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フォーマットを壊し新たな価値を 大ヒットアニメを生み出してきた異端力と戦い方のヒント(全3記事)

映画『名探偵コナン』が守り続けた“こだわり” ヒットの背景にテレビ版との相乗効果

「Climbers(クライマーズ)」は、様々な壁を乗り越えてきた各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベントです。本セッションでは、大ヒットアニメ『名探偵コナン』を生み出したプロデューサーの諏訪道彦氏が、劇場版『名探偵コナン』のヒットの背景や、プロデューサーに求められる能力などについて紹介。また、放送業界の常識を超えた企画がTM NETWORK『Get Wild』の誕生に与えた影響を明かします。

テレビアニメのフォーマットを映画に移植する

諏訪道彦氏:さて、話は長くなりましたけど、「第1作目の映画から今の劇場版のヒットにはどういう原因がありますか?」とよく聞かれます。実はそれはテレビの『名探偵コナン』のフォーマットを映画に移植しているからなんです。第1作目からこのフォーマットの形でした。

全部が細かく同じじゃないですよ。例えばオープニング。みなさん、『コナン』の映画では必ず、「俺は高校生探偵、工藤新一」と始まりますよね。今回で28作目。確実にあります。

「もうみんな知っているでしょ」。それはそうかもしれない。「でも、初めて見る方もたぶんいると思うよ」と。

それで続いてやるのが、さっき言った「たった1つの真実見抜く……」というテレビのアバンと同じ言葉ですね。それに、オープニングもテーマに合ったオープニングです。その時にアバンと同じようにその日にどんなことがあるか、例えば阿笠博士のメカを説明すると、そのメカがどこかに出てくるということですから、それも期待してほしいということで、頭のオープニングをやる。

真ん中の本編はともかく、エンディングですよね。『コナン』のエンディングは実写のシーンを入れています。ちなみに先ほど、テレビではその日の名場面のシーンを入れていました。名場面のシーンを入れることによって、その日に見た話の振り返りとか、例えば自分の言い方では「感動の後押し」「背中を押す」みたいな感じで、これを『コナン』の映画では実写でやっております。

ネクストコナンズヒントと同じ発想

実写のシーンがあるエンディングの後にエピローグがもう1個あります。実はだいぶ最初のほうは、エピローグがあった後に、「また来年制作しますよ。制作決定!」と出していたんです。

けれども、どうせ出すのならということで、ここに次の年のヒントというか映像を出すことによって、「次の『コナン』には誰が出る? どんな話なの?」みたいなことを予想させる。1年も先の話なんだよ。でも、それをさせる。先ほどのネクストコナンズヒントと同じ発想ですね。

だから、毎週毎週の『コナン』の放送のリズムと1年1年の映画公開のリズムがちょうど両輪のように絡み合っていく。その気持ち良さが、ここ3、4年の爆発的なヒットにつながっていると言っても過言ではないかなと思うんですね。

ちなみに今でこそこんなに人気コンテンツになっていますので、何も心配はないんですけど、初期には「春は『名探偵コナン』の映画の時期ですけど、夏から秋の端境期に何を用意しようか?」という話はよくしました。

ここ最近の『名探偵コナン』の当たり方になれば、もうぜんぜんそういう心配はないです。「コナンカフェ」や、USJのアトラクションとか、いろんなものがちゃんとあるので。映画のラインと毎週毎週のテレビのラインが見事にリンクしていくかたちで、今回の映画がまた大ヒットして、19日間で100億円を超えることになったと思っております。

アフレコ後の「反省会」にヒントがある

やはりプロデューサーというのは、個人と個人、個人と会社、会社と会社を結び付ける懸け橋みたいな立場なんです。結局、私が実際にやってきた仕事で本当に一番大きい仕事は、たぶんチーム作りですね。

チームというのは、もちろん声優さんや監督さんや作画さん、そういう人たちとのチームのことです。『名探偵コナン』だけじゃないですよ。『シティーハンター』にしろ、例えば『犬夜叉』にしろ、みんなでそういうチーム作りをやる。チームをどうやって組み立てるかが1つの仕事なんです。

私はお酒というかワインが好きでして、その昔『シティーハンター』の頃はビールばっかり飲んでいました。そういう意味ではありがたいことに、みなさんと飲んで話すことが本当に好きというか天職で、繰り返していく。

そうするとだいたい、例えばアフレコをやった後に、反省会と称して飲んだり食べたりする。だいたいはたわいない普通のよもやま話というか、その時その時のネタ話なんです。けれども、たまに「今日のあのシーンってこういうことじゃない?」みたいなことが声優さんから出たり、演出家も一緒に飲んでいた時に、「じゃあ、これはどういう意味ですかね?」と会話する。

そうすると、このことを次の時には、もう解決というかリカバリーしていくんですね。長く続く番組としては、そういうことの積み重ねが非常にデカいなと思っています。

でもその際、「絶対に飲みに来いよ」と言っているわけじゃないんですよ。飲みたい人は飲めばいいんです。でもやはり、そこで会話することの積み重ねを、結局『シティーハンター』からずっとやっています。

コナンの制作チームは「ファミリー」

『シティーハンター』は、例えば声優ですと主役の神谷明さんが、『YAWARA!』だったら皆口裕子さんが、金田一君だったら……本当に残念ですけど、もうお亡くなりになった松野太紀さんだとか、そういう1つの座長と呼ばれる人を軸にしてそのチームを作っている。

