【3行要約】
・強いビジネスパーソンを目指すあまり、革新的な解決策を求めて疲弊してしまう――そんな現代の働き方に多くの人が悩んでいます。
・『弱さ考』著者の井上慎平氏は、本を書き終えた今も「何も変わっていない」と語り、グタグタな現実を受け入れることの重要性を説きます。
・完璧な答えを求めるのではなく、問いとともに歩み続ける姿勢こそが、持続可能な働き方につながるのではないでしょうか。
正解を急がず、問いとともに読む
工藤拓真氏(以下、工藤):この第3回が始まってのくだりもそうなんですけど、この行ったり来たりとか、人の見方によってはとてもグタグタした話とかが、次の井上さんのやられることとつながっているのかどうかを、今日最後に聞きたいなと思っていたんですけど。
これ、本当にびっくりするぐらい、最後がとてもいい意味でグダッているなと。「ああでもない、こうでもない」ってきちんと言っていて、気持ちいいと思って。「おわりに」でよくぞ回収してくれたっていう。
井上慎平氏(以下、井上):(笑)。読み手としてはそういう感じなんですか?
工藤:だって最終章だけ読んだら、「あぁ、そっか」ってなって、「それで、お前どうすんねん?」ってなりますもん。
井上:あぁ、そうですよね。
工藤:それはたぶん、僕が井上さんを知っているからというのもありますけど。「で、井上よ。お前はどうするんじゃ?」みたいな(笑)、そんな気持ちで読み終えたんですけど。「おわりに」できちんと、次のお話もされていて。何ですか、これ?
井上:いや、そうなんですよ。
工藤:株式会社問い読。
井上:はい。「答え、問い」の「問い」と、「読む」と書いて「問い読」なんですけど……編集者の岩佐文夫さんという方と会社を共同創業しようと。
でも「おわりに」で、きちんと回収とおっしゃったのは確かにそうで、グタグタグタと言って、「お前、最初に言っていたあれはどうなってん?」みたいな、「ケア後に戻っていかなあかん話、どうなってん?」ってなるじゃないですか?
工藤:うんうん。
井上:そこはきちんと書いておきたいなと思って。小さな会社を作ることにしたんですよね。サラリーマンとして安定して働ける自分があまりイメージできなかったのもあるし、それこそやはり外との関係性の中でたまたまご縁があって、「この人とやっていたら楽しそうやな」「いいプロセスの中にいられそうやな」という人と会社を立ち上げることになりました。
問い読というのはあれなんですよ。「問いからはじめるアウトプット読書ゼミ」という長い名前なので、「問い読」にしました。
工藤:めちゃくちゃ強そうなビジネスパーソン臭がしますけど、大丈夫ですか(笑)?
井上:(笑)。「問いと対話の読書ゼミ」と言っていたんですけど、ちょっとフワッとしていて、エッジが立たずによくわからんみたいなことになって。
工藤:なるほど。
井上:みんな結局、読書はインプットだと思っているじゃないですか。
工藤:はい。
井上:アウトプットしたらすごく楽しい。でもこの事業には3年ぐらいかかっていて。いい本を作っても、そもそももうみんなそんなに本を読まないじゃないですか。読もうという気持ちが社会全体でしぼんでいるから、それを育てなあかんなみたいな気持ちをきっかけに「問いからはじめる読書ゼミ」みたいなものをやっていたんですよ。
読書会と哲学対話との比較で言うとわかりやすいかもしれないです。まず問いが中心にあって、課題図書を読んできて、それに対して与えられた問いに対話する。哲学対話って、いきなり哲学的なことを言って、何も素材はないじゃないですか?
工藤:「自由とは何か? みんなどう思う?」みたいな。
井上:そう、そのとおり、「自由とは何か?」みたいな。読書会は、対話するにあたって、わりと感想会になりやすい。
「哲学対話にはないけど、じゃあ、自由について本を読んでこようぜ」って、問いが真ん中にある。フラットに対話できる。この体験がめっちゃ良かったので法人化しようというのがきっかけでしたね。
「なんでこれを最後やるんや?」という話でしたっけ?
工藤:そうだね、問い読という会社。僕はこの事業の内容をぜんぜん存じ上げないんですけど、井上さんはこの本の中でもひたすらに「僕は、プロセスが好きか嫌いかで言うと、好きです、大事にします」と主張されているじゃないですか?
