【3行要約】
・プレイヤーとして優秀だったはずの新任管理職が、部下の育成やチームのマネジメントに苦戦するケースは少なくありません。
・木下勝寿氏は、この苦悩は才能の有無ではなく、「昇進によって競技が変わった」という事実を受け入れられないためと指摘します。
・これまでの成功体験を引きずらず、新たな環境で一から学び直す素直さと、管理職としての土台を築くためのステップを探ります。
新任管理職が苦しむのは、才能がないからではない
木下勝寿氏(以下、木下):部下の未熟さにイライラしたり、自分の優秀さを基準に周囲を見てしまいます。新任管理職が苦しむのは才能がないからではなくて、役割の切り替えが難しいからです。ここを怠っている人のことを「老害」と言います。逆にここを正しく理解していると、その後の成長スピードは一気に変わります。
——木下社長。先日X(旧Twitter)で
管理職について書かれた投稿がすごくバズっていましたね。
木下:そうですね。新任管理職について話した内容なんですけども、新任管理職として気をつけるべきことを書いたポストが多くの人にすごく響いたらしくて、180万回表示されたみたいですね。
——180万回も表示されて、引用リポストやみなさんのコメントを見たら、「自分が管理職になる10年前に知っておきたかった」という声がたくさんあったと思います。
木下:そうですね。管理職になったら、今までの延長線上ではなくて「競技が変わった」と認識しなければいけないんですけども、同じ競技の感覚のまま続けて成長が止まる人が多いですね。
それに対する対策の話をしたところ、「あ、それ、管理職になった時に教えてほしかったな」みたいなね……という声が多かったですね。
今までの延長線上で管理職をやっている人が多い
——私も読んでいて、「今読んでよかったな」って思ったんですけども、なんであんなにバズったんですかね?
木下:管理職になった時に、管理職になることによってどう変わっていくべきかを、きちんと教育を受けている方もいらっしゃると思うんですけども、そういうのもないまま、今までの延長線上でやっていらっしゃる方はかなり多いと思うので。今回はですね、管理職になりたての人が気をつけるべきことをお話ししたいと思っています。
——ぜひ詳しく教えてください。
木下:すでにもう管理職になっている方も、あらためて自分が本当にできているかどうかを振り返ってみてください。そして、すでに自分の部下が管理職になっているような上級管理職の方は、新しい管理職の方に、ぜひ教えてほしいなと思います。
そしてまた、これから管理職を目指す人は、管理職になったら何をどう変えるべきかをぜひ学んでいただきたいなと思っています。あらためて、今日は最近管理職になった、管理職に昇進した方にどうしてもお伝えしたい話をしたいと思います。
まずは最初に、昇進、本当におめでとうございますということで。Xを投稿したのは4月だったので、管理職になりたての人がたくさんいたので反響があったと思います。今は6月かな? 7月ぐらいですね。ということで管理職になっていろいろ動きながら、「どうだろう?」とか思っていらっしゃる方もいると思いますが、ぜひこれはあらためて学んでもらいたいと思うんですけども。
昇進は「上がった」のではなくて「競技が変わった」
木下:まずですね、管理職になるってどういうことかというと、だいたいの場合は、これまでプレイヤーとして結果を出して、周囲から信頼されて、会社から「次はお前だ」ということで選ばれたんだと思います。それ自体は本当に間違いなくすごいことですし、たまたまではなく努力されてきた証拠だと思います。
ただですね、その上で今日はちょっと耳の痛い話をしたいと思うんですけども、まずその一言を最初に言います。昇進は「上がった」のではなくて「競技が変わった」ということなんですね。

ここを勘違いするとかなり危なくなります。ここを勘違いした管理職の方は、だいたい管理職1年目で大問題を起こしたり、というのをよく見ます、私もね。逆にですね、ここを正しく理解していると、その後の成長スピードは一気に変わります。
多くの人は昇進すると、感覚としてこう思います。「自分は評価された」「自分は上に上がった」とか、「自分は次のステージに上がった」と。もちろんこれ自体は間違ってはいないんですよ。正しいことではあるんですよね。会社があなたを認めたから昇進があるわけです。
