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Actionable Ikigai: Career Planning in the age of AI(全4記事)

AI時代になぜ人は「取り残された」と感じるのか 比較対象が増え続ける社会の正体 [2/2]

変わらない人間のハードウェアとダンバー数

ベクテル:ところが、少しずつそうではなくなっていった。インターネットに何が起きたのか。

大学で文化人類学を学んでいた時、ロビン・ダンバー博士という人を知りました。社会学者、厳密には行動生物学的人類学者ですね。彼には「ダンバー数」という考え方がありました。



仕組みはこうです。社会の進歩というのは、くねくねしながらも、基本的には直線的に進む。一方で技術の進歩は、ムーアの法則のようにホッケースティック型、つまり指数関数的に伸びていく。でも、私たちホモ・サピエンスを動かしているハードウェア、ファームウェア、チップは、そんなに速く進化しません。というより、1万年前とほぼ同じハードウェアで動いているんです。

新石器時代を考えてみましょう。(スライドを示して)このハンサムな男性は、身だしなみの基準も服のセンスも私たちとは違うかもしれません。でも、生物学的にも進化人類学的にも、彼は私たちそのものなんです。温かい火が好きで、家族と過ごすのが好きで、子どもたちへの愛情も大事にしている。

そして、このAI生成画像を見る限り、なぜか彼はあの人にかなり好意を寄せているようです。そこは私は理解も支持もできません。まあ、それはいいでしょう。



要するに、彼は生物学的に見て「私たち」なんです。親しい友人が5人くらい、というのがちょうどいい。そして服装は変わっても、ハードウェアは変わらない。いいですか。1700年代でも同じ。1920年代でも基本は同じ。1980年代でも、だいたい同じです。妻がさっきの動画を見て、「あなた、何をしているの?」って言うんです。私は「オンラインだよ」と答える。もう人生そのものですね。



でも話の肝はここです。ソフトウェアは変わる。ネットワークも変わる。でもハードウェアは、ほとんど変わっていない。ダンバーが見抜いたのは、そのハードウェアで支えられる関係性の数です。

人は、親密な関係を5つ持てる。親しい友人は15人くらい。そこそこ友人と呼べる人が50人。そして一番大きい、見出しになる数字がこれです。意味のあるつながりを持てる相手は、せいぜい150人。だいたいそこまでなんです。

企業もこれを知っています。部門設計や事業部の設計でも、大学でも企業でも、この数字を前提にしている。なぜなら150人くらいになると、私たちは「自分の居場所がある」と感じるからです。所属感が生まれ、自分にはここにいる価値があると思える。(スライドを示して)この人も、なかなか気分が良さそうでしょう。


ソーシャルメディアは人を「小さく」感じさせた

ベクテル:ところが、“デジタル版ギリガン君SOS”から10年後、ソーシャルメディアが世界に入り込んでくると、知人やゆるいつながり、オンライン上の友人の母数が一気に膨れ上がった。すると何が起きたか。私たちは、自分がものすごく小さく感じるようになったんです。本当に、ものすごく小さく。



これはもう、みんな自分の人生で体感していますよね。ホモ・サピエンスの脳、つまり霊長類の脳は、「ボブがメンサに入った」「テッドがポルシェを買った」「フランクは体を鍛え始めた」「ジェーンはヴィーガンになった」「トニーは今や慈善活動に夢中だ」といった情報を一度に受け取ると、その“無数に増えた星の数”を処理しきれないんです。

多すぎるんです。では、埋め合わせのために私たちの脳は何をするか。いろいろな情報をひとまとめにしてしまう。断片のコラージュを作り上げるんです。自分より何もかも優れている、架空の“誰か”を作ってしまう。

実際に起きているのは何かというと、個々人の“ハイライト映像”が並んでいるだけです。なのに私たちの哺乳類的な脳は、それを一人の宿敵のように感じてしまう。自分より上で、自分は劣っている、と思ってしまう。そして「夜」が訪れ、みんな正気を失っていくわけです。


経済格差は人を「遅い」と感じさせる

ベクテル:さて、ちょっと元気が出る話が必要な人はいますか? では、いきましょう。歴史上でもとりわけ人を鼓舞する人物の一人、私の母校で、今は勤務先でもあるところの名物コーチ、ルー・ホルツです。史上有数のモチベーターですね。

彼が、大事な試合の前に選手たちを鼓舞していた時の話です。彼はこう言いました。「お前たち、相手チームは俺たちより大きくて強い。俺たちは小さいうえに、おまけに足も遅い」。



……励ましは、もう5分後に取っておきましょう。というのも、問題は、私たちが情報時代に対して相対的に“小さい”だけではないということです。“遅い”とも感じているんです。

エドウィン・ハッブルは、クリスチャン・ドップラーの研究をもとに宇宙を見ていました。ドップラー効果をみなさんは知っていますよね。救急車が近づくと音が高く聞こえるのはなぜか。音波が圧縮されて周波数が高くなるからです。そして遠ざかると、音波が引き伸ばされて周波数が低くなる。光でも同じことが起きます。これが赤方偏移です。

ハッブルが見つけたのは、遠くにある星ほど、私たちから見るとより赤く見えるという現象でした。そして彼はそこから、ある結論にたどり着きます。宇宙は膨張しているだけでなく、遠くにある星や銀河ほど、より速いスピードで遠ざかっている、というものです。



星は遠いほど速く進んでいる。すごい話ですよね。では、これが今の話とどう関係するのか。

ダルトン・コンリーという社会学者がいて、『Elsewhere, U.S.A.』という本を書いています。私は2008年頃に読みました。彼が言うには、経済もまた同じだというんです。すでに多くの富を持つ人ほど、その後さらに資産を増やす勢いも強くなる。だから私たちは、ますます引き離されているように感じるのだ、と。



まるでレースをしているのに、前を走る人たちだけジェットパックを背負っているようなものです。ここにマリオカート好きの人はどれくらいいますか? (会場の挙手を見て)会場の割合にしては多すぎるくらいですね。任天堂アメリカ(Nintendo of America)に拍手です。

マリオカートでは、先頭の車が大きくリードすると、どうなります? 誰か言ってみてください。

会場:不利になる。

ベクテル:そう、青甲羅(トゲゾーこうら)です。トップにいる人は、後ろの人たちの“進歩的課税”とも言える恐るべき青甲羅で引き戻される。

でも現実の世界では違います。先頭の人は、複利というトリプルきのこ、限られた人しか参加できない私募投資の機会、そして有利な長期キャピタルゲイン税率という後押しによって、さらにきのこをもらえるんです。我ながら、この例えは気に入っています。

要点はここです。これは単なる数字の話ではなく、心理の問題でもあります。遅れているだけならまだいい。問題は、どれだけがんばっても、むしろ差が広がっているように感じてしまうことです。

アラン・ディートンというイギリス系スイス人の哲学者がいて、彼は「不思議なことに、人は多く持つほど、かえって悲しく感じることがある」と言いました。年収400万円の人は、200万円の人とも800万円の人とも付き合う。すると「自分は400万円。低い」と感じる。

年収2,000万円なら、1,000万円の人と4,000万円の人が周りにいるので、「自分は2,000万円。低い」と感じる。500万ドル稼いでいても、2,500万ドル稼ぐ知人がいて、そのことで妙に落ち込んだりする。



80年代の名作映画『ポルターガイスト』を見たことがある人はいますか? いいですね。つまり、現代の私たちはソーシャルメディアのせいで“小さく”感じ、富の格差やジニ係数、いわば経済の赤方偏移のせいで“遅い”と感じているわけです。

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