【3行要約】・日本ではいまだ長時間労働の文化が根強くありますが、時間とエネルギーを無限に使う働き方には限界があります。
・デンマーク在住の井上陽子氏は「北欧では1日を労働・自由時間・休息の3分割で捉えている」と指摘します。
・ビジネスパーソンは「やることを減らし、器としての自分を整える」ことで新たなチャンスをつかめると提案します。
前回の記事はこちら 「時間もエネルギーも無限かのように働いていた」新聞記者時代
井上陽子氏:では、視点の3個目ですね。私が思ったのは、時間とエネルギーは有限だっていうことです。自分もかつての日本的な働き方を思うと、まるで時間もエネルギーも無限であるかのように、すごくやるべきことがたくさんあった。優先順位がついていないやることがめちゃくちゃあった。それを振るほうも、あたかも私は無限に働けるみたいなことでやっていると。
この写真はデンマークの1890年の労働運動のスローガンで「8時間の労働、8時間の自由時間、8時間の休息」っていう、888という運動の時の現物が労働者博物館にあるんですけど。私はこの取材をした時にすごく開眼したんですよね。この本を書くきっかけになったんです。
労働者博物館の館長に話を聞きに行ったのは、私の質問は「なんでデンマークには残業の文化が入ってこなかったのか」というのを聞こうと思ったんです。
労働時間の変遷を見ると、1950年代ってデンマーク人のほうが働いているんですよ。日本との違いがなぜ出てきたかっていうのは、やはり経済成長の時代に「リゲイン」を飲みながらめちゃくちゃ働くカルチャーが根付いたからですよね(笑)。それはアメリカもそうだった。
デンマーク流・1日を3分割する考え方
だけどあの当時、どっちかというと日本のほうが勝者だったはずなんですよ。アメリカの大学院だって日本の企業のケーススタディとかをめちゃめちゃ勉強していたし。
だからなんであの当時、デンマーク人たちは「日本いいじゃん、じゃあ日本みたいに働こう」っていうふうに残業の文化を入れなかったのか。彼らはどんどん下がっているんですよね。。
そういうことを聞きに行くのに、たぶん彼は労働組合の強さを言うだろうと私は予測してここに行った。で、その館長さんから、「鍵はそこじゃなくて、スローガンの真ん中の『自由時間』だ」って言われた時に、すごく開眼したんですよ。
私はワークライフバランスっていうのを「仕事」と「仕事以外の休息」と思っていたんです。だから仕事をマックスに伸ばして、最低限の休息というか、もうほとんど「回復」ですよね(笑)。仕事、回復、仕事、回復……みたいな、新聞記者時代もそういうふうにやっていたわけですよね。
でもここにガーンと「自由時間」っていうのが入ると、伸ばしようがないわけですよね(笑)。「デンマーク人ってもしかして1日3分割で見てたの?」っていうのに開眼して、ワークライフバランスってもしかして、この人たち「働く」と「自由時間」のこと言ってた? みたいな(笑)。
私は休息と思っていたんだけど……って、そこで「えぇ!?」と思ってすごく興奮して。その時にそれまで見てきたデンマークの光景がピタリとはまったんですよね。よくよく考えてみると、この人たちは16時からの時間にすごくいろんなことをやっていた。
空いた時間で「もっと自分を高めよう」とする人たち

趣味の時間もそうですけど、子どもとやたらゆっくり時間を過ごしているし、あと選挙の時に候補者の意見を聞きに行くとかも午後の時間ですよね。あとは親同士集まってクラスのスマホの扱いを決めようとか、そういう集まりもやはり16時以降。
「それだからだったの?」みたいにすごく思って、それがこのタイトルの
『第3の時間』です、ということなんですけど(笑)。そこに私は開眼したんですよ。
北欧の幸福度の高さ、不幸を取り除くうまさっていうのはやはり、日本の方とかは子どもの教育費のことを常に考えていなきゃいけないとか、老後の資金のことをずっと考えなきゃいけないとか、けっこう将来の心配で時間を使うところが多いと思うんですよ。そういうことをぜんぜん心配しなくていいっていうのは、やはりうまさがある。
プラス、幸福につながる時間の使い方っていうのがこれなんですけど、例えば時間があっただけでもパフォーマンス主義とか仕事中心の人は、その時間に仕事しちゃおうとすると思うんです。「もっと自分を高めよう」みたいなことに時間を使っちゃうところを、彼らはそういうことはしない。彼らは時間の豊かさを、人とのつながりとかに使うのがうまいなと思います。
日本は「必要な変化を起こす力」が弱い
視点4、これが最後です。いろんな国際ランキングで日本がけっこう低迷しているという話の中で、競争力ランキングとかジェンダーギャップランキングとか、毎年「低い、低い」って言われると思うんですけど。
それって私が思うに、日本がすごくダメなことをやっているというよりは、ほかの国がどんどん良くなっているから、相対的にランキングが下がっているんだと思うんですよ。それはやはり「必要な変化を起こす力」が弱いからだと私は思うんですよね。
これは幼稚園の保護者会ですけれど、16時からの時間にこういうことを日常的にやっているんですよね。みんなで集まって、この時は「オーガニックの給食をちょっとパーセンテージ上げようか」みたいな、そういうことも言っていたんですけど。
いわゆる社会資本というソーシャルキャピタルが、デンマークは世界で1位、日本は141位。これって私から見ているとすごく危険な気がしていて、こういう場所がぜんぜんないですよね。うちの子は日本の学校に夏休みだけ入れているんですけど、名簿すらないとか言って(笑)。
「えぇ!? 名簿がなかったら親同士でどうやって連絡取るの」と思うんですけど「いや、個人情報ですから」みたいな。それじゃあ親同士が団結して、クラスで何か問題が起きた時に先生に「これ変えて」って言えないじゃないの、とかいろいろ思うわけですけど。
「これおかしくない?」ってみんなが思うことも上から正解を、「これはルールだから」みたいな。そういうところがすごく心配だなと思うところです。