【3行要約】・セルフリーダーシップは個人の成果だけでなくチーム全体の成長にも影響を与えますが、適切な支援がなければ効果は限定的です。
・研究結果から、セルフリーダーシップが高い人ほど他者もうまく導けることが明らかになっています。
・マネージャーは部下の自律性を尊重しながら、チーム内での知識共有の場を設け、個人の気づきを組織の知恵へと発展させることが重要です。
前回の記事はこちら マネージャーはどのような支援ができるのか
伊達洋駆氏:では、こういった研究知見を踏まえながら、「どのように部下のセルフリーダーシップを育んでいけばいいのか?」ということを考えてみたいと思います。ここでは、マネージャーが部下のセルフリーダーシップを育むために、どのような支援ができるのかを、3つに分けて説明させていただきます。

まず1つ目ですが、部下が能力を発揮する機会を作り出していくことがないと、セルフリーダーシップがなかなか機能しにくいという話があったかと思います。
具体的には、職務自律性が高い環境だと、セルフリーダーシップが成果に結びつきやすいという研究知見があったかと思うんですが、要するに裁量を与えていくということは基本的な原則にはなるかなと思います。
先ほどの自律性欲求が極端に低い人の場合はあまりお薦めできないんですが、ただ基本的に人は自律性欲求を持っていると考えると、広く通用する方法ではなかろうかなと思います。つまり、自律性を引き出すような関わり方をしていくことが重要になっていくわけですね。

ただ、先ほどのとおり、自律性欲求は部下一人ひとりで微妙に違ってくる可能性があります。自律を求める部下に対しては積極的に権限委譲を行うような、エンパワーメント型リーダーシップが有効になるかと思います。逆に「自律性をぜんぜん求めていません」という人に対しては、丁寧にガイドを示していくことが重要になってくるかもしれません。
ただいずれにせよ、何かしら仕事の自律性がまったくない状態だと、セルフリーダーシップを高めたところで、それを発揮する場面がなくなってしまう、発揮できる状況の(環境の)強度ではなくなってしまうので、セルフリーダーシップを高める意義が失われてしまうんですよね。ですので、一定程度の自律性、裁量は確保していく必要があるのかなというところです。
上司自身がセルフリーダーシップを発揮する
上司から部下に対してできる支援策の2つ目ですが、上司自身の姿勢やチームマネジメントのスタイルが、部下のセルフリーダーシップに影響を与えると考えられますので、上司自身、マネージャー自身が、セルフリーダーシップを発揮することが重要になってくるかと思います。
上司自身が仕事を積極的に楽しんでいくとか、あるいは内発的にモチベーションを高めていくとか、仕事に喜びを見いだしている姿を見せるとか、そういった熱意ある姿勢とか楽しんでいる姿勢は、部下にも伝わってきますよね。
そうなると、部下もセルフリーダーシップを発揮しやすくなってくる。「こういったことをやればいいんだ」というロールモデルになるわけですね。自分がお手本となるということも、1つできる支援策ではなかろうかと思います。

さらに、部下を意思決定に巻き込んでいくことも、上司が部下に対してできることではないかなと思います。意思決定に巻き込まれない、つまり自分で何も決められないような環境だと(強度が)強すぎるので、結局セルフリーダーシップを発揮したところでどうしようもないというか、それが成果につながらない。
つまり厳密に言うと、それは(セルフリーダーシップを)発揮できていないということにもつながっていってしまいます。なので、できる限り当事者意識が芽生えるような、意思決定への参加を促していく必要があるのかなと思います。
さらには、さまざまな支援も行っていく必要があります。そうでないと、セルフリーダーシップをせっかく高めても、創造性とか革新性とかにつながらないという結果になりかねないわけですね。
少しずつ成功体験を積ませる
3つ目の上司から部下に対してできる支援策なんですが、自信と能力を高めていけるような支援を行っていくということです。セルフリーダーシップが成果につながるために鍵となるのが、「自己効力感」と呼ばれる、自分の能力に対する自信。「自分はできる」と思えることが非常に重要なのだというお話をさせていただきました。
自己効力感というのを育んでいく時に、いきなり難しすぎる大きな課題を与えると、人って「できない」と思ってしまいますよね。最初は達成可能な小さいステップに当たるような目標を提供していく。
そして、少しずつ成功体験を積んでもらって、「自分にはできる」という気持ちが高まっていくことで、セルフリーダーシップも高めることができます。かつ、セルフリーダーシップが高まった後に自信も芽生えやすくなってくるので、小さな成功を積み重ねられるような環境を作り出していくことも、上司が部下に対してできることではないかなと思います。
学びをチームの知に変えていく
セルフリーダーシップというのは、個人で閉じてしまうと残念ですよね。それぞれが自分を導いていても、例えばそれぞれが学んだこととか、考えたこととか、感じたこととか、気づいたことが共有されないままだと、チームとしての成果につながっていきにくいわけですね。
研究としては、セルフリーダーシップが個人の成果を高めて、そしてチームの成果も高めていくことは確かに結果で明らかになっているんですが、それをより促していくために、マネージャーができることってあるんじゃないのかということです。
具体的には、例えばチーム内で知識や成功事例、失敗から得た教訓を共有するような機会を定期的に設けるとか。そういったことを行っていくことができれば、個々人が得た知識とか気づき、そして学びをチームの知に変えていくことができるわけですね。
そうすると、個々人の創造力がセルフリーダーシップによって高まった後も、組織全体のイノベーションにつなげていくことができるようになります。セルフリーダーシップを高める働きかけに加えて、セルフリーダーシップが高まった後に、成果やイノベーションにつながっていきやすいような道筋を整えていくのもマネージャーにできることではないかなと思います。

