「Climbers(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントです。本セッションでは、大ヒットアニメ『名探偵コナン』を生み出したプロデューサーの諏訪道彦氏が、高いハードルを越え続けてきた企画術のヒントを明かします。
多くのヒット作を手掛けた経験で得た視点
諏訪道彦氏(以下、諏訪):時間が来てしまいました。話したいことがまだあるんですが、ただ、質疑応答もあるそうなので、そのへんをおうかがいしたいなと思っております。
しかし、これはまぶし過ぎますよ。何にも見えないです。
(会場笑)
司会者:(笑)。諏訪さん、たくさんのお話をありがとうございました。
諏訪:もう、光の壁ですよ。
司会者:(笑)。けっこう光が強いからみなさんのお顔がなかなか見えないですけど。
諏訪:さっきから目に残像が残りまくって(笑)。
司会者:(笑)。ここからはですね、会場にご参加いただいているみなさまからのご質問に、時間が許す限りお答えいただきたいと思います。会場のみなさんからのご質問なので、ぜひその方ともちょっとリアクションが取れるように照明が変わりますので(笑)。
では、最初の質問はこちらです。「多くのヒット作の企画を手掛けてこられた中で、企画段階から『これはいける』と感じた瞬間はありましたか? ヒット作に共通する感覚・要素はありましたか?」ということで、「けんと」さんからいただいています。けんとさん、いらっしゃったら手を挙げて教えてください。
諏訪:「こっちの」ってついていないですよね? けんとさん、大丈夫ですかね?
(会場笑)
司会者:(笑)。けんとさん、いらっしゃいますか? あっ、右手奥の方ですね。ご質問ありがとうございます。
“自分が楽しもうと思って読んでいる”
諏訪:ありがとうございます。最初に言いましたように、僕は読みオタで、マンガを読んでいれば幸せな人間です。読んでいる時に、アニメにしようと思って読んでいないです。自分が楽しもうと思って読んでいる。
僕はテレビの人間なので、読んでいる時にスイッチが入ると、「あっ、これは僕だけが楽しむよりも、テレビでアニメにしたほうがいいんじゃないか?」と思ったりします。なので、そういうところが「これはいける」という段階で、そこから企画に入ります。だから、そういう自分の感覚で、「これはテレビアニメとして動かしたらどうだ?」と感じることは非常にあります。
週刊少年ジャンプでも「ヒット作品に共通するのはキャラクター」ってよく言いますよね。
司会者:個性。
諏訪:「キャラクターが全部ですよ」ってみんな言うんですよ。主役のキャラ。キャラの広がり。もうそれしかないと思います。「主役じゃなくて脇にもキャラクターの作りがしっかりしているな」もしくは「けっこう縦横無尽にいろいろ動けるな」というふうにできていることは、ヒット作に絶対に共通しています。要は主役のキャラが立っていないなんてあり得ないですから。
司会者:確かに、主人公ですからね。
諏訪:主人公は大事なんですよ。まぁ、当たり前なんですけどね。主人公を引き立てるように脇もいて、スピンオフがあってもぜんぜんいいと思うんですけど。
「もう1問」って次(の質問が)来ましたけど、キャラクターがしっかりしているという普通の答えなんですが、あらためてそう思います。
司会者:けんとさん、ご質問ありがとうございました。
諏訪:ありがとうございました。
完璧な新しさより「サムシング・ニュー」
司会者:では、もう1問いきたいと思います。「テレビの世界で常に数字を出さなければならないプレッシャーに追われながら続けてこられた秘訣は何でしょうか? 考え方や工夫した点があれば教えてください」。「ほくと」さんからいただきました。ほくとさん、いらっしゃれば手を挙げて合図……。
諏訪:ほくとさん。さっきは「こっちの(けんと)」と言ったけど、今度は「ほくと」というと、『北斗の拳』じゃないでしょうね、ぐらいな感じですね。
