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なぜキャリアを問い直すのに、哲学と物語が必要なのか 〜ポジティブでない自分との付き合い方〜(全8記事)

キャリアの決断で迷う時期もムダじゃない “納得できる選択”につながる助走期間の活かし方

【3行要約】
・キャリアの岐路で「後悔しない選択」を求める人が多いですが、どんな選択にも後悔は伴うものだという視点が見過ごされています。
・哲学者の谷川嘉浩氏は「決断には理性・感情・気分の3種類があり、悩み尽くして疲れた時に出る決断こそ自分で引き受けられる」と指摘。
・キャリア選択に正解はないからこそ、モヤモヤを抱えながらも「機が熟した」と感じる瞬間を大切にし、自分の衝動や原動力に従う決断を心がけましょう。

前回の記事はこちら

「どうしよう?」と迷っている時は“助走期間”

三宅香帆氏(以下、三宅):もう1人、後悔に関するご質問がきています。

「勤務先の経営体制に大きな変化が起こる可能性があって、『これまで築かれた経営理念や、社員を大切にする文化が失われるのでは?』と不安に感じています。

自分は会社の価値観に共鳴して入社したので、もしそうなったら転職も考えたい。でも、今の安定した環境を手放すことには迷いがあります。後悔しない選択をするには、どう考えればいいでしょうか?」というご質問です。これ、私、読んで思ったんですよ。言っていいですか?

谷川嘉浩氏(以下、谷川):どうぞどうぞ。

三宅:私、「『どうしよう?』と迷っているうちは、あんまり動かなくていいんじゃないか」派なんです。

谷川:なるほど。

三宅:私はわりと、「決断って、時間がかかるものだ」と思っていて。

谷川:さっきの話でいうと、最終的な決断だけが“決断”じゃなくて、その前に助走期間がある、という考え方ですね。

三宅:うん、助走期間がある。世の中には、「迷っているならやったほうがいい」と言う人もいるじゃないですか。それも一理あると思うんですよ。行動を起こさなければ何も変わらない、だからやったほうがいいのは、確かに1つの真理。

でも私の場合、自分の性格的に、しっくりこないことをやっている時のモチベーションがすごく低い(笑)。だから何事も「人生って思ったより時間がかかるものだ」って常に考えているんですよね。

谷川:何かにチャレンジしたり、決断したりするのにも、スパッとはいかない、という感覚。

三宅:だから、悩んでいるうちは、あまり動かないほうがいいんじゃないかと思っていて。私の場合は、「悩み尽くして、もう悩むのに飽きたな」みたいなタイミングで動く、みたいなことが多いんですよ。

谷川:おもしろい。

キャリアも恋愛も「いつか飽きる」性質を活かす

谷川:ちょっと話がそれるんですけど、昔、紛争解決に関する本を読んだ時に、似たようなことが書かれていたんですよ。紛争解決って、めちゃくちゃ大変で。もし理性で解決できるんだったら、戦争なんて起きてないんですよね。

つまり、「あなたにはこういうデメリットがあって、私たちにはこういうメリットがあって……」みたいなかたちで、理性的に話ができるんだったら、外交とか貿易で済んでるんですよ。

三宅:間違いない。

谷川:だから、理性では解決できないし、感情でも決着がつかない。じゃあ何で解決するのかっていうと、「疲れ」なんですよ。

三宅:すごくわかる気がする。

谷川:「もう嫌だ。もういいでしょう」「これ以上やっても無駄ですよね」みたいな。「もう散々争ったんだから、そろそろやめませんか」ってなるまで、争うしかないっていう。で、悩みごとも、それに近いのかなと思って。

三宅:確かに。今その話を聞いていて、私、恋愛相談の時にもけっこうそういうこと言っちゃうなって思いました。例えば「告白したほうがいいか」「今の彼と別れるべきか」みたいなことを、友だちから聞かれる時に思うんですけど……。結局、人間って、いつか飽きるんですよ。

谷川:悩むことに?

三宅:そう。悩むことにも、あと「ずっと好きでいること」にも。ずっと同じ状態って、続かないから。だから時間が経てば、どこかに動く。変化すると思ってる。だから私、わりと「時間に任せよう」って、すぐ言っちゃうんですよね。今、谷川さんの話を聞いてて、あらためて思いました。

谷川:(笑)めっちゃおもしろい。それ、宇多田ヒカルの『Time will tell』じゃないですか。「時間が経てばわかる」っていう歌詞、ありますよね。

三宅:なるほど。宇多田ヒカルも言ってるのか。

谷川:宇多田ヒカル戦法ですね(笑)。

「理性」「感情」「気分」の3種類の決断

三宅:谷川さんは後悔しない選択をするために、やっていることってありますか?

谷川:特に「これ」っていうのは、ないんですよね。この方の質問の場合、とどまるか転職するか、あるいは起業するか、みたいな、可視化された選択肢の中での話じゃないですか。

「2〜3個あるルートの中からどれを選ぶか」っていう状況。 あるいは、「転職するなら、どの会社にするか」とか。ルート自体は、もうある程度見えていると思うんですよね。

ただ、その“年”に、“そのタイミング”で転職するか、居続けるかという判断は、やっぱり人生の一回性、つまり、リセットできないものだから、どちらを選んでも後悔は生じうると思っておいたほうがいい。

さっき恋愛の話が出ましたけど、恋愛も究極的にはやり直しがきくようでいて、実際には同じ条件ではやり直せない。例えば、「Aさんと付き合ったけど、やっぱりBさんと付き合いたい」とか、「Aさんに告白して振られたけど、別の機会にもう一度」みたいなことはできるとしても、完全に同じ状況でやり直すことはできない。

