に働いているんです。あと雇っている2人はちゃんとした社員なので、時間とか定まっていて、最初に雇った大阪の人は週3日働いています。

それで、1日1時間働いてもらう。その人は1時間以上は働けないんです。もうそれ以上やっちゃうと、体に負担が掛かってきちゃって万が一、命の危険というのもあるので、1時間以上は働かないんです。

最初は愛知県のほうは最低賃金が800円なんですけど、最初に800円で働いてもらって。最初、800円で雇ったことに対して、ネット上ではバッシングというか、そういったものがあって、なんでそんな800円しかあげないのっていうんですけど。

でももし他の人がその仕事をやったら、もう本当に極端な話、もっと早くやれる仕事でもあるんですよ。僕はその人に、働きたいというのがあって、かといって、障がいを持っているからということで雇うとか高いお金を払うということは正しくはないと思っていて。

障がいを持っている人と持っていない人で、仕事はどっちが早いってなったら、やっぱり障がいを持っていない人のほうが全然早いんですよ。でも、障がいを持っていない人でも、人より安い給料でもいいから、それでも働きたいという気持ちはあるし。

だからそれに対して僕が、もし障がいを持っていて頑張っているなら、じゃあ、1時間2,000円払うよとか、3,000円払うよっていったら、それはもうその人に対してすごい失礼なことだと思うので。

うちの会社は、とりあえずスタッフさんは800円の時給で働いてもらっていますね。埼玉の人はもうちょっと状態がいいので、だいたい1日3時間とか4時間ぐらい働いてもらって、週に2、3回働いてもらっています。

青野慶久氏(以下、青野):じゃあ働く時間も長さも、週に何回働くかもバラバラで、その人に合わせて。

佐藤:そうですね、バラバラです。

青野:まさに多様性ですね。その給料の決め方も市場性を加味しているというか。この辺りが逆にいうと、会社を維持する経営者の覚悟を僕はやっぱり感じましたけれども。ありがとうございます。僕は余計なことしました?

司会:いや、全然大丈夫です。

視線入力のテクノロジーに期待している

質問者:こんにちは。今日はお会いしたかったです。

佐藤:わざわざすみません。ありがとうございます。

質問者:私も佐藤さんのところ、仙拓で名刺をお願いしたときがあったんですが。差を付けちゃいけないと私は思って、他でこんだけ安いサイトがあるからということで、断ろうとしたときがあったんですけれども。

そうしたら交渉をされて、いろいろこの手、あの手で言われてですね。ここで結局、すごい対等に見ながらお願いしたという経緯があってですね。先日、ちょっとメッセージでアドバイス、相談をしていただいてですね、いろいろ親身に相談に乗らせていただいたんですけれども。

私もIT業界に勤めておりまして、青野さんとも何度かお会いしています。私も志が、やっぱりITで時間と距離を超越することをどうしてもやりたいと思っていまして、先ほど社員の方が4名で、4カ所、離れて仕事をされているということなんですけれども。

多分、Skypeみたいなああいうツールをいろいろと使われていると思うんですが。そういうツールを使って、もっとこうなったらいいのになという、そういう思いをぜひ聞きたいなと思ってですね、質問させていただきたいと思いました。

佐藤:そうですね。1人の人は喋れないんですよ。なので、Skypeとかハングアウトでやるということは難しいので、文字でやり取りをしているんです。つまり文字を打つといっても、手でキーボードでパチパチ打つわけにはいかないので、僕がパソコンで字を打っているみたいに、画面に出てくるキーボードを1文字ずつ打っているんですけど。

もっと思った言葉が文字になって出てくるような、そういったものがあると、僕らみたいな障がいを持った人間というのは、やり取りというか、書類の作成とか、そういったものはだいぶ楽になるのかなと思っています。

僕はずっと視線入力、目で見たものを字で打ったりというのを今すごいやりたいなと思っていて、どこと組んだら実現できるかなというのを自分の中でちょっと考えています。だからそういったことも何か、ITならではのものというのもやりたいなと思っています。

青野:確かに、そうですね。

質問者:ありがとうございます。

佐藤:ありがとうございます。

失敗することより、自分が誰からも知られないことが怖かった

質問者:大変ありがとうございました。私も佐藤さんと同じ病気で今、大学に行っているんですけれども。私も高校を卒業して、できれば働けたらいいなという思いがあったんですが。

