【3行要約】・セルフリーダーシップは心理的負担の減少から組織のイノベーションまで幅広い効果をもたらしますが、その力を引き出すには環境要因も重要です。
・研究によれば、セルフリーダーシップは自己効力感を高め、ポジティブ感情を増加させることでストレス耐性を向上させることが判明しました。
・効果を最大化するには職場からの支援や職務自律性の確保が重要であり、個人の特性に合わせたアプローチで組織全体の成長を促進できます。
前回の記事はこちら セルフリーダーシップが高まることで得られる効果
伊達洋駆氏:続いて、「なぜセルフリーダーシップが重要なのか?」ということを紹介させていただきます。セルフリーダーシップの効果を一言で言うと、個人の生産性を高めること。これはイメージしやすいですよね。
それだけではなくて、組織全体の活性化とか、ウェルビーイングにも関わってきているということが、これまでの研究の中で明らかになっています。そちらについて、今から簡単に紹介させていただきます。

ある公的機関の従業員を対象に行われたトレーニング実験があります。その研究によると、セルフリーダーシップの研修を受けたグループは、研修を受けていないグループと比べて、心理的な負担が有意に減少することがわかりました。要するに、セルフリーダーシップを高めることは、心理的な負担を減らす効果を持っていることがわかったということですね。あと、「セルフリーダーシップって高められるんだ」というのが、ここからもわかるかと思います。

この研究を掘り下げてみていくとおもしろいんですが、セルフリーダーシップを高めたということそのものが、いきなりストレスを取り除くというわけではなくて、セルフリーダーシップが高まることによって、「自分は物事をうまくやり遂げられる」という、いわゆる自己効力感が高まる。あるいは仕事に対する喜びとか誇りといった、いわゆるポジティブな感情が高まっていく。
その結果、ストレスに対して耐性が生まれて、心理的な負担が下がるというプロセスが明らかになりました。セルフリーダーシップが高まることによって、自己効力感やポジティブ感情が高まり、その結果、ストレスに対してネガティブな反応を示さずに済むということです。
心理的資源との関係性
こうした原理というのは、「資源保存理論」と呼ばれる理論で説明することができます。人はストレスをさまざまな場面で抱いていくんですが、どういうふうな原理でストレスを抱くのかというのを説明しているのが、この資源保存理論に当たります。
個人個人が、自分が持っている自信や前向きな感情、あるいは良好な人間関係といった、さまざまな心理的資源を持っているんですね。そうした資源が脅かされたり、あるいは失われたりしていく時に、人はストレスを感じます。
ところが、セルフリーダーシップをうまく発揮していると、この心理的資源を豊かに持つことができるようになります。要するに拡充できるんですよね。そうすると、資源が豊かにある状態なので、脅かされたり失われたりすることが幾分か緩和されます。その結果、ストレスに対してある種の防波堤のようなものができてくるというのが、セルフリーダーシップの効果になっています。
イノベーションに対しても影響を及ぼす
他にもセルフリーダーシップによる効果があります。イノベーションやクリエイティビティ、創造性に対しても効果があることがわかっています。ここがセルフマネジメントとの1つの違いかもしれないんですが、新しいことをできるようにもなるというのが、セルフリーダーシップのおもしろいところです。
これはタイの小規模生産者グループを対象とした調査に基づく結果なんですが、セルフリーダーシップが個々人の創造性を高める。その結果、組織の革新行動・イノベーション行動を促していくということがわかりました。
セルフリーダーシップが発揮されている個人というのは、さまざまなアイデアを思いつくことができる。そして、そのアイデアの中には、組織をより良くするような行動が含まれているというかたちで、セルフリーダーシップが組織の革新に対しても前向きなエネルギーを与えていく原動力になっていくことが明らかになりました。

セルフリーダーシップが高い人というのは、アイデアを生み出す過程で困難に遭ったとしても、モチベーションも高いですし、また粘り強く思考を続けることもできますので、どんどん創造性を発揮していきやすくなるんですね。創造性が発揮されると、イノベーション、革新的な行動にもつながりやすくなってくることがわかりました。
ただ、1つだけここで補足をしておくと、イノベーションが起こるためには環境もやはり大事になってくるので。例えばリスクテイクを許容する風土とか、知識を共有する仕組みがないと、なかなかうまくいきにくいことも同時に指摘されました。この点については、後ほどまた詳しく触れたいと思います。
ただいずれにせよ、セルフリーダーシップは創造性を介してイノベーションに対しても影響を及ぼすことが明らかになっています。新しいことを行っていく上でも、セルフリーダーシップは有効だということです。

