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『弱さ考』著者 井上慎平(全6記事)

距離を置きつつ、しらけつつ、楽しむところは楽しむ “強いビジネスパーソン”を目指すあなたへ贈る、正解のない時代の歩き方 [1/2]

【3行要約】
・強いビジネスパーソンを目指すあまり、革新的な解決策を求めて疲弊してしまう。そんな現代の働き方に多くの人が悩んでいます。
・『弱さ考』著者の井上慎平氏は、本を書き終えた今も「何も変わっていない」と語り、グタグタな現実を受け入れることの重要性を説きます。
・完璧な答えを求めるのではなく、問いとともに歩み続ける姿勢こそが、持続可能な働き方につながるのではないでしょうか。

『弱さ考』を書き終えて得た気づき

工藤拓真氏(以下、工藤):本日も引き続き『(強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の)弱さ考』の著者である井上さんに来ていただいています。井上さん、よろしくお願いします。

井上慎平氏(以下、井上):よろしくお願いします。

工藤:AIの話までしていただきましたね。

井上:しちゃいましたね。

工藤:今のAIの話も本編にはないというお話でしたが、この番組のコンセプトは、それこそ谷崎(潤一郎)的というか、結論をパシッと言うというよりは、紆余曲折しながらじっくり話そうというものです。

そんな中で、「本音のクエスチョン」というコーナーを設けています。要はパキッと言えるような話じゃないことをダラダラうかがう。「ぶっちゃけそれってどうですか?」というのを聞きたいという話で。

井上:これからおうかがいしていくにしては強いですね。本音のクエスチョン。

工藤:(笑)。

井上:よし来い!

工藤:なんですが、ちょっと聞きたいことが変わっちゃいました。事前にお送りしていたものとはちょっと違うんですけど(笑)、『弱さ考』をお書きになって、発売されたじゃないですか?

井上:はい。

工藤:書く前と書いた後で、なにか変わっているんですか?

井上:自分の考え方とかですか?

工藤:そうですね。そもそも弱さを考えなきゃとなった経緯は初回にうかがったんですけど、これを文章にしたのはなんでなんですか?

井上:我々はいろいろ無駄なことを考えてしまうタイプじゃないですか?

工藤:はいはい(笑)。

井上:生きる上で。

工藤:えぇ、生きる上で。

井上:なので、やはりこういうことを考えないと生きていけなかったからというのはあって。

さっきの「何が変わった?」みたいなところで言うと、考えることで、「あっ、なるほど、こういう仕組みね」「そんなに追い詰められるほどのことでもなかったのね」ということもあります。でも結局、最終章そのままなんですけど、「何も変わっていなかった」ということに気づくという。

書き終えた今、なにかが変わったかと言われると、グルッと1周回って、変わってはいない気がするんですよ。

工藤:おもしろい。そうなんだ。

井上:例えば「能力主義ってどうなの? いや、こういうことも考えられるんじゃないの?」とか、いろいろな側面で考えて、新しい物の見方を得たというのは確かにあるんですけど。

でも結局自分がまだ成熟し切っていないから、やたら本を読み過ぎた学生みたいにもなっていて。

工藤:(笑)。

井上:結局僕も、「なんかいろいろ言ったけど目立ちたい」とか、そういうところに戻ってくるんですよね。きれいなことを書いたり、考えたり、整理したりすればするほど、自分の「寂しい」とか「目立ちたい」という部分に戻ってきて。

やはりみんないろいろな苦しさを背負いながら今日1日をなんとかやり過ごしている。もう先のことなんかを考える余裕もないぐらい、しんどかったりする。

「しんどい。でも今日も夜までたどり着いた。寝る。起きた。起きたら朝、しんどいなぁ」みたいな。それは体調、心理面、家族とか、人それぞれでしょうけど。

それを繰り返していたらいつの間にか我々も全部白髪になり、立つこともできず死んでいくみたいな(笑)。

工藤:(笑)。

井上:だんだん良くなるみたいな方向をあまり目指さなくなりましたね。このままボヤボヤボヤボヤいろいろなことを言いながら大したこともできず、大したことはできるはずだとうぬぼれ、1日を繰り返して死んでいくんだろうなみたいなところです。

今ここにある“グタグタ”を生きる

工藤:「中二病」とか「俺はまだ本気を出していない」みたいな話ってあるじゃないですか?

井上:あぁ、ありますね。

工藤:僕は「そういうのが一切ない」風な人がちょっと苦手で。

井上:中二病を患っているやつだけを信頼するみたいな。

工藤:(笑)。そうそう、極端に言うと。最終章に至るまでは、途中からギアが入って、こ井上さんの文章がだんだん饒舌になってきて、「えっ、これ、このまま解決しちゃうの?」と思って。「いや、解決とか絶対言わないで」とか思いながら読んでいました。

それで、最終章で涙腺爆発ですよ。「よくぞ言ってくれた。もう本当に、惨めなやつでよかったよね」みたいな。

井上:なんかコアな読み方やな(笑)。

工藤:「あぁ、よかった」というのがあったんですけど、今の「1周回って」というのがすごく大事だと思っていて。今の話も、「とてもドライなザ・ビジネス人です」みたいな見方をしたら、「ということは1周回るのは無駄でしたな」とささやく人がたぶんいるじゃないですか。脳内に、そういうビジネス人みたいな(人がいて)。

井上:ビジネス悪魔ね。

工藤:そう。ビジネス悪魔。けどこの本で言っていることはそういうことじゃないというか、「1周回るということも、ワンチャン、価値があったんじゃない?」って。

けど、それこそ谷崎(潤一郎)で、そういう天使がいたとして、その天使を叩いて終わるわけでもないというか、だから言い方は悪いかもしれないですけど、すごくグタグタな終わり方なんですよね。

井上:すごくグタグタな終わり方ですね。

工藤:(笑)。なんかそれが、「いやぁ、そうよね」というので。

井上:でも、グタグタなことであるということが、1つ大事だと思うんですよ。工藤さんとだから、やはりそういう話になるけれど。

今が良くない、もっと良くできるって、いろいろな側面があるじゃないですか。自分の仕事の技術でもあるし、誰かとの関係性でもあるし、もっと言ったら社会とか地球環境とか、何でもそうなんだけど、やはり僕らはどこかにすべての問題がクリアされたユートピア的な……ユートピアと言うとあれだな、ちょっと語弊がある。

例えば「本当の自分」とかよく言うじゃないですか?

工藤:はいはい。

井上:理想化したなにかを設定し過ぎているなという気がして。世の中もひょっとして、「今のあの国とあの国の大統領が代われば」とか「もうちょっとこういう思想が世に広まれば、全部民主主義になれば」「かなりいい社会になるんじゃないの?」みたいに過度に期待をしている感じがあって。

何でしょうね。問題がない状態を前提として、今はそこから距離があるから、それをいかに詰めていくかみたいな、すごくナイーブな考え方を1周前はしていたんですよね。

でも1周して、「あぁ、これ、もう自分もグタグタだし世界もグタグタだし」。

工藤:(笑)。いいですね、「世界グタグタ」っていいですね。

井上:中二病ってそういうことだと思うんですけど、「その中でやっていくしかねぇな」っていうことに関しては楽になりましたかね。

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