おもしろいもので、みなさんもいろいろなところでチームを作っていると思うんですけど、まず最初はグループなんですね。とりあえず設定されたグループ。それが一応、チームと呼べるようになる。これがもう1つ昇華するとファミリーになるんですね。ファミリーになったら、もう言ってみれば勝利ですよね。続いているからです。

だからよく(コナンを演じる声優の)高山(みなみ)さんも、いろいろな舞台挨拶の中で「ファミリー」「コナン愛」とか言ってくれますけども、コナンはそういうことそのものが作品を代表することになる。一緒にいて、「あぁ、いいチームだな。いいファミリーだな」と非常に思えるようになる。そんな瞬間があったりします。

それで、やはりやり抜いた感は、例えば映画で言うと興行成績で見えてきます。今は100億円とかいっていますけども、でも一時は20億円ぐらいでした。ある年には30億円を取っても、その次の年には20億円になったりする。もう28年の歴史ですから、そういうこともあったんですよ。

それをどうやったらまた戻せるか、結果を出していくためにはどうしたらいいかを毎年考えました。でもテレビは映画のための補助ではないです。テレビはまず第一なんですけど、テレビをやることによって映画にどうフィードバックできるのかを繰り返したのが『名探偵コナン』でしたね。

結局、視聴率を取らないと番組は続かないのですが、『名探偵コナン』ぐらい人気コンテンツになると、視聴率という座標がそれほど重要視されなくなってくる感じがあるのは事実です。けれどもテレビで一番大事なことは不特定多数の方に見ていただくことなので、より多くの人たちをターゲットとして吸収しなきゃいけないなと思っています。

『Get Wild』を生んだオーダー

この『名探偵コナン』のフォーマットもそうですけども、先ほど、『シティーハンター』の『Get Wild』の話もしました。

簡単に言うと、「全国ネットの番組だから、後CMは絶対になきゃいけないよ。番組の形を変えると、もしかしたら放送事故になる可能性があるからやめようよ」みたいな後ろ向きな話よりも、「これを実現するために、次はこうしたらどうですか?」という前向きな話をして進めました。

これは『シティーハンター』というアニメ番組では、(従来のアニメがターゲットとしていた)子どもだけではなく大人もお客さんにするという狙いがあったからです。

北条司先生の描く格好いい(主人公の)冴羽獠。そして出てくる女性は美女ばかり。そういう世界観です。我々の世代の男性からしたら理想の男性です。みなさんも『シティーハンター』をご覧になればおわかりになると思います。冴羽獠をどうやって格好良く見せるか。そのためにはこういうフォーマットはどうだということで提案しました。

第1話が特にそうですけど、「神谷明さんが演じる冴羽獠が格好いいせりふを言っている時に邪魔にならないような、でも都会的でハイセンスでリズミカルなイントロが欲しい」みたいな、ベースとなるオーダーを(TM NETWORKに)したわけです。

名エンディング誕生のヒントに「2時間ドラマ」

当時のTM NETWORKの小室哲哉さんは、初めは「なんだ、エンディングか」と思われたそうです。結果的には、あの『Get Wild』になるんですよ。『Get Wild』の完成前の話です。

初めはボーカルスタートの歌だったのを、「やはりイントロをつけてください」と注文しました。ちなみにイントロをつけていいというのは、今言った後CMというフォーマットをなくすことを営業と一緒に手を結んだというか話し合った結果、「じゃあ、そういうやり方を」となったわけです。

「2時間ドラマで普通にあった、イントロが流れてきて最後に感動に持っていくかたちを、30分アニメでもやったほうが絶対に格好いいんじゃない? そういうの、できるんじゃない?」と思っていました。それを当時のこだま兼嗣監督と、まだ当時は日本サンライズって言いましたけども、サンライズ(現:株式会社バンダイナムコフィルムワークス)のスタッフと一緒に押し通しました。

その結果、実際に『Get Wild』は今もまだスタンダードに残っていると。アニソンと言えばいくつかあるんですけど、そのうちの1曲になりました。

テレビが持つ「時代性」という武器

継続は力です。実際に結果が出るまで、勝ち続けるまで続けられればいいんですよ。ただ、なかなか僕も長く続いている作品は多くはないんです。やはり、うまくいっていない作品もあります。自分の思いが届かない時は、「なぜ届かないのかな?」と、すごく反省するというんですかね。

基本的にテレビアニメには原作物を持っていきます。理由は、原作が本当に作品自体のおもしろさがあり、100万部売れたとか、ある程度お客さんを持っているからです。

その持っているお客さんをいかにテレビで大きくするか。そのチャレンジでうまくいかないことがあるならば、それはこちらの責任です。

その時に、例えばテレビでウケるフォーマットとか、もちろん音楽、声優さんもそうですし、アニメの作り方、そのへんをどう工夫しているかに関しては、例えば先ほどの『コナン』のフォーマットとか、毎作すごく考えています。

ちなみに『コナン』は7時半ですけど、『コナン』を始めて1年3ヶ月で『金田一少年の事件簿』が番組表の上に来ました。『金田一』『コナン』という時代です。それが3年半続きます。その後は『犬夜叉』『コナン』が4年間。その後は『ブラック・ジャック』『コナン』が2年間。

だから僕は、若い人たちが「あっ、私は『犬夜叉』『コナン』って見てたわ」と言うと、「君はだいたい何歳だね」と当てることができます。それぐらいの時代性を持ったのがテレビという武器ですかね。我々はその道具でやれたことが非常によかったかなと思っております。

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