「もしあの時、別の選択をしていたらどうなっていたんだろう?」っていう想像に取りつかれたとしても、答えは出ないじゃないですか。たぶん、それを人は「後悔」と呼ぶんだと思うんですけど。でも、後悔って、悪いものだと思いすぎなくていいと思うんですよね。タイムトラベルはできないわけで、それはもう当然生じるものなんだと。

私自身、決断する時は、さっきも言ったように「疲れるまで悩む」っていうのが1つあるんですけど、もう少し言葉を変えると、決断には3つの種類があると思っていて。

1つ目は、「理性で考える」。つまり、頭でロジカルに判断するタイプの決断。2つ目は、「感情で決める」。「すごく腹が立ったから別れる」とか、「めちゃくちゃ盛り上がったから結婚する」とか、「あたたかい言葉を言われたからこの会社に入る」とか。そういう直感的・情動的な決断ですね。

で、3つ目に、「気分で決める」っていうのがあると思っていて。これ、哲学の中でも出てくる考え方なんですが、“なんとなく”決める。でも、適当にサイコロを振る、みたいな話ではなくて。

なんか「機が熟したから」とか、「流れが来た気がする」とか、自分の中のタイミングに任せるような判断です。その「ムードで決める」感じも、実は決断の仕方として“あり”だと思ってるんです。

だから私は、「感情」と「気分」はちょっと分けて考えるようにしていて。その視点を持っておくと、自分がどうやって決断しようとしているのか、少し見えやすくなるんじゃないかなと思います。

衝動も原動力も“なんとなく”起こる

三宅:おもしろい。それで言うと、谷川さんはよく本の中で、哲学的なキーワードとして「衝動」を使いますよね? 例えば、「人生のレールを外れるために“衝動”がある」とか。

要は、自分の中から湧き上がってくる何かが、キャリアの道筋になっていく、と。ただ、衝動って言葉だけで聞くと、すごく“感情的”なものをイメージしてしまう。「会社辞めたい!」とか、「起業したい!」とか、そういう、あまり迷っていない強い決意に聞こえたりもして。

谷川:うん、確かに。

三宅:でも谷川さんは「衝動」って、哲学的にどう捉えてるのかなと。キャリアとの関係で言うと、谷川さんの中ではどう位置づけられてるんですか?

谷川:私の中では「衝動」って、感情と一対一で結びつくような単発のものじゃなくて、複数の衝動の組み合わせが“気分”をかたちづくるようなイメージで考えています。

衝動って、1個だけじゃないと思っていて。もっと言葉にしにくい、自分の中の“エネルギーの流れ”みたいなものなんじゃないかと。私はそれを“原動力”って呼んでるんですけど、原動力って、たぶん誰しも1個だけじゃないですよね。

「小さな好き」とか、「ちょっとした違和感」とか、「なんか嫌だな」とか、そういう小さな衝動が、自分の中にいっぱいあって。それらが混ざり合って、ある時、急に、「もうここにはいられない」とか、「やっぱり専業になったほうがいい」とか、そういう決断につながるんだと思っていて。

だから、さっき話した「理性」「感情」「気分」っていう分類の中で言うと、“なんとなく”という気分の正体こそが、実は衝動なんじゃないかって思っています。ちょっと、何を言ってるんだって感じかもしれないですけど(笑)。

衝動って言葉だけ聞くと、もっと突発的なイメージがあるじゃないですか?

三宅:瞬発力のある“思いつき”みたいな印象がありますよね。

谷川:でも、私のイメージでは、衝動って“なんとなく”なんですよ。原動力も“なんとなく”で。つまり、「自分でその全貌は把握できていないんだけど、なんとなくそっちに進むほうがいい気がする」っていう、見えない流れの中にある力が、衝動だと思っています。

「もう悩むのに疲れた…」は“合理的なサイン”

三宅:それはどうやったら見つけられるんですかね? なんか難しくないですか? 全貌を把握していない自分の気分をつかまえるって。

谷川:1個のやり方は、今日しゃべっていて、それを本に書けばよかったなって思うんですけど、やっぱり「疲れるまで考える」なんじゃないかな。考える元気があるうちは、まだ揺れていられるというか。

三宅:時間とエネルギーに任せるのか。

谷川:そうそうそう(笑)。疲れとか後悔って、どうしてもネガティブに捉えられがちですけど、「もう悩むのに疲れたな」って思っている時にふっと出てくる気持ちって、けっこう大事で。その時の決断って、たとえ後悔したとしても、自分で引き受けられるものになるんじゃないかって気がしますね。

三宅:確かに。それこそご質問の中に、「キャリアの選択に正解がない中で、どういう軸で選べばいいのか」とか、「納得感を持つために哲学や物語は役に立つのか」とか、そういった問いがありましたよね。

さっきの衝動の話も含めて、谷川さんの話は、ネガティブ・ケイパビリティ的な考え方に近い気がします。モヤモヤした状態をそのまま自分の中に抱えておいて、それでもう限界というところで決断が起こる。そうすると、あとからの納得感がある。

谷川:まさにおっしゃるとおりで。質問者のフレーズをちょっと控え室でも話していたんですけど、「キャリアの選択に正解がない中で」っていうのは、たぶん現代に限らず、近代以降ずっと人類が向き合ってきたテーマなんじゃないかと思うんですよね。

三宅:キャリアの正解はない、と。

谷川:江戸時代とかだったら、生まれた身分で「この仕事をしなさい」って決まっていたかもしれないし、「ここに住む」っていうのも決められていた。移住も法的に制限されていた時代ですから。でも明治以降の日本って、職業も住む場所も自己選択が前提になってきていて。だから、みんな正解のない中で生きてきたんじゃないかって思いますね。

三宅:それは確かにそうですよね。

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