【3行要約】・デジタル時代の人材採用でプロフィール情報による判断が増える一方、真の優秀層との接点確保が課題となっています。
・人材獲得の専門家小野壮彦氏は、日本特有の雇用制度により完全なジョブ型採用が困難で、金脈人材は転職活動をしないと説明。
・経営陣による直接アプローチと好奇心・胆力を軸とした見極めで、採用を戦略的商売として位置づけ直すべきだと提案しています。
前回の記事はこちら
日本企業がLinkedInの情報だけで候補者を判断できない理由
司会者1:zoomから質問をいただいています。「TA(タレントアクイジション)のいる組織にいました。応募する側がLinkedInなどのメジャーな媒体に情報を登録していれば、TAもすぐAIに置き換えられるのではと思いました。実際には応募者が登録していないことも多いですが、そこが変わるには何が必要でしょうか?」。
小野壮彦氏(以下、小野):限界が必ずあると思っています。日本は海外と違って、そもそも本当のジョブ型にはなかなかなれない国です。ジョブ型的な制度を導入している企業は増えていますが、完全なジョブ型人事ではありません。
つまりブロックを調達して「パコッ」とはめ、ダメなら外す……そんな単純なことはできない。クビにできない以上、別の仕事に回す必要がある。結局はゼネラリスト採用に寄らざるを得ないんです。
だからロータッチ採用の「LinkedInに書いてあることだけで判断する」やり方には、日本企業には心理的な障壁が残る。解雇できないからです。根本的には解雇規制が変わらない限り、ロータッチだけで完結するマッチングは難しい。もちろん今後は増えると思いますが、それは給与水準が低めでリスクの少ない層に限られるでしょう。
ビジネスSNSに現れない優秀層を見つける採用現場の勘所
吉田善幸氏(以下、吉田):今の話はリクルーターあるあるですよね。情報をソーシャルから集めてプールするのは常道ですけど、本当に優秀で今の仕事を楽しんでいる人は、そういうネットワークに情報を出さない人も多い。
そこをどう掘るかが難しいところで。まさにエゴンゼンダーさんの得意領域だと思いますが、インハウスのリクルーターが、表に出ていない金脈を掘り当てるにはどうすればいいのでしょうか?
小野:おっしゃるとおりで、本にも書いたのですが、アクティブ候補者、つまり「転職活動中です」という人と、パッシブ候補者がいます。パッシブ候補者は「転職してもいいとは思うが、活動はしていない人」で、優秀層の大半はこの層です。金脈、希少資源、トップタレント……呼び方はいろいろありますが、ほとんどがパッシブなんです。
だから、このパッシブな人たちにどうアプローチできるかが死活問題になる。スタートアップの世界ではすでに当たり前ですが、社長や経営陣が「10年かかっても口説きたい人リスト」を持ち、ずっとアプローチを続けています。
司会者1:Excelシートに「どんな経験があるか」「どういう役割をしてきたか」をリスト化して持っている、そんな感じですね(笑)。
小野:まさにそうで、その方をずっとウォッチしていると「昇進したな」とか「あの事業は今調子が悪いらしい」とか、いろんな情報が入ってくる。その上で「そろそろ転職するんじゃないか。もう一度ご飯に行こう」というタイミングを見極めて動くわけです。
だからこそ、システムも組織も整えて、全経営陣がヘッドハンター化していく仕組みを作る必要がある。これは海外では当たり前になっていて、日本でもやるべきことだと思います。
吉田:未解決事件の犯人を追う警察みたいな感じですね。
小野:そうですね。
吉田:やはり足で稼ぐような活動ですね。
小野:はい。「そんなのやっている暇ねぇわ!」と言われそうですが、冗談抜きで、そうしてでも採れた時のインパクトは計り知れない。だから本気で向き合うべきだと思います。
吉田:これは、我々が明日から社長の行動や時間の使い方を少しずつ変えていくことからですね。
小野:そうですね。
会いたい人材に会える確率を上げる工夫
吉田:そうすると、人事部門のリクルーターはトップレベルとのコンタクトではなく、ミドルやジュニア層との接点作りが中心になる。となると、我々リクルーターが今まで会えなかった層に出会うための具体的なアドバイスはありますか?
