【3行要約】 ・自分の特性を知るには、他者からの評価や反応を観察することが重要です。三宅氏と谷川氏は日常の小さな気づきから自己理解を深める方法を語ります。
・対談では「悩みと生活の両立」について議論され、悩みを避けるよりも向き合いながら日常を送る重要性が強調されています。
・「向いていること」と「好きなこと」の間で迷った時は、自分の特性を受け入れつつ、仕事と趣味で異なる自分を表現する道もあると示唆されています。
前回の記事は
こちら 自分の特性を知るカギ
林広恵氏(以下、林):ここまでの質疑応答でもいくつか質問を取り上げてきましたが、あらためて、会場のみなさんで今のお話を聞いて質問してみたいという方がいらっしゃれば、ぜひ挙手をお願いします。
質問者1:最後のあたりで出ていた「自分の傾向を知る」という話で、ちょっとした心の動きを大切にするっておっしゃっていたと思うんですが、それを自分で自覚するための作業というか、棚卸しとか可視化って、どうやってやられていますか?
たぶん本を書くという行為がそれにあたるのかもしれませんが、僕らがもっと日常的にできることがあれば教えてほしくて。
三宅香帆氏(以下、三宅):私はけっこう、人からの雑な評価を大事にするんですよね。
谷川さんが言っていた「適当に言われたことを参考にする」に近くて。キャリアで言えば、「この仕事、よく頼まれるな」とか、「また声がかかるな」とか。あるいは、「なんか褒められやすいな」でもいいと思います。
ただ、褒めるってけっこう能動的な行為なので、それより「頼まれやすい」とか「声をかけられやすい」とか、「こういう人に好かれやすい」みたいな、相手の反応から“信頼の方向”を捉える方が、自分の特性を知るうえでヒントになるなと思っています。
自分の傾向は「いや、それは違う」という反発に表れる
谷川嘉浩氏(以下、谷川):それ、すごくわかります。私は「このタイミングで、ふと誰に会いたくなるか」みたいなところもけっこうヒントにしていて。「なんで今、この人とご飯に行きたくなったんだろう?」とか、自分の湧き上がる気分に注意を向けると、今の自分の状態に気づけたりするんですよね。
それから、さっき言ってもらったみたいに、誰かから「谷川さんってこうだよね」って雑に言われた時も、まずは「そうかも」と一度受け止めてみる。そのうえで「なんでこの人はそう言ったんだろう?」と考えて、その人から見える自分像と、自分の過去の経験がどう重なるか、あるいはずれているかを、脳内で照らし合わせてみるんです。
三宅:自分ではこうだと思っていても、人から違うことを言われた時に、「それは違う」と反発するか、「そう見えているんだ」と思えるかで、受け止め方がぜんぜん違いますよね。おもしろいです。
谷川:柳田國男がそんなことを言っていて。いい話やなと思ったのが、民衆の思想は、何かを言われた時に「いや、それは違う」っていう仕方で表れるみたいなことを言っていて。
「あらかじめ自覚していないこと」って、けっこう多いんじゃないかと思うんです。思想って言うとあれですけど、自分はこうだっていう傾向性。柳田國男が家永三郎との対談で言っています。
三宅:読みたい、おもしろそう。
悩みを避けると“もっと面倒なこと”になる?
林:次は、一番端の方、お願いします。
質問者2:「悩んでいる間は大丈夫で、それに飽きたり疲れたりした時に行動を起こせればいいんじゃない?」という話だったと思うんですけど、けっこう悩んでいる間って不具合というか不都合が起きやすいかなと思っていて。
個人的な話になってしまうかもしれないんですけど、その間ってけっこう自分に矢印が向く時間が増えて、周りとのコミュニケーションなど亀裂が生じたりして、悩み続けるってけっこうハードル高めな時もあるんじゃないかなと思うんです。
それをどうやって乗り越えるというか、どうするとそれでも悩み続けることができるかというところが気になります。
谷川:たぶんそこで悩まないという選択肢を取ったらどうなるかというと、すごく「自分の中で抑圧したものがある」って自分の頭の片隅で思い続けることになって、結果、もっとややこしいことになりそうだなって。
物語とかってそういう展開が多いじゃないですか(笑)。自分の中で大事なことがあるのに、「まぁ、忙しいしこんなことを考えていたら生活を営めないから」っていう主人公がいたら、この後、悲劇ですよね(笑)。
三宅:あれですね、『女のいない男たち』とか。
谷川:そうそうそう(笑)。
三宅:あとは、『源氏物語』の六条御息所みたいに、気づかないうちに生き霊になっちゃったみたいなね。
谷川:そういうことですよね。だから、悩むという行為のほうが、実はカロリーを使わないという見方もあるのかなと思いました。それが1つの答えかもしれません。
デカルトも言った「生活しながら疑おう」
