2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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圷由美子氏(以下、圷):今このやりとりの中で思いついたんですけど、マタハラNetの活動に寄り添ってくださっている安藤さん、渥美さん、青野さん、川島さん、4名の呼び名について「イクメン三羽烏」ではなくて「花より男子」っていうドラマあるじゃないですか。あれの「F4」ではなく「M4(マタハラ4)」はどうでしょう(笑)。
横道にそれましたが、私たちはまずはとにかくマタハラ訴訟の最高裁判決に世間の注目を集めるべく、最高裁に焦点を当てようと、弁論、判決のタイミングに合わせ、同事件代理人の先生とも協力し、さまざまな活動をしてきました。それが終わり、(じゃあ小酒部氏と2人で)次のステージどうするかと。
「マタハラ」という言葉は広がったけれども、意識を変えていくためにはどうするか。ということで「M4」のみなさんそれぞれにお知恵を拝借すべく、11月頃からお目にかかってきました。
そうしたみなさまと一堂に会し、今、こういった形で一緒にトークセッションさせていただいているということを本当に感無量に思っております。
青野さんのお話を聞いた上で、赤裸々に申し上げますと、うちの夫の勤め先はみなさんもご存じの大手IT業界の会社です。帰ってくるのは夜中の2、3時です。
私が夜中に授乳していても帰ってきていない。最近は怖くて寝室にいるかいないか確認するのもやめました。ぜひ青野さんの会社に縁故で入れていただきたい(笑)。
今日は、週末に食事を届けたり、病院に付き添ってきたりしてきた、祖父のお通夜なんです。明日お葬式なんですけども、夫は式が終わったらすぐに会社に戻ると言っていて、有給もほとんど残っているという状況です。
労働事件を多数手掛けてきた弁護士として、夫の会社に直接アクションするのも自前でできます(笑)。でも、そうじゃなくて、日本全体の世の中を変えることによって夫の会社の職場全体も変えたいというのが私の思うところ。
そして、後に続く女性、男性には、それぞれ育児・介護をはじめとして「ご自身たちの時間を大事にしてほしい」という思いのもと、今日も本当にヘロヘロになりながらほとんど寝ないでやってまいりました。
労働現場を15年見続けてきた者として、日本はこのままだとおそらく潰れます。若い労働者はどんどんうつ病になっています。ただでさえ、労働力不足の中で、既に若者もそうやって潰れていっている状況。
男女雇用機会均等法制定から30年というお話がありました。均等法制定時、男性女性どちらの働き方に合わせていくかというわかれ目だったと思いますが、結局男性側の企業戦士的な長時間労働の働き方に合わせ、今に至っています。
女性活躍推進ということで「どうぞ女性のみなさん入ってきてください」っていうことを言うんだったら、家庭的責任などを追いながら働く、女性の働き方のほうに男性を合わせる職場でなければ活躍などできっこない。これがおそらく「人間らしい働き方」へ舵を切る最後のチャンスです。
圷:私の立場から言わせていただくと、今回、政府は岩盤規制にドリルを入れると言っていますが、その中身は、といえば、使用者側にとっての規制をとっぱらう改正法、つまり、解雇に関しては金銭を支払えば労働者を解雇できる。
労働時間に関しても、どんなに働かせてもOK、過労死、うつ病をさらに増大させるであろう「定額で働かせ放題」というべき法案が上がってきています。
おそらくこれらの改正法が通ってしまったら、ホワイトを目指す企業もブラック企業との競争で非常に苦しい立場に追い込まれると。青野さんには、今後とも「ブラックには負けない!」と強く言っていただいてフロントを走り続けていただきたいなと思っているところでますが、今、日本株式会社として、どちらに舵を切るのか。
働く者の生活を守るための最低限の規制を外して、結果的にブラック企業が得する世の中を作っていいのか。報道もほとんどされず、あまり知られていませんが、今、働く職場のルールについては、非常にせっぱつまった状況にあります。
私たち労働側は「そうだ、ホワイトカラー・エグゼンプションなんてもってのほか」と言っているんですが、狭いところで主張してもしょうがない。
若者とか、介護を担うような男性たちも、ご自身の状況を振り返ると、やっぱり「今の働き方おかしいんじゃないか?」と思われるのではないでしょうか。そういったシンプルな感覚を「M4」のみなさんと共有し、彼らに向け発信していただきたい。そういうふうに思っております。
川島高之氏(以下、川島):ありがとうございます。弁護士という立場で、法律の力だけだとなかなか変えていくのは難しいというのが今までの経験ですし、あるいは今後も?
