【3行要約】
・退職代行サービス市場の拡大は、経営者と社員間のコミュニケーション不足という課題を浮き彫りにしています。
・株式会社キープレイヤーズ 代表取締役の高野秀敏氏は「料金に幅があり、個人プレイヤーの参入も増加している」と業界の現状を説明しています。
・高野氏は「退職理由がない人も多い」という実態を指摘した上で、第三者が社員の本音を吸い上げる“社外人事部”のアイデアを提案しています。
退職代行に対する経営者の本音
司会者:高野さんは退職代行サービスについて、賛成ですか? それとも反対派ですか?
高野秀敏氏(以下、高野):いやぁ、これね、めちゃめちゃ聞かれるんですけど、ビジネスとしては賛成も反対もなくて。単に伸びてるわけだから、すごいと思うんですね。でも、個人で使うユーザーさんに対しては、正直に言うとやや反対の立場なんですよ。
じゃあ、なんでやや反対ぐらいの立場になっちゃったかと言うと、やっぱり未だにパワハラの上司がけっこういるんで、うつ病か、うつ病に近くまでなっちゃって、どうしても「退職したい」と自分で言えない方が増えてるみたいなんですよ。そこまでいっちゃったら、使うしかないのかなと。
だから代行じゃないにしても、家族や友だちとか、自分じゃない人に言ってもらうしかないのかな、みたいなのもあって、そこまで考えた上で決断したんだったら、まぁアリかなとなってますかね。
個人ビジネスとして退職代行を行う人が増えている
司会者:なるほど。使う理由によって、良い・悪いがあるってことですか?
高野:なんとなく面倒臭いから、お金を払って解決しちゃおうっていうぐらいの軽い感じだと、「ちょっとどうなの」って思いますし。将来的に言われることとかも加味して、それでもやってもらったほうがいいって思ったら、ぜんぜん使っていいと思いますし。
ただ、(サービスについて)聞いたらですね、5万円ぐらいのところもあれば、2.2万円ぐらいのところとか(差があるみたいなんです)。私もFacebookで投稿したら、後輩の人が「実は私も(退職代行サービスを)立ち上げてやっています」みたいな人もいて。
8,000円から10,000円ぐらいでできるみたいなんですけど。そういうスモールビジネスとしてやっている人がけっこう増えているんです。なんだろう、中身が同じだったら、正直、安いほうが良いかなって。あくまで私の感覚ですけどね。
司会者:はい。
高野:安けりゃ良いってもんじゃない。でも、中身が一緒だったらですよ。
司会者:まぁ、そうですね。
退職代行を利用するのは“普通の社員”
高野:交渉するとか、訴訟するのは弁護士の方が(やる必要があり、)もっと費用が発生する。通知するだけだったら、安いほうがいいかもって思っちゃいましたけどね(笑)。
司会者:わかりました。高野さんの周りの経営者の方で、実際に、社員に退職代行を使われて辞められてしまったっていう声はありますか?
