セルフリーダーシップの発揮には環境も重要
セルフリーダーシップはさまざまな効果があるという話をさせていただいたんですが、社員がどれほど高いセルフリーダーシップのスキル・技術を身に着けたとしても、それだけでどんな環境でも効果を発揮できるかというと、そういうわけではなさそうだということが明らかになってきているので、要するに環境も大事なんですよということを、ここでは説明したいと思います。

セルフリーダーシップが創造性に結びつくという話をさせていただいたんですが、これは職場からの支援がないと、なかなか開花しないことが実証されています。
具体的には、セルフリーダーシップを「実践的創造性」、つまりアイデアを形にしていくようなところまで持っていこうとすると、環境に左右されてくるということが明らかになりました。要するに、自分で自分を導いたところで、環境が整っていないと、いい意味での創造性、イノベーションみたいなところまでつながっていきにくいということなんですね。
支援の源は「チーム」「上司」「組織全体」
支援が大事というお話をさせていただいたところなんですが、支援の源、ソースは、「チーム」と「上司」と「組織全体」と3つに大別することができるんですね。
例えば、どれだけいいアイデアを思いついたとしても、上司がぜんぜん話を聞いてくれないと、そのアイデアが形になることはないでしょう。あるいは、メンバーがまったく協力的ではないという環境でも、アイデアが形になることは難しくなることが容易に想像できます。
やはりチームや上司や組織からの支援がプラスで掛け合わさってこないと、効果の発揮はなかなかしにくいんですね。

組織全体に求められることとして挙げられるのが、例えば「情報共有が円滑に行える仕組みをきちんと整える」とか「失敗を恐れずに挑戦できる文化がある」とか、あるいは「公平で公正な評価制度が整っている」とか。
そういったことがないと、社員がいくらセルフリーダーシップを発揮して、どんどんアイデアを出していける能力があったとしても、「この環境では、ちょっとその能力を発揮する気になりません」となることはあり得ますよね。
ですので、セルフリーダーシップは技術の集合体ではあるんですが、技術だけを整備していけばそれで十分かというとそういうわけでもなくて、きちんと能力を安心して発揮できるような環境を整えていくことが必要になってくる。
それを同時並行で行わないと、セルフリーダーシップを発揮する個人を、半ば孤立化させてしまう可能性があるということです。支援が大事ということですね。
裁量がある環境のほうが効果につながりやすい
2つ目が、自律性もすごく大事なんですね。職務自律性といって、仕事の進め方における裁量がある環境のほうが、セルフリーダーシップは効果につながりやすいことがわかっています。
中国の複数の組織を対象にした調査によると、職務自律性が高い環境で働いている従業員において、セルフリーダーシップとパフォーマンスの間に関連が見られるということがわかりました。要するに、裁量がある環境だと、セルフリーダーシップはパフォーマンスにつながりやすいということです。

逆に裁量がない環境だと、自分で自分の仕事を管理したりとか、自分でモチベートしたところで、やることが決まっちゃっているわけですよね。そうすると、パフォーマンスにはあまり関係なくなってしまう。
例えば厳格にルールが決まっているとか、マニュアルに縛られているといった環境だと、セルフリーダーシップが高くても、パフォーマンスに結びつくとは限らないということなんですね。
「状況強度理論」と呼ばれるものが、こうした動向をうまく説明しているんですが、ルールが厳格に定められていて、個々人の裁量があまりないような環境では、基本的には個々人の特性が発揮しにくいんですよね。環境の強度が強いので、それぞれの潜在能力がうまく発揮されないわけです。
逆に言うと、属人的ではなくなるという言い方もできるかもしれないんですが、裏を返せば、さまざまに自由にできる、つまり裁量が大きい環境のほうが、セルフリーダーシップをせっかく身に着けた時のパフォーマンスの先というか、やる行動のレパートリーなどが広がってくるので、結果的にパフォーマンスにつながっていきやすくなることがわかっています。