セルフリーダーシップは客観的に見ても革新性を高める
また、セルフリーダーシップは実際に上司が評価した革新性を高めることも明らかになっています。特に行動中心戦略と建設的思考戦略が高い従業員は、上司から「この人は革新的である」と評価される傾向が高いことが明らかになりました。
要するに、セルフリーダーシップは、客観的に見ても革新性を高めることがわかったわけです。言われたことをやるだけではないというのが、セルフリーダーシップのおもしろい点ですよね。
言われたことを自分自身でコントロールしながらうまくこなしていくだけではなくて、新しいことを生み出していくエネルギーにも満ちているのが、セルフリーダーシップになっている。この点は大きな特徴ではないかなと思います。

他方で、仕事に内在する楽しさとか価値を見いだしていこうとする自然報酬戦略は、自分自身の内面的な動機づけにはつながっていくんですが、上司が「この人は革新的だ」と評価を行うことは、あまり直接的な関係が見られなかったことがこの研究の中で明らかになりました。あくまで内面的な要素が強いというのが、自然報酬戦略に当たるのかなというところです。
セルフリーダーシップが高い人は自己効力感も高い
ストレスや心理的資源、それから革新性や創造性、イノベーションみたいなところに加えて、パフォーマンスが高まるところもセルフリーダーシップの効果として挙げられています。
今までも軽く触れたのですが、具体的にはセルフリーダーシップが自己効力感、すなわち自分の能力に対する自信を高めた結果、パフォーマンスが高まるということを検証した研究があります。

ある大学で行われた研究で、学生のセルフリーダーシップの高さを測定しました。その結果、セルフリーダーシップが高い学生が、自己効力感が高いことがわかりました。自分の能力に対し、自信を持ちやすくなるわけですね。
そうして、自分の能力に対して自信を持っていると、どんどん行動を取っていくことになるので、高い学業成績、つまりパフォーマンスにつながっていくといった連鎖反応が起きていることが明らかになりました。
自分で目標を立てて、そしてそれに対して進捗を管理していく。それから自分で内発的なモチベーションを高めていく。そして建設的な思考パターンを取っていくことが、「自分の行動をうまくコントロールできているんだ。だから、自分の能力はきちんと発揮することができる」というような自己効力感が高まっていって、実際に行動を取ることが明らかになったということです。
すなわちセルフリーダーシップというのは、パフォーマンスに対しても影響を及ぼすということですね。パフォーマンス、イノベーション、ウェルビーイングと、けっこう多くの効果を秘めているわけですね。
チームのパフォーマンスも引き上げる効果もある
さらに興味深いのですが、個人のパフォーマンスだけではなくて、チームのパフォーマンスも引き上げる効果があることがわかっています。特に、セルフマネジメントにおける行動中心型戦略を取っている従業員ほど、仕事そのものから得られる内発的な満足感も高いし、かつ、給与などから得られる外発的な満足感も高く感じる可能性が高い。満足して働くので、チームとして全体的なパフォーマンスも高くなるといったことが明らかになりました。
セルフリーダーシップを発揮していると、内発的にも外発的にも満足して働くことができて、集団的なパフォーマンスにもつながっていくことが見えてきたわけです。
なぜこのようなことが起きるのか?
「なぜこういうふうなことが起きるのか?」といったメカニズムも解説されているんですが、非常に重要になってくるのが、自律性の感覚を持つことができるということなんですね。
セルフリーダーシップを発揮していると、自分で自分をマネジメントしている、主導している、律することができているといった、自律性の感覚を持つことができるようになります。これは人間が持っている基本的な欲求の1つなんですが、そういった欲求が満たされることによって、仕事に対して満足感が高まります。
そして満足度が高いと、チームに対して貢献意欲が高まったり、あるいは協調性が高まったりすることがわかっているので、その結果、組織全体・チーム全体の成果が底上げされてくるといったメカニズムが、背後に機能しているのではないかと考察されています。
「セルフ」と呼ばれると個人だけの話に閉ざされているような感覚がしてしまうんですが、実際に実証研究の結果を見てみると、自分で自分を導くことができる従業員は、個人のパフォーマンスが高いだけではなくて、そういった人たちがいることによって、チームのパフォーマンスも引き上げられる効果がある。
さらにはイノベーションにもプラスですし、本人としてもウェルビーイングが高い状態で働くことができるというふうに、さまざまな効果があるのがわかっていただけたかなと思います。