井上:うん。
工藤:僕も仕事をご一緒している中でそれをすごく感じるんですけど、プロセスを大事にする人だからこそ、さっきのグタグタは成立するんだろうなという気持ちがあって。
それこそ、最後の結論部分にこだわるんだったら、やはり谷崎(潤一郎)はたぶん無理だなという。
井上:(笑)。うん。
工藤:ああでもない、こうでもないって、さっきの「結論が5ページで終わっちゃいますよね」という話なので。
アウトプットするというのが、アウトプット読書ゼミというお話でしたけど、僕は、インプットとアウトプットの間というか、インされたものをどう解釈するという……造語かもしれないけど、「ミドルプット」。インとアウトの間の「考える」という営みをすごく大事にしているんだろうなと思っていたので、そういうことを授業にするのは、投資家さんに「何言っちゃってんの?」とか言われそうなことも含めて、すごくおもしろそうだなと思って。すごくおもしろい。
井上:いやぁ、そうなんですよ。投資家に言ったら本当に、「何言っちゃってんの?」というやつで。
工藤:(笑)。
井上:今は4,000人が参加するオンラインセミナーみたいなものがめっちゃあるじゃないですか?
工藤:うんうん、ありますね。
井上:1対Nの学びって、学んだ気にはなるし、本だって1対Nだから大事なんですけど。でも、それだけではないなというのがすごくあって。
3年間でけっこうやってきたんですよ。N対Nで、5人ぐらいでやっていたら、こう言ったらなんですけど、サラリーマンのおっちゃんみたいな人が来て、フラットに話していたら実は偉い先生で。
「僕、わからないんですけど、こうで、こうで」とか言ったら、その専門家の人も「あっ、その視点、なかったです」みたいな、それこそ創発的な学びがめっちゃ生まれるんですよね。
工藤:へぇ、なるほど。
井上:そこで、「、今まですごく賢い感じのことを言える人が知的って思っていたけど、みんな怖がっていて第一声を誰も言えない中で、『僕、こう思いました』みたいなことを言えるのも知性やな」と思ったんですよ。
目指すのは“誰もが先生になれる場所”
井上:無理やりなこじつけですけど、AIの話に結びつけると、知性の定義もけっこう変わってくるなという気がして。すごく鋭いことが言えるとかよりも、例えば対話の中で「聞ける」とか、相手の発言に対して違う角度からパスを出せる、レシーブを上げられるみたいなのも1つの知性だし。そっちのほうが僕はワクワクして。
先生を1人呼んで何千人を相手にさせたほうが、ビジネス的には絶対儲かるし、投資家も喜ぶビジネスモデルなんですけど、人間対人間の中にそこに生まれる創発的な学びがおもしろいとっていうのをもう体験しているので、N対Nの対話をやりたい。
最初は、問い読というプログラムを何回かやっていくんですけど、ゆくゆくは授業のない学校をやりたいなと思っていて。
工藤:授業のない学校?
井上:うん。先生がいないんですよね。逆に言うと誰もが先生。実際に今、問い読で、専門家の人が素人のおっちゃんに学ぶというのがあるんですよ。実際にもう起きていて、そういうコミュニティみたいなものをその先に作れたらいいなと思うんですけど、まずは問い読というのをやってみる。
今日の話で言うと、大人がいっぱい集まって延々とボヤボヤ言い続けたらめちゃくちゃおもしろかったので、それを広めたいという。
工藤:(笑)。けど、本というものをきちんと道具として(使って)そこから自分をどう変えていくかみたいな。変えるというのも、それこそ強いビジネスパーソン的な「強くなる」みたいなことじゃなくて、1周回ってグダるも含め、そういう動きを見せるというところだと思うので。
井上:けっこうみなさん、楽しそうです。会社でしゃべる時「端的に話せ」って言われ過ぎているんじゃないですかね? グダりたいじゃないですか?
工藤:それはありそう。
井上:僕らは答えのない問いを投げるので、それにグダるのがひたすら楽しい。
工藤:確かに。雑談もアイスブレイクとかも言わないといけなくなっちゃいましたからね。
井上:ねぇ、何なんですかね? 雑談という名ではいちゃいけない。
工藤:雑談にすら目的が与えられているんですよ。アイスをブレイクするとか。
井上:しかも、割るの怖くない?
工藤:(笑)。おもしろい話をありがとうございました。問い読は乞うご期待。まだホームページとかはないですか?
井上:どうなんでしょう? タイミングにもよると思います。僕はXにいるので、もしよろしかったらフォローしていただけたら。
工藤:「井上慎平をXで見つけてフォロー」が……。
井上:ありがたいです。
工藤:ありがとうございます。
井上:すいません。思い切りプロモーショナルに話してしまいましたけど、本当にちょっとやりたいことなので。
工藤:(笑)。いやいや、ぜひ。その活動も含め、今回の『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』を読んでいただいて、感想をXでつぶやけば、もしかしたら井上さんが現れるかもしれないです。
井上:エゴサしまくっているので、引くぐらい早く来ると思います。
工藤:エゴサしまくっているんだ(笑)。ということで、今日はこんな感じで。今後の井上さんにも公私共に引き続きお世話になりますが、ぜひみなさんもご注目いただければと思います。
ということで、3回にわたってのゲストは『弱さ考』の著者、編集者の井上さんでした。井上さん、ありがとうございました。
井上:ありがとうございました。