【3行要約】 ・ソーシャルセクターへの転職を志望するビジネスパーソンが増える中、漠然とした憧れだけでは思わぬギャップに直面してしまいます。
・腰塚氏は、社会課題に対する強い問題意識が、かえって転職後のミスマッチを生むケースもあると指摘します。
・転職を成功させるためには、現場や当事者との接点を持ち、組織の方針や自分の価値観の一致を確認した上で慎重に判断することが重要です。
前回の記事はこちら 社会貢献を“実感”したい
長谷川亮祐氏(以下、長谷川):興味深いのは、腰塚さん自身も前職は、それはそれで社会貢献はしていたと。
腰塚志乃氏(以下、腰塚):うんうん。
長谷川:もちろんすべての組織は営利・非営利関係も、規模も分野も関係なく、何かの意味で社会には貢献しているはず。つまり、本来はみなさん社会に貢献しているはずなのに、そう思えていない人がいるっていうことなんですかね? なんだか、それはそれで残念ですね。
腰塚:そうですね。キャリアの相談に乗っていると、みなさん口をそろえて、「うちの会社だって役に立っていることはわかっているんです。でも、私は実感できないんです」っておっしゃるんですよね。
長谷川:それは裏を返すと、いわゆる社会貢献ファーストで取り組んでいるところは、それが実感しやすいんですかね?
腰塚:しやすいと思いますし、実は組織の大きさとかも関係していて。結局、「株式会社×大きい組織」となると、分業して効率的に事業を運営していくので、やはり、1人当たりの担当業務のきめが細かいんですよね。
長谷川:なるほど。
組織の規模と働きがいの関係
腰塚:だから、その会社の社会貢献性がどれだけあるかは別にして、(自分の担当する業務で実感できる価値が)何千分の1、何万分の1になっていくので、あったとしても実感しにくい。
長谷川:確かに。おもしろいですね。つまり、日本には何万人もいるNPOはおそらくないと思いますけど、NPOにも規模がいろいろあるので、それはまたありそうですね。
腰塚:そうですね。だから、転職する際には(組織の)規模も見たほうがいいと思います。
長谷川:興味深い。ほかの失敗例、成功例は何かありますか?
腰塚:そうですね。先ほどの社会の見立てとか問題意識みたいなところにも、実は入ってからのギャップがあるケースもあって。
長谷川:へぇ。
問題意識の強さゆえのミスマッチ
腰塚:みなさん、何か強い思いを持ってその領域に飛び込みたいと思うんです。例えば教育分野だと、自分の子どもたちに問題意識を持っていたりとか、自分自身が、教育機会で何か思うところがあったとか、当事者性に近い問題意識を持っていらっしゃる方も多いんですよね。
その時に、「私はこう思って、こんな社会を作りたい」っていうふうにして(団体に)入るんだけど、当然ながら社会課題は1人じゃなくて、組織としての合意とチームプレーによって変わっていく。そうすると、「私が思っていたようにできないじゃないか」みたいな。
長谷川:興味深い。
腰塚:例えば教育格差も、より深刻な人を救いたいと思っていたけど、「まずは深刻度が少し緩やかだけど、機会が提供しやすいところからいこう」みたいな時がある。
「私がやりたいのはそこじゃなかった」とか「そこだったとしてもアプローチが違う」とか、感情面を含めて100パーセント合意できないモヤモヤみたいなものが出てくるんですよね。それが、自分の当事者性が高ければ高いほどモヤモヤしやすい。
あえて仕事にはしない選択も
長谷川:なんだか、すごいジレンマですね。
腰塚:そうなんです(笑)。すごくジレンマだし、例えば、ちょっとセンシティブな話ですけど、発達障害のお子さんを抱えている親御さんで、発達障害の療育サービスを提供している事業者さんにいきたいとか、そういう、自分にとって強い問題意識や譲れない思いがある領域に転職したい方には、私たちもすごく慎重にコミュニケーションします。
もしかしたらここは価値観が合わないかもしれないとか、「こういう事態に遭遇した時に、その事業に冷静に取り組めそうですか?」とか、「それに関わっていると心が揺さぶられて、しんどいと思うことはありませんか?」とか。
そうすると、もしかしたら(直接的な)発達障害を抱える子の支援はライフワーク的に別の活動でやって、通底する概念は一緒だけど、社会の多様性を受容するみたいな、もうちょっと間口が広いことに仕事として取り組んだほうが、実は自分の精神的な健康状態が高かったり、冷静に自分のパフォーマンスを発揮できるみたいなこともあるんですよね。
長谷川:むちゃくちゃ興味深いです。
腰塚:いやぁ。だから難しいですよね。
長谷川:確かに。なんだか、「仕事でどこまでやりたいか」という、仕事観のようなものが問われている話ですね。
腰塚:そうですね。