三宅:確かに。私は「悩みと生活は両立したほうがいい」と思っているタイプで。というのも、「よし、考えるぞ」と構えて集中する時間も大事ですけど、悩みは悩みとしてそっと置いておきながら、普段どおり生活していくなかで、「今、あの人に雑に言われたこと、ちょっと参考になるかも」とか、「会社で起きたこの出来事、もしかしたら今の悩みに通じるかも」とか思うことがあるんですよね。
そんなふうに、悩むという行為をコマンドみたいに切り替えて扱うのもアリでは。私はけっこう、そうしているかも。
谷川:なるほど。悩みキャパシティがあって、そのキャパシティを超えない範囲でなら、日常生活にも支障が出ないラインを保てる、みたいなことですね。
三宅:ただ、ものすごく大きな悩みって、やっぱりその枠を超えちゃうこともある。そうなると、もう考えないようにするのもしんどいので、もういっそ、悩みと共に生きるしかない。
谷川:それに、大きな悩みって、最終的に決断したあとも、周囲との関係性に影響を及ぼすことってありますよね。生活を変える決断ってことですから。そうなると、家族や友人との付き合い方も、変わらざるを得なくなるんじゃないかなと思っていて。そう考えると、それもまた必要なプロセスなのかもしれません。
三宅:確かに。
質問者2:ありがとうございます。「悩んだ結果だけじゃなく、悩んでいる過程も含めて結果になっていく」というお話がすごく腑に落ちました。本当にありがとうございました。
谷川:めっちゃどうでもいい話なんですけど、哲学者の(ルネ・)デカルトって、すごく大きな考えごとをする時に、まず「日常生活をどうするか?」ってところから始めているんですよ。「社会とか世界の存在を疑ってる時でも、俺は社会生活を送らないといけない」みたいに(笑)。
三宅:それはそうですよ。やっぱり、生活しないと。人間、働きながら本を読むほうがいいと私は思っていて。本当に、そういうことなんだと思います。
谷川:そう、デカルトも「生活しながら疑おう」って言ってましたから(笑)。
三宅:そうですよね(笑)。
評価されるのは“調整役”、でも本当は“1人で突っ走りたい”
林:続いては、そちらの方で。
質問者3:先ほど、
「自覚していないけど繰り返し見てしまうパターン」の話がありましたが、そこから見えてきた“自分の物語”が、自分の好みじゃなかった場合、どうすればいいんだろうと思っていて。
例えば、それまで評価されてきた仕事が「人の間に入って調整する役」だったとした時に、本当は「1人で好きなことに突っ走っていきたい」と思っている場合。とはいえ、自分は結局そのパターンの物語の中で生きていくから、乗っかったほうがいいのか、それとも「いや、私はこう生きたい」という哲学のほうに向かっていったほうがいいのか。
今ちょっと物語と哲学を対立的に話してしまいましたけど、どう折り合いをつければいいのか、お聞きしたいです。
谷川:難しい問いですね。
三宅:「向いていることを選ぶか、好きなことを選ぶか」みたいな話ですよね。
谷川:私の場合は、向いていることを「好きだ」って思うようにしています。岡田斗司夫が言っていた話で、「自分の右手が好きかどうかなんて考えない」っていう例えがあるんですけど、それってもう所与なんですよね。
右手は自分の一部で、「好き・嫌い」じゃなくて「あるもの」として受け入れる。だから、自分のパターンも「仕方ないもの」として考えてしまうのも、1つの選択肢なんじゃないかと。それに、反復してきたパターンも、絶対に変わらないわけではないので、そこに懸けてみるという考え方もありますよね。どうですか?
三宅:確かに。友人が「人は自分と正反対の夢を見る生き物だ」と言ってて。
谷川:かっこいい。
三宅:つまり、自分が憧れるものは、実は自分とは違うものだから惹かれるんですよ。「ああなりたい」と思うものは、自分にないものだからこそ、輝いて見える。
だから私は、「まあ、しょうがないよね。自分はこういう体と性格に生まれたし」と諦めていて。無理に憧れの方向に進むより、自分の土俵でやったほうが、うまくいきやすいのかなと諦念の気持ちを抱えてます。
納得できるキャリアを選ぶヒント
三宅:でも、それでも「向いてないかもだけど好きだからこっちをやりたい!」と強く思う時は、もうやるしかないですよね。向いていなくてもチャレンジしてみる。うまくいかなくても、それはそれで納得できるし、好きなことをやったという実感が残るから、後悔も少ない気がしています。
谷川:うん、そう思います。
三宅:たまには、向いていないことをやってみるのもいいですよね。
谷川:しかも、それが必ずしも「仕事」である必要もないですよね。
三宅:まさに、そうですよね。
谷川:例えば、向いていることを仕事にして、好きなことは仕事以外の場所でチャレンジするかたちもアリだと思います。
三宅:確かに。それこそ、仕事では調整役をして、趣味では超リーダー気質のバンド活動をするとか。そういうバランスの取り方もありますよね。
谷川:そうですね。
質問者3:ありがとうございます。「仕方ない」にたどり着くまでのいろんな手段や考え方があるんだなと感じました。そのなかに、悩むことやコンテンツを楽しむことも含まれているのかなって。ありがとうございました。