【3行要約】
・岩崎由夏氏はDeNAでのゼネラリスト経験と転職活動の葛藤を経て、「信頼」を軸にしたキャリアSNS「YOUTRUST」を創業。
・履歴書に書けない“信用残高”こそが、ネットワークリクルーティング時代の武器になると語ります。
・Z世代へのメッセージとして、「今一生懸命に働き、弱いつながりを育てることが未来の選択肢を広げる鍵」と話しました。
DeNA時代に直面したキャリアの葛藤
——「YOUTRUST」は、キャリアSNSですが、岩崎さんのキャリアについて教えていただけますか。
岩崎由夏氏(以下、岩崎):この会社を作って7年半ぐらい経ちますが、創業時からずっと代表を務めています。さらにその前は6年ぐらい、株式会社DeNAに新卒で入ってお世話になっていました。そこではずっとコーポレート職の仕事をしていました。
DeNAはゼネラル型の人が活躍する環境を提供してくれるんです。私も経営企画とか経営管理とか、世の中に出るIRの数字を作ったりとか、もうぜんぜん人事と関係ないことをやらせてもらっていたんですね。
「強い人を採用したら、職種をまたいでも活躍するよね」みたいな前提で採用をしている会社だったので、当時は「人事でキャリア積んでいかなきゃ」とは思っていなかったんです。
ありがたいことに、買収したスタートアップに出向させてもらっていた中で「スタートアップ、こんなにおもしろいのか」となって。ですが、出向から本社に帰任になってしまったので「やっぱりスタートアップでさらにチャレンジしたい」と思って、初めて転職活動をしました。
——キャリア形成の中で困難だった時期はありますか。
岩崎:いざとなると「私って何ができるんだろう?」と周囲に相談していた記憶はありますね。「経営企画もできます」「人事もできます」「これもこれもあれもできます」って、実は中途採用市場だとあまり魅力的に映らないんですよね。
例えば「開発したいのにエンジニアがいない。エンジニアに来てほしい!」という時に、「開発もできるし、マーケティング経験もあります。デザインも自分で作れます」という「あれもこれも」と言っている人と、「10年エンジニア一筋でやっていました」という人、どっちが来たらうれしいですかといったら、実はエンジニア一筋の人になりがちなんですよね。
「あれもこれもこれもできます」というと、中途採用では必ずしもポジティブではないことを知っていたので、じゃあどうやって自分を売ろうかなって思っていました。ある種そんなにWillがなくて、別に経営管理でも人事でもいいんだけど、「私は人事です」みたいな履歴書・職歴書を作らないと、採用側も困ってしまうこともわかっていたので、経営企画と言って売るのか、人事と言って売るのか、自分の売り出し方は悩みました。
創業のきっかけは「転職のめんどくささ」
——実際に転職活動してどうでしたか? 転職活動が「YOUTRUST」立ち上げのきっかけでしょうか?
岩崎:もともと中途採用担当だったので、人よりはわかってるつもりだったんですけど、職歴書を作って、初めましてで自分を表現するのは「こんなに大変なのか」と思ったんですね。
面接を受けに行くのが億劫で仕方なかったんです。当時、幸か不幸かスタートアップ業界に知り合いが多くて、自分が行きたいようなスタートアップって、基本的には、友だちとか友だちの友だちぐらいであたれる距離感にあるのに、正直に言うと「めんどくさいな」と思っていました。
すごくシンプルに言うと、「自分のことを欲しい会社から連絡してほしいなぁ」と思ったんです。知り合いとか、知り合いの知り合いとか、比較的自分の経歴以外のところを理解してる人たちに「岩崎さん助けてよ」と言われたかったというのがあって、当時は、Facebookに「『転職を考えているので連絡ください』って書きたいな」と思っていたのですが、とはいえ大好きな会社に迷惑をかけたくないのでできませんでした。
であれば、自分でそういう信頼している人たちに自分が転職を考えていることを静かに伝えるサービスを作ろうかなというのが最初です。
転職市場の進化「エージェントからネットワークへ」
——最近だとリファラル転職もけっこう耳にするようになりました。YOUTRUSTを立ち上げた時と今で転職の市場が変わってきていると感じますか。
岩崎:そうですね。もう第3フェーズに入っているなと思っています。だいたい今の日本人の平均転職回数は2.8回とかなんですよ。ちなみにアメリカは11.3回とかなんですけど。
別にもともと2.8回じゃなかったわけです。年々この数字は増えてきていて、10年後は当然のように5回とか6回とかになっているよね、という気が、なんとなくみなさんもしていると思います。
第1フェーズ、つまり平均転職回数が1回ぐらいの世界をミクロに見ると、初めて転職する人にとって転職は、人生において1回あるかないかなので、転職エージェントさんを使う可能性が高いんです。
例えば、みなさん基本的に結婚式は人生1回の前提で挙げますよね。やっぱり人生に1回しかやらないことは、怖いからプロに助けてもらおうと思うんです。
じゃあ2回目の第2フェーズではどうなるかというと、ダイレクトリクルーティングの世界になるんです。そのタイミングで日本でスタンダードになってきたのが、「ビズリーチ」や「LinkedIn」です。
2回目の転職では「別にエージェントさんを挟まなくてもいいな」「もう自分で転職できるな」と思う人たちが増えてくるんですよ。自分で会社を探して応募したり、スカウトをもらったところに対して直接話しながら選考に進んでいくのが、平均転職回数2回の世界線です。
今は2.8回で、もう少しで3回です。3回目になった時、みなさんが何するかというと、リファラルで動き出すんです。元同僚とか、すごく仲良かった先輩とかに、「もうそろそろいいでしょ」「うちに来なよ」と、転職活動する前から誘われるようになるんですよ。
「今は転職はいいですよ」とか言いながら、「いざ動こうかな」と思った時に、「そういえばAさん、Bさん、Cさん、Dさんが誘ってくれてたな、じゃああらためてちょっと話を聞きに行こうかな」で転職先が決まるんです。
私たちは、その3回目をネットワークリクルーティングの世界と呼んでいます。USではもうそんな感じで、エージェントを使う人がすごく少なくて、「それは友だちなのかな?」みたいな距離感でもLinkedInでリファラルするんですよ。
平均転職回数が増えれば増えるほど、いわゆる人間関係のノード(結び目)が増えていきます。前職の知り合い、前前職の知り合いの数という点では、おそらく1社でずっと勤め上げるよりも多いし、それぞれのキャリアで転職していくと、指数関数的にネットワークのノードは増えます。
採用側から見るとこれは「タレントリレーション」という概念になります。今までは必要な分だけ、ある種、狩猟のように毎度狩りに出ていた採用から、今後は常に自社のタレントプールを耕す、いわば農耕の時代に突入します。
さらに、すでに3回ほど転職を経験していると「プロに頼まなくてもいいや」となり、知り合いベースで「信頼できる人が働いている会社で働こうかな」と考えて、何かしら接点のあった会社に転職する世界線になっていく。そんな未来がなんとなく想像できますよね。