どうも、やっぱり働く場所がないというのはしょうがないとしても、働くというのが何かとても怖くて、働くってどういうことなんだろうっていろいろ考えて、何か一歩踏み出すのにとても躊躇してしまって、失敗したらどうしようという、ネガティブな思いがあり、そういうのもあって大学に行ったんですけれども。

佐藤さんは、失敗したらどうしようというリスクというか、そういうような思いを抱いたことはあったんでしょうか。

佐藤:そうですね、僕も結構、普段はこういうポジティブなことを言う中で、言おう、言おうとは思っているんですよ。やっぱり最初、思うことは、僕でもやっぱり怖いなという思いがあって、やっぱり会社で働いていて、ある程度社会経験を積んでから会社を立ち上げたりとか、そういった話は別なんですけど。

今まで学校で守られていた人間が、ましてや障がいを持っていて、こんな状態の人間が、会社を立ち上げるということのでかさというか、怖さというのは、やっぱり僕にもありました。

僕は失敗したらどうしようという怖さより、このまま会社を立ち上げずに、自分は働かずに家にいて、誰も僕のことを知らないまま死んでいくということを考えたほうが、だんだん怖いなと思って。

やっぱり生きているなら、自分の名前って皆さんに覚えておいてもらいたいし、男なら夢を持ってでかいことをやりたいというのはあると思うんで。僕の場合は、働かないことの怖さというほうが大きかったです。

質問者:ありがとうございます。

重度障がい者でも働けるという事実をどう届けるか

質問者:ありがとうございました。私、障がい者の方の就労支援を今させていただいているんですけれども、ちょっと佐藤さんに2点ほどお伺いしたいと思います。

まず1つ目の、今回新たに重度障がい者の方を2名採用されたということで、その方々って、もともと働く意欲があったかどうかというところと。

あとやはり重度障がいの方で、そもそも働くことさえ諦めていらっしゃる方ってたくさんいると思うんですけれども、そういった方々が、どういった情報が、どういう形であれば、自分が働けるんじゃないかという思いになりそうかどうかという、ちょっとご意見だけいただけるとうれしいなと思います。

佐藤:そうですね、僕が最初雇った大阪の人は、最初、その人は働く意欲はまったくなかったです。その人はもう本当に、30半ばなんですけど、人生で働いたことがないんですよ。大学出て十数年間、ジッと家にいて、もう働くっていうことの存在さえ、もう自分の中で消している状態で。

その人に「働いたらこんなに楽しいよ」って言っても、「じゃあ自分で働く」ってならなくて、でも、もったいないなと思っていて。

それでちょっと働いてもらったんですけど、働いて数カ月ぐらいたったときに、「働くってこんなに楽しいんだ」とか、「働くって今までもう自分の中でないものだと思っていたんだけど、働くという当たり前のことを忘れていて、今まで何をしてたんだ」とか。

何をしてたんだって思っても、働く場所がなかったから、そういう状況になっているのかな。やっぱりみんな、どこかであきらめている部分というのが非常に大きくて。

最初、やっぱり障がいを持った人が働く場所を選ぶのは、だいたい養護学校というか、特別支援学校で探すのですが、まだ特別支援学校に働くことの情報がいってないというのがあって、先生たちも生徒をどこに送り出していいかわからないという状況なのです。もっと特別支援学校にいろんな働くことの情報が届けられるといいなと思います。

質問者:ありがとうございました。

福祉のにおいのするような会社はやりたくない

質問者:お会いしたかったです。我々の会社は事業員が3,400名いて、ご周知のとおり1,400名が障がいを持ったり、引きこもりだったり、生活保護だったり、ホームレスだったりという、ちょっとユニークな会社の幹部をしています。

僕自身も目が見えなくて、てんかんを持っていて、大学時代は引きこもりをしてて、10年ぐらい経営者をしているんですけど。どういう考え方で事業を展開していっているのかなって聞きたいなと思っていて。

自戒の念と、先輩としての敬意を込めてですね、多くの場合、障がいを持つ当事者の経営者たちは、自分の障がいをダイレクトに生かしたマーケットで闘っていっている人が多いかなと思っているんですね。

目が見えない人であれば、そういったソフトウェアを開発したり、車いすの人であればバリアフリーのコンサルティングをしたりと。でも、それだったらスケールアウトしなくて、社会は変わらないなと思っているんですね。もっとかかわる人が広がっていったりしなきゃいけないなと思って。