セルフリーダーシップって、言ってみれば冒頭でお伝えしたとおり「こういうことをやったらいいですよ」ということがある程度明らかになっているので、それを順番に実行していけばいい話なんですが、ただ重要なのは、それを実行すればそれだけでいいかというとそういうわけでもなくて、それと同時に、きちんと一定の裁量権を与えていくことが必要になってくる。
自分の判断で仕事の進め方、それから目標を立てることができないと、そういった(環境の強度が)弱い状況にないと、セルフリーダーシップがパフォーマンスに及ぼす効果が結局得られなくなってしまって、「何のためにセルフリーダーシップを高めたのか」ということにもなりかねませんので、そこは1つ注意が必要な点かなというところです。
リモートワークはセルフリーダーシップがより一層求められる
さらに、これもなかなか興味深い結果で、みなさんの直感にもたぶんそんなに反していないんじゃないのかなと思うんですが、バーチャルな労働環境のほうが、セルフリーダーシップがより一層求められるということが明らかになっています。
複数の企業を対象とした調査によると、リーダーと部下、上司と部下が物理的に離れた場所で働いているほど、リーダーが部下に対して与えられる影響力はやはり減ってくるわけですね。

上司から部下のリーダーシップがあまり影響力が高くなくなるということは、裏を返すと、部下個人のセルフリーダーシップが与える影響力が増してくるということではあるんですが、より具体的には、部下個人のセルフリーダーシップが仕事のモチベーションに与える影響が、バーチャルな環境ほど強くなるということがわかっています。
逆に言うと、バーチャルな環境で働く人というのは、自分自身で目標を設定したり、進捗を管理したり、内発的にやる気を見いだしていくとか、パフォーマンスを維持したり向上していく際に、そういったセルフリーダーシップが非常に大事になってくるということです。「リモートワークを行っていく際には、セルフリーダーシップが欠かせない」という言い方もできるかもしれません。
これは、先ほどのこととちょっとつながっていますよね。離れて働くと自律性は高まってくるので、自分でやらざるを得なくなってきますよね。そうすると、結局環境の強度は弱まってくるかと思うので、その結果、セルフリーダーシップの価値が高まってくる。重要性が相対的に高まってくるということがわかっています。
自律性の欲求の強さによっても効果は異なる
さらには個々人が持っている、「どれほど自分は自律的にありたいのか」といった自律性の欲求によっても、セルフリーダーシップの効果、ならびにセルフリーダーシップの醸成方法が違ってくることを示唆する研究があります。
具体的な研究を見てみるとわかりやすいと思うんですが、部下の自主性を重んじる「エンパワリング型リーダーシップ」、あるいは「エンパワーメントリーダーシップ」と呼ばれるものがあるんですが、「自律的に行動したい」と思っている部下に対しては、そちらがセルフリーダーシップを高めるというふうなことがわかりました。
要するに、「自律的に行動したい」という欲求を持っている部下の場合、エンパワーメント、つまり権限を委譲してもらった時に、セルフリーダーシップが高まるという結果になったんですね。
これはわかりやすいですよね。「どんどん自律的に行動したい」と思っている、最初から欲求を持っている人が、さまざまな権限を与えてもらえると、自分で目標を管理したり、あるいは自分でやる気を見いだしたりしやすくなってくるというのは、想像に難くないところかなと思います。

逆に、自律性欲求が強い部下に対して、今度は「指示型リーダーシップ」といって、上司が細かく指示を出すようなリーダーシップ行動を取ってしまうと、セルフリーダーシップが抑制されてしまうことが明らかになっています。これも自分の欲求に合わないような行動を上司が取ってしまうので、セルフリーダーシップの芽が育たなくなってしまうと言えるかと思います。
特性を見極めていくことも必要
ここから何が言えるのかというと、要するに自律性欲求は個人差があるんですよね。つまり、もしかしたらみんながみんな権限委譲を望んでいるわけではないかもしれないというふうなことを、1つ考える余地が出てくるのかなと思います。
人によっては、完全な自由を与えられるよりも、明確に指示があったほうがむしろ安心して業務に取り組めて、セルフリーダーシップが高めやすくなるという人もいるかもしれません。その意味で、部下のセルフリーダーシップを高めていく時に、部下一人ひとりの特性を見極めていくことが必要になってくる。「全員にとにかく任せればいい」というふうなことでもなかなかなさそうだと言えます。