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『弱さ考』著者 井上慎平(全6記事)

AIに引き起こされている「時代の変化」の加速 『弱さ考』著者が行いたかった問題提起 [2/2]


1回ずつ断ち切ることを前提とした殺伐とした社会

工藤:経済学者の楠木(建)さんが「市場の反対ってなんだろう」っていう話をしたのがめちゃくちゃ好きで、よく思い出すんですけど。……とか言いながら、市場じゃなかったらどうしよう。間違っていたらごめんなさいなんだけど、反対は会社の社内だと話をしていて。

要はどういうことかというと、社内だったらリソースの受け渡しに関して金銭や授受は発生しません。

井上:はい。

工藤:それを外部化するのが市場です。だから会社……。個の時代でチームで働くとかよく言うじゃないですか。けど、それって厳密には社内じゃないから。

例えば、僕みたいな仕事でもすごく感じるんですが、外部パートナーと一緒にやっていて、当たり前だけど一挙手一投足にお金かかるんですよね。だけど、古き良き日本の会社のスタイルって「それやっといて」「あれやっといて」とか、貸し借りとか。

まさにこの本の中でも旧来的な忖度とかはどうなのかみたいな話とかも少し触れられてたりしますが、そこってすごく悪いものとしてパーンって切り捨てられちゃって。

僕とか井上さんは今30代中盤で、20代の方とかと話すと「もうそんなんダメだよね」「全部もうバシッと、全部決めましょうよ」「バシッと明朗会計でいきましょうよ」みたいな感じの議論って多いですけど。

そういうふうにしてしまうことで、逆にめちゃくちゃ殺伐っていうか、「全部を金銭処理して考えないといけないみたいなことになっちゃっているよなぁ」とかもすごく感じていて。

だからそれこそ井上さんもNewsPicksをご卒業されて、新しい商売にこれから挑まれるというところですが、外に出ると感じるんですよ。楠木さんが言ったとおり、逆に会社には市場はなかったんだって。

井上:田端信太郎さんも似たことを言っていたなぁ。結局社内って、一般的な労働市場から調達するよりはるかに低コストでその人を使い倒すことができる場なんだみたいな。

工藤:そうそう。

井上:市場の観点からも見ることができるし。やはりプロジェクトベースがすごくかっこいいことのように語られるし、実際僕も今そうなっているけれど、1回ずつ清算しなきゃいけないのって、けっこう難しいじゃないですか。

工藤:そうですよね。

井上:贈与とかそういう文脈で語られるものや、貸し借りが精算されずに続けられるものは、ある程度、僕と工藤さんが「もう来年にはこいつと縁切るからな」ではなくて「これからも一緒に友だちだよな」みたいな関係があるから成立する話であって。

1回ずつ精算するということは、1回ずつ関係性が断ち切れることであり、断ち切れるという前提で振る舞う。

でも人間は1回ずつ断ち切ることを前提に社会を作ってきた歴史はないので、それをやるとすごく殺伐とするなっていう。殺伐とした時間みたいなものもすごく関係してますよね。

工藤:関係してますよね。だから、この本の中でも書かれてた「パチンコ玉じゃなくて器だ」みたいな。

井上:はい。

工藤:このキーワードだけ出すと「どういうこと?」とリスナーの方は思っちゃうかもしれないですが。

『弱さ考』は余白をもらえる本

工藤:この本って、すごく「自分ってなんだろう」とかを考える本だと思うんです。結果、どの本よりも自分の周りとか他人の話のことをめちゃくちゃ考えざるを得ない。

井上:そうなんですよ。考えざるを得なかったんですよね。

工藤:そこがリアリティあるなと思って。日本の場合はまだまだサラリーマンの方が多くて。サラリーマンって形式じゃないにしても、サラリーマン的な動き方はたぶん多いと思うんです。

という中において、おっしゃってたみたいに「私は半身にしよう」としても、「いやいや……」っていうのがあるわけで。

そこに対してのヒントとか、この本にはキャッチに「武器じゃなくて防具だ」っていう話があるんですけど。

井上:武器としてのビジネス書が溢れる中で。

工藤:「生身の人間が働くための防具だ」ということなんですが、そういう読後感が僕にもあって。この本を読んだからといって、「よっしゃあ、伝説の鎧を身につけて、これで龍の攻撃も怖くない」というようなことにはならないような気もするんですけど。

井上:ぜんぜんです。

工藤:(笑)。けど「あぁ、生身の人間として考えてもいいんだ」「考えた上で『じゃあどうしようかな』っていうところの余白はもらえる本だなぁ」と思って読ませていただいていたんですよね。