小野:2つあると思います。1つはダイレクトリクルーティングツールの活用です。今はさまざまなツールが発展していて、例えばYOUTRUSTはかなり使える状態になっています。YOUTRUSTはSNS型で、ユーザーが「転職をちょっと考えてもいいかも」とパラメーターを変えると、その瞬間にリクルーターがDMを送れる仕組みです。
吉田:それはありますね。
小野:もう1つは、偉い人からのコンタクトは圧倒的に効果が高いということです。例えばミドルクラスの人事が「会いたい」と言うより、吉田さんが「会いたい」と送ったほうが、相手は「吉田さんだ」と調べて会ってくれる確率が高くなる。究極は社長が送るのが最強です。
ただし、吉田さんや社長が直接やらなくてもいい。アカウント情報を渡して、実際の送信作業は別の担当者がやればいいんです。アカウントから送られている以上「吉田さんからの連絡」であることに変わりはない。もちろん、運用には注意が必要ですが、忙しい経営陣の負担を減らしつつ高い効果を得られる方法だと思います。
“人を見るプロ”は「好奇心」と「胆力」を見る
吉田:せっかく人材の構造モデル、ポテンシャルモデルが画面に出ているので、少しうかがいたいのですが。好奇心、洞察力、共鳴力、胆力とありますよね。これを実際の現場で、わずか1時間ほどの面談や、最近はバーチャルで2次元の会話しかできないような状況で、プロの小野さんはどうやって見極めているのか、少し教えていただけますか。
小野:少し前提の確認となりますが、
本にも書いたとおり、昔から「地頭がいい人を採れ」「可能性がある人を採れ」「伸びそうな人を採れ」と言われてきました。でも、その方法が曖昧なままだった。それをHow to化したのが、このモデルです。端的に言うと、4つの要素がありますが、実際には2つを見れば採用面接の場面では十分ではないかと考えています。
僕は
最初の本で「好奇心だけを見ればいい」と書いたんですが、今は少し考えが変わっています。なぜなら、好奇心はほどほどでも、胆力が抜群で結果を出す人がいるからです。
資本主義社会では、胆力が非常に相性のいいエネルギー因子で、そうした人は結果を残しています。だから「好奇心だけ見ればいい」というのは、今思うと間違いだったかもしれません。好奇心と胆力、この2つを見れば、かなり実践的に判断できると考えています。
ナンパでわかる「好奇心ドリブン」と「胆力ドリブン」
吉田:胆力をもう少し分解すると、どういう要素になりますか?
小野:ちょっと不謹慎な例かもしれませんが、例えば新宿の街頭でナンパをしている若者を思い浮かべてください。2人とも「100人に声をかける」ということを目標としているとしましょう。実はそこには大まかに2種類のタイプに分けられると思うんです。
1つは女性と話すこと自体が楽しくて「今日はこんな人と出会えた。明日はどんな人と話せるだろう」と、それをエネルギーに変えて100人に声をかけるタイプ。もう1つは「100人に声をかける」という行為そのものにエネルギーを燃やすタイプです。「今日は10人、明日は15人。100人に声をかければ女性のことがもっとわかり、自分も変わるかもしれない」と思って動くタイプです。
吉田:なるほど。
小野:前者は好奇心ドリブン、後者は胆力ドリブン。どちらも同じ行動をしているけれど、背後で駆動しているエンジンが違うわけです。例えば、Xでよく発信されている陸上の為末大さんを見て「なぜこんなに多領域のことをツイートしているんだろう?」と感じることがあります。彼はアスリートとして胆力は間違いなくある。でも駆動しているエネルギー源は、圧倒的な好奇心だと僕は思っています。
吉田:確かに、幅広く発信されていますね。
小野:そうなんです。胆力がある人でも、エネルギー源が好奇心で動いているケースもある。その裏にどんなエンジンがあるのかを見抜くことが重要だと思います。
結果を出す人材かを確認する“キラー質問”
吉田:今のナンパの例えは、まさに1(好奇心)と4(胆力)が両方そろっていないと成立しないですね。
小野:そうなんです。ポイントを申し上げると、好奇心ドリブンな人でも後天的に胆力を鍛えているケースもあれば、その逆に、もともと胆力エネルギーが強い人が、好奇心の大切さを学んで取り入れているケースもあるんですよ。
だから表面的に見ると「好奇心も胆力も、どっちもありそうだな」と映るんですが、実際には「どうしてそれをやっているのか」「なぜそうしたのか」と掘り下げることで、その人を動かしている生得的なエネルギーがどちら寄りなのか、見えてくるんです。
「面接ではどうしたらいいですか?」という問いに対して言うなら、できるだけパーソナルな話をうかがって、一見将来に役立たなさそうな経験を聞いてみるといいですね。
吉田:キラー質問ですね。
小野:例えば「マラソンです」と答えた場合に「じゃあ胆力があるな」と早合点してはいけません。「なぜマラソンをやっていたんですか?」「何が楽しかったんですか?」「途中でやめようと思わなかったのはなぜですか?」と掘り下げていくと、「人間の体の不思議に興味があって」などと答える人もいる。そうなると「この人は好奇心エネルギーで動いているのかもしれない」と見えてくるんです。
吉田:あれ、昔、小野さんからそんな質問をされたかな?
小野:(笑)。吉田さんの場合は見た瞬間から歩く好奇心のような方なので、あえて聞く必要はなかったのかもしれませんね。
吉田:なるほど(笑)。
採用とは営業と並ぶフロント業務
司会者2:では最後に、小野さんからメッセージをお願いします。吉田さん、あのセリフになっていたやつですね。
吉田:実はAIに質問させたんですけど……。「最後に日本の採用を変革したいと考えている私たちに、小野さんから熱いメッセージを」と。ちょっと意地悪な質問で、すみません。
小野:難しい質問ですね(笑)。「日本の採用」ですか。そうですね……。僕は本にも書きましたが「採用は商売です」と強調したいです。バックオフィス的に扱うのは、もうやめませんか? 採用は営業と並ぶフロント業務であり、会社が儲けるために不可欠な活動です。だからこそ、採用はもっとビジネスの中心に置くべきだと声を大にして言いたいですね。
吉田:やはりビジネスを駆動させる源泉は人材ですね。
小野:間違いないです!
吉田:ありがとうございます。
司会者2:それでは本日のゲストを紹介します。まずファシリテーターを務めてくださったウイングアークの吉田さん、ありがとうございました。拍手をお願いします。
小野:どうもありがとうございました。
吉田:ありがとうございます。
司会者2:本日のすてきなゲスト、小野壮彦さんでした。ありがとうございました。
(会場拍手)