圷:そうですね。マクドナルドの時も当然そうでしたし、管理監督者というのはすごく(権利が)限られた存在。今回、マタハラに関してはちゃんと均等法9条3号という立派な規定があります。
それに現実が追いついていない。それどころか現実に追いついていないほうに今政府はグッと寄せようとしているような状況。やっぱり、文化・意識を変えていかないとどうにもならないという結論に至っています。
川島:なるほど。専門の弁護士先生がそうおっしゃってるんで、間違いなく「意識のほうから変えていかなきゃいかん」ということだと思います。先にご質問などがあれば、ここでみなさんお答えするようにしたいと思いますので。
ご質問は、あまり自分のことしゃべる時間はできれば割愛していただいてシンプルな形でお願いできたらと思いますが、ご遠慮なく挙手していただければと思います。はい、ではどうぞ。
質問者:今言われたとおり、法律とかそういったものはどんどん整ってきてると思っています。ただ、私の周りの働いている人たちっていうのは法律さえ知らない。意識も全然そこまで追いつかない。直属の上司あたりに至っては全く意識が……という状況がものすごく強いと感じます。
それで、私は草の根というか、下から周りから変えていきたいなと思っているんですけど、周りから変えていくために、私というか一市民ができることっていうのはどんなことがあるかなと。それをぜひ聞きたいと思うんですが。
川島:じゃあ、ワンフレーズでちょっと。
小酒部さやか氏(以下、小酒部):ご質問ありがとうございます。私、今回2週間アメリカに行っていていろんな市民団体の方と会わせていただいたんですけども、そこで「日本には労働者しかいない。市民がいない」って言われてしまいました。私たち「マタハラNet」にも数多くのバッシングが飛んできます。
「女性ばかりの権利を主張して」とか「企業のことも考えろ」とか「どうせ理想論だ」とか「男みたいに働けるのか。男と同じように働けるのか」といろんなバッシングが飛んできて傷つく時もあるんですけども。
ただ、女性が働きやすい会社っていうのは男性にとってはもっと働きやすい会社のはずなんです。ですから、私たち、ここにいるみなさん、ファザーリング・ジャパンさんとかもそうなんですけども、この働き方改革って誰も損しない、みんなにとっていいはずなんですよね。にもかかわらず、労働者同士が食い潰し合っている。
さらには労働者からバッシングがくると。これを見るとやっぱり労働者たちはずいぶん企業に飼い慣らされてきてるんだなと。
長時間労働しなければ収入は得られないと思い込まされている。このような思い込みをさせられているのはやっぱり企業の経営者が最も思い込んでからなんですよね。とある学者の方が言ってました。
「長時間労働しなければ利益が上がらないっていうのは、企業の経営者の思い込みであり、洗脳であり、もはや呪いだ」って。
じゃあ、今言っている意識改革をどうしていけばいいのかっていうと、私たちは今マイノリティだと思われているんですよね。私たちが少数派。
「いや、そうじゃないんだ。私たちがメジャーなんだ。これからは私たちが主流なんだ」って(この状況を)ひっくり返すことが大事なんです。そのためには、私たちにどんなバッシングがきても絶対に「戦いません」「ケンカしません」(という姿勢を貫く)。
なぜなら、1人でも多くの人と手を取り合っていかなければいけないから。まずは私たちと同じような女性と手を取り、それから育児に積極的な男性と手を取り、そして企業の方と手を取り、労働局と手を取り、政府と手を取り、1人でも多くの賛同者を集めてください。
それが意識改革の第一歩だと思ってます。以上です。
質問者:ありがとうございます。
川島:ありがとうございます。他にいますか?
安藤哲也氏(以下、安藤):組織や上司が変わるのを待つだけでなく、個人でできることにまず取り組んでみてはどうでしょうか? 「仕事を早く終え、なるべく定時で帰る人」が増えれば、自然と組織も変わってくると思います。
あと自分の職場だけでなく、社会全体の変革にとっても個人の行動は大きくなっていくはず。
たとえば僕が最近始めたのは「夜22時以降はコンビニで物を買わない」ということ。みんなが夜中までの営業を求めてしまうと、どんどん長時間労働の店が増えて労働環境が悪化するから、それを個人では求めない行動をしてます。
一人ひとりが自分の欲得だけで動くのではなく「お店を開けている人にも生活がある。店頭に立っている人にも小さな子どもがいるのでは?」と想像する力をもって、個人が行動すること。
そういうところから社会って変えていけるんじゃないかと思います。
川島:(挙手をしている質問者を指しながら)はい、ありがとうございます。質問はシンプルにお願いしますね。
質問者:私、2008年に部下が800人いる立場にいたんですが、母に女手ひとつで育てられたので在宅介護を選び、介護退職をしました。
それから、3年間介護をしまして。それが終わって2011年に3.11が起きた際にはボランティアに行ったのですが、日本では(介護やボランティアを)ブランクだと取ってしまうため、なかなか一般の企業に復帰できません。
もう諦めて、ファザーリング・ジャパン(に関わっていこうかなと)。私ずっと親のためで結婚できなかったんですけど、親と大人が責任を持ち、次世代を担う子どもの正義感や倫理観、思いやりの心を育み、自らが手本になりながら人が生きていく上で自然の心得を伝えていくと思っています。
ですから、もうGNPとかGDPではなくてGNH(国民総幸福量)でやっていくべきじゃないかなと。GNP・GDPですと、日本は世界で上位の3位ですけど、GNHで見ると90位です。その辺はみなさんいかがお考えでしょうか?