なので僕自身も、いかに自分にとって遠い存在の人たちとビジネスをするかって、いつもキーワードにさせていただいています。

今、名刺だったり、Webだったり、いろんな事業をされていると思うんですけど、先ほど衣食住のところでもおっしゃられましたけれども、今後、どんな視点でビジネスを展開していきたいかという、何か軸を持たれていたら教えていただきたいなと思います。よろしくお願いいたします。

佐藤:ありがとうございます。そうですね、とりあえず僕、重度障がい者で衣食住をやりたいって話したんですけど、あんまり福祉のにおいのするような会社にはしたくないなと思っていて。

障がい者、障がい者という扱われ方というのは嫌だなと思っていて、だんだんメディアに取り上げられるようになって、ただ「寝たきり社長」がやっているって取り上げられて、このままではちょっとまずいなと思った時期もありました。

障がい者がやりそうにない仕事をして、世間を驚かせたい

佐藤:そんなときに松元がアプリをつくりたいと言って。「アプリをつくりたいのは何で?」って聞いたら、何かすごいオタクみたいなアプリをつくりたいと言って、これはもう僕らがやる必要があるのかどうかっていうところからまず、話し合いが始まり。

でも彼の、障がい者がこんなものをつくらないなというところの視点も何かおもしろいなと思って。最初はそれを出したら、周りからどうやって見られるんだとか、すごい社長としては悩んだ部分はあったんですけど。でも、やっぱりいったん障がい者というところを忘れて、2人で純粋にゲームをつくってみようというので、つくりました。

司会:「歯みがき日和」というエンタメ系のアプリですね。

佐藤:そうですね。これを出すというので、僕もすごい悩んで。でも案の定ネットに出したら、ヤフーニュースとかに取り上げられて、あの障がい者がやっている会社がこんなのを出してたと取り上げられて。

そういった、あんまり障がい者、障がい者した仕事だけじゃなくて、バランス、偏りのない、こんなものをやっているよとか、障がい者でもこんなこともやるんだぜというところ、周りから見たら予想外なことをどんどんやっていきたいなと思います。

質問者:ありがとうございます。

司会:ありがとうございました。ではもう1名。

重度障がい者でも一芸を活かせば働くことができる

質問者:よろしくお願いします。今日は楽しいお話、ありがとうございました。ひとつ教えてほしいと思うんですが、大阪の重度の彼を雇用して、具体的に何をしてもらいたいと思って雇用したのですか。

それは多分、先ほど青野社長が障がい者雇用はすごいびびるんだよねと言った、びびる最大の理由は、もちろんその人のQOLが上がるかということもあると思うんですけど、実際会社で何をしてもらうんだろうというのが具体的にイメージできないところだと思うんです。

その辺り、佐藤社長が「大丈夫、大阪の彼にはこういうことをしてもらえる」という発想があると思うんですが。その辺りの発想のこと、その2点を教えていただきたいと思います。

佐藤:そうですね、その彼はすごい数学が得意で近畿大学の博士号を持っていて、頭めちゃめちゃいいんですよ。すごい数学が得意な人なんで、仙拓で数字に関連する何かをやってもらうことがないのかなって考えたときに、仙拓はWebサイトははじめからつくっているんですけど、松元がアクセス解析を全くやらないんですよ(笑)。

つくった後にアクセス解析をやらないと困るじゃんという話になって、数字を取るのはその人にやってもらおうと思って、

その人にアクセス解析の専門書を1冊バサッと送って、それでとりあえず読んで覚えてって言って。そうしたらその人、2週間ぐらいで分厚い本を読んじゃって、実際にやってもらったら、もう完璧な状態だったんですよ。まとめて、整理して。

本当に何か、こんだけの障がいを持った人でも、会社に貢献できるんだなって思って、その人を雇いました。だから今はちゃんとアクセス解析やっています。

質問者:要は自分の会社の足りないところをしっかり理解して。障がいのある人でも、一芸をしっかり生かしてもらう。その中で自分の会社に貢献してもらって、社会に貢献をつないでいくという、そういう発想ですね。

佐藤:はい。

質問者:ありがとうございます。

佐藤:ありがとうございます。

司会:よろしいでしょうか。では時間となりましたので、こちらで終了ということにさせていただきます。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

佐藤:ありがとうございました。

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