解決策を引き出す能力は人間に求められる
それから、解決する能力。「どうやって問題を解決するか?」っていうことなんですけれども。AIは知識はたくさんあるので、オプションはたくさんあるんですね。「この問題を解決するためには、これをするか、あれをするか、これをすると解決できるかもしれません」と。
でも、それで本当に解決するかどうかは、AIは知らないんですよね。なぜかっていうと身体性がないから。その中で解決策を選び出さないといけない。その解決策を引き出してくる能力っていうのは、人間に求められるものですね。

それからプログラミングスキル。AIのプログラムは少なくとも現在では間違えるので。その間違いを正す能力が必要になってきます。そうすると広範な知識が必要になりますが、AIそのものはたくさんの知識を持っているので。逆に言うと、その知識を使いこなす能力が、今までは知っているかどうかが求められるプログラミングスキルだったんだけど、知っているかどうかではなくて、ものすごく詳しい人が隣にいて、その人からいかに知識を引き出してくるかが求められるプログラミングスキルになると思います。
何かあった時に下げる頭と、トラブルを未然に防ぐ能力
最後は責任能力ですね。つまり、事故が起きちゃいましたとか、計算が間違ってましたとか、何かトラブルがありましたと。
そういうことがあった時に、「私がやりました。すみませんでした」って、CGのAIアバターが画面に出てきて謝っても、誰も納得しないんですよね。人間がやらないといけない。これは人間にしかできないことなんですよ。

だから、下げる頭を持っているかどうかは非常に重要なことなんです(笑)。
それだけではなくて、「いざとなったら私が頭を下げないといけないので、私が頭を下げなくていいように、どういうトラブルが起きるか。それを防止するにはどうしたらいいか?」ということを考え続けるのも人間に求められる能力だと思います。
重要なのは「ソフトウェア開発の主導権をどうやって握るか」
結局、ソフトウェア開発の主導権をどうやって握るかが重要になってくるわけですね。
未来もあって、AIが発展したら……。実際に毎年急速に発展中ではあるんですけれども。ただ今言った能力、問題を把握して、解決策を考えて、プログラミングスキルでAIを導いて、最後に責任を取る能力たちは、おそらくずっと必要になると思うんですね。身につけて損のない能力だと思います。

繰り返しもう1回言いますね。問題把握能力、解決能力、プログラミングスキル、責任能力。AIの登場によって、今までとは若干変わってくるかもしれない。「AIからいかに正しいものを引き出してくるか」っていう能力がより求められるようになるかもしれないけれども、基本的にこの4つの能力の必要性は変わらないと思います。ここに主眼を置いて鍛える必要があるというふうに(思ってもらえればいいと思います)ね。
ただ、これらの能力を鍛えるものの、トレーニングツールとしてのAIというのは、非常に有効だと思います。AIを活用していろいろな経験を積むということができると思います。
それは、プログラミング初心者がプログラミングを学ぶ時に、AI使って学んだのと同じように、問題把握能力についてAIから課題を出してもらって、それを解いてみるとか。そういうようなことを繰り返すトレーニングツールとしてAIが活用できると思います。
未来予測が外れても、より早く適用することで生き延びていく
もしその未来予測が外れて、一般的に言われているプログラミング。「プログラマーは、もういらない」「エンジニアは、いらない」未来が当たってしまう可能性だってあるわけですよね。ただ、未来予測は基本的に外れるので、誰が言ってもあてにならないんですよね。私が言ってもあてにならないし。他の人が言っても、あてにならないんですよね。

その時に求める能力というのは、レジリエンスという能力だと思います。これは適応能力と言ってもいいと思うんですけれども、新しい事態により早く適応することによって、未来予測がたとえ外れたとしても、外れた新しい現状に対して、より早く適応することによって生き延びていくっていうことなんです。

社会の仕組みに関心を持ち、仕事の仕組みに関心を持ち、それに合わせて自分がどうやって生き延びていくかを鍛えて考えていく。メタ戦略ですよね。状況はいくつも変化するので、その変化した状況にいかに素早く適応していくかっていうことそのものが戦略であるということですね。その時に、AIというのを自分を鍛えるツールとして最大限に活用する必要があると思います。
考え続けて、決断して、責任を取る
結果、そのAIから得た結果に、自分の付加価値をつけていくということが必要になります。

上司に自分の頼まれたタスクを返した時に、「どうしてこういうふうにしたの?」って上司に聞かれた時に「AIがやりました」って答えてしまったら、それは付加価値ゼロなわけですよね。上司から言われたことをAIに投げて、戻ってきたものを何も考えないで上司に渡したってことは、「この途中の段階はいらないよね」「上司が直接AIを使えばいいや」っていう話になるわけですよね。そういう人は、仕事がなくなっちゃうんですよ。
例えば「AIにちゃんと仕事をさせました。AIがちゃんと仕事できるようにプロンプトも考えました。AIが間違えたので、方向性も正しました」「放っておいては結果が出ないので、ちゃんとAIをコントロールしました」というふうなことができたら、そのスキル・経験、結果が付加価値になるわけですよね。

AIはよくできたツールではあるんですが、そのツールを使う、ただ単に右から左へデータを流すだけではなく「自分が付加できる価値は何か?」を考える必要があると思います。「今、自分にできることは何か?」って、こういうのは永遠の問いですよね。それについていつも考え続ける。その考え続ける力、あるいは、その考え続けた結果、決断する力。
未来がわからない以上、何を決断しても間違える可能性はあるわけで、正解はないんです。事前にわかる正解はないんですよね。なんだけど、「これは合っているに違いない」と思って決断する力。それから責任を取る力。こういうのは人間にしかできないわけですね。考え続けて、決断して、責任を取る。これは人間としての能力ですね。

最後に、考える力。そして実践する力を最大限に付加を使って、適応能力を高めることこそが、エンジニアとして未来を生き延びる生存戦略として、もっとも重要なことではないかなというふうに思います。

ということで、ほぼ時間になりましたので。今日はどうもありがとうございました。