司会者:(笑)。ほくとさん、いらっしゃいますか? あっ、右手手前。
諏訪:ありがとうございます。プレッシャーはありましたけど、ものすごく正直に言うと、一応、僕は読売テレビでサラリーマンを40年間やってきましたので……何ていうんですかね、殺されて死ぬことはない。
司会者:(笑)。
諏訪:もう相当「これはヤバいな」というのはありましたけど、最後には「死ぬことはないだろう。殺されることはないだろう」と思って、そのまま背負ったままやっていました。
例えば考え方で工夫したのは、これはもう「サムシング・ニュー」なんですよ。完璧なおニューはもうないんです。ないというか自分には無理です。だから「サムシング・ニュー」、新しい何かの要素をつける、もしくは何かを引いて変える、みたいなことをいつも考えています。
自分の「好き」を主張していく
諏訪:何かの作品がある時、「これをどうやったらおもしろくなる? みんなに伝わるかな?」というのは、その作品に何か新しい要素がなくても、過去の前例がいろいろあります。だから別に、その作品でやっていたことに対して、それを自分で部分的に交換するとか、こういうふうに付加価値をつけるとか、そういうことを何十通りも考えてやりますね。

それはさっきのフォーマットも1つですし、例えばシナリオですよね。正味20分ぐらいのシナリオでどうやっておもしろくするか。それはどこにCMを入れるかもそうです。ということをいつも非常に考えています。
だから考え方や工夫した点は、もし作品をもう作っている段階になれば、一番大事なのは毎週のシナリオ会議です。自分のシナリオの読解力がどこまでいいかわかりませんが、シナリオ会議に関しては、ここがおもしろいよと思うところに関しては、僕は全身全霊を尽くして主張してきました。
司会者:最大限の可能性を考えて、最後はすべて背負い切る。
諏訪:『名探偵コナン』の映画でたまにワインが出てきますが、初めの10本ぐらいは全部私のせいですね。
司会者:(笑)。
諏訪:一応、パーソナルカラーはワインレッドでございますので、だいたいこういうことになっています。「あぁ、諏訪だったらワインのことを言うよな」ぐらいの感覚になったら、それはそれで「ワインのことを言い出したなら、それはちょっとなんとかしてやるか」みたいな方向になっていく。それも1つの手かなと。好きなことは好きと言っていくというね。
司会者:ありがとうございます。ほくとさんもご質問ありがとうございました。
諏訪:ありがとうございます。
一番のキーワードは「クレイジー」
司会者:では、お時間となりましたので、質疑応答をここで終了とさせていただきます。
諏訪:もう時間ですか。そうですか。
司会者:それでは最後にですね、諏訪さん。今壁を乗り越えようとしているビジネスパーソンのみなさまにラストメッセージをお願いいたします。
諏訪:僕はサラリーマンでもラッキーなサラリーマンだと思います。たぶん今一番のキーワードは「クレイジー」だと僕は思っています。「熱狂」とか「熱中」とか。ちょっと言っちゃいけない言葉もあるんですけど、「クレイジー」です。
もうそれはね、あんまり仕事に関係なくてもいいですよ、でも、自分の好きなことの1点だけはクレイジーなところまで行く。今は働き方改革でいろいろ無理かもしれません。公私混同とは言いませんけども、僕らの時代はいつも例えば『シティーハンター』とか『コナン』のことばっかり考えていたんですよ。「それはお前、ちょっとクレイジーだね」って言われるぐらいのところ。そうなったら一番いいかなと。「クレイジーであれ」と思っております。
司会者:諏訪さん、ありがとうございました。
諏訪:ありがとうございました。
司会者:どうぞ盛大な拍手でお送りください!
(会場拍手)
諏訪:(かばんに描かれた『犬夜叉』を会場に見せる)
司会者:ああ! 犬夜叉についても、ありがとうございます!
(会場拍手)