でも、もっと正確に言うと、あなたは今まで「プレイヤー」という競技で上位だった。そして昇進した瞬間に、「管理職」というまったく別の競技に移った。そしてその瞬間、立場としては新しい競技の新人に戻っているという状態なんですね。つまり、プレイヤー競技のトップ層から管理職競技の末端に移った。この認識をぜひ持ってほしいなと思います。
プレイヤーとして優秀だった人ほどはまりやす“罠”
木下:この「新人・初心者になった」という部分が飲み込めているかどうかが非常に大事なんです。なぜならプレイヤーとして優秀だった人ほど、この罠にはまりやすいんです。
例えば、「営業で圧倒的な成果を出していた」とかですね、「エンジニアとして誰よりも難しい案件をさばいてきた」とか、「店舗で誰よりも売上を作ってきた」とか、「チームのエースとして周囲から頼られてきた」。そういう人ほど昇進した瞬間に、無意識にこう思ってしまうんですね。「自分はすでに強い。自分はわかっている。このポジションでもきっとうまくやる」。
でも実際には、そう単純ではないんですね。なぜならプレイヤーとして一流であることと、管理職として一流であることは、ほとんど別の能力なんですよ。プレイヤーに求められることは、自分で結果を出す力です。でも管理職に求められるのは、人を通じて結果を出す力ですね。ここがまったく違うんです。
管理職になると「自分ががんばる」だけでは勝てない
木下:「自分ががんばる」「自分が誰よりも動く」「自分が最速で成果を出す」、これで勝てるのがプレイヤーの時代ですね。でも、管理職になるとこれだけでは勝てないんですね。むしろそれをやり過ぎると負けてしまいます。
今まであなた1人に10の成果を求めていました。しかし管理職になるあなたと、あなたのチーム自体に100の成果が求められます。100の成果は、あなた1人ががんばったところで出せる成果ではないんですね。
あなたはかなりがんばりました。今まで10求められていたものを20、30出しました。でも、あなたに求めているのは100なんですよ、という話なんです。
となってくると、あなた1人ががんばって出せるものではないです。チームを動かして成果を上げるという別のスキルを身に付ける必要というのがあるんですね。なので、管理職になったら「新競技の初心者になった」という意識を持つことが大事なんです。

今日はその話をいくつかの例で例えながら話していきます。
高校野球のスターも、プロ野球では新人
木下:まず、「競技が変わる・ステージが変わる」で、すごくわかりやすい例があるんですけども、プロ野球選手の世界なんですね。プロ野球選手になるような人は、だいたい高校時代にはその野球部のエースで4番でキャプテンなんです。
学校ではもうスーパースターです。誰よりも野球がうまい。周囲から一目置かれてチヤホヤされて、自分の判断が最も正しいと思っていてもぜんぜん不思議ではありません。事実、その中では最も判断が正しいんですね。その判断に基づいて結果を出してきた人です。なので、それ自体は間違っていません。監督ですら、もうあなたに意見は言えなかった。これはあると思います。
しかし、プロの世界に入りました。もちろん大学とか社会人でも活躍して、プロの世界に入った瞬間に景色が一変するんですね。なぜなら、周りを見たら全員自分と同じような高校時代のスターなんですよ。昨日までは自分がスーパースター、自分だけがすごかったんですけども、この世界ではワン・オブ・ゼム(one of them)なんですね。
この時に何が起こるかというところなんですけども、本当に伸びる選手はここで切り替えるんですね。「高校時代までの自分はもう関係ない。この世界では自分はまだまだ新人なんだ。よし、学び直そう」となるんですね。
そしてプロの世界に入ったら、プロの世界で、プロのコーチや先輩に素直に教えを乞います。そうやって今までの勝ちパターンを捨てて、新しいフォームを作ったりとか、体作りをしたりとか、考え方を変えたりとか。
伸びない選手は昔の成功体験を引きずる
木下:同じ野球でも高校野球とプロ野球は違う競技なんですよ。例えば、敵のレベルが根本的にぜんぜん違うんですね。甲子園の投手の平均時速は130キロから135キロと言われています。甲子園でもそうですけどね、予選なんかだともっと低いですよね。
