【3行要約】
・働き方改革が叫ばれる中、多くの企業は効率化ばかりに注目し、本質的な変化を起こせていないという課題があります。
・デンマーク在住の井上陽子氏は、短時間労働の国が高い競争力を持つ理由は「人的資源の最大活用」にあると分析。
・ビジネスパーソンは、単なる効率化ではなく「仕事以外の時間も大切」という価値観の転換から始めるべきだと語ります。
読売新聞の記者からデンマークに移住して気づいたこと
井上陽子氏(以下、井上):今日はこちらのタイトル「デンマークに学ぶ、『短く働く生き方』へのライフシフト」ということでお話しさせていただきます。私はこのあと日本に1週間いるんですけど、国会で話すことになってしまい、最初「50人ぐらいですね」って言っていたのが今、オンラインを含めて500人以上の登録になっていて……(笑)。
ほかのイベントも150人とかいっていて「えぇ……」みたいな(笑)。たぶんちょうど今働き方の議論があるので、そういうタイミングだったと思うんですよ。ですけど私としてはこれぐらいの規模で、みなさんの生の声が聞けるのをイメージしていたので、今日この場ができたことが本当にうれしいです。ありがとうございます。
私の自己紹介も含めて話しますね。私は新聞記者でした。読売新聞の記者で社会部にいて、そのあと国際部に行って、ワシントン支局に行きました。私がデンマークに初めて行ったのが2014年だったんですけど、その日、先ほどお話しいただいたのとまったく同じパターンで(笑)。
その時私は午後の便で、当時はワシントン支局でオバマ大統領を追っていたんですよね。そのオバマ大統領のNATOの会議がイギリスであって、その出張が終わった。
夫が、当時のボーイフレンドですけどデンマーク人で、じゃあ遅い夏休みをコペンハーゲンで過ごしましょうということで、それで行ったのが初めてでした。
当時2014年だったんですけど、デンマークとか北欧って私は本当に何の知識もなくて。ただ当時は、国連の幸福度調査が始まって2年目ぐらいだったんですよ。で、2年連続1位とかで、幸福度の高い国っていうことぐらいは知っていました。そのぐらいの下知識で行ったんですよ。
当日に車で迎えに来てくれて、コペンハーゲンの街中に入っていった時に、車のスピードが落ちて「今ラッシュアワーだから渋滞だね」とか言って、それがまだ16時ぐらいだったんですよね。「え、16時でラッシュアワーなの?」「金曜だと3時だけどね」っていう話が初日にあって、衝撃だったわけです。
当時は新聞記者は1日に朝刊3回、夕刊2回、5回締め切りがあるんですよ。それで忙しいのプラス、特派員になると時差もあるので、本当にいつ寝ればいいのかいつも考えているんですよね(笑)。
それで出張が終わってめちゃくちゃな時間から16時のラッシュアワーに遭遇したので、こんな世界が同じ地球上に存在しているのか、みたいな。でもその時は幸福度のことしか知らなかったので、そりゃ幸福でしょうと思ったんですよ。幸福だろうけど「この国の経済、大丈夫なの?」っていうのが最初の疑問だったわけです。
幸福度も高く、GDPは日本の倍以上
井上:そのあと私が妊娠し、夫が「子育ては絶対にデンマークがいい」というので暮らし始めて、調べてみるとこういうことなんですよね。1人当たりGDPが今世界9位で、もう日本の倍以上になっていますね。
競争力ランキングは2022年に1位で、幸福度ランキングもその後もずっと……だいたい今はフィンランドが1位でデンマークが2位ですけど、そのへんは誤差の範囲だから、要するに高いですね。
その2022年なんですけど、この年だと私はもうデンマークで暮らし始めて6、7年ぐらい経っている段階です。その時に競争力1位っていうニュースを見た時に「それはないでしょう」と思ったんですよ(笑)。
競争力1位はないよね。だって6年間で見てきた自分の風景がぜんぜん競争社会じゃないんですよ。おっしゃったようにすごく緩やかだし、本当に子どもたちに宿題なんかないし。高校とか、距離が近かったら第一志望校に行けるんですよ。で、みんな16時ぐらいに帰っているわけです。
年間の休暇はだいたい5~6週間取りますよね。夏休みはだいたい3週間みんな連続で取るので、それで競争力1位はないよねと。やはりこれはちょっと取材しなきゃいけないんじゃないの、というのがビジネスインサイダーというところで連載を始めたきっかけでした。
こちらの本なんですけど、ちなみにどれぐらいの方が読んでいます?

(会場挙手)
井上:読んでいない方はどれぐらいいらっしゃいますか?
(会場挙手)
井上:あ、まだいらっしゃいますね。じゃああんまりネタバレしないようにしますね(笑)。これ、ストーリーになっていますので。
私がこの連載を始める前の2022年当時、デンマークについて書かれているものが、だいたいは福祉国家という側面の話。もしくはヒュッゲみたいな、北欧の丁寧な暮らし。そういう本はあったけど、「短時間労働で豊かな社会」みたいな切り口のものってなかったんですよ。
でも私はこういう真逆な働き方をしていたから、やはり北欧から発信するんだったらそれが一番おもしろいだろうなと思ったんですよね。ワシントンにいた感覚だと、北欧のニュースを日本の人に書いてもまぁ読まれないだろうし、みたいな(笑)。
仕事中心の日本人が、さらに「成果主義」に陥らないために
井上:このアングルがたぶん一番おもしろいと思ったけど、ただこれを伝えるのはやはりちょっと注意しなきゃいけないなっていうのは、取材を始めた本当にかなり初期の段階から思ったんですよね。
というのは、そういうふうに言っちゃうと今のデンマークだけ切り取って、あたかも「すごく効率の良い働き方をしたら競争力が高くなる」みたいに見えちゃうと思ったんですよ。表面的にね。
そのリスクがまず1つあるし、もう1つは日本はすでにすごく仕事中心の人たちなのに、そういう人たちに追い打ちをかけるように「労働生産性がすごく低いよ」みたいな話をしちゃうと、たぶん日本の人は真面目だから「もっと成果主義に、もっとパフォーマンス主義に」みたいな変な解釈をされて、結局中間管理職の人がめちゃくちゃ疲弊するとか。
そういうことになっちゃったら良くないなっていう責任感から「自分、大丈夫か?」っていうのを、連載を始める前にすごく思ったんですね。そこをちゃんと注意して書かなくちゃいけないなって思っていて。