井上:そうですね。本当、個人的な話ですからね。鬱になった男の手記と言えんこともないですからね。

AIがどう社会を変えるかより人が限界を超えることを考えないといけない

井上:でも本当に、社会について考えざるを得なかったんですよね。それこそ僕らサラリーマンにとっての社会って会社じゃないですか。先ほどの話の社内じゃないですが。

そこで求められる振る舞い。常に自主的に動き、変化には喜んで対応し、むしろ自ら変化を生み出す側になり、結果を出すことで存在感を発揮し、価値を出すみたいな。サラリーマン10箇条みたいな当たり前のルール。

そういうのが動物として備わってきた人間の社会の作り方とか、先ほどのお金のやり取りの話じゃないですが、あまりにバッティングしすぎたなぁという感じなんですよね。もうちょっと言っていいですか。

専門外でも話していくことは、僕は大事やと思うので、AIのことを知らないなりに話すと、生産性がすごく高いとか、仕事がなくなるとかは事実だと思うんですけど、たぶん生産性が上がったら、みんな1台ずつぐらい、すごくよくできたAIを社内経費で使えるようになって、密度が上がるだけやと思うんですよね。

「もう限界だ」ってなっているのに、それってさらに拍車をかけるなぁみたいな気はしていて。

社内で人間が動物としてできることはもう超えてるんじゃないかなぁみたいな。親の世代ぐらいまでいったら、「なんか24時間戦えますか」とか言ったけど、24時間のうち3時間ぐらいは飲み会やったり、2時間ぐらいは打ち合わせの往復やったり。その間は別にスマホなかったり、密度が薄かったと思うんですよね。

それは馬鹿にしてるわけではまったくなくて、その時代の背景としてで。これが「AIだAIだ」ってなった時に、やはり密度がもう限界を超える。それこそ脳の限界を超えて、いろいろな人の負荷の限界をオーバーしてしまうみたいなことはすごく容易に想像がつく。

AIがどう社会を変える、仕事を変えるみたいなことより、先にそっちを考えなきゃいけないんじゃないのみたいな。もはやなぜこの話をし始めたか忘れちゃいましたが、そんなことを思いましたね。

AIが当たり前になった後の恐怖感

工藤:そうですよね。僕の業界とかでも、例えば僕個人で見ても、AIによってどうなったかで言うと、恩恵しかないという側面もあるんですよね。先ほどおっしゃった、濃度が高まるっていう。

「おー、なんかこんなことまでやれちゃった」みたいな。日によっては5日間ぐらいかかってたことがパッとできちゃったなぁみたいなこととかがある。だけどそれって、時差で5日できたという体感があるから感じられる喜びじゃないですか。

井上:はい。

工藤:けどこれは、『弱さ考』で書いている話にのっとると、あっちゅう間にそれが当たり前になっちゃうよねと。「早歩きって歩くより速いんだな」みたいな当たり前の話が、気づいたら猛烈に走る。「ボルトって足マジ速いな」みたいなことに驚いていたのって、当然ボルトを初めて見たからで。毎日ボルト見てたら、それが当たり前になるじゃないですか。

だからたぶん、今井上さんがおっしゃった話って、当たり前になった後の話というか、その恐怖感という。

井上:そうそう。当たり前になった後に、「空いた時間でもっとハードなやつを結局やることになるんだぜ」みたいなことはもうきついでしょうね。

工藤:(笑)。

井上:Zoom会議が10件入っていてトイレ行けないみたいな。もうきついじゃないですか。

工藤:そうですよね(笑)。「いや、冷静になろうよ」って話ですよね。

井上:冷静になろうってね。

工藤:「おかしいよね!」みたいな。「こんな話で大丈夫なんですか」って井上さんが思ってそうですけど、大丈夫です。

井上:めちゃくちゃ思ってました。

工藤:(笑)。

井上:大丈夫かな? 

工藤:大丈夫です。

井上:もう1回撮り直したほうがいいですか。

工藤:“弱さ感“出てきています。

井上:本当ですか。戸惑いまくってるけど。

工藤:この戸惑いをどう解決するかを次週、やらせていただければと思います。

井上:やりましょう。

工藤:戸惑い。

井上:完全にもう終わりのつもりでいました。

工藤:ということで、今日のゲストは『弱さ考』の著者、井上さんに来ていただきました。井上さん、ありがとうございました。

井上:ありがとうございました。

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