でも、プロ野球選手の投手の平均時速って145キロから150キロなんですね。さらにスピードだけじゃなくて球のキレとか制球力とか、変化球の精度もぜんぜん違います。高校時代と同じ練習で通用するはずがないんです。だから根本的にやり方を変えなければいけません。
でも、伸びない選手は高校時代の成功体験を引きずっちゃうんですね。「僕は高校時代、このやり方で勝ってきた。今さら変えていくとフォームを崩しちゃう」とか、「自分の感覚が正しいはずだ」みたいな感じで自分流を貫きます。でも、それが通用したのは敵が一般の高校生だったからなんです。

これをやっているとその結果どうなるかというと、プロのレベルには適応できないんです。そしていつまで経っても2軍選手なんですね。でも肩書だけはプロ野球選手だから、飲み屋とかに行った時にね、「こいつ、プロ野球選手なんだよ」って言うと、女の子から「あ、すごい!」とかって言われてモテるかもしれません。
でも、本当に勝負すべきは球場ですよね。ここではやはり何も残せないという話になっちゃいます。
自分流を押し付けても、部下やチームは育たない
木下:管理職の昇進はこれに似ているんです。プレイヤーとしてどれだけ優秀だとしても、管理職としてはまったく新人なんです。まずはこの現実を受け入れて鍛え直すところから始めていかないといけません。
でもね、現実にはここでつまずく人が多いです。例えば営業のエースの人が課長になります。すると最初に何をやるかっていうと、そのまま自分のやり方を押しつけてしまいます。商談のやり方とか提案資料の作り方、メールの文章を自分流に直したくなってきます。なぜなら「自分のやり方のほうが精度が高いです」。
実際、高いと思うんですね。その人はプレイヤーとして結果が出てきていますから、成果は出ています。でも、そこで自分が全部やり始めるとどうなるかというと、部下は育たないんですね。チームの再現性もありません。
要は、練習方法にしても、そもそもの肉体が違うと同じ練習方法が通じるわけがないんですね。その人に合ったやり方をしないといけません。
プレイヤーとしては優秀なのに、マネージャーとして機能しないわけ
木下:あなた自身はトークがめちゃくちゃうまいかもしれません。だからそのやり方でいけるのかもしれないですけども、部下の人はトークはうまくないかもしれません。でも違うものができるかもしれません。じゃあ、この人に向いたやり方をちゃんと考えていかないといけないんですね。
ここをやらなくて自分流だけをずっと押しつけていると、マネージャー本人だけがどんどん忙しくなってきます。個人に求められた10の成果は出せるんですけども、チームに求められている100の成果は出せなくなります。
最終的にはプレイヤーとしては優秀だけどマネージャーとしては機能していないという状態になるんですけども、これ、けっこう多いんですね。本人はがんばっています。むしろ誰よりもがんばっている。でも、それがマネジメントの成果につながっていない。
その理由は簡単で、競技が変わっているのに前の競技の勝ち方で続けようとしているから。新しいルールに対しては初心者のつもりでも学ぶ姿勢ができていない。
大企業のエース社員が起業して失敗する理由
木下:もう1つ、これは似た例があります。ベンチャー起業家によく見られるんですけども 、例えば大手企業とか有名企業で大活躍していたエースのような人。この人が満を持して独立します。社内では誰もが認めるエース社員でした。上司からも一目置かれました。社会でも名前が通っていました。「この人なら起業しても成功するだろう」、誰しもが思っています。自分でも思っています。
ところが起業した瞬間に起きることは、実は昇進と同じなんですね。つまりエース社員から底辺経営者になるんです。何の実績もない会社の経営者です。
会社にいた頃は看板も信用・実績もありました。ですが独立後は違う。外部取引でも採用でも、相手から見れば、まだ何の実績もない会社の人です。銀行から見ても、何の実績もない会社。採用でも、就職する側からすると何の実績もない会社なんですね。だから、これから一つひとつ信用を積み上げていかなければなりません。
ところが、ここで失敗する人がいるんです。それは、自分がエース社員ではなくて実績ゼロの経営者1年生になったということを受け入れていない人なんですね。
気持ちは「いつまでもピカピカのエースでいたい。みんなから憧れられるような存在でいたい」、その欲望が身の丈に合わない行動を生んじゃいます。