【3行要約】
・AIの発展により生産性が向上する一方で、人間の負荷が限界を超える危険性が高まっています。
・『弱さ考』の著者井上氏は「AIによる密度の向上が、すでに限界に達している人間の負担をさらに増大させる」と懸念を表明しています。
・技術の進化に伴う恩恵を享受しながらも、人間としての限界を認識し「冷静になる」ことの重要性を説いています。
なぜ苦しくなっているかを構造的に見て、自分なりの見方を獲得する
工藤拓真氏(以下、工藤):そんな流れでの無理やり3冊目の話でいうと、『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』なんですけど。
著者ですが、本質的に(井上さんは)編集者としての側面もありながらのこの1冊ではあると思います。当然、今野(良介)さんってすばらしい編集の方がついている作品ではあるとは思うんですが……。
今の流れで「自分で『弱さ考』を評論するのはどうよ」というのもあるかもしれませんが、この本の中で書かれていること自体が、社会の流れの中、生きてる限り僕らって社会の影響を受ける。だから今の時代性って絶対ヒリヒリと受けるはずで。
井上慎平氏(以下、井上):はい。
工藤:そんな中で、人って、僕個人って、あるいはあなた自身ってどう考えたらいいかなっていう投げかけをしている本だと理解してるんですけど。
井上:はい。
工藤:「見つからないんじゃないかな」ってなった先、『弱さ考』で言うとどうなったんですか。
井上:「見つかんないんじゃないかなぁ」の先ですか?
工藤:「見つけなくてもいいよ」なのか「見つけようよ」なのか。また違う軸なのか。問いを変えると、(斎藤幸平氏の)「脱成長」、(三宅香帆氏の)「半身で働け」っていう考えに対して、『弱さ考』ってなんですかね。
井上:大きく言うと、三宅さんの提示した「半身で働く」っていうことに対して、たぶん「いや、半身で働いたら収入半分じゃん」みたいな。メンツもあるわけで。
工藤:(笑)。
井上:それに対して、お金の問題から逃げちゃダメっていうのは『弱さ考』でめっちゃ書いてるので。
「その現実はまずあるよね」と言いながら、半身で働くっていうのは楽だけど、その先、それに実際どういう心持ちで臨むのか。なぜ僕らは苦しくなっているのかを1回構造的に見る。それに、適切にしらけながら、半身にもなりきれないまでも、自分なりの物の見方みたいなものを獲得すれば、今のしんどさが少しでも減るかもしれないっていう、三宅さんのちょっと先にあるぐらいの感じだと思いますね。
柔軟な脳を持った人間が時代の加速についていけなくなっている
井上:せっかく大きなお題を振ってもらったし、僕も自分の本のことばっかり話しててもアレなんで……。
僕はあえて書かなかったんですが、AIがすごく大きなテーマとして、社会に浮上していることはもう明らかで。(僕は)専門じゃなかったから書かなかったですけど。
仕事のあり方も変わっていくでしょうし、これからで言うと人間の動物っぽさみたいなものがすごくあぶり出されるだろうなぁって思っています。
だからビジネスがどうとかいうことに対して、変化ってやはり都市部あたりから見えてはくる、データとして上がるので。都市部の本でいうと、ビジネス全般がどうってよりも、「人間ってそもそもなんだっけ」みたいなことを考える。
その中でも、先ほどの動物性というか、谷崎潤一郎がボヤボヤしていることに、僕たちはなんかうんうん言ってしまうわけですよね、みたいな。
そこで1回『弱さ考』に戻すなら、やはり時代がちょっと速すぎるなっていうこと。
工藤:スピードがってことですか。何事も流れるものが早すぎるなっていう。
井上:スピードがね。何事も流れるものも早すぎるし、流れるものの時速みたいなものもどんどん上がっていっているし、それについていけなくなってるなぁっていうのは、書いていても思ったんです。
10万年前の人類も、今の人間も、そんなに脳の容量とかは変わらないから。例えば、タイムスリップで10万年前の赤ちゃんをここに連れてきたら、普通にChatGPT使ってめっちゃ賢く生活する普通の子ができるよみたいな。人間、動物としてそんなに変わっていない、みたいな。
要は、後でキャッチアップする、学ぶところの能力がすごいからどんな社会でもやっていけるけど、いよいよそれがキャッチアップしきれなくなってきているのかなっていう感じはすごく感じますね。
一般的に詳しい政治、国際情勢は僕は語れないですけど。ものすごく本能むき出しのものがこんなにも力を持つのかというのは、たぶん前に「世の中はどんどん良くなるんだ」と信じていた人からしたら信じがたい光景が起こっていて。
クレイジーなやつらが2人いたとかそういう話だけではなく、それをけっこうな人が支持してるっていう。10万年のサバイバルでも現代に生まれても適用するぐらい柔軟な脳を持った動物である人間が、いよいよついていけなくなるぐらい、先ほども言った加速が進みすぎたんじゃないかみたいな問題提起をたぶん僕はしたかったんですね。
いったん競争が始まってしまったらソフトランディングでは止められない
工藤:なるほど。だからこそというか、「これがいきすぎてるんちゃうか」っていうことに対して、「人間というか動物って、本当はそんなに早くないよね」というような文脈などの話も、この本の中でも説かれていますけど。
先ほどのAIの話も含めてで言うと、とはいえ「じゃあスローでいきましょうよ」ということが言いたい、そういう結論に持っていきたいわけじゃない。
井上:いったんとことん考えてみたんですね。やはり競争って、いったん始まったらスローにいくことはできないですよね。ソフトランディングでは止められないですよね。
工藤さんがめちゃくちゃゆっくり半身で働いている間に、周りの人がバリバリがんばっていて、「工藤さんじゃなくて次のこっちの人のほうがいいな」とかになっていったら食えないとか。生活の話に引き寄せるとそういうことで。
工藤:いや、本当にそうですよね。この本の途中で書かれている話でも、僕もうまくしゃべる自信がないんですが、やはり『弱さ考』で捉えてくれているとこで一庶民として大事だなと思うのは、今おっしゃったようなところです。
どこまでいっても、僕らはめちゃくちゃ周りに影響を受けているということ。しかもそれって、下手したら個の時代とか、会社に帰属しない時代となったほうが、むしろめちゃくちゃ影響を受けざるを得ないよねっていう。