高野:ええ、ものすごく多いですね。
司会者:ものすごく多いんですね(笑)。
高野:いや、驚くね。最初の僕の(退職代行ユーザーの)イメージって、ものすごく仕事ができなくて、評価されていない人が使うと思っていたんですよ。でも各社の社長に聞くと、そんなことはないですね。ものすごく大活躍しているわけではないんですけど、「いや、普通の方でしたよ?」って言われることが多いです。
退職の理由を確認できないのがつらい
高野:社長はやっぱりイラッとしてたり、さみしい思いをしてたり、怒ったりとか、いろんな方がいますね。ただ、よくある話としては、どのレベルかはわかんないけど、社長としては期待をしていたと。「やっと1つのプロジェクトを任せられるようになった。来週から楽しみだな」と思っていたら突然退職代行になっちゃった。

どうやら上司に確認すると、ダメ出しがけっこうあった。だからパワハラ的な行動があったんではないかと思うし、本人に確認したかったけど、もう連絡を取ってはいけないんで、できない。自分にひとこと言ってくれればな、みたいな話がけっこうあるんですよ。
(例えば社長と自分の)2人の会社だったら言えないじゃないですか。でも何十人かいたらね。部署移動とか、上司を変えるとか、役割を変えるとか、いくらでもできる。経営者からすればそうなんだけど、「(退職の)本当の理由が上がってこないと、動けない」みたいな声もある。
“社外人事部”を作れないか
高野:退職代行っていうビジネスとはちょっと違うコンセプトなんですけど、社外人事部みたいなのをやりたくって。「なんだか辞めたいな」って思った時に、上司に言っても無駄だ。上司の上司とか、社長に言って大事にしたくない(というケースがあると思います)。
僕はそこまで悩んでいるなら社長に言えばいいと思うんですけども、言えないんだったら、ワンクッションとなる社外人事部みたいなところに相談して、改善策はないのかって評価してもらうとか。
もちろん人事がやるならやっていただきたいんですけども、(会社によっては)人事がいないとか、人事が労務や採用を中心にやっている場合は、総合的にキャリア相談しつつ経営のことも話すのはけっこう難しいじゃないですか。
退職代行会社の社員も退職代行を使う
高野:だから、社外人事部みたいなサービスがあったら非常に良いし、どのみち今は人が採れないじゃないですか。だからアルムナイみたいな同窓会組織を作って、戻って来てほしいなんてことをやっているぐらい。だから、こういうサービスが求められているんじゃないかなっていう気はしますね。
司会者:なるほど。
高野:おもしろいのは、福利厚生に退職代行を入れる会社も出始めているんですよね。
司会者:へえ。
高野:あとは、退職代行の会社の人に聞いたら、退職代行の別の会社を使って社員が辞められちゃったケースもあって。それはどうでしたか? って聞いたら、「いやぁ、辞めるんだったら本当の退職理由を聞きたかったッス」って言っていて。
司会者:(笑)。
高野:だから、今はサービスの立ち上がり時期だから、いろんな人がトライ・アンド・エラーをしているのかなと思いますね。
明確な退職理由がない人もいる
司会者:ただ、退職理由を直接伝える場合もあると思いますが、本当の話じゃないことも多いのかなと思います。それはどうですか?
高野:確かにそうですね。本音をしゃべったほうが良いんですけど、言ってくれない人も多いですよね。あと、社長の方からよく聞くのが、退職フローの最後に社長が退職者面談みたいなものをする企業もあるそうです。
その場合、社長のところに上がってきた時には(求職者は)もう完全に腹が決まっていて、次の会社も受かっているから、「自分が説得しても駄目なんだよね」っていう方が、まぁ正直多いもんで。
本音をなかなかしゃべらないし、さらに言うと退職理由がない方も多い。ちょっと言い方が難しいんですけど、これ以上、今の会社にいる理由がなくなった、やり終えた感があって、自分じゃなくてもいいかなって辞めている人も多いんですよね。
人事こそクリエイティブに動くべき
高野:だから、不満があるから辞めるっていうよりは、もっとやりたいことが見つかっちゃって、だから辞めよう、みたいな方もけっこう多い。
司会者:そうですよね。
高野:上司や部長といった当事者には本音をしゃべれないから、当事者じゃない人が本音を吸収して経営に役立てたりとか。場合によっては踏みとどまる方もいると思うんですけど。そこにちょっと投資したらどうなるのかな、という気がしています。
司会者:社外人事部を試してみたい企業はどうすればいいですか?
高野:一度ご連絡をいただいて、どんな感じだったらできそうか、ちょっと挑戦してみたい。その会社で一生(社外人事部を)やるかっていうより、効果が出るかどうかは置いておいて、人事もいろんな人事政策にトライして、クリエイティブにやっていくことが大事かなと思います。