川島:どうでしょう? 国民幸福指数という言葉もあるくらいですから、渥美さんどうですか?
渥美由喜氏(以下、渥美):GNHは、Gross National Happinessの略ですね。「ハッピネス」ということでは、僕は「手放すこと」も重要だと思っています。
たとえば僕は2回転職しているんですが、そのとき「給料が上がる」という願望を手放しました。給料が落ちてもいいから転職すると。共働きで妻がバリバリ働いてくれているので、できたんですけれどね。
「なにかを手放す」と、もっと幸せになれるし、もっと自由になれる。男性の場合とくに、それは大きいと思います。
たとえば僕の父は要介護、息子が難病で、はたからみたらけっこう不幸に見えるんですけれど、実際はすごく幸せです。困難があるときに家族がすごく親しくなれたから。
妻とも、すごく深いところで人生について語り合ってきましたし、うちの息子とも親父とも、どうやって時間の密度を高めるかということを考えてきました。
幸せって、そういうところにあるんじゃないかなと思います。
質問者:ちょっと話がズレちゃったんですけど、その部分ではなくて。私も30年前に「ダイバーシティ」って言葉がない時代に女性社員が生き生き働く職場作りというプロジェクトに参加したんですけど、当時の上司から「フィールドワークでもやってんのか」「何やってんだ」と。
「ですから、産休を作ったりとかそういうことやってんです」とか言っても、もう全然チンプンカンの上司で。
それで時代がようやく移ってきて、でもまだこのマタハラ問題っていうのが……。
川島:ちょっと青野さんのほうから。
青野慶久氏(以下、青野):幸福度のことについて少しお話したいんですが。今、ワークライフバランスのほうに日本が流れていて、それ自体は好ましいと思っているんですけど、懸念しているのは「女性活用をしない会社はダメである」と。それもまたある意味1つの価値観を否定していることになると思うんです。
これから幸福度を考える時には一人ひとりを見ないといけないと思ってます。なぜかというと、各人で幸福のツボって違うと思うんですよね。
サイボウズの中でも、むちゃくちゃ働きたい奴がいる一方で、バランス取って働きたい人もいる。お客さんと常に接したい人もいれば、1日中難しいプログラミングをすることが快感っていう人もいるわけですよ。
だから、幸福度を語る時にやってはいけないのが他の価値観の否定です。その人が幸せだというのならそれを認めてあげなければいけない。
これを実現できるようにすれば、全員が幸せなんですよ。ところが「こういう形じゃないと、これからの企業はダメですよ」ってなってしまうと、それ以外の幸福の価値観と相容れなくなってしまう。なので、これからの日本で考えていかなきゃいけないのが「均一」ではなく「多様」ですね。
いろんな楽しみ、幸福があって、結婚するもしないもよし、子供を持つも持たないもよし。でも、持つ人は幸せだし、持たない人も幸せがいいよねっていう価値観で幸福を見ていけるといいなと思います。
川島:今のお話は非常に大切だと思うんですが。例えば「ワーキングマザー」「女性の社会活躍」って言われる中「専業主婦否定だ」と訴える人もいるんですけど、それも大きな間違いで。
専業主婦OKだし、ワーキングマザーもOKだし「24時間働きたい」って人もOKだし。ただ重要なのはその価値観を押し付けないってことなんですよね。
特に上司が部下に対して、男性が女性に対して自分の価値観を押し付けないっていうのがやっぱり今後大切になってくるんじゃないかなと思います。
安藤:イクメンは確かに増えたけど、世の中にはまだ子どもが最優先じゃなく仕事になっているお父さんも実はまだ、いっぱいいるわけですよ。
子どもがまだ小さいのに、我欲を追求し過ぎて24時間働いてるうちに、家庭がおかしくなっていたりするケースを僕はたくさん見てきました。
多様な価値観はあっていいんだけれど、子ども、すなわち次世代をちゃんと育成していくことが重要なんだ。というのを前提においたうえで「効率よく、たくさん働いてね」と僕は言いたいですね。
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