このように、部下が安心して挑戦できて成長できる環境を整えていくことが、セルフリーダーシップを育み、そしてセルフリーダーシップを発揮することが、個人の成果、それから集団の成果につながっていき得るのかなと思います。
せっかくセルフリーダーシップを高めていくわけですから、それが発揮しやすい環境、それからそれが成果につながっていきやすいような環境を同時に整えていく(ことが必要)ということが、これまでの研究からは示唆されるところかなと思います。
セルフリーダーシップの定義まとめ
ということで、私からの講演を簡単に振り返っていきたいなと思います。本日、「セルフリーダーシップ」をテーマに掲げながら、「自分で考えて動く社員をどうやって作っていけばいいのか」という問いを基に、セルフリーダーシップの概念やその重要性、そしてどういうふうに育んでいけばいいのかを考えてきました。
セルフリーダーシップというのは、自分の行動を管理する技術。これはどちらかというとセルフマネジメントに近いわけですが、ただそれだけではなくて、仕事の捉え方を変える技術や、思考を改善していく技術などから成り立っているということをお話しさせていただきました。
さらに、セルフリーダーシップは個人のパフォーマンスだけではなくて、ウェルビーイングやチームの生産性、それからイノベーション、クリエイティビティみたいなところにまでつながっているという、さまざまな効果があることも説明させていただきました。
「個人のスキルを高めれば万々歳」ではない
本日メインとしてお伝えさせていただいたのが、セルフリーダーシップは、個人のスキルを高めればそれだけで万々歳というふうなわけではなかなかなさそうで、セルフリーダーシップが発揮しやすいような環境をいかに作っていくのかということも同時に考えないと、うまく機能しなくなってしまうというお話をさせていただきました。
具体的には、裁量権のある職務設計を行ったり、それから挑戦を後押しするような組織文化を作っていったり。あるいは個々人の特性、特に自律性欲求に配慮した上司の支援が有効ですよと。そういったことも考慮に入れながら支援、環境を作っていかないと、セルフリーダーシップがうまく機能しないというお話をさせていただきました。
自分自身をうまく導ける人は他者もうまく導ける
最後に、セルフリーダーシップの研究の中で1つおもしろい研究があったので、それを紹介して、私の講演は終了したいと思います。セルフリーダーシップが高いリーダーほど、より積極的で望ましいリーダーシップを発揮する。要するに、部下に対してビジョンを示したり成長を促したりといったリーダーシップを発揮することがわかりました。
これは何を意味しているかというと、自分自身をうまく導ける人というのは、他者もうまく導いていくことができるということがわかったわけですね。これは言ってみれば、リーダー育成や、次世代リーダーシップの開発の文脈でも、実はセルフリーダーシップを高めていくということが有効なんじゃないのかなと考えられるわけです。
セルフリーダーシップの育成というのは、個々人の単なる自己管理力を高めることを超えて、実は次世代リーダーを育てる第1歩にもなっていると考えられるのかなと思います。そういった点でも、セルフリーダーシップを高めていくことは有意義ではないかということで、私からの